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兵庫県のKPIと特長的な取組み

大谷 和也 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

共同研究

小川 克彦 慶応義塾大学環境情報学部 教授

2017年4月11日

第6回に引き続き、インタビューを実施させていただいた都道府県を紹介していきます。第7回は、兵庫県のKPIと特長的な取組みの紹介です。

(1) 兵庫県の地方版総合戦略の構造について

兵庫県は2060年の姿として、「人口が減少しても活力ある豊かな兵庫」をめざしており、「地域のあり方」「暮らしの基盤」「交流」「人」「産業」の5つの視点を基に、2020年までに取組む人口対策(自然増対策・社会増対策)および地域の元気づくり(東京一極集中の是正)に関して、9つの基本目標を定めています。

図表1
(兵庫県地域創生戦略を基に作成)
※平成28年3月に改訂版が公表されており、KPI名称や目標値が更新されているものもありますが、
本稿では平成27年10月に公表された「兵庫県地方創生総合戦略」を基に図表を作成しています。
図表1:兵庫県 地方版総合戦略の概要

兵庫県の9つの基本目標(政策分野)の中に、国の総合戦略にて設定された4つの政策分野の内容が含まれており、基本目標ごとに具体的なKPIが設定されています。その中には、第1回で定義した主要KPI(図表2の橙色網掛け部分)も含まれており、兵庫県の設定した全てのKPIのうち、目標値が高いKPIを達成するための特長的な取組みについて調査を実施しました。

図表2
(兵庫県地域創生戦略を基に作成)
※平成28年3月に改訂版が公表されており、KPI名称や目標値が更新されているものもありますが、
本稿では平成27年10月に公表された「兵庫県地方創生総合戦略」を基に図表を作成しています。
図表2:兵庫県のKPIの構成

(2) 兵庫県のKPIと特長的な取組みについて

兵庫県の設定するKPIは、施策の成果を表す総括KPIが120個、各事業の実績を表す事業KPIが635個で、そのうち5都道府県以上で比較可能なKPIは34個あります。その中でほかの都道府県と比較して高い目標を掲げているKPIのうち「企業立地件数」に着目し、これらのKPIと目標達成に向けた取組みについて、兵庫県へのインタビュー内容も踏まえて分析・紹介します。

目標としている企業立地件数 (人口10万人当たり)を比較すると、岩手県、富山県、宮崎県に次ぐ高い目標であることが分かります。岩手県と富山県の目標値が突出していますが、宮崎県、兵庫県以外の県の目標は、いずれも15件以下であることから、兵庫県の目標値が高いことがうかがえます。

図表3
図表3:企業立地件数

兵庫県の企業立地件数の目標を達成するための取組みの中から、特長的なものとして「設備投資の補助額に上限を定めない企業立地支援制度」と「淡路市夢舞台サスティナブル・パーク」を紹介します。

① 設備投資の補助額に上限を定めない企業立地支援制度

企業立地件数のKPIを掲げている都道府県は、企業立地の際の支援制度を用意しており、兵庫県もほかの都道府県と同様に、工場・研究開発施設、本社機能の立地に関する支援制度を充実させています。支援の内容は、税軽減と補助金と融資に分類され、その中でも特長的なのは、企業が建築物等の設備投資を行って兵庫県内に移転する際、設備投資への補助金の上限を設定していない点です。このように限度を設けていないのは、全国の都道府県で兵庫県だけという状況です。補助率は設備投資額(土地を除く)の3〜7%と、ほかの都道府県と比較すると高い割合ではありません。しかし、ほかの都道府県では数億円〜十数億円程度の上限が設定されていることが多いことから考えても、上限を設定していないことで、大型の設備投資を行う企業にとっては大きなメリットが生じる支援であると言えます。

図表4
図表4:設備投資に関する支援内容の比較
(企業立地件数の目標値が高い都道府県の一例)

株式会社帝国データバンクの「地方創生に関する投資意向調査」によると、企業が移転する際に重視する条件は、交通利便性や用地の価格、労働力の確保、地方公共団体の補助制度等があげられます。交通利便性や用地の価格については、首都圏からアクセスし易く、土地の安い都道府県は多数あるため、それだけでは移転先としてのアピールが十分でないと想定できます。労働力についても同様に、労働人口の多い都道府県は多数あり、アピールポイントとしては不十分と考えられます。唯一性をアピールするという点でも、兵庫県の設備投資の補助額に上限を定めない企業立地支援は、企業立地件数の目標値を達成する有力な取組みであると推察され、大規模投資により雇用増大や消費拡大等の地域経済の活性化も期待できます。
兵庫県が公表している地域創生戦略の実施状況報告書(平成27年度)によると、2015年度の企業立地件数の達成率は約108%※1を記録しており、順調なスタートを切ったことが分かります。実際に、2015年には、攪拌(かくはん)機メーカーであるプライミクス株式会社が、大阪本社工場及び埼玉工場を集約し、兵庫県姫路市に本社・工場を移転するなど、実績が増えてきている状況です。今後も、このような都市圏からの移転が継続することで、都市圏と地方との人口の偏りを是正することにつながっていくと考えられます。
兵庫県も人口が転出超過である都道府県です。政令指定都市の神戸市であっても、2012年から人口が減少しており※2、首都圏や近隣の衛星都市への人口流出の傾向が見られる状況です。このような取組みの推進によって、神戸市はもとより、兵庫県全体の転入者数の増加が期待できると考えられます。

※1
兵庫県地域創生戦略の実施状況報告書(平成27年度)66ページより引用
※2
神戸市「神戸2020ビジョン」より引用

② 淡路市夢舞台サスティナブル・パーク

兵庫県には多くの産業団地があり、淡路市の北部には、関西国際空港用地の埋め立てに伴って発生した広大な採土跡地を活用した「淡路市夢舞台サスティナブル・パーク」という産業団地があります。ここでは、企業、医療機関、商業施設、住宅等を集約する取組みを実施し、そこで働くだけでなく、生活ができるようなまちづくりをめざしています。
「淡路市夢舞台サスティナブル・パーク」は、企業誘致ゾーン、住宅・商業ゾーン、医療・福祉ゾーンの3つから構成されており、企業誘致ゾーンでは、ものづくり企業を中心とした企業を誘致することで雇用創出をめざしており、2017年時点では4社(株式会社大谷鉄工所、プライミクス株式会社、オリエンタル製靴株式会社、株式会社イレブンインターナショナル)※3を誘致している状況です。住宅・商業ゾーンでは、「淡路らしいまち」等の方向性のもと、地域産材の活用や伝統工芸(瓦、タイル、漆喰等)と調和のとれた外装素材を使用するといったデザインコントロールを実施しており、単なる企業集積地ではなく1つのまちを形成する取組みが進んでいます。医療・福祉ゾーンでは、安心・安全に一生涯暮らせるための医療施設や福祉施設の充実を進めており、病院や薬局(24時間ドラッグストア機能を兼ねたコンビニエンスストア(食堂併設))を誘致しています。

図表5
図表5:淡路市夢舞台サスティナブル・パークの構成

この取組みの特長は、雇用創出だけでなく、誘致した企業で働く従業員の生活にも着目して、職住一体のコンパクトなまちづくりを行っている点です。通勤面を例にとると、日本人は通勤時間が長く、通勤に30分以上かかる世帯の割合の全国平均は約45%※4と、多くの人々が長い時間をかけて通勤していることが分かります。「淡路市夢舞台サスティナブル・パーク」では、企業誘致ゾーンに隣接して住宅・商業ゾーンが整備されているため、通勤は短時間で済み、仕事以外の時間を有意義に使えることからも、移転に伴って移住した従業員にとっては、今まで以上にワークライフバランスが向上する労働環境が整っていると考えられます。
そのほかにも、医療・福祉ゾーンがあり、医療施設が充実しているという面から見ても住みやすい環境であると言えます。例えば、パーク内には、聖隷淡路病院という内科・外科・整形外科・産婦人科等多くの診療科目を有している病院が誘致されていています。特に産婦人科は、淡路市に27年以上無かった分娩機能を有しており、出産にも対応できる体制を整えています。

※3
※4

(3) まとめ

兵庫県では、企業立地件数の目標値を達成するために、図表6のような特長的な取組みを推進していることが分かりました。
企業立地の際の補助制度としては、全国の都道府県で唯一、設備投資の補助額に上限を定めないことで大規模な企業や工場の誘致向けの施策を展開していました。
また、「淡路市夢舞台サスティナブル・パーク」という職住一体型の企業集積地を開発し、ワークライフバランスを向上させることで、企業のみならず、従業員の満足度を考慮した取組みを行っていました。

図表6
図表6:兵庫県 目標値の高いKPIと特長的な取組み

以上

本コラム執筆コンサルタント

大谷 和也 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

まち・ひと・しごと創生法に基づき、全国の地方公共団体は概ね2015年度中に人口ビジョン・総合戦略(以下、地方版総合戦略という)の策定を完了し、実行段階に移行しています。
地方版総合戦略の中では、PDCA (Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)メカニズム の下、具体的な数値目標(重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicators))を設定し、効果検証と改善を実施することとされています。
このKPIは地域ごとの特性や課題を踏まえて設定されており、ほかの団体に比べて高い目標を掲げている団体では特長的な取組みが行われていると考えられます。
本コラムは、地方版総合戦略の中で掲げられているKPIとその達成に向けた取組みについて、上記のような仮説に基づき分析・検証を行った結果を紹介するものです。
なお、この分析・検証は、慶應義塾大学環境情報学部小川 克彦教授と株式会社日立コンサルティングの共同研究として実施したものです。

共同研究

写真:小川 克彦

小川 克彦慶応義塾大学環境情報学部 教授

1978年に慶應義塾大学工学部修士課程を修了し、同年NTTに入社。 画像通信システムの実用化、インタフェースデザインやウェアラブルシステムの研究、ブロードバンドサービスや端末の開発、R&D 戦略の策定に従事。NTTサイバーソリューション研究所所長を経て、2007年より現職。工学博士。
専門は、コミュニケーションサービス、ヒューマンセンタードデザイン、ネット社会論。主な著書に「つながり進化論」(中央公論新社)、「デジタルな生活」(NTT出版)がある。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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