IFRSコラム集

IFRS準備のイロハ
【前編】 IFRS対応、いつから準備するのがベストなのか

本コラムは『IFRSフォーラム』新しくウィンドウを開きます。に寄稿連載しているものです

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IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)が2015〜16年に強制適用と仮定した場合に、企業にとって必要となる準備作業を会計処理、業務プロセス、ITシステムの3つの観点から解説。現実的で効率的なIFRS導入のロードマップ(例)を示す。

本連載では、IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)が2015~16年に強制適用と仮定した場合に、企業にとって必要となる準備作業を会計処理、業務プロセス、ITシステムの3つの観点から解説する。そして、導入初年度にどたばたすることがないように、現実的で効率的なIFRS導入のロードマップ(例)を示す。

IFRS適用に向けた取り組み

金融庁が6月30日に発表したIFRSの取扱いに関する中間報告(リンク)では、わが国の上場企業の連結決算開示へのIFRS適用は2015年から16年にかけて段階適用もしくは、強制適用される予定である(単体決算開示は日本基準のままの見通し)。金融商品取引法の有価証券報告書の開示に際しては、公認会計士による監査報告書の添付が義務付けられているため、IFRSベースでの財務諸表監査は遅くとも2014年から開始される。そのため2013年度の監査においては、担当会計士からIFRS準拠を意識した相当数の監査上の要改善項目の指摘が行われることが想定される。

上記は、IFRS適用初年度(この場合、2015年度[2016年3月期])において必要な開示対象の財務諸表のセットである。財務諸表開示では前年度からの財務ポジションの推移を明示するために、最低2年分の純資産の変動(包括利益計算書)と、キャッシュフローの変動(キャッシュフロー計算書)の報告が必要である。さらに、2年分の財務ポジション推移を開示するために、過去3年分の財政状態計算書の開示が求められる。このことは、強制適用時期と予定される2015年度適用初年度の会社では、IFRS適用の準備年度にあたる2013年度の決算で、日本基準での決算開示に加えて、IFRSでの決算書の作成が必要となることを意味している。IFRSと国内基準で決算内容が大きく異なる会社では、適用に向けた準備作業を早期に開始することが必要になることは想像に難くない。

さらに、IFRSは原則主義を採用している。欧州の事例では財務諸表の注記(フットノート)の分量は、IFRS適用前と比較して、2〜3倍に増大したとの報告も聞かれる。このことは、IFRSでは企業の選択する決算方針の適格性について、これまで以上に客観的な検証と説明が必要となることを意味している。財務諸表監査で担当会計士から求められるであろう会計情報についても、企業が適用した会計方針を適確に説明・論証する必要がある。

そして、何よりも会社自身が適用方針に対して確固たる根拠、理由を明確にしておく必要がある。そのためには、IFRSの会計処理についての知識を社内に蓄積するとともに、2015年度決算開示の本番一発ではなく、前年度の2014年度決算からIFRSベースでの開示資料も並行して準備し、企業自らが、会計情報を積極的に説明できる状態を構築しておく必要がある。また、必要に応じて担当会計士から選択する会計方針に関して意見を求めておく、などの対応が現実的であろう。

それでは、IFRS適用年度以降、経理処理の実務はどのように変化するのであろうか? 比較的多くの国内・海外子会社を有している製造会社を例に考えてみる。

IFRSでは地域を問わず、原則として連結グループ内のすべての会社に適用する会計基準を単一にすることを義務付けている。わが国の会計基準においても、 2008年4月以降開始する連結財務諸表から、在外子会社の会計基準を統一することが求められている。だが、当面の取扱いとしてIFRSまたは米国基準に準拠している子会社については、修正6項目(のれん償却、退職給付、研究開発費、投資不動産、過年度遡及修正、少数株主損益)について、連結決算手続きの中で修正することで現地基準の採用を認めている。

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2つの適用パターン

一般に、海外に現地子会社を多く有する大手・中堅の製造業の多くは、欧州ならびにアジア・パシフィックの拠点についてはIFRS、アメリカの拠点については米国基準に統一する一方で、親会社の期末の連結決算手続きにおいて連結組替仕訳を実施して対応を図ってきた。このような会社では、IFRSの適用もその延長線上での対応が自然であり、当面は日本基準で決算を締めたグループ単体の数字を連結決算においてIFRSベースに組み替えるという運用が想定される【パターンA】。

ただし、パターンAは収益の期間帰属の調整処理や棚卸資産の評価差異の調整、有形固定資産の評価差異の調整などの組替作業が比較的軽微な会社での事例である。近い将来に45日から30日開示を求めている証券取引所の決算早期化の圧力が高まる中では、連結修正仕訳(組替仕訳)が膨大となる会社が採りうる選択肢でない。

すなわち、IFRS適用時の業務へのインパクトが大きい会社においてはやはり月次決算ルールをIFRSベースに変更する、特に本社ならびに国内の子会社の会計基準をIFRSに統一することが最大の解決策となる。この場合、国内の経理マニュアルや処理フォーマットを親会社主導でIFRSベースに統一して、子会社からIFRSベースの決算レポートを入手する運用が想定される。親会社は原則としてIFRSベースの各社の数字を合算することで、連結組替仕訳は最小限度に抑えることができる。【パターンB】。

そのためには、グループ全体の収益認識や固定資産管理のルール、売上債権の評価や減損評価のルールを遅くとも2013年までに運用レベルにまで高めておくことが必要となるし、データを管理するITシステムの整備を終わらせておく必要があろう。特にITシステムの導入・統合には、子会社への展開を考えると(子会社数が多い場合)3年から5年の準備期間が必要になろう。2015年カットオーバーを目標とするならば、2009年から導入準備を開始しても、3年度の事前組み換え作業を考慮すると、決して早すぎるとはいえない。

早期の準備は、経理業務ならびにITシステム運用に関するシェアードサービスセンター化を強力に後押しすることが容易に想像できる。なぜなら、短期間に業務システムを変更完了するには、対応パターンを極小化しておく必要性からである。

そのほか、 IFRS開示様式への対応や開示・注記の詳細ルール設定、各種情報収集体制の整備など、IFRS適用に向けて実施すべきことを考えると2015年アダプションという目標は決して遠い将来の話ではない。すぐにでも準備を始めることがスムーズな適用の条件となることはお分かりいただけたであろうか。

<IFRS導入に向けた課題の一例>

  1. (1)経理方針の設定
    • 経理方針検討、経理規程・マニュアルの変更
    • 経理処理に関する手順書・ワークシートの整備
    • 新開示様式への変更(財政状態計算書、包括利益計算書など)
    • 開示・注記の詳細ルール設定
    • 各種業界団体や担当会計士との経理方針に関する事前調整、など
  2. (2)経営管理方針の設定
    • マネジメントアプローチへの対応、セグメント資産区分管理、BS分割対応
    • グループ中期計画、予算管理と実績管理の整合性確保、など
  3. (3)運用体制の確立
    • 経理要員の育成、グループ決算業務シェアードの検討
    • 開示・注記事項に関する各種情報収集体制の確立
    • 法人税務との関係整理、連結税効果、税務申告の運用体制
    • 国内外のグループ子会社決算への展開、など
  4. (4)システム対応・コード統一
    • 連結決算プロセスの変更、連結決算システムの更改
    • 各種システム対応(個別会計[GL]、販売管理等のフロント系)
    • 勘定科目の統一、各種コードのグループ統一、インターフェース開発
    • キャッシュフロー直接法への対応システム整備、など
  5. (5)内部統制の確立
    • 日本版SOX法対応、内部統制対応、IFRS運用のモニタリングの実施、など

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時間、人員が限られる中での対応は

現在、連結決算を担当している経理部はコストセンターと位置付けられ、人員が絞りに絞られている。2008年以降導入された四半期決算開示制度や内部統制報告制度への対応に追われ、加えて2009〜11年以降に新たに導入される、いわゆる中期コンバージェンス項目としての企業結合会計、セグメント開示、過年度遡及(そきゅう)修正、廃止事業表示といった会計基準への対応のため、息つく暇もないというのが現状であろう。IFRSの知識・ノウハウを新たに習得するための時間は限られている。

さらに、2008年10月からのサブプライム不況によって企業業績が振わない中、IT投資は圧縮され、新規システムの開発には極力無駄を排除する必要に迫られているのも現状であろう。こういった環境の下で、会社はどのような対応を図るべきなのか?第2回ではIFRS導入に向けた第一歩である、IFRSの影響範囲の調査と導入計画の策定について解説する。

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マネージャー 米国公認会計士 河辺 亮二(かわべ りょうじ)

日立製作所ビジネスソリューション事業部を経て、2007年に日立コンサルティングに入社。これまで大手メーカー、金融機関、公共機関などの、経営マネジメントシステムの構築、連結決算対応、内部統制対応などのグループ経営支援に関するプロジェクトを担当し、現在IFRS導入サービスを手掛ける。共著書に「グループ企業のための連結納税システムの構築と運用(中央経済社)」「ITコンサルタントのための会計知識(SRC出版)」などがある。

シニアディレクター 伊藤 雅彦(いとう まさひこ)

会計事務所で税務を担当後、外資系企業の韓国法人と日本法人でCFO(最高財務責任者)を10年間務める。VCF(Value Create Finanace)をコンセプトに決算早期化、シェアードサービス設立、経営情報充実化、会計システム導入などを担当し、現在に至る。


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