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三重県のKPIと特長的な取組み

大谷 和也 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

共同研究

小川 克彦 慶応義塾大学環境情報学部 教授

2017年3月23日

第4回に引き続き、インタビューを実施させていただいた都道府県を紹介していきます。第5回は、三重県のKPIと特長的な取組みの紹介です。

(1) 三重県の地方版総合戦略の構造について

三重県は、「希望がかない、選ばれる三重」というめざす姿の実現のために、自然減対策と社会減対策という2つの対策をライフステージやライフシーンに分類し、それぞれに基本的な取組み方向を設定しています。

図表1
(三重県まち・ひと・しごと創生総合戦略(平成27年10月)を基に作成)

※平成28年3月に改訂版が公表されており、KPI名称や目標値が更新されているものもありますが、
本稿では平成27年10月に公表された「三重県まち・ひと・しごと創生総合戦略」を基に図表を作成しています。

図表1:三重県 地方版総合戦略の概要

国の総合戦略にて設定された4つの政策分野の内容は、三重県の総合戦略ではライフステージ・ライフシーンに含まれており、KPIの中には第1回で定義した主要KPI(図表2の橙色網掛け部分)も一部含まれています。それら全てのKPIのうち、目標値が高いKPIを達成するための特長的な取組みについて調査を実施しました。

図表2
(三重県まち・ひと・しごと創生総合戦略(平成27年10月)を基に作成)
図表2:三重県のKPIの構成

(2) 三重県のKPIと特長的な取組みについて

三重県の設定するKPIは約50個で、そのうち5都道府県以上で比較可能なKPIは21個あります。その中でほかの都道府県と比較して高い目標を掲げているKPIのうち「男性育児休業取得率※1」と「企業立地件数」に着目し、これらのKPIと目標達成に向けた取組みについて、三重県へのインタビュー内容も踏まえて分析・紹介します。

※1
三重県まち・ひと・しごと総合戦略では「育児休業制度を利用した従業員の割合(男性)」と表記

① 男性育児休業取得率

目標としている男性育児休業取得率を比較すると、鳥取県と三重県の目標値が高いことが分かります。国の総合戦略にて設定された男性育児休業取得率の目標は、13%です。山形県や長野県等のように国の目標に合わせている県も多い中、それ以上の目標を掲げていることからも三重県の目標値の高さがうかがえます。

図表3
図表3:男性育児休業取得率

三重県は、男性に着目した支援を実施しているのが特長的で、男性育児休業の推進のほかにも、男性向けの不妊治療に対する補助も行うなど、男性側からの少子化対策にも注力していますが、男性育児休業取得率の目標を達成するための特長的な取組みの1つとして、「みえの育児男子プロジェクト」があげられます。このプロジェクトでは、具体的には、「普及啓発」「仕事と育児を両立できる職場環境づくり」「『子どもの生き抜いていく力』を育む子育ての魅力発信」といった3つの活動を通して男性の育児参画を促しています。

図表4
図表4:みえの育児男子プロジェクト 全体像

この取組みの特長は、男性に焦点をあてた少子化対策を行っている点です。少子化の原因は男性側にもあるにも関わらず、女性向けの支援が多い中で、男性に着目した取組みを実施していることは、ほかの都道府県と比較しても特長的であると考えられます。
なお、この取組みについては、みえのイクボス同盟※2等を通じて民間企業への働きかけは推進しているものの、県内の市町に向けた働きかけが十分でないという課題も残っています。今後は、男性の育児参画への取組みを行う市町への補助を行ったり、ほか市町の取組み事例を紹介するなどして市町への働きかけを推進する必要があると考えられます。

② 企業立地件数

三重県は、直近比自体は高くありませんが、目標とする企業立地件数(人口10万人当たり)で比較すると、比較的上位に位置します。目標値を10件前後に設定している都道府県が多い中で、三重県はそれ以上の目標を設定していることからも、高い目標であることがうかがえます。なお、三重県の現状の企業立地件数は、4年間の累計値から5年間の累計値を算出※3しているため、計算上、目標値よりも高い値となっています。

※2
イクボス:部下の仕事と家庭の両立を応援する上司
みえのイクボス同盟:三重県内において、仕事と家庭を両立できる職場づくりに取り組み、またその大切さを広く対外的に情報発信する企業経営者等で構成される団体。
※3
地方版総合戦略の目標値や現状値は都道府県によって期間が異なりますが、本共同研究では、公表されている情報を基に比較分析を実施するため、便宜上このような計算を行っています。

図表5
図表5:企業立地件数(5年間累計)

企業立地件数の目標を達成するための特長的な取組みの1つとして、マイレージ制度があげられます。この制度は、1回の投資で補助金の支給要件を満たさない場合でも、設備投資額や雇用者数をポイント化し累計で要件を満たせば補助金支給対象とする制度であり、三重県が全国で初めて制定しました。
多くの地方公共団体は、大規模な企業誘致向けの補助金制度を用意しており、三重県も2004年に亀山市に大規模な工場を誘致するなど、以前はほかの地方公共団体と同様の施策を実施していましたが、その後、大規模な企業誘致だけでなく、県内の既存企業の小規模投資にも着目したマイレージ制度を制定しました。この制度は、以下3パターンの交付要件のいずれかを、5年間の投資の累計で満たせば補助金が支給される仕組みとなっています。

図表6
図表6:マイレージ制度 交付要件一覧
(三重県企業投資促進制度を基に作成)

この取組みの特長は2つあると考えられます。
1つ目は小規模投資を促進する取組みであるという点です。全国的に、大規模な補助金を用いて大規模な工場や企業を誘致するという流れがある中で、今まで注目されにくかった小規模投資を対象としたことは特長的であると考えられます。日本では全企業数の99%以上が中小企業ですが、三重県も99.8%が中小企業という状況であり、これまで補助を希望していても対象とならなかった企業が多く存在すると考えられます。大規模な誘致は大幅な雇用や税収の増加という好影響もありますが、撤退や縮小といったリスクも大きいため、中小企業の小規模投資に焦点を当てることも有効だと推察できます。
2つ目は、新規立地への支援ではなく既に操業している企業向けの再投資支援制度であるという点です。既に県内に根を張って操業している企業であれば、県外転出の可能性は新規に比べて低く、マイレージ制度のような投資を繰り返すほどメリットのある仕組みを作れば、県内にて雇用を創出することになり、地域経済の活性化に繋がると推察できます。

(3) まとめ

三重県では、目標値の高いKPI を達成するために、図表7のような特長的な取組みを推進していることが分かりました。
男性育児休業取得率では、男性の育児参画を推進するため、「みえの男子育児プロジェクト」として情報発信や普及啓発活動のほか、働きやすい職場環境づくりなど企業への働きかけなどさまざまな取組みを実施していることが分かりました。
企業立地件数では、小規模の投資を繰り返す企業を対象とした補助制度を設けることで、地域に根を張り操業している企業を支援する取組みを実施していました。

図表7
図表7:三重県 目標値の高いKPIと特長的な取組み

以上

本コラム執筆コンサルタント

大谷 和也 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

まち・ひと・しごと創生法に基づき、全国の地方公共団体は概ね2015年度中に人口ビジョン・総合戦略(以下、地方版総合戦略という)の策定を完了し、実行段階に移行しています。
地方版総合戦略の中では、PDCA (Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)メカニズム の下、具体的な数値目標(重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicators))を設定し、効果検証と改善を実施することとされています。
このKPIは地域ごとの特性や課題を踏まえて設定されており、ほかの団体に比べて高い目標を掲げている団体では特長的な取組みが行われていると考えられます。
本コラムは、地方版総合戦略の中で掲げられているKPIとその達成に向けた取組みについて、上記のような仮説に基づき分析・検証を行った結果を紹介するものです。
なお、この分析・検証は、慶應義塾大学環境情報学部小川 克彦教授と株式会社日立コンサルティングの共同研究として実施したものです。

共同研究

写真:小川 克彦

小川 克彦慶応義塾大学環境情報学部 教授

1978年に慶應義塾大学工学部修士課程を修了し、同年NTTに入社。 画像通信システムの実用化、インタフェースデザインやウェアラブルシステムの研究、ブロードバンドサービスや端末の開発、R&D 戦略の策定に従事。NTTサイバーソリューション研究所所長を経て、2007年より現職。工学博士。
専門は、コミュニケーションサービス、ヒューマンセンタードデザイン、ネット社会論。主な著書に「つながり進化論」(中央公論新社)、「デジタルな生活」(NTT出版)がある。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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