ページの本文へ

Hitachi

株式会社 日立コンサルティング

徳島県のKPIと特長的な取組み

須藤一磨
株式会社 日立コンサルティング コンサルタント

共同研究

小川克彦
慶応義塾大学環境情報学部 教授

2017年5月31日

第8回に引き続き、インタビューを実施させていただいた都道府県を紹介していきます。第9回は、徳島県のKPIと特長的な取組みの紹介です。

(1) 徳島県の地方版総合戦略の構造について

徳島県は、「とくしま人口ビジョン」で示した2060年の人口「60〜65万人超」の確保に向け、徳島と東京が「一対」となり、「地方創生」ひいては「日本創成」の実現を目指す「VS東京」1のコンセプトを掲げています。そのコンセプトのもと4つの基本目標を設定しており、課題解決先進県として地方創生に取組んでいます。

1
東京に敵対するというわけではなく、東京は、「徳島ならでは」の価値を発信するための比較の対象であるとともに、東京の有する様々な課題について、徳島が、一体となって解決していくことで、日本全体の課題解決をつなげていくとの理念が込められている。(出典:「なぜ地方創生なのか?」H27.9.30徳島文理大学公開授業「集客交流産業論」(第1回)講義資料)

図表1
(VS東京「とくしま回帰」総合戦略(平成27年7月)を基に作成)
※平成29年3月に改訂版が公表されており、KPI名称、目標値、目標年度等が更新されているものもありますが、本稿では平成27年7月に公表された「VS東京「とくしま回帰」総合戦略」を基に図表を作成しています
図表1:徳島県 地方版総合戦略の概要

徳島県の基本目標(政策分野)は、国の総合戦略にて設定された4つの政策分野と同じ内容であり、4つの基本目標ごとに具体的なKPIが設定されています。その中には、第1回で定義した主要KPI(図表2の橙色網掛け部分)も含まれており、徳島県の設定したすべてのKPIのうち、目標値が高いKPIを達成するための特長的な取組みについて調査を実施しました。

図表2
(VS東京「とくしま回帰」総合戦略(平成27年7月)を基に作成)
※平成29年3月に改訂版が公表されており、KPI名称、目標値、目標年度等が更新されているものもありますが、本稿では平成27年7月に公表された「VS東京「とくしま回帰」総合戦略」を基に図表を作成しています
図表2:徳島県のKPIの構成

(2) 徳島県のKPIと特長的な取組みについて

徳島県の設定するKPIは128個2で、そのうち5都道府県以上で比較可能なKPIは34個あります。その中でほかの都道府県と比較して高い目標を掲げているKPIのうち「移住者数3」に着目し、これらのKPIと目標達成に向けた取組みについて、徳島県へのインタビュー内容も踏まえて分析・紹介します。

目標としている移住者数で比較しても、直近比で比較しても、徳島県は高い目標を設定していることが分かります。特に、直近比は突出しており、1,000%以上の非常に高い目標となっています。

2
平成29年3月の改訂版では160個が設定されている
3
前回までのコラムで紹介した「県の支援による移住者数」は、移住センター等の県の機関を通じた移住者数の目標

図表3
図表3:移住者数(年間)

移住者数の目標を達成する取組みの代表的なものとして、徳島県は、サテライトオフィスや政府関係機関等の誘致を行っています。サテライトオフィスに関しては、2012年から「とくしまサテライトオフィスプロジェクト」を本格展開し、プロモーションサイト(Tokushima Working styles)の開設や、官民協働の「徳島サテライトオフィス・プロモーションチーム」の開催するプロモーション会議や視察ツアー等を通じて情報発信を行い、2017年3月31日時点で9市町に45社がサテライトオフィスを開設している状況です。また、政府関係機関に関しては、消費者庁等の移転を国に提案し、2016年には徳島県での業務試験や試験移転を実施しており、2017年度からは徳島県庁内に消費者庁のオフィスが設置され、50名規模が勤務する予定です。
これらを支える特長的な取組みとして、デュアルスクール制度やテレワークがあげられます。

① デュアルスクール制度

デュアルスクール制度は、都市部の学校と徳島県の学校を行き来することを可能にするものであり、徳島県が全国で初めて取組んだ制度です。具体的には、徳島県と都市部の2つの市区町村教育委員会が協議し、承認された場合、住民票を異動せずに転校することが可能になり、徳島県と都市部の2つの学校が1つの学校のように教育活動を展開します。その際、徳島県の小中学校には学習進度の違いを調整するための教員を配置し、児童生徒の学習を支援することとなっています。この制度により、サテライトオフィスや政府関係機関の移転等によって徳島県で勤務することになった従業員が、単身赴任をせずに家族一緒に移住することが可能になり、子育ての不安を抱えることなく勤務することができる効果が期待できます。
実際に、2016年に徳島県美波町においてモデル試行を実施しており、町内のサテライトオフィスに勤務する従業員の子どもが町内の小学校に就学しました。

図表4
(徳島県デュアルスクール紹介資料を基に作成)
図表4:デュアルスクール全体像とメリット

この制度のメリットは保護者側だけでなく、子ども側にもあると考えられます。その地方で実際に生活をし、その土地の子ども達と触れ合うことで、地元の祭りへの参加等、旅行での滞在では得ることのできない体験ができます。また、故郷と呼べる場所がもう一つできることも、多様な価値観を学べるというメリットにつながるでしょう。一方で、受け入れる側の子どもにもメリットがあると想定され、転校してきた子どもをきっかけに新しい人間関係を構築できたり、転校してきた子どもと話すことで当たり前に感じていた地元の環境(豊かな自然等)を再認識できるといったメリットが考えられます。
今後、保護者側のメリットだけでなく、子ども側のメリットのために徳島県へ移住する人も増加すると考えられ、徳島県のこのような取組みが全国に波及すれば、移住や2拠点居住の可能性が広がり、人口の東京一極集中の解消にも役立つと推察されます。

② テレワーク

テレワークは、情報通信技術を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことで、徳島県では、県庁が率先して実証実験を実施しています。具体的には、2014年度から「次なる挑戦!テレワーク推進事業」として「在宅勤務実証実験」、「サテライトオフィス実証実験」、「モバイルワーク実証実験」の3つの実証実験を行っています。
「在宅勤務実証実験」は、2014年度は育児休暇取得中の職員向けでしたが、2016年度からは育児休暇取得中の職員だけでなく、すべての職員を対象にして実施しており、職員の自宅から職場内LANへの接続を可能とするとともに、パソコンを配備する等、在宅勤務ができる環境を整えました。「サテライトオフィス実証実験」では県本庁舎内と南部、西部各総合県民局に、ノート型パソコンを設置したサテライトオフィスを開設し、職員の出張の際に活用することで、移動時間や通勤時間の効率的利用により「ワーク・ライフ・バランス」の実現と「災害時等の業務継続能力」の向上を図りました。「モバイルワーク実証実験」では、モバイル端末を導入し、職員が、庁舎外の会議や出張時などの説明を要する業務の際に、口頭だけでなく絵や動画を用いて分かりやすく説明を行うことが可能になりました。また、それに伴うサービスの向上、平常時の業務効率化、ペーパーレスの促進、災害時の業務継続への活用等、モバイル端末がもたらす業務改革の効果も検証しました。

図表5
(総務省「徳島県によるテレワーク普及促進の実証実験」より引用)
図表5:次なる挑戦!テレワーク推進事業の概要

今後は、在宅勤務に使用できるパソコンの増設等、県庁におけるテレワークの拡大に引き続き取組む一方で、県内市町村向けのテレワーク導入マニュアルの作成や、テレワーク実証センター徳島4におけるコワーキングスペースの開放等により、県庁の取組みの市町村や民間への展開に注力することになっています。テレワークのような場所や時間にとらわれずに働くことのできる環境が整うことにより、消費者庁をはじめとする政府関係機関や、民間企業の移転が進むと推察され、更なる移住者の増加が期待できます。また、テレワークの技術的・制度的仕組みだけではなく、コミュニケーションや人事考課などを問題なく遂行するためのノウハウを形式知化して発信・共有することで、徳島県のこのような取組みが全国のモデルになりうると考えられます。

4
徳島県の設置した、テレワークを希望する個人から企業まで、幅広く活用可能なテレワークセンター

(3) まとめ

徳島県は、移住者数に関して、サテライトオフィスや政府関係機関の誘致を支える制度として、図表6のような特長的な取組みを推進していることが分かりました。
デュアルスクール制度は、徳島県への移住者が、働きながら子育てができる環境を作ることで、政府関係機関や民間企業の徳島県への移転を推進する取組みであり、テレワークは、県庁が率先して導入することで、場所や時間にとらわれない多様な働き方を広く推進できる取組みだと考えられます。

図表6
図表6:徳島県 目標値の高いKPIと特長的な取組み

以上

共同研究

小川克彦
慶応義塾大学環境情報学部 教授

写真:小川克彦

1978年に慶應義塾大学工学部修士課程を修了し、同年NTTに入社。 画像通信システムの実用化、インタフェースデザインやウェアラブルシステムの研究、ブロードバンドサービスや端末の開発、R&D 戦略の策定に従事。NTTサイバーソリューション研究所所長を経て、2007年より現職。工学博士。
専門は、コミュニケーションサービス、ヒューマンセンタードデザイン、ネット社会論。主な著書に「つながり進化論」(中央公論新社)、「デジタルな生活」(NTT出版)がある。

コラム執筆コンサルタント

須藤一磨
株式会社 日立コンサルティング コンサルタント

まち・ひと・しごと創生法に基づき、全国の地方公共団体は概ね2015年度中に人口ビジョン・総合戦略(以下、地方版総合戦略という)の策定を完了し、実行段階に移行しています。
地方版総合戦略の中では、PDCA (Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)メカニズム の下、具体的な数値目標(重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicators))を設定し、効果検証と改善を実施することとされています。
このKPIは地域ごとの特性や課題を踏まえて設定されており、ほかの団体に比べて高い目標を掲げている団体では特長的な取組みが行われていると考えられます。
本コラムは、地方版総合戦略の中で掲げられているKPIとその達成に向けた取組みについて、上記のような仮説に基づき分析・検証を行った結果を紹介するものです。
なお、この分析・検証は、慶應義塾大学環境情報学部小川克彦教授と株式会社日立コンサルティングの共同研究として実施したものです。