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プロとアマの境界を考える

荒浪 篤史 株式会社 日立コンサルティング ディレクター

2017年12月26日

日立コンサルティングは、2016年に引き続き、本年度もJPHACKS2017にスポンサーとして参加させていただきました。今年出会った刺激的でおもしろい多くのプロジェクトをご紹介したい気持ちを抑えつつ、第三回のコラムでは、この3年間を振り返ってみたいと思います。

ハッカソンはトレンドを映す

昨年はチャットボットを活用した対話型プロダクトが多かった印象です。本年度は、AIによる機械学習や音声認識を実装したプロダクトがいくつも見られましたし、ブロックチェーンやビットコインといったフィンテックを代表する技術を実装したプロダクトも出現しました。

3年にわたりプロダクトを見てきて実感しましたが、ハッカソンは技術トレンドとの相関が強いようです。第一回コラムで述べましたように、ハッカーは、旬のAPI※1や公開データをマッシュアップしてプロダクトに仕立ててきますので、当たり前といえば当たり前ですが、旬のテクノロジーを活用した思いがけないアイデアに出会える可能性がハッカソンにあることは間違いないと考えます。

※1
API:Application Programming Interface

そう考えると、次年度はどうでしょう。Google HomeやAmazon Echoといったスマートスピーカーと連携したプロダクトが出てきそうだな、と楽しみに想像しています。

プロって何だ

企業などから提供されるAPIや公開データの拡充、ラズベリーパイなど安価で調達できるパーツの多様化、Wi-FiやBluetoothといった通信インフラの安定化といった外部環境の良い意味での変化を背景に、プロダクトの完成度が格段に高まってきていることを、特に本年度強く実感しました。

ITで飯を食ってきた人間からすると、ビットコインの決済システムを学生がたった数日で実装できるという事実にただただ驚きと隔世の感を禁じえませんでした。決済という社会的責任度からすると、学生が作成したプロダクトをそのまま使用するということはなかなか難しいのでしょうが、かつては金融機関や大手ベンダーでしか成しえなかったこと、そもそも開発しようと思わなかったことに、学生がいとも簡単にチャレンジし、成し遂げてしまうことのインパクトが重要なのだと思います。

そういった機能面に加えて、スマホアプリのユーザーインターフェースデザインも今風に洗練され、販売されている製品と言われても遜色ないものが多数ありました。デザインツールの貢献もあるでしょうが、フラットデザインなどスマホネイティブが自然に吸収してきたセンスの影響も大きいと感じました。

ここで湧き上がる疑問は、「プロって何だろう」ということです。
(すべてのハッカーがアマチュアではありませんが、本コラムではプロの対極のような存在ということでアマチュアと区分させていただきます)

スマホアプリ配信サービスなどプロダクトのリリースが容易になった現在では、アマチュアが作ったプロダクトでも「とりあえず」リリースしてしまうことができます。運よく認知され、使われれば、口コミなどから波及します。逆に口コミで叩かれたとしても、プロダクトは更に洗練されます。結果として勝者になり、ここでプロを宣言することもできます。
つまり、質量的に優れたプロダクトが必ずしも勝者となるのではなく、結果的に勝者となったプロダクトが優れていると認知されるのです。言い方を変えると、結果としてプロとなることもできてしまうわけです。

この流れはもう止まらないでしょうから、プロは自身をどう定義したらよいか考えないといけないのだ思います。

戦うのか、融合するのか、住み分けるのか

プロを営利団体と定義してみると、プロは結果をコミットしてからつくり始めるというのが特性といえます。すなわち、市場で高評価される前提の投資として開発が認可され、外部環境が変わるなど相応の理由がないと途中で止まる、ないしは、止めることはありません。

一方で、ハッカーは簡単に止まる、ないしは、止めることができます。場合によっては気分次第で。この点においては、プロダクトの市場評価が未知数であればあるほど、(特に日系の)企業は不利な立場といえます。特に、コンシューマ向けサービスやアプリなどに対するコンシューマの評価やその持続性の不確定度合いは高まっており、ますます企業不利の環境になってきています。

ただし、ハッカーはAPIなど外部環境の活用が上手いことは前述のとおりですが、環境自体の構築は財務・体制面から難しいため(米国ではここをエンジェル投資家が補完)、ハッカーとプロは住み分けることができると考えられないでしょうか。

例えば、不確定要素が多く、市場成熟度が低い領域はハッカー、環境自体の構築や長期にわたる維持運用が必要な領域はプロ。境界はどこかというとAPI。プロはAPIを整備し、ハッカーの得意領分と住み分けるという考え方です。

実は、金融の世界では、まさにこの住み分けが現実解になりつつあります。フィンテック企業(企業ではありますが、前述で定義したプロとは対極の開発姿勢とスピードがある)は、銀行に代表される金融機関が整備したAPIを活用し、コンシューマに響くサービスを矢継ぎ早にリリースしています。

「戦うのか、融合するのか、住み分けるのか」の図

口座残高を統合参照可能にしたPFM※2(個人財務管理)や、ポートフォリオ統合や投資簡易化などの投資支援などが国内数百万のユーザを獲得し、前述でいう勝者に位置づけられる存在として認知されています。

※2
PFM:Personal Financial Management

現状は口座残高データなど参照系APIが中心ですが、政府の後押しもあり、資金移動など更新系APIの整備も今後進むでしょう。そうすると決済や個人間資産移動などを実装したプロダクトを目にする日も遠くないと容易に想像できます(現時点でも特定環境で貨幣価値に類する対価などを交換するサービスは存在しています)。

これまでの銀行は、コンシューマ向けスマホアプリに至るまで全て自前主義で開発してきましたが、今はハッカーとうまく融合することを試行しています。気密性と安全性が求められる業界でありながら、ハッカーと親和性が高くなってきているというのはおもしろい状況ですし、当領域ではハッカーの存在感が今後ますます増していくことと思います。
そして、この3年間のJPHACKSで出会った学生ハッカーからも、当分野で活躍される方が出現するのではと楽しみにしています。

繰り返しになりますが、ハッカソンは自由な発想に出会うとともに、トレンドを検知する場として有効なイベントであり、自社APIを有する企業であれば、それを活用したアイデアを募る場としても期待できるといえます。そして、何より楽しい時間になることは間違いありませんので、日立コンサルティングは引き続きハッカソンを直接応援していきますし、ハッカソンを企画する企業も応援していきたいと考えています。

日本っていいよね

「日本っていいよね」の図

これまでのハッカソンで「日本」っていいなと再認識したことがありますので、最後にご紹介して筆を置きます。
「やんわり」「ほのかに」に伝える、守る、促すことをコンセプトにした、心温まるプロダクトがいくつもありました。灯りだったり、香りだったり、機器の形状だったりで機能を実現しているものですが、日本人が世界と勝負するときには、こういう観点は捨ててはもったいないなと強く感動させてもらいました。便利、早い…だけではなく、開発スピード重視のハッカソンの現場において、「やんわり」「ほのかに」を忘れない和製ハッカーを応援し続けなくてはいけないと。
こういう再発見もありますので、未体験の方はぜひハッカソンを体験してみてください。

おわり

本コラム執筆コンサルタント

荒浪 篤史 株式会社 日立コンサルティング ディレクター

ハッカソンに協賛したことで、“スマホネイティブ世代”などと呼ばれる現役の学生たちと交流する機会を得ることができました。
物心ついた時から、日常にスマホがあって、SNSや動画共有サイトを当たり前に使いこなす世代は、こんなに凄い能力や感性をもっているんだと驚くことばかりでした。
当コラムでは、そのスマホネイティブ世代の能力がどのようなもので、これからのIT業界においてどんな活躍が期待できるのか、更に、我々企業は彼らとどのように向き合っていくべきかについて考察してみたいと思います。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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