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福井県のKPIと特長的な取組み

大谷 和也 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

共同研究

小川 克彦 慶応義塾大学環境情報学部 教授

2017年2月22日

第3回に引き続き、インタビューを実施させていただいた都道府県を紹介していきます。第4回は、福井県のKPIと特長的な取組みの紹介です。

(1) 福井県の地方版総合戦略の構造について

福井県は、2040年時点の人口の見通しである約68万人をめざすために、4つの戦略の視点のもとに5つの基本戦略を設定しています。

図表1
(「ふくい創生・人口減少対策戦略」を基に作成)
図表1:福井県 地方版総合戦略の概要

「基本戦略1:幸福なくらしの維持・発展」は国の総合戦略にはない、福井県独自の戦略(政策分野)ですが、そのほかの4つは国の設定する政策分野と同じ内容となっており、それらを達成すべく戦略ごとに具体的なKPIを掲げています。福井県のKPIの中には「第1回 狙いと概要」で定義した主要KPI(図表2の橙色網掛け部分)も一部含まれており、設定したすべてのKPIのうち、目標値が高いKPIを達成するための特長的な取組みについて調査を実施しました。

図表2
(「ふくい創生・人口減少対策戦略」を基に作成)
図表2:福井県 5つの基本戦略とKPIとの関係

(2) 福井県のKPIと特長的な取組みについて

福井県の設定するKPIは約70個で、そのうち5都道府県以上で比較可能なKPIは17個あります。その中でほかの都道府県と比較して高い目標を掲げているKPIのうち「UIJターン就職者数※1」と「入域観光客数※2」に着目し、これらのKPIと目標達成に向けた取組みについて、福井県へのインタビュー内容も踏まえて分析・紹介します。

※1
ふくい創生・人口減少対策戦略では、「U・Iターン者数」と表記していますが、本共同研究では「UIJターン」とまとめて分析しています。
※2
ふくい創生・人口減少対策戦略では、「観光客入込数」と表記

① UIJターン就職者数

目標としているUIJターン就職者数(人口10万人当たり)で比較すると、福井県は突出して高い目標を掲げているわけではありませんが、直近比で比較すると150%を超える高い目標であることが分かります。

図表3
図表3:UIJターン就職者数(年間)

UIJターン就職者数の目標を達成するための特長的な取組みの一つとして、女性の中途採用に特化した支援を行う「プラス1女性雇用企業支援事業」があげられます。
福井県に限った事情ではありませんが、首都圏以外の都道府県の若者は大学進学や就職等の事情で県外へ転出してしまうケースが多く、福井県の場合は15歳〜24歳の転出数が社会減全体の8割を占める状況です。福井県のUターン者数は近年微増傾向にありますが、女性のUターンは減少してきており、2000年に就職した世代は県外に転出した女性の4割ほどがUターンで県内に定着していましたが、2010年には2割まで減少し、10年間で半分となっている状況です※3
このような中で、福井県は女性の中途採用を実施する企業(「プラス1女性雇用宣言企業」に登録した企業)を支援、UIJターンをする女性を増加させる取組みを実施し、現在56社※4が登録しています。具体的には、福井Uターンセンターから紹介を受けた県外在住の女性を正社員の主に事務職として雇用する企業に対し、3か月間にわたり給与の1/2を補助するというものです。補助対象は「直近5年間の女性中途採用者数の平均を上回った人数分」なので、今まで積極的に女性の中途採用を行っていなかった企業ほど、補助対象者が多くなるメリットを享受できる仕組みになっています。

※3
「福井県の人口の動向と将来見通し」より
※4
2017年1月31日時点

図表4
図表4:プラス1女性雇用企業支援事業の仕組み

この取組みの特長は、主に有効求人倍率の低い事務職に着目した取組みであるという点であると考えられます。2016年1月時点の職業分類別の有効求人倍率※5を見ると、一般事務の職業の有効求人倍率は0.31であり、ほかの職種(例えば、営業の有効求人倍率は1.29)と比較すると大きな差があることが分かります。また、「福井県の人口の動向と将来見通し」によると、女性のUターン意向が高まる条件として多くあげられている意見は、「希望職種があること」であることからも、事務職等の女性が希望する傾向にある職種に対する支援は有効な取組みであると考えられます。

※5
厚生労働省「一般職業紹介状況(平成28年1月分)について」

② 入域観光客数

目標としている入域観光客数(人口10万人当たり)で比較すると、福井県は突出して目標値が高いわけではありませんが、直近比で比較すると高い目標を掲げていることが分かります。

図表5
図表5: 入域観光客数(年間)

入域観光客数の目標を達成するための特長的な取組みの一つとして、「恐竜王国福井」の広告活動があげられます。
福井県は日本における恐竜化石発掘量の8割を占めるうえ、草食恐竜フクイサウルス、肉食恐竜フクイラプトルといった新種も発見され国際的に認知されるなど、日本国内に類を見ない恐竜化石の産地です。また、福井県内主要観光地における観光客数を比較すると、福井県立恐竜博物館およびかつやま恐竜の森は2010年時点において上位10か所にも入っていなかったにもかかわらず、2015年では東尋坊、一乗谷朝倉氏遺跡に次ぐ3番目にまで増加しており※6、福井県は恐竜化石の産地であることが周知され始めている状況です。
このような中で福井県は、さらなる「恐竜王国福井」の周知のために「福井県立恐竜博物館のエデュテイメント化(学ぶeducation+楽しむentertainment)」や「Juratic※7王国オフィシャルホテルの試行」等の取組みを行っています。
カナダのロイヤル・ティレル古生物学博物館、中国の自貢恐竜博物館と並び世界三大恐竜博物館ともいわれている福井県立恐竜博物館は、通常の展示に加え、採掘現場の見学や採掘体験、特殊な恐竜スーツを用いたショーを取り入れました。学ぶだけでなく、楽しむことのできるコンテンツを充実させることで観光客数を増加させているものと考えられます。

※6
「福井県観光客入込数(推計)平成27年」より
※7
福井県公式の恐竜ブランド

また、福井県では、2014年7月から半年間、福井県公式恐竜キャラクター「Juratic」を活用した「Juratic王国 オフィシャルホテル」の試行を行いました。この取組みは「Juratic」関連商品の販売や、「Juratic」のデザインを施された客室を有するホテルをオフィシャルホテルに認定することで、ホテル側にロゴマークの使用やオフィシャルホテルの明示を許可し、観光誘客や宿泊観光の拡大を図るものです。福井県はホテル側から、施行期間終了時にこの取組みの状況報告を受けていますが、2016年時点で5件の宿泊施設がオフィシャルとして登録されている※8ことからも、取組みが順調に推進されていることがうかがえます。
福井県は、宿泊施設が少なく日帰り観光が多いことや、周辺の県に宿泊する観光客が多いことから観光消費額が低い状況です。そのため、上記のような観光資源を生かした取組みのほかにも、宿泊客増加のために宿泊施設のキャパシティ拡大を推進する必要があると考えられます。

(3) まとめ

福井県では、目標値の高いKPI を達成するために、図表6のような特長的な取組みを推進していることが分かりました。 UIJターン就職者数に関しては、Uターン数自体は微増しているものの、現状に満足せずその内訳を分析し、女性のUターン率が減少していることに着目した取組みを実施していました。それに加え、女性の希望が多いが有効求人倍率が低いというギャップが生じていることに着目し、効果的に女性Uターン数を増加させる特長が見られました。
入域観光客数に関しては、全国的にも類を見ない「恐竜」という観光資源を生かしつつ、アミューズメント性を持たせることで子ども連れの観光客を呼び込む取組みと、「日帰り観光が中心で宿泊に結びつかない」といった課題も意識した取組みを両立していること分かりました。

図表6
図表6:福井県 目標値の高いKPIと特長的な取組み

以上

本コラム執筆コンサルタント

大谷 和也 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

まち・ひと・しごと創生法に基づき、全国の地方公共団体は概ね2015年度中に人口ビジョン・総合戦略(以下、地方版総合戦略という)の策定を完了し、実行段階に移行しています。
地方版総合戦略の中では、PDCA (Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)メカニズム の下、具体的な数値目標(重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicators))を設定し、効果検証と改善を実施することとされています。
このKPIは地域ごとの特性や課題を踏まえて設定されており、ほかの団体に比べて高い目標を掲げている団体では特長的な取組みが行われていると考えられます。
本コラムは、地方版総合戦略の中で掲げられているKPIとその達成に向けた取組みについて、上記のような仮説に基づき分析・検証を行った結果を紹介するものです。
なお、この分析・検証は、慶應義塾大学環境情報学部小川 克彦教授と株式会社日立コンサルティングの共同研究として実施したものです。

共同研究

写真:小川 克彦

小川 克彦慶応義塾大学環境情報学部 教授

1978年に慶應義塾大学工学部修士課程を修了し、同年NTTに入社。 画像通信システムの実用化、インタフェースデザインやウェアラブルシステムの研究、ブロードバンドサービスや端末の開発、R&D 戦略の策定に従事。NTTサイバーソリューション研究所所長を経て、2007年より現職。工学博士。
専門は、コミュニケーションサービス、ヒューマンセンタードデザイン、ネット社会論。主な著書に「つながり進化論」(中央公論新社)、「デジタルな生活」(NTT出版)がある。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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