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「健康経営」を始めませんか?

落合 規幸 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

2018年4月25日

従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営®」が注目を集めています。本稿では2回に分けて先進的企業の具体的な取り組み事例を基に、健康経営の成功要因を明らかにしていきます。

前編 「健康経営」を始めませんか?
後編 先進企業の実践事例から見る成功要因

前編ではなぜ今、企業が「健康経営」に取り組んでいるのか、その社会背景や「健康経営」に取り組むメリットをご紹介します。

健康経営の背景には人財不足あり

「健康経営」とは、人間の創造性や生産性の源泉は「健康」であるという考えの下、経営者主導で従業員の健康増進を図っていく活動です。従来の健康管理と大きく異なるのは、福利厚生ではなく、企業の持続的な成長に不可欠なものとして取り組んでいる点。従来から管理されている企業の経営資源「ヒト・モノ・カネ」ですが、「ヒト」で管理していたのは、スキル、コンピテンシーなどのパフォーマンスや、残業時間、傷病休暇日数などの勤務状況で、健康状態は管理されていませんでした。健康経営の大きな目的は、従業員の健康状態を把握して健康増進を図り、これを業績向上につなげていくことです。

こうした取り組みが進む背景ですが、一言で言えば「人財の枯渇が見えてきている」ということです。2017年から2030年までに、日本の労働人口は、全体で約6%減少、15歳〜29歳の若手労働者で約12%減少する一方で、60歳以上のシニア労働者は約8%増加すると予測※されています。これは抗えない事実です。すでに中小企業の70%以上が人財不足に陥っているといわれており、近い将来、大手企業にも確保できない状況が確実に訪れるでしょう。

健全なる精神には健全なる身体が宿る

このような人財難の時代に、経営者が健康経営に期待している効果は、次の三つです。
まず一つめは「生産性の改善」です。具体的には、アブセンティズム(absenteeism)とプレゼンティズム(presenteeism)の改善です。アブセンティズムとは、欠勤や休職、遅刻・早退など、職場にいることができず、業務に就けない状態です。従来は主にこの予防と対策が行われてきました。しかし近年、業績に大きな影響を与えることが分かってきたのがプレゼンティズムです。これは出勤しているにもかかわらず、心身の健康上の問題により、十分にパフォーマンスが発揮できない状態で、プレゼンティズムを改善すれば、つまりパフォーマンスが発揮できる状態を確保すれば、生産性の大きな改善が期待できるのです。

二つめは「採用への好影響」です。従業員の健康を優先する働きやすい会社であると社会にアピールすることは、ワーク・ライフ・バランスを重視する傾向にある若手労働者にメリットと捉えられ、採用への好影響につながります。そして三つめは「医療費の抑制」です。今後シニア労働者が増えていくと、医療費負担の増加が問題となってきます。糖尿病になると医療費が一気に増加するので、若いうちからプロアクティブにメタボ対策をしていくことが重要です。ここに、健康経営が寄与するのです。

図解
注:総務省統計局 「労働力調査」を元に日立コンサルティングが作成

IoT、ビッグデータ、AI、ロボットなどのテクノロジーの進展により、現在は産業構造を大きく変える第4次産業革命の中に、そして超スマート社会への移行段階にあるといわれています。パソコンへの入力作業などの定型業務はすべてRPA(Robotic Process Automation)と呼ばれるロボットが代替することになり、人間は解決策を考えたり、お客さまにヒントを与えたり、クリエイティブが要求されるような、今まで以上に創造的な仕事を担うことになるでしょう。このような仕事を、例えば徹夜明けのような健康状態で、果たして務まるでしょうか。「健全なる精神には健全なる身体が宿る」。だからこそ、健康経営が必要なのです。

健康経営銘柄とホワイト500

国の政策も健康経営を後押ししています。皆さんもご存知のとおり、安倍内閣は日本再興戦略の一貫として「働き方改革」を進めています。長時間労働への規制強化や、同一労働同一賃金の考え方の下での非正規社員の待遇改善など、労働環境を改善する政策を打ち出しています。しかしながら一部では「働き方改革は働かせ改革」と揶揄(やゆ)されています。残業代をカットし、より少ない時間でより多くの成果を得ようとする、経営者に好都合な「働かせ改革」であると。ITといった箱モノ施策ばかりで実態は何も変わっていない、会社の将来展望や自身のキャリアプランが見えない、体が持ちそうにない、といった「働かせ改革」ではと疑問視するような声が聞こえてくるのは、従業員の不安と不満にしっかり向き合えている取り組みができていない現われではないでしょうか。健康経営は、こういった不安や不満を解決する礎になるものであると考えています。

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また、未来投資戦略では政策資源を集中投入する分野の一番目に「健康寿命の延伸」が掲げられています。経済産業省は、企業や健康保険組合に健康経営を促す「アクションプラン」を取りまとめ、具体的な施策を実施しています。例えば「健康経営銘柄」。東京証券取引所の上場会社の中から健康経営に優れた企業を「健康経営銘柄」として選定し、公表する施策です。この施策では、長期的な視点での企業価値向上を重視する投資家に、健康経営により業績と株価を向上させることができる魅力ある企業として紹介することを通じて、企業による健康経営への取り組み促進をめざしています。

しかし健康経営銘柄は1業種1企業が基本です。そこで、健康経営銘柄を頂点に健康経営の裾野を広げようと、2017年度から「健康経営優良法人認定制度」が開始されました。この制度には「中小規模法人部門」と「大規模法人部門(ホワイト500)」の2部門があり、それぞれの部門で健康経営優良法人を選定、公表しています。健康経営優良法人に選定された企業に対し、表彰制度や融資など、さまざまなインセンティブを提示する自治体や機関が増加中です。健康経営優良法人に選定されると、新しい投資、魅力的なビジネスの展開といった可能性が広がり、そのことが有望な若手の採用につながる、という好循環が期待できるのです。

データ分析による定量的な評価が健康経営の重要課題

健康経営銘柄や健康経営優良法人の認定企業として選定されるためには、次の五つの軸で評価されることを認識しておく必要があります。

  1. 健康経営が経営理念・方針に位置づけられているか
  2. 健康経営に取り組むための組織体制が構築されているか
  3. 健康経営に取り組むための制度があり、施策が実行されているか
  4. 健康経営の取り組みを評価し、改善に取り組んでいるか
  5. 法令を遵守しているか

この詳細と認定企業の具体的な取り組み事例については後編でご紹介させていただきますが、当社ではこれらに選定されることをめざすお客さまに向けて、理念・組織体制・制度、施策実行、評価の仕組み整備を支援しています。

例えば、健康経営が注目される以前からCSRとして多くの企業が取り組んでいる体力増進を狙ったスポーツイベントの開催や階段使用推奨、食事・生活習慣病対策を狙った社員食堂での健康メニュー提供、禁煙推進やがん検診受診キャンペーン、復職支援体制の構築といった健康増進施策に一歩踏み込み、健康関連コストの試算、健診・レセプトデータを活用した費用対効果の算出などを実施し、それらのデータを分析するとこで定量的に評価していくことが、今後の健康経営の重要課題です。この重要課題を解決するために支援できることが、私たちの強みなのです。

当社は人事分野におけるテクノロジー活用やデータの分析結果を経営に生かすことを推進する「HRテクノロジー・コンソーシアム」に参加しており、健康経営のワーキンググループを運営しています。ワーキンググループには、先進的な取り組みを行っているさまざまな企業、大学が参加しており、テクノロジーや各種施策による効果を研究し、参加者との共有、情報発信を行っています。後編では、ここでの活動経験や当社独自のインタビューから得た健康経営の成功要因を、事例を中心に明らかにしていきます。

本コラム執筆コンサルタント

落合 規幸 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

外資系コンサルティング会社にてコンサルティング業務に従事。2007年日立コンサルティングに参画。構造改革、組織設計、業務改革〜システム導入に従事。近年は働き方改革プロジェクトの推進を担当。加えて健康経営に関する調査研究等の活動をHRテクノロジー・コンソーシアム会員として推進中。

「健康経営」は、特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。
記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。
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