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「マイナンバー法」がもたらす
自治体への影響と取組課題について

小林 雅貴 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

2014年2月13日

今回は第1回目ということで、マイナンバー制度の概要と自治体への影響およびこれから本格化するマイナンバー制度導入対応の全体像と準備のポイントを示したいと思います。

2014年2月6日に、内閣府の「マイナンバー」ロゴマークデザイン作成業務に係る企画競争についての公告等で、「個人番号」に対して「マイナンバー」の呼称を政府が利用していることから、本コラムでも「マイナンバー」の呼称を利用します。

1.マイナンバー制度の概要

「社会保障・税番号制度」、通称「マイナンバー制度」とは

マイナンバー制度とは、「複数の行政機関に存在している個人の情報を同一人の情報であることの確認を行うための基盤」です。今回のマイナンバー法は、主に社会保障・税制度の効率性、透明性を高め、住民にとって利便性が高く、公平・公正な社会を実現するための社会基盤(インフラ)にすることを目指しています。

マイナンバー法関連法案は平成24年の衆議院解散で廃案となりましたが、現政権でも継続的に審議され、必要な修正等を加えて社会保障・税番号制度関連法案として平成25年3月1日に閣議決定し、平成25年5月24日に参議院で可決、成立し、31日に公布されました。

まずは税と社会保障、防災分野の行政事務へ導入、将来的には民間利用も視野

今回のマイナンバー法での対象範囲は、主に税と社会保障分野における行政事務に限定されますが、マイナンバー法の施行日以後3年を目処に、利用事務の拡大を目指すことをマイナンバー法の中で明言していることから、将来的には、民間企業も含めた情報保有機関、連携情報の拡大を図ることで、更なる国民の事務処理負荷軽減等の実現を目指していくことも考えられます。

図解
図1 マイナンバー制度の対象範囲拡大のイメージ図

マイナンバー制度の仕組み 〜 三つの柱 〜

今回のマイナンバー制度を実現する仕組みとして、(1)マイナンバーの付番、(2)行政事務における「マイナンバー利用」、(3)行政機関間での「情報連携」の三つの柱があります。

(1)マイナンバーの付番
各自治体の長が住民票コードをもとに生成したマイナンバーを住民に付番し、通知することが定められています。具体的には、平成27年10月に全住民に対してマイナンバーが通知されます。平成28年1月以降、希望する住民に対してマイナンバー、顔写真等が印刷された「個人番号カード」を交付するスケジュールです。

(2)行政事務における「マイナンバー利用」
社会保障・税・防災分野の事務を実施する各行政機関では(1)で付番されたマイナンバーを用いて、窓口等での本人確認など行うことができます。マイナンバーを利用できる対象範囲はマイナンバー法において決められており、「別表第1」にて97の事務が示されています。

【「別表第1」で規定された事務例】
税の賦課徴収(下図参照)、生活保護の決定、介護保険の給付事務、災害対策分野の事務等

※「別表第1」の原文は、下記から参照できます

マイナンバー法では、「別表第1」以外で自治体が独自に実施している事務事業等のうち、社会保障、税、防災に関するものは、別途条例を定めることでマイナンバー利用可能となっており、各自治体の実態に即した運用ができるようになっています。

(3)行政機関間での「情報連携」
われわれ国民が受ける行政サービスは複数の行政機関から提供されることから、機関毎に個別の情報が独立して存在します。マイナンバー制度の3本目の柱は、各行政機関にてそれぞれ管理している同一人の情報を紐付け、相互に活用するという仕組みです。
このマイナンバーを用いた行政機関間での「情報連携」を行う事務の対象範囲についても、マイナンバー法において決められており、「別表第2」にて119の事務が示されています。

【「別表第2」で規定された事務例】
自治体が保有する地方税関係情報(所得、課税情報)を他団体に提供する

※「別表第2」の原文は、下記から参照できます

2.マイナンバー制度導入への「心構え」〜どのような対応が必要なのか〜

自治体でマイナンバー制度対応を必要とする事務は多い

別表第1、別表第2に規定された各事務の中で、自治体(主に基礎自治体)関連の事務は、行政機関における「マイナンバー利用と本人確認」を主な対象とする別表第1では97の事務のうち46の事務、各行政機関間での「情報連携」を主な対象とする別表第2の事務では119の事務のうち101の事務と、対応範囲は非常に広範囲に及びます。
以下に、別表第1、別表第2にて自治体の事務として規定された事務を、下記のような業務区分に包含した上で、「マイナンバー利用(別表第1)」および「情報連携(別表第2)での照会・提供」の3区分での対応関係を大枠で整理しました。

表1 「マイナンバー利用」、「情報連携」で自治体側の対応が必要となる業務一覧
No 業務 番号
利用
情報連携 No 業務 番号
利用
情報連携
照会 提供 照会 提供
1 介護保険 16 助産    
2 感染症患者等医療費   17 障害者福祉
3 共済年金     18 生活保護
4 健康管理     19 地方税
5 健康増進     20 中国残留邦人
6 原子爆弾被爆者援護 21 特別児童扶養手当  
7 後期高齢者医療 22 被災者支援  
8 公営住宅   23 保育所保育料  
9 公務災害補償     24 母子家庭自立支援
10 国民健康保険 25 母子家庭等日常生活支援  
11 子育て支援   26 母子生活支援施設    
12 児童手当 27 未熟児養育医療
13 児童扶養手当 28 予防接種管理  
14 就学援助 29 老人福祉  
15 住民基本台帳     - - - - -

「マイナンバー利用」、「情報連携」で何らかのマイナンバー制度対応が必要となる業務は25業務、中でも対応が必須となる他機関からの情報「照会」に対する情報「提供」業務は16業務となっています。マイナンバー法への対応は、先だっての住民基本台帳法改正や後期高齢者医療制度の導入に比べても影響範囲が多岐に渡るものと想定されます。

制度のスタートと利用拡大に向けて自治体が果たす役割は大きい

マイナンバー制度は主に税と社会保障分野に限定しスタートしますが、今回のマイナンバー法への対応を確実に成功させることで、マイナンバー利用のための業務インフラが構築されます。これは行政事務の高度化に向けた大きな一歩となります。
特に、住民サービスの最も身近な提供者である各自治体における今回のマイナンバー制度対応は、将来的な利用範囲拡大による更なる利便性向上につなげる意味でも、遅れることなく本番稼働にこぎつけなければならない、という重大な責務を担っているといえます。その意味でも、以下のマイルストーンに確実に対応できる全体計画と推進体制が必要になってきます。

【マイナンバー制度導入における主なマイルストーン】

  • 平成27年10月からマイナンバーを付番し、住民に通知開始
  • 平成28年1月からマイナンバーの利用開始
  • 平成29年1月から国の行政機関間での情報連携開始
  • 平成29年7月から自治体も含めた情報連携開始

マイナンバー制度対応に関する多面的な全体計画が必要に

自治体で対応を必要とする事務の範囲は幅広く、当該事務に対応する制度、業務、システムも多岐にわたります。各自治体では平成26年度から平成29年度にかけて取り組んでいくための全体計画が必要となりますが、特に重要な取組みは大きく以下の3点です。

(1)既存システムの改修、新規システムの整備
実際にマイナンバーを利用するためには、各自治体で構築・運用している「住民基本台帳システム」「地方税務システム」「介護保険システム」「宛名管理システム」等、別表第一、別表第二の事務処理を行う各システムへの改修が必要です。
また行政機関間での情報連携を実現する「中間サーバー」の整備が新たに必要です。中間サーバーのソフトウエアは、国で一括開発し、自治体に配布される予定ですが、中間サーバー側が提示するIF仕様に基づく各業務システムとの連携機能は、各自治体側で実装することになります。

(2)マイナンバー制度に関する条例整備
税や社会保障の分野などで各自治体が個別に実施している事業等についても、条例を定めることでマイナンバーを利用できます。各事業の根拠となる条例に関して、マイナンバー利用の要否を検討し、マイナンバーを利用する場合には各条例の改正等が必要になります。
また個人情報保護条例等も、各自治体でのマイナンバー制度の導入範囲や利用方法を考慮の上、現行の各規定に関して対応すべき改正内容などの検討が必要です。

(3)マイナンバー制度導入を契機とした業務や組織の見直し
各自治体では、マイナンバー制度によるマイナンバーの利活用を適切に執り行い、住民サービス向上と行政事務効率化の実現が求められます。例えば、対面での本人確認の容易化などのメリットを活かした総合窓口の導入などが考えられます。
今回のマイナンバー制度導入は将来的な利活用も視野に入れると、一部の組織ではなく幅広く全庁的な対応が求められることから、組織の見直し等も含めた業務改革の契機と捉え、総合的に推進していくことが必要です。

マイナンバー制度導入準備推進には
業務、制度、システムを総合的に統括する部署の設置を

別表第1、別表第2に示される幅広い対象業務において、業務、制度、システム面で整合性を保ちつつ、マイナンバー制度対応プロジェクトを推進する必要があることから、早期に全庁的な取り纏め部署を設置し、以下のような計画策定、実施時マネジメントを推進する必要があります。

表2 マイナンバー制度対応に関わる事前準備、実施時マネジメントの例
区分 主な対応内容
計画策定 対象範囲(スコープ)の整理及び周知
体制・役割分担の整理及び合意
実施事項・スケジュールの整理及び合意
対外窓口(国及び都道府県との連絡・調整)
庁内との連絡・調整
庁内の啓発・研修  等
実施時マネジメント マイナンバー制度対応に係る全庁プロジェクト管理(進捗・懸案管理、リスク管理等)
全庁に係る会議体(定例会議、ステコミ等)の設置・開催
対外窓口(国及び都道府県との連絡・調整)
庁内との連絡・調整  等

特に計画策定フェーズで停滞し、各業務やシステムが個別検討を進めてしまった場合、全庁的な業務、システム、制度間で不整合が生じやすくなり、最終的には国が規定する稼働スケジュールに間に合わないという事態の発生が想定されます。
よって、マイナンバー制度対応にあたっては、特に計画策定フェーズを早急に着手し、全庁的な業務面、制度面、システム面を考慮した方針策定、役割分担等を行い、各自治体内のマイナンバー制度対応プロジェクトを軌道に乗せていく必要があり、統括部署の設置は急務と考えます。

そうはいっても、どのように検討を進めたらよいのか・・・

現在、我々日立コンサルティングでは、計画策定フェーズにて各自治体が決定すべき事項、検討手順の整理等をマイナンバー制度対応のサービス提供メニューとして整理しています。各団体の実態に応じ、マイナンバー制度対応の計画フェーズに関わる迅速な意思決定を支援することが可能です。

予告

マイナンバー制度に関しては、これから主務省令の公表により別表第1、別表第2の記載事務の詳細が提示されます。よって、各自治体での直近作業としては、現状の業務、制度、システム等の仕様に応じた団体毎の実装レベルの具体化を実施する必要があります。また、業務運用の検討の際に実施を義務付けられている特定個人情報保護評価についても、対応が本格化するものと想定されます。
次回以降のコラムでは、主務省令の公表を踏まえ、各自治体での実装レベルの検討方法や特定個人情報保護評価の実施方法について、具体例を交えつつ述べていきます。
また施行日以降に検討される税と社会保障以外の行政機関・情報への拡大、将来的な民間活用のあり方などについても、広く述べていきたいと思います。

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以上

本コラム執筆コンサルタント

小林 雅貴 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

全国民にマイナンバーを付番し、一意に特定する「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下、「マイナンバー法」とする。)及び関連法が平成25年5月24日に成立しました。
平成27年10月の国民へのマイナンバーの通知、平成28年1月のマイナンバーの利用開始、平成29年1月の国機関での情報連携の開始、平成29年7月の自治体を含めた情報連携の開始といった4つのマイルストーンを見据えて、マイナンバー制度の導入に向けて各関係機関が始動しています。
このコラムでは、最初のマイルストーンとなるマイナンバーの通知や幅広い行政手続きでマイナンバーを利用し、かつ国など複数の機関との情報連携の役割を担う自治体(特に住民サービスの最寄り窓口となる基礎自治体)を対象に、マイナンバー制度導入によりどんな影響があるのか、これから取り組んでいくべき課題は何か、などにつき発信していきます。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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