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日立グループが牽引する金融イノベーション
FinTechが社会を、暮らしを変える 4

未来の社会を大きく変える可能性を秘めた
ブロックチェーン技術とは?

日立の取り組みの中で、とりわけ社会に大きな変革をもたらすと期待される、
革新的技術であるブロックチェーンについて、具体的に教えてください。

長:

ブロックチェーンというのは、従来のような中央集権型の仕組みではなく、コンピュータネットワーク上に分散させた台帳に記録することで参加者が情報を共有し、その台帳の中身を信ぴょう性のある合意により保証するという、まったく新しい仕組みです。これまでのように堅牢な基幹系のシステムをつくる必要がなくなるかもしれないとして、大きな期待が寄せられています。
2015年ごろから金融業界において、ブロックチェーンへの期待が一気に高まり、最近では、金融業界に限らず、さまざまな企業が、実証実験などに取り組んでいる最中です。ただし、ブロックチェーンは技術的にまだまだ未熟であり、非常に高いレベルの堅牢性を求める金融業界のアプリケーションに適用するためには、情報の秘匿や処理の高速化など、解決しなければならない課題が残っています。

そこで、日立はこのブロックチェーン技術が社会インフラ全般に改革をもたらし得るという認識の下、米国の非営利団体「The Linux Foundation」が設立した、ブロックチェーン技術の標準化に取り組む国際共同プログラム「Hyperledger Project」のプレミアメンバーとして参画し、オープンイノベーションを進めています。
なお、このHyperledger Projectのプレミアメンバーには、JPモルガンやCMEグループ、Intel、米証券保管振替機構(DTCC)、ドイツ証券取引所、富士通、IBM、accentureなどのほか、ブロックチェーン関係の金融系のコンソーシアムを取りまとめるR3など、現在14社が加盟しているほか、ジェネラルメンバーシップに金融機関やベンダー企業などを多数加え、すでに参加企業は80社を超えています。

Hyperledger Projectの具体的な取り組みについて、教えてください。

長:

Hyperledger Projectには、いくつかの基盤があり、中でも代表的なものにHyperledger Fabricと呼ばれるプロジェクトがあります。これは、IBMとDigital Asset Holdingsの2社が提案した基盤です。
Hyperledger Fabric ver1.0を2017年3月にリリースする予定で、現在、オープンソースとしての開発を急ピッチで進めています。また、intelが提供するHyperledger Sawtooth Lake、日本のブロックチェーンのスタートアップ企業であるソラミツが中心となって進めているHyperledger Irohaなど、同時並行で複数の基盤の開発を進めています。

ブロックチェーンというのは、ブロック(記録)をどうやって形成するかという仕組みにすぎないわけですが、信頼性を高めるためには、誰が参加するのか、誰の参加を認可するのかのかというメンバーシップ機能など、標準的な基盤を整備して提供していかなければ、エンドユーザーは使えませんよね。その信頼性や使い勝手の良さを高めていくために、日立はHyperledger Projectのメンバーだけでなく、そのほかのブロックチェーン技術の開発に取り組む企業とも連携を取りながら、まさにオープンイノベーションで新たな基盤づくりに向けて取り組んでいるところです。

ブロックチェーンは新しい仕組みであり、ビットコインなどに活用されているものの、
まだどのようなものか理解しにくいところがありますね。

仲:

ブロックチェーンを、リレーショナルデータベース(RDB)、NoSQL(非リレーションナルデータベース)に続く新しいデータベースであると捉えると理解しやすいのではないでしょうか。それぞれに向き不向きがあり、RDBはデータの一貫性が保持され、更新も容易ですが、処理速度に制約があります。
一方、NoSQLはスケールアウトが容易で検索スピードは速いけれど、データの更新・削除には不向きです。ブロックチェーンは低コストでの構築が期待される一方で、大量のトランザクション処理に不安があるといった特徴があります。まずは不動産登記や特許、戸籍のデータベースなど、公文書の管理にブロックチェーン技術を活用することで、管理コストを大幅に減らせるのではないかと期待されています。

ブロックチェーンは、管理コストが抑えられることに加え、P2P※3の特徴から、「スマートコントラクト」と呼ばれる契約遂行の自動化を可能にする技術として、今後、活用範囲が大きく広がっていくでしょう。例えば、遺言信託で公正証遺言の関係者(相続人など)への遺産分割を、ブロックチェーン上に保持して、その執行を確認・記録することでスマートコントラクトを実現するといったことも可能になるかもしれません。さらには、IoTにおける電源管理に活用するアイデアなども出てきています。

※3
P2P:ネットワーク上で対等な関係にある端末間を相互に直接連携し、データを送受信する通信方法

ブロックチェーン技術の研究・開発を加速

2016年4月、日立は米国カリフォルニア州サンタクララ市に、FinTech分野の研究開発組織
「金融イノベーションラボ」を設立しましたね。

長:

このラボの目的の一つは、先のHyperledger Projectのメンバーとの連携により、ブロックチェーン技術の開発を加速させることです。また、現地での実証実験がしやすい環境を整え、顧客やパートナーに来ていただいて協創による開発を進めていく考えです。もちろん、このラボはベンチャー企業やスタートアップ企業との協創の場でもあります。先行して設立したビッグデータラボとも連携を取りながら、AIやIoTに関連したさまざまな取り組みに着手しているところです。

いずれにしても、FinTechを本当にリアリティのある有用なものとして社会に根付かせることができるかどうか、今はその端境期にあると言っていいでしょう。さまざまなサービスが生まれていますが、エンドユーザーが真の利便性を実感するまでには至っていません。日々進化している技術を活用しながら、真にリアリティのあるサービスにまで仕立て上げられるかどうかが、現在の課題です。AIやロボットも同じですが、未成熟な技術を使う以上は、やはり段階的に、適切な技術やサービスを取捨選択しながら取り入れるしかありません。そのためのビジョンとロードマップを、社会の動向を見据えながら考えていくことも、日立の役割の一つではないかと思っています。AIに代表されるITは人間の仕事を奪うものだと騒がれることがありますが、ITは人間と共存しながらよりよい社会をつくり上げるための道具でしかありません。人間がITに支配されるなどということはあり得ませんし、あってはならないと思います。最終的な判断を下すのはあくまでも人間です。私たちはそのためのお手伝いをしていきたい。さらには、グループで蓄積してきた幅広い事業領域の知識を活用しながら、“FinTech&Beyond”を見据えて、将来の社会インフラとしてのFinTechの可能性を模索していきたいと考えています。

仲:

先ほど、長さんは端境期にあると言われましたが、まさに今、金融ビジネスの新しいエコシステムが回り始めたところなのではないでしょうか。一方で、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の調査によれば、知識の寿命は年々短くなる傾向にあるといわれています。かつては一度開発した技術から長年利益を得られていたのに、1990年代以降は3年おきに新しい技術を獲得し続けなければ、ビジネスを継続していくことが難しくなっています。当然、皆が技術選択のリスクを負うことになります。

このような世界では、サービス志向のアーキテクチャーにおけるUDDI (Universal, Description, Discovery and Integration)的な役割が重要です。



図4: UDDIのイメージ

UDDIというのは、ネットワーク上にWebサービスの情報を公開し、それらが提供する機能などを検索可能にするための仕組みです。どのようなサービスか、そのサービスがどこにあるのか、誰のものなのかといった情報を管理し、Webサービスの問い合わせ者に対して、利用目的に応じたサービスを探し出します。同様に、私たち日立コンサルティングは、マーケットニーズに応じたサービスのデリバリーの仕方を分析し、適切なソリューションを見いだして、既存の仕組みとの統合を担う“変革オリジネーター”とも言うべき役割を果たしたいと考えています。

日立グループには、AI、センシング技術、拡張現実といった金融ビジネス革新を支える先進技術に加え、従来の金融システムをつくり上げてきた多くの技術者、研究者がいます。グループ一丸となって、構築したプランを実現していくことで、お客さまの課題解決に貢献していきます。

(取材・文=田井中麻都佳)
取材日:2017年1月26日

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