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シンガポールおよび韓国における
IoTに関する政策および法制度動向

地田 圭太日立コンサルティング コンサルタント

2. 韓国のIoT政策およびIoTに関連する法制度動向

2014年ごろからIoTの重要政策の一つとして位置付けられる

韓国では、2014年ごろからIoT推進の重要性が注目されており、同年5月にはIoT基本計画が、6月にはIoT産業育成戦略が未来創造科学部から発表されている。
IoT基本計画では、国内のIoT市場規模、中小の輸出企業数・雇用人員の拡大とIoT活用による企業の生産性や効率性の向上を目標としている。同計画では、具体的な施策として創造的IoTサービス市場拡大、グローバルなIoT専門事業者育成、IoT基盤整備の3分野でさまざまな取り組みを実施することが示されている。
IoT産業育成戦略では、コア技術の標準化、市場のダイナミックな成長、安全で強力なインフラ構築が三つの柱として設定されている。また、IoT基本計画と整合性をとる形で目標が定められている。
2015年5月には、韓国のICT産業の体質改善や成長の実現のための戦略をまとめたK-ICT戦略が未来創造科学部より発表されている。同戦略においては、9大戦略分野が設定されており、その一つとしてIoTが位置付けられている。IoTに関する具体的な施策として、以下のような施策が示されている。

施策予算
ヘルスケアとスマートシティに関する大規模なIoT実証団地の造成と七つの戦略業種※8に関する実証を行う
  • 1,242億ウォン※9(2015年〜2019年)
IoT関連の中小・ベンチャー企業を、グローバルかつ専門性の高い企業へと育成する(2019年までに200社の育成を目標)(記載なし)
IoTセンサ発展計画の策定とIoTセキュリテイセンターの創設を行う
  • 20億ウォン※10(2015年)

表4. K-ICT戦略において示されたIoTに関する施策と予算
出典:K-ICT戦略

※8
家電、製造、自動車、エネルギー、保健、スポーツ、観光の七つ
※9
約124億2,000万円(ただし、1円≒10ウォンとする。以降の円換算も同様)
※10
約2億円

大邱市と釜山市におけるヘルスケアとスマートシティをテーマとした実証

韓国政府は、自治体におけるスマートシティの取り組みを支援している。K-ICT戦略において示されたヘルスケアとスマートシティをテーマとしたIoT実証団地の造成について、1回目の自治体の募集が2015年に行われた。選考の結果、ヘルスケアについては大邱市が、スマートシティに関しては釜山市が選定された。
大邱市は、大手通信会社であるKTやサムスン電子と組んで、ヘルスケアプラットフォームサービスに関する実証を行っている。具体的には、サムスン生命と協力し、軍人を対象とした健康管理サービスなどの実証を行っている。
釜山市は、大手通信会社であるSKテレコムと組み、スマートパーキングや状況認識型避難案内システムなどに関する実証を行っている。同市は、韓国において最初にスマートシティに関する取り組みを始めた自治体とされている。スマートシティの構想は、2005年ごろから立ち始め、2014年にはSKテレコムとCISCOの3者でスマートシティに関する覚書を締結している。また、2006年から2014年にかけて、66のスマートシティ関連のプロジェクトを推進しており、2億7,400万ドルの予算が充当された。
韓国におけるスマートシティの取り組みは、大邱市、釜山市のほかに、ソウル市でも進められている。

K-ICTデバイスラボや補助金などによる中小・ベンチャー企業の支援

K-ICT戦略においてIoTに関わる中小企業やベンチャー企業の支援が施策の一つとして示されている。2015年には、韓国政府はIoTに関わる中小・ベンチャー企業の育成のために62億ウォン※11の補助金を出している。この補助金の内訳は、表5のとおりである。
補助金の交付以外にも、IoTに関わる中小・ベンチャー企業における製品開発、販路開拓などの支援のためのインキュベーションセンタであるK-ICTデバイスラボが政府により設置されている。

※11
約6億2,000万円
テーマ予算
IoTを活用した伝統産業の成長支援
  • 5億ウォン※12
IoTセンサの商用化サポート
  • 5億ウォン
オープンプラットフォームベースのIoT拡散
  • 14億ウォン※13
スマートセンサ応用IoTサービス検証
  • 28億ウォン※14
優秀プロトタイプの商用化
  • 5億ウォン
優れた製品・サービスの海外ローカライズ
  • 5億ウォン

表5. 中小企業・ベンチャー企業への補助金の内訳

※12
約5,000万円
※13
約1億4,000万円
※14
約2億8,000万円

国際標準化、国内標準化への取り組み

韓国では、IoTに関する国際標準化を意識した取り組みが複数見られる。2014年11月、産業通商資源部に属する国家技術標準院は、ISO/IEC JTC 1総会に代表団を派遣し、IoTに関するワーキンググループ(WG10)設立を主導したと発表した。このワーキンググループの議長には韓国電子通信研究院のユサングン上級研究員が任命された。
また、2015年6月に開催されたITU-TのTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group)国際会議において、IoTをテーマとしたStudy Group 20(SG20)の設立が決定された。国立電波研究院は、SG20の設立を韓国が主導したと発表している。さらに、同年同月の米国電気通信工業会主催のイベントにおいて、未来創造科学部と電子部品研究院は、oneM2Mプラットフォームを利用したIoTプラットフォーム間の連動技術を開発したことを発表している。同技術により、oneM2Mグローバルスタンダードを中心にAllJoyn、Google Nestプラットフォーム、Philips Hueプラットフォーム、Jawboneプラットフォームが連動することで、異なるIoT製品規格でも、oneM2M標準インターフェースでサービスを利用できるようになる。
国際標準化への動きが活発になる一方、国内の標準化策定に関する動きも見られる。2016年3月、国家技術標準院は、家庭で使用する機器(エアコン、ボイラーなど)同士の通信規格を統一する国家標準(KS)を策定したと発表した。国家標準の適用により、通信機能を持つ機器であれば、メーカーを問うことなく家庭内のネットワークに接続することが可能となる。

まとめ

シンガポール、韓国ともに、国際競争力の強化や自国の経済発展の面で、IoTを重要政策の一つとして位置付けている。シンガポールにおいては、国際競争力の強化や経済発展という目的だけでなく、都市部で深刻な問題となっている人口過密や渋滞、高齢化などの社会問題を解決する有効な手段として、IoTを位置付けている傾向にあり、IoTを活用したスマートシティの実現に向けた取り組みが行われている。また、韓国においては、住民の利便性の向上や健康管理などの目的で、スマートシティの実現に向けた取り組みが複数の都市で行われている。
中小企業やベンチャー企業の支援については、両国ともに力を入れているが、シンガポールは国内にこだわらず、海外の中小企業やベンチャー企業の誘致も行っている。一方、韓国は自国の中小企業やベンチャー企業の支援に注力している。

これまで3回に分けて、米国、EU、ドイツ、英国、シンガポールおよび韓国におけるIoTの政策・法制度動向について紹介してきた。いずれの国もIoTを重要政策として位置付けており、注力する分野は異なるものの、産業界、大学や研究機関など、さまざまなステークホルダーを巻き込み、国を挙げてIoTの推進に取り組んでいることを確認することができた。わが国でも、これまでIoTを推進するための政策が進められてきたが、今後、“Society5.0”の実現に向け、このような政策がさらに加速することが期待される。
日立コンサルティングでは、わが国のIoTやSociety5.0に関連した政策の推進に貢献すべく、諸外国の政策を引き続きベンチマークし、より良い施策の提案を行っていきたい。

本コラム執筆コンサルタント

地田 圭太日立コンサルティング コンサルタント

各国政府でIoTに関する政策が積極的に進められている中、弊社では、2015年度に経済産業省の調査事業を受け、諸外国におけるIoTに関する政策および法制度の動向を調査した。この調査の成果なども踏まえつつ、米国、EU、ドイツ、英国、韓国、シンガポールにおけるIoT政策および法制度の動向を3回に分けて紹介する。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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