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マイナンバーの独自利用等に係る自治体での条例制定について

小林 雅貴 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

2015年7月7日

2016年1月よりマイナンバーの利用開始をむかえる番号制度では、番号法の中で厳密にマイナンバーの利用範囲を規定していますが、番号法で規定する範囲内で自治体が条例を定めれば、マイナンバーの独自利用等を行うことができます。本コラムでは、自治体側での条例制定にあたって、必要な観点について解説していきます。

1.条例制定により、マイナンバーの独自利用等が可能

各自治体では、国民の利便性の向上、行政運営の効率化を考慮した
条例制定が必要

2015年10月5日より、住民に対しマイナンバーの通知が始まり、2016年1月1日よりマイナンバーの利用が開始されます。マイナンバーの利用範囲は、社会保障・税・災害対策の分野に限定されており、具体的な事務については番号法の中で規定されています。
一方で、番号法では、社会保障・税・災害対策の分野であれば、条例制定を行うことで、マイナンバーの独自利用等も認めています。そのため、社会保障・税・災害対策の分野の範囲内で、あらゆる事務に条例制定をしてマイナンバーを利用するということも考えられますが、やみくもにマイナンバーを利用する事は、「国家により個人の様々な個人情報が個人番号をキーに名寄せ・突合されて一元管理されるのではないか」といった番号制度に対する国民の懸念からも望ましくありません。
よって、各自治体でマイナンバーの独自利用等を行う場合には、検討対象の事務が「国民の利便性の向上」、「行政運営の効率化」に資することを精査した上で、マイナンバーの利用が本当に必要な事務であるか、判断することが求められます。

番号法の中で、条例制定はどのように規定されているか?

番号法では、マイナンバーの独自利用等について、番号法第9条第2項、第19条第9号、第19条第14号の3つの条文で規定しています。各条文と、各条文で規定する事務の概要について紹介します。

番号法第9条第2項の条文

地方公共団体の長その他の執行機関は、福祉、保健若しくは医療その他の社会保障、地方税又は防災に関する事務その他これらに類する事務であって条例で定めるものの処理に関して保有する特定個人情報ファイルにおいて個人情報を効率的に検索し、及び管理するために必要な限度でマイナンバーを利用することができる。当該事務の全部又は一部の委託を受けた者も、同様とする。

この条文は、以下の2つの事務に関する条例制定について規定したものです。
  • 番号法別表第一に掲げられていない事務においてマイナンバーを利用する場合(以下、「独自利用事務」)
    具体的には、各自治体が独自で実施している福祉サービスや、独自の加算措置等が該当します。
  • 同一自治体内の同一機関内で特定個人情報の授受を行う場合(以下、「同一機関内の庁内連携」)
    具体的には、現行の番号法の範囲内であれば、主に市長部局内または教育委員会内にて、異なる事務間で特定個人情報を連携すること(システム間連携、媒体連携等)が該当します。

番号法第19条第9号の条文

何人も、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報の提供をしてはならない。
九 地方公共団体の機関が、条例で定めるところにより、当該地方公共団体の他の機関に、その事務を処理するために必要な限度で特定個人情報を提供するとき。

この条文では、以下の事務に関する条例制定について規定したものです。
  • 同一自治体内の複数機関間で特定個人情報の授受を行う場合(以下、「複数機関間の庁内連携」)
    具体的には、現行の番号法の範囲内であれば、主に自治体内の市長部局と教育委員会間にて、特定個人情報を連携すること(システム間連携、媒体連携等)が該当します。番号法第9条第2項の庁内連携に関する規定との差異は、情報連携の提供元、提供先が同一地方公共団体内の同一機関であるか別機関であるかになります。

番号法第19条第14号の条文

何人も、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、特定個人情報の提供をしてはならない。
十四 その他これらに準ずるものとして特定個人情報保護委員会規則で定めるとき。

ここでいう「特定個人情報保護委員会規則」は、現在(2015年7月時点)、審議中の番号法の改正案において、「番号法第9条第2項で定める独自利用事務において、情報提供ネットワークシステムを介して、他自治体等と情報連携を行う事務」(以下、「独自利用事務に係る情報連携」)と規定されています。つまり、2017年7月の情報連携開始(国の機関は、2017年1月に情報連携開始)以降、番号法の別表第二の規定がない独自利用事務においても、他情報保有機関との間で情報連携を認めるというものになります。本件について、自治体側で必要となる対応は、前述の独自利用事務に係る条例制定をした後、特定個人情報保護委員会に他情報保有機関との情報連携を行いたい旨の届出を行う必要があります。

別表第一の事務は「庁内連携」について、独自利用事務は
「独自利用事務」、「庁内連携」、「独自利用事務に係る情報連携」について
それぞれ条例制定が必要

前述の4つの事務の関係は、以下のようになり、網掛け部分が条例制定を必要とする部分になります。

個人番号利用事務

番号法第9条第1項に基づく事務(別表第一で規定する事務)については、同一自治体内の他事務で管理する特定個人情報を利用するようであれば、庁内連携に関する条例制定が必要になります。
また、番号法第9条第2項の独自利用事務については、そもそも独自利用に係る条例制定が必要ですが、さらに庁内連携、他情報保有機関との情報連携に係る条例制定も必要となります。

2.条例制定しなかった場合の影響は?制定にあたっての観点は?

独自利用事務、独自利用事務に係る情報連携で条例制定を行わないと、
どのような影響があるか?

番号法に規定のない事務の中には、番号法に規定された事務と同時に処理する事務が存在します。こういった場合に、2016年1月のマイナンバー利用開始後、マイナンバーの利用が番号法に規定された事務に限定されることは、国民の利便性の向上、行政運営の効率化を図ることができないと想定されます。
番号法に規定のない子ども医療費助成に関する事務(※)を具体例として取り上げ、独自利用事務の条例制定をしなかった場合の影響を説明します。

※子ども医療費助成制度
  • 0歳〜15歳までの児童に対する国民健康保険や健康保険の自己負担額を助成する制度。
  • 自治体によっては所得制限もあります。

子ども医療費助成に関する申請は、対象となる児童の年齢が0歳〜15歳であるため、年齢要件が同じである児童手当と同時に申請を受付けています。申請が発生する主なタイミングは、転入直後、出生が想定されますが、ここでは転入直後を想定して、条例制定をした場合の運用と、条例制定をしなかった場合の運用を比較します。

項番 処理 事務区分 条例制定をした場合の運用 条例制定をしなかった場合の運用
1 申請 児童手当 住民より、児童手当兼子ども医療費助成の申請書を受け付け、通知カード等に基づき、同時に本人確認措置を実施する。 住民より、児童手当の申請書を受け付け、通知カード等に基づき申請者のマイナンバー確認、運転免許書等に基づき申請者の身元確認を行う。
子ども医療費助成 住民より、子ども医療費助成の申請書を受け付け、運転免許書等に基づき申請者の身元確認を行う。
2 登録 児童手当 児童手当兼子ども医療費助成の申請書に基づき、児童福祉システムにて、マイナンバーで対象者の検索を行い、児童手当、子ども医療費助成の申請書情報を登録する。
(同一画面であれば、共通事項の入力は1回の入力の想定)
児童手当の申請書に基づき、児童福祉システムにて、マイナンバーで対象者の検索を行い、申請書情報を登録する。
子ども医療費助成 子ども医療費助成の申請書に基づき、児童福祉システムにて、対象者の検索を行い、申請書情報を登録する。
3 審査 児童手当 児童福祉システムから中間サーバーに対し、申請者の地方税関係情報(課税証明書に当たる情報)を照会し、照会結果に基づき審査、判定を行う。
(本運用は2017年7月より開始)
児童福祉システムから中間サーバーに対し、申請者の地方税関係情報(課税証明書に当たる情報)を照会し、照会結果に基づき審査、判定を行う。
(本運用は2017年7月より開始)
子ども医療費助成 申請時に取得した課税証明書に基づき、所得の審査、判定を行う。

上記の通り、条例制定をしなかった場合の運用では、番号法に規定された事務(児童手当)と、そうでない事務(子ども医療費助成)を明確に分けて管理しなければならず、住民、自治体職員の双方にとって、負担増になります。工程ごとに詳細を説明します。

  1. 申請
    • 住民は事務ごとに申請書を作成。
    • 自治体職員は、事務ごとに本人確認措置を実施。(子ども医療費助成に関する事務では、マイナンバーのコピー、メモ等は不可。)
    • 住民は、番号法に規定された事務、そうでない事務を考慮して、本人確認用書類を準備。(例えば、マイナンバーの記載がある住民票の写しは、児童手当では本人確認用書類として利用できるが、子ども医療費助成では、本人確認用書類としての受領を断られる可能性もあります。)
  2. 登録
    • 自治体職員は、児童手当事務の際にマイナンバーで対象者を検索した場合、子ども医療費助成事務の実施にあたって、引き続きそのデータを利用することはできず、改めて対象者をマイナンバー以外の条件で検索。
    • 自治体は、児童手当、子ども医療費助成に関する事務を同一システムの同一画面で処理し、かつ、マイナンバーも表示されている場合、システム改修により、2つの事務を別画面へ分離する等の対策が必要。
  3. 審査
    • 住民は、児童手当事務では課税証明書の提出は不要になるが、子ども医療費助成事務では課税証明書等の提出が必要。
    • 自治体職員は、児童手当事務では情報提供ネットワークシステムを介して取得した地方税関係情報での所得審査、子ども医療費助成事務では住民から直接取得した課税証明書での所得審査と、事務ごとに異なる方法で所得審査を実施。

独自利用事務、独自利用事務に係る情報連携での条例制定にあたって、
必要な観点は?

前述の子ども医療費助成のように、番号法に規定された事務と同時に処理する番号法に規定のない事務において、マイナンバーの利用開始に伴う影響を回避し、国民の利便性の向上、行政運営の効率化を図るためにも、独自利用事務としての条例制定は必要と考えます。条例制定にあたっては、対象となる事務を調査の上、以下に該当する場合に、条例制定することが望ましいと考えます。

  • 番号法に規定された事務と同時に申請
  • 番号法に規定された事務で作成した申請書で申請
  • 番号法に規定された事務と同一システム、同一画面で処理
  • 番号法に規定された事務の情報照会で取得した特定個人情報を利用

同一機関内の庁内連携、複数機関間の庁内連携で条例制定を行わないと、
どのような影響があるか?

続いて、庁内連携において条例制定をしなかった場合の影響について説明します。
番号法に規定された事務の中には、現行運用において、同一機関内の番号法に規定された他の事務から、個人情報の提供を受ける事務が存在します。マイナンバーの利用開始以降、この庁内連携は、条例を制定しなければ、マイナンバーと紐付けて個人情報の提供を受けることはできません。
児童手当の所得要件の審査を具体例として取り上げ、庁内連携に係る条例制定をしなかった場合の影響を説明します。なお、児童手当の所得要件の審査が発生する主なタイミングは、新規申請受付時(出生、転入等)、または現況届時(児童手当受給者に対し、年次での適否審査)が想定されますが、ここでは現況届出時を想定して、条例制定をした場合の運用と、条例制定をしなかった場合の運用を比較します。

処理 事務区分 条例制定をした場合の運用 条例制定をしなかった場合の運用
審査 税務システムから所得情報の取得 税務システムから児童福祉システムへの所得情報の連携により、自動取得 システム間連携による所得情報の取得は不可
住民から提出を受ける添付書類 システム間連携にて取得するため不要 住民から現況届受付時に所得を証明する書類(例えば、課税証明書)を取得
職員による審査 システムへの所得情報の一括取込により、自動判定 住民から取得した所得を証明する書類に基づき、1件ごとに登録、審査が必要

条例制定をした場合、児童手当事務を管理している児童福祉システムは、当該住民の所得情報を管理している税務システムとの連携により、所得情報を取得し、マイナンバーをキーにして児童手当情報と紐付けた上で、所得審査を行うことが可能です。一方、条例制定をしなかった場合、マイナンバーをキーにして所得情報と児童手当情報を突合するシステム間連携が不可となります。その結果、住民は所得を証明する書類の提出を求められ、住民自らが必要な証明書を取得するという手間が発生し、国民の利便性の向上には繋がりません。また、児童手当を取り扱う部署は、住民から提出された証明書の情報を1件ごとにシステムへ登録した上で所得審査が必要となり、行政運営の効率化を図ることができません。
なお、上記の例は同一機関内の庁内連携に関する例になりますが、複数機関間の庁内連携については、教育委員会傘下の事務(例えば就学援助等) における所得要件の審査事務等が該当します。

同一機関内の庁内連携、複数機関間の庁内連携での条例制定にあたって、
必要な観点は何か?

番号法に規定された事務において、他事務の特定個人情報を利用する場合には、国民の利便性の向上、行政運営の効率化を図るためにも、庁内連携に係る条例制定は必要です。条例制定にあたっては、番号法に規定された各事務において、同一自治体内の他事務から庁内連携で取得することとなる特定個人情報を整理しておかなければなりません。
なお、ここでいう「特定個人情報の庁内連携」の定義については注意が必要です。マイナンバーを含まない情報の庁内連携であれば、「特定個人情報」にはならないので条例制定は不要なのではと思いがちですが、同一機関内の庁内連携の場合には、必ずしもそうではありません。例えば、連携情報にマイナンバーが含まれていなくても、以下に該当する場合には、条例制定は必要になります。

自治体 市長部局

  1. 税務システムから、マイナンバーではなく、宛名番号(各自治体内で住民を一意に特定する番号)を含めて所得情報を抽出
  2. 児童福祉システム側で宛名番号に基づき個人を特定
  3. マイナンバーを含む児童手当情報に所得情報を紐付け

もちろん、児童手当事務において、マイナンバーを管理しなければ条例制定は不要ですが、児童手当情報が他情報保有機関からの求めに応じ、情報提供ネットワークを介して提供しなければならない情報であること等を踏まえると、マイナンバーを管理しないことは現実的には難しいと考えます。
ちなみに、複数機関間の庁内連携の場合には、連携情報の中にマイナンバーが含まれていなければ、たとえ、連携先で宛名番号に基づきマイナンバーと紐付けられたとしても、条例制定は不要になります。

よって、庁内連携に係る条例制定にあたっては、番号法に規定された各事務で実施する情報連携を調査した上で、以下のいずれかに該当する場合において、条例制定が必要になります。

  • 連携情報の中にマイナンバーが含まれること。
  • 同一機関内の庁内連携において、連携情報の中にマイナンバーがなく、宛名番号が含まれる場合には、連携先で宛名番号に基づきマイナンバーと紐付けられること。

3.どのような条例が必要か?

各自治体は、政府が提示している条例案の雛形に沿った検討が必要

政府は、番号法第9条第2項、第19条第9号に基づく条例制定について、条例案の雛形を明示しており、各自治体はこの雛形に沿って条例制定を進めることが望ましいと考えます。
この雛形では、独自利用事務を条例の別表第一に、同一機関内の庁内連携を条例の別表第二に、複数機関間の庁内連携を条例の別表第三に定めることとしています。それぞれ策定例を示しします。

○別表第一 独自利用事務
機関 事務
1 ○○市長 ○○市子ども医療費助成条例による子ども医療費助成に関する事務であって規則で定めるもの
○別表第二 同一自治体内の同一機関内の庁内連携
機関 事務 特定個人情報
1 ○○市長 ○○市子ども医療費助成条例による子ども医療費助成に関する事務であって規則で定めるもの 地方税関係情報であって規則で定めるもの
○別表第三 他機関間での庁内連携
情報照会者 事務 情報提供者 特定個人情報
○○市
教育委員会
学校保健安全法による医療に要する費用についての援助に関する事務であって規則で定めるもの ○○市長 地方税関係情報であって規則で定めるもの

4.最後に

マイナンバーの利用開始は、2016年1月と迫ってきており、早急な条例制定が必要

2016年1月のマイナンバー利用開始時点において、国民の利便性の向上、行政運営の効率化を図るためにも、各自治体は条例制定が必要になります。条例制定にあたっては、条例案作成、立案請求、議会での審議・成立等の条例制定に係る作業に加え、マイナンバーの利用範囲拡大に伴う特定個人情報保護評価(PIA)、システム改修等も必要であり、マイナンバーの利用開始時期を見据えると、一刻も早く着手しておかなければなりません。

日立コンサルティングには
実績・知見に基づく効率的な推進方法とノウハウがあります

日立コンサルティングでは、他自治体様での条例制定支援の実績を有しています。具体的には、条例制定を必要とする事務の明確化、各業務主管課様への調査、調査結果に基づく精査が可能です。
条例制定について、どのように進めたら良いかわからないという自治体がいらっしゃいましたら、ぜひお問い合わせください。

以上

本コラム執筆コンサルタント

小林 雅貴 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

全国民にマイナンバーを付番し、一意に特定する「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下、「マイナンバー法」とする。)及び関連法が平成25年5月24日に成立しました。
平成27年10月の国民へのマイナンバーの通知、平成28年1月のマイナンバーの利用開始、平成29年1月の国機関での情報連携の開始、平成29年7月の自治体を含めた情報連携の開始といった4つのマイルストーンを見据えて、マイナンバー制度の導入に向けて各関係機関が始動しています。
このコラムでは、最初のマイルストーンとなるマイナンバーの通知や幅広い行政手続きでマイナンバーを利用し、かつ国など複数の機関との情報連携の役割を担う自治体(特に住民サービスの最寄り窓口となる基礎自治体)を対象に、マイナンバー制度導入によりどんな影響があるのか、これから取り組んでいくべき課題は何か、などにつき発信していきます。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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