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株式会社 日立コンサルティング

山口県のKPIと特長的な取組み

須藤一磨
株式会社 日立コンサルティング コンサルタント

共同研究

小川克彦
慶応義塾大学環境情報学部 教授

2017年1月23日

第2回に引き続き、インタビューを実施させていただいた都道府県を紹介していきます。第3回は、山口県のKPIと特長的な取組みの紹介です。

(1) 山口県の地方版総合戦略の構造について

山口県の地方版総合戦略である「山口県まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、“「活力みなぎる山口県」の実現”という県づくりの基本目標のために、3つの基本的な施策の方向と、4つの政策が掲げられており、それに関連する施策が展開されています。

図表1
(「山口県まち・ひと・しごと創生総合戦略」を基に作成)
図表1:山口県 地方版総合戦略の概要

山口県の4つの政策は、国の総合戦略で設定されている4つの政策分野と同じ内容になっており、それらを達成すべく政策ごとに5年間の基本目標を掲げています。山口県の基本目標の中には、第1回で定義した主要KPI(図表2の橙色網掛け部分)も含まれており、山口県の設定したすべてのKPIのうち、目標値が高いKPIを達成するための特長的な取組みについて調査を実施しました。

図表2
(「山口県まち・ひと・しごと創生総合戦略」を基に作成)
図表2:山口県 4つの政策と基本目標・具体的なKPIとの関係

(2) 山口県のKPIと特長的な取組みについて

山口県の設定するKPIは122個で、そのうち5都道府県以上で比較可能なKPIは55個あります。その中で、ほかの都道府県と比較して高い目標を掲げているKPI「県の支援による創業件数1」に着目しました。
このKPIと目標達成に向けた取組みについて、山口県へのインタビュー内容も踏まえて分析した結果を紹介します。

「県の支援による創業件数」を人口10万人当たりの件数で比較すると、長崎県と佐賀県が突出していますが、山口県もそれに次ぐ高い目標値を掲げていることが分かります。その他の都道府県の目標値は山口県の半分以下であることからも、山口県の目標が高いことがうかがえます。

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山口県まち・ひと・しごと創生総合戦略では、「関係支援機関の支援による創業数(5年間の累計)」と表記

図表3
図表3:県の支援による創業件数

県の支援による創業件数の目標達成に向けた特長的な取組みの一つとして、女性への支援に特化した「女性創業応援やまぐち株式会社(通称WISやまぐち)」の設立があげられます。
WISやまぐちは、2015年に山口県、山口銀行、県内企業の共同出資により設立された、女性起業支援事業や経営コンサルタント事業、研修事業を行う企業です。
全国的にも女性社長数は増加傾向にあり2010年からの5年間で約1.6倍に増加2しており、女性の創業が進んでいる状況がうかがえます。しかし、創業の際には資金不足や経営ノウハウ不足、信用不足等のリスクが考えられるため、WISやまぐちでは、数か月分の人件費や経費を女性創業者に前払いして創業1年目の運転資金を支援することに加え、経営相談、経営指導、ビジネスパートナーの発掘やマッチング等の支援を女性向けに実施しています。
具体的には、女性創業希望者はWISやまぐちに対してビジネスプランを提案し、それが通過した場合、WISやまぐちと1年間の委託契約を締結することになります。女性創業者は受託者となり、事業計画にて算出した経費分をWISやまぐち(委託者)から委託料として前もって受け取り、毎月の売上金をWISやまぐちに納付します。ただし、当初の事業計画以上に売上があった場合、その超過売上部分は女性創業者とWISやまぐちが折半することになっており、計画以上に売上を伸ばすモチベーションについても配慮された仕組みとなっています。

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図表4
(「平成28年度 女性創業応援やまぐち株式会社 創業事業計画書募集要領」より引用)
図表4:WISやまぐち 事業スキーム

この取組みの特長としては以下の2点が考えられます。
1点目は、女性に特化した支援である点です。2016年4月に女性活躍推進法が施行されるなど、女性の社会における活躍が注目される中で、県をあげて女性創業希望者を支援することはほかの都道府県には見られない特長であると言えます。
また、女性の創業者数は増加しているものの、東京都、大阪府、神奈川県等の大都市を有する都道府県に多く、地方に少ない傾向が続いています3。そのような状況の中で、山口県の女性創業希望者への支援は、大都市を有しない都道府県における先進事例になり得ると考えられます。
2点目は、1年目の運転資金として委託料を前もって受け取ることができ、実際の売上が当初の事業計画の売上に満たない場合は差額の納付が免除されるため、低リスクで創業できるという点です。一般的に、創業後1年以内に約40%が倒産し、2年目でさらに15%が倒産するといわれており4、中小企業庁発表の統計によると倒産原因の大部分が「販売不振」5であることから、運転資金の不足による倒産が多いことが分かります。このような状況の中で、売上の多寡にかかわらず1年目の運転資金が補償されることは大きな利点であると言えます。

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中小企業庁「倒産の状況」より引用

図表5
図表5:WISやまぐちへの売上の納付について

実際にこれまで、2015年に鍼灸院や日本酒販売等6件が、2016年には新たに2件が審査を通過し、WISやまぐちの支援を受けて経営をしている状況です。2015年のインタビュー時に確認したところ、2015年に通過した6件の収支状況は良好であるとのことで、WISやまぐちの支援により順調に経営が行われていることが分かりました。

この取組みへの申し込みは県外からでも可能ですが、創業時には山口県に住所を移す必要があるため、県外の女性創業希望者がWISやまぐちを活用する際は移住することになります。遠方の都道府県在住の女性創業希望者にとっては、「創業」のみならず「遠い土地への移住」も決断する必要があり、WISやまぐちのサービス利用をためらう可能性があります。今後は、そのような移住が必要となる女性創業希望者への移住支援も含めたサービス展開が必要になってくると考えられます。

(3) まとめ

WISやまぐちは官民一体の取組みであり、県が支援している事業である点で信用を得られると共に、経営指導のような民間企業の強みを生かした支援も受けられるといった特長が見られました。また、支援をした企業の経営が好調であれば、WISやまぐちとしても提供した資金以上のリターンが得られるため、両者にメリットがある取組みであることが分かりました。

図表6
図表6:山口県 目標値の高いKPIと特長的な取組み

共同研究

小川克彦
慶応義塾大学環境情報学部 教授

写真:小川克彦

1978年に慶應義塾大学工学部修士課程を修了し、同年NTTに入社。 画像通信システムの実用化、インタフェースデザインやウェアラブルシステムの研究、ブロードバンドサービスや端末の開発、R&D 戦略の策定に従事。NTTサイバーソリューション研究所所長を経て、2007年より現職。工学博士。
専門は、コミュニケーションサービス、ヒューマンセンタードデザイン、ネット社会論。主な著書に「つながり進化論」(中央公論新社)、「デジタルな生活」(NTT出版)がある。

コラム執筆コンサルタント

須藤一磨
株式会社 日立コンサルティング コンサルタント

まち・ひと・しごと創生法に基づき、全国の地方公共団体は概ね2015年度中に人口ビジョン・総合戦略(以下、地方版総合戦略という)の策定を完了し、実行段階に移行しています。
地方版総合戦略の中では、PDCA (Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)メカニズム の下、具体的な数値目標(重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicators))を設定し、効果検証と改善を実施することとされています。
このKPIは地域ごとの特性や課題を踏まえて設定されており、ほかの団体に比べて高い目標を掲げている団体では特長的な取組みが行われていると考えられます。
本コラムは、地方版総合戦略の中で掲げられているKPIとその達成に向けた取組みについて、上記のような仮説に基づき分析・検証を行った結果を紹介するものです。
なお、この分析・検証は、慶應義塾大学環境情報学部小川克彦教授と株式会社日立コンサルティングの共同研究として実施したものです。