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自治体業務へのRPA適用に関する検討事例の紹介

小林 雅貴 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

2018年7月5日

自治体の職員数は年々減少傾向にある。さらに、2020年の地方公務員法、地方自治法の改正に伴い、臨時・非常勤職員数の縮減も想定される。一方で自治体の業務量は増加傾向にある。このような状況においても、自治体は公共機関として、引き続き住民サービスの質を維持できるよう、業務効率化施策を検討しておく必要がある。業務効率化施策の検討にあたっては、多くの自治体が抱えている「申請書等の作成が手間」「待ち時間が長い」等、窓口業務を中心にとした住民サービス向上に関する課題についても考慮することが望ましい。
弊社では、ある自治体において、住民基本台帳(以下、住基)に関する窓口業務に対して、Robotic Process Automation (以下、RPA)を適用することで、住民サービス向上を考慮した業務効率化施策を検討している。本コラムでは、その検討の一部を紹介する。

1. RPAとは

RPAとは、認知技術を活用した、主にホワイトカラー業務の効率化への取り組み

生産年齢人口の減少、働き方改革の推進等を背景に、近年、民間企業を中心にRPA導入が進んでいる。
そもそもRPAとは何かというと、以下のように定義される。

RPA(Robotic Process Automation)は、これまで人間のみが対応可能と想定されていた作業、もしくはより高度な作業を人間に代わって実施できるルールエンジンやAI、機械学習等を含む認知技術を活用した業務を代行・代替する取り組み

具体的には、以下のような業務において、自動化が可能である。

# 業務 概要
1 入力業務
  • 大量データをWebシステムへ1件ずつ入力。
2 登録業務
  • ファイルをWebシステムへ定期的にアップロード。
3 情報収集
  • 定期的に業務ファイルをダウンロード。
  • 価格サイトより競合他社の価格を収集。
  • SNSなどで自社の風評を確認。
4 調査
  • Web上で、特定条件で検索した結果を表計算ソフト等に整理。
  • 調査対象項目をWebシステムで確認し、結果を報告。
5 資料作成
  • 各営業店からの日報の取りまとめ。
  • 複数の社内システムから情報を収集し、報告書に整理。

2. 自治体におけるRPA適用検討に関する背景

1994年以降、自治体職員数は減少傾向にあるため、
業務効率化施策の検討は必須

1994年に3,282千人であった自治体職員は、この年をピークに年々減少を続け、2017年4月、前年度比で0.2%増加したものの、2,743千人にまで減少している。一方で自治体の業務量は増加傾向にある。例えば、番号制度導入に伴うマイナンバーカードの発行、管理、交付等の新たな事務の発生、住民の高齢化に伴う高齢者を対象とした住民サービス業務(自治体が保険者となる介護保険業務等)の取り扱い件数の増加、高齢者層における生活保護受給者の急増等が挙げられる。
このように職員数が減少する一方で、業務量は増加している状況においても、公共機関である自治体は、住民サービスの質を低下させることなく、これまでどおり、もしくはそれ以上の水準で業務を遂行することが求められることから、業務効率化施策の検討は必須となっている。

2020年4月1日以降、地方公務員法、地方自治法の改正に伴い、
「臨時・非常勤職員」の雇用について大幅な見直しの可能性がある

2020年の地方公務員法、地方自治法の改正に伴い、自治体が雇用する臨時・非常勤職員についても大幅な縮減、もしくは大幅な人件費増が想定される。
今回の法改正について簡単に説明する。2020年の地方公務員法の改正に伴い、これまで「臨時・非常勤職員」として雇用されていた職員の一部は「会計年度任用職員」となる。この「会計年度任用職員」には、期末手当の支給が必要となることから、自治体としては人件費の増加が想定されるが、この増加する人件費の財源の確保が見込めない場合には、臨時・非常勤職員数の縮減が必要となる。
このため、先ほど自治体の職員数は減少傾向にあると述べたが、2020年には急激に職員数が減少することも想定されるため、2020年に向けた業務効率化施策の検討が急務となっている。

自治体での各種手続に対し、住民は負荷軽減を求めている

自治体のサービス提供先である住民は、自治体に対して各種手続における負荷軽減を求めていると想定される。例えば、総務省が2016年度から実施している業務改革モデルプロジェクト※1の中で実施した、窓口業務に対する住民アンケートの結果を見ると、「待ち時間が長い」「待ち時間の目安が分からない」「申請書の記載方法が分かりにくい」「何度も同じような記載を求められる」「目的の窓口が分かりにくい」等々、住民にとって負荷となる課題の改善へのニーズが挙がっている。
このため、業務効率化施策の検討の際には、自治体は住民サービス向上の観点も考慮する必要がある。

※1
業務改革モデルプロジェクトでは、自治体における、住民サービスに直結する窓口業務や業務効率化に直結する庶務業務等の内部管理業務について、民間企業の協力のもとBPRの手法を活用しながら、ICT化・オープン化・アウトソーシングなど、住民の利便性向上に繋がる業務改革にモデル的に取り組む自治体を総務省が支援することで、汎用性のある改革モデルを構築し、横展開を図ることを目的としている。

3. 住基の窓口業務へのRPA適用検討事例の紹介

弊社では、ある自治体において、住基の窓口業務へのRPA適用による業務効率化、住民サービス向上施策の検討を行っているが、その検討の一部を紹介する。

住基の窓口業務で取り扱う異動事由の中で、
RPA適用による導入効果が大きいのは転入

住基の窓口業務で取り扱う異動事由は、転入、転出、転居、出生、死亡等と多岐にわたる。これらの異動事由の中で転入は、氏名、生年月日、性別、住所の4情報に加え、続柄、マイナンバー等、当該住民に関する情報を一から入力する必要があることから、ほかの異動事由に比べ、システム入力部分を中心に業務量が多くなる。このことから、転入に関するシステム入力処理で、住民が提出する異動届、転出証明書等を活用して自動化を図ることができれば、業務効率化の効果も大きい。そこで、まずは転入の際に必要なシステム入力処理の部分にRPAを適用できないかどうかを重点的に検討した。また、この方法で自動化が実現できれば、転出証明書から読み取り可能な項目は、異動届への記載を住民に求めない等の施策も考えられ、異動届の作成負荷軽減につながる。

なお、この自治体における転入の処理は、以下のような業務フローとなっている。

業務フローの図

転入時における現行の住基への登録処理は、
項目の特性に応じて、異動届、転出証明書のどちらかから実施している

転入時における現行のシステム入力処理の詳細を説明する。転入時のシステム入力の際にトリガーとする情報は、転出時に前住地が発行する転出証明書と、転入先自治体で転入の届け出を行う際に住民が記載する異動届の二つである (外国人の場合には在留カードも含む) 。
転出証明書は、前住地の自治体が住基で管理している情報に基づき発行した帳票であることから、氏名、性別、生年月日、マイナンバー、前住所等に関しては正確である。一方、新住所は前住地の自治体が管理していない情報であることから、住民からの届け出内容に関して詳細に審査できないため、正確とは言いがたい。
また、異動届に記載の新住所も、入力時の参考情報とはなるものの、例えば転入者が「○○町1番2号」とすべきところを「○○町1-2」と記載するケースがあり、必ずしも正しいとは言えない。そのため、現行のシステム入力では、住民が異動届に記載した内容に基づき、改めて自治体職員が実在の住所地名を調査したうえで、住基システムへ登録している。

転入時における住基への登録処理にRPAを適用する場合には、
トリガーとなる帳票、各項目の特性に応じて、
読み取り、登録処理の自動化の検討が必要

転入時のシステム登録処理にRPAを適用する場合には、転出証明書、異動届および各帳票の項目の特性を踏まえ、転出証明書、異動届それぞれから必要な情報をOCRで読み取り、住基システムへの自動登録という方式が想定されるが、考慮事項も多数ある。
例えば、異動届が手書きであることから、読み取り精度が問題となる。
また転出証明書は、そもそも自治体ごとに様式が異なり、例えば項目名も前住所であれば、「前の住所」「旧住所」「これまでの住所」等、さまざまである。さらに氏名、住所等に関しては、外字の問題もある。登録にあたっては、生年月日のように読み取った値(平成元年1月8日)をシステム上で管理する値(19890108)に変換する処理や、住所のように読み取った住所(東京都千代田区麹町二丁目4番地1 麹町大通ビル)を都道府県(東京都)、市区町村(千代田区)、字丁目(麹町二丁目)、番地(4番地1)、方書(麹町大通ビル)といった適切な単位への分割が必要となる場合もある。
こういった考慮事項に対し、想定されるケース、パターンを整理したうえで、RPAでどの程度まで機械的な判断が可能であるか、技術的な検証を行い、その検証結果に基づく業務運用の検討が必要になる。

RPAをシステム入力部分に適用するだけでは効果が限定的であるため、
より多くの効果を算出するためには、業務を全面的に見直す検討が必要

当初の検討では、住基システムの入力部分へのRPA適用の可能性について調査したが、住基を中心とした窓口業務の効率化では、システム入力部分以外の処理に関しても検討を進めることで、より多くの効果が得られる。例えば、各窓口業務での審査において、読み取った情報に対し、形式審査、各業務の関連法上の審査等をRPAが実施できるようになれば、審査事務をより効率化することができる。さらに、今回例示した転入に関する処理であれば、住民は住基窓口だけでなく、国民健康保険、児童手当等、複数窓口での手続を必要とすることがある。このようなケースの場合、現状は各業務の窓口で、その都度、氏名、住所、生年月日等の記載を求められる住民の負荷は大きい。この課題に対して、例えば、最初の受付窓口でシステム登録した氏名等の情報を、ほかの窓口に提出する申請書にもあらかじめプレ印字して提供することができれば、住民の申請書等の作成負荷が軽減できる。

2020年の法改正だけでなく、庁舎移転等のイベントを考慮した
全庁的な業務効率化を見据えた中長期計画が必要

このような全庁を対象とした検討を、庁舎移転等の時期に合わせて進めることで、OCR等の新しい機器の設置スペース確保、職員と住民の動線を意識した窓口のレイアウト変更等といった施策も実現できる可能性が出てくる。そのためには全庁でめざすべき将来像を定義したうえで、2020年の地方公務員法、地方自治法の改正に向けた対応だけでなく、庁舎移転に向けた対応等、各マイルストーンを意識した中長期計画の策定が重要である。

4. 日立コンサルティングでの提供サービス

自治体業務へのRPA適用による業務効率化検討支援や、
地方自治法、地方公務員法改正、庁舎移転等を見据えた
自治体業務の全面的な見直し支援を実施中

弊社には、ある自治体において、将来像を策定したうえで、2020年の法改正だけでなく、その後に予定されている庁舎移転等を踏まえた中長期計画の策定を推進しており、その一環としてRPA適用に閉じない窓口業務の全面的な見直しに向けた検討を実施した実績がある。今後、ほかにも給与支払報告書等のように、特定の時期に大量に発生する帳票の入力事務、通勤手当に代表される各種手当の審査事務等、定型事務についても併せて検討予定である。
自治体業務へのRPA適用による業務効率化の検討、2020年4月の地方公務員法、地方自治法の改正、庁舎移転等を見据えた自治体業務の全面的な見直しや改革を予定している場合は、ぜひ弊社の経験をお役立ていただききたい。

以上

本コラム執筆コンサルタント

小林 雅貴 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

自治体の職員数は年々減少傾向にある。さらに、2020年の地方公務員法、地方自治法の改正に伴い、臨時・非常勤職員数の縮減も想定される。一方で自治体の業務量は増加傾向にある。このような状況においても、自治体は公共機関として、引き続き住民サービスの質を維持できるよう、業務効率化施策を検討しておく必要がある。業務効率化施策の検討にあたっては、多くの自治体が抱えている「申請書等の作成が手間」「待ち時間が長い」等、窓口業務を中心にとした住民サービス向上に関する課題についても考慮することが望ましい。
弊社では、ある自治体において、住民基本台帳(以下、住基)に関する窓口業務に対して、Robotic Process Automation (以下、RPA)を適用することで、住民サービス向上を考慮した業務効率化施策を検討している。本コラムでは、その検討の一部を紹介する。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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