IFRSコラム集
※本コラムは『IFRSフォーラム』
に寄稿連載しているものです
限られた時間やリソースの中でIFRS導入を円滑かつ確実に進めるためのキーとなるのが、「IFRS導入の影響度を踏まえたロードマップの策定」だ。その必要要素を説明しよう。
前回述べたように、IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)導入に向けては、単なる会計制度の見直しのみならず、業務、ITシステム、体制、要員育成、文書整備、各種調整等、多岐にわたる検討事項が存在する。また、仮に2015〜2016年にIFRS強制適用とした場合、比較年度の準備を考慮すると、2013年までにはIFRS導入の準備を完了させておくことが望ましく、必ずしも十分な時間があるとは言えないのが実情である。
このように限られた時間やリソースの中で、IFRS導入を円滑かつ確実に進めるためのキーとなるのが、「IFRS導入の影響度を踏まえたロードマップの策定」である。今回は、「ロードマップ」策定の意義や、その内容(要件)、標準的な策定作業手順について論じたい。
IFRS導入は、大きく、「調査・分析」→「適用・構築」→「運用・改善」という3ステップで進めていくことが望ましい。それぞれの概要は以下の通り。
- (1)調査・分析:全体の方向性を定めた上で対応アクションを定義し、それぞれを具体的な計画(実行計画)に落としこむフェイズ
- (2)適用・構築:業務ルール見直し、ITシステム改定、運用体制構築等、IFRS導入の準備を行い、範囲を定めて試行を行うフェイズ
- (3)運用・改善:IFRS対応を実現する新業務・システム・運用体制等をグループ会社へ展開しながら、順次監査法人のレビュー含めたテスト運用・改善
→本番運用を進めていくフェイズ
前回述べたとおり、IFRS導入には様々な準備事項が想定されるため、「適用・構築」フェイズに十分な期間を見込んでおく必要がある。また、計画なく実行に入ると、不要なコストの発生、抜け漏れの発生、あるいはIFRS強制適用の対応不可能な状況に陥るといったことにもなりかねないので、「調査・分析」フェイズでは、自社にとって最適な計画を策定することが重要になる。従って、どのステップも省略すべきではないと考えられる。
IFRS導入完了までのアプローチ(日立コンサルティング資料から作成)
この全体アプローチの中で、「IFRSロードマップ策定」は、「調査・分析」フェイズの初期段階に当たり、全体の方向性を定める。ここで策定したロードマップに基づき、個々の施策を(整合性を維持しながら)具体化し、実行計画を策定することになる。
では、なぜ、IFRS導入の初期段階で「IFRSロードマップ策定」を行うことが望ましいのか、次に述べることにする。
IFRS導入に必要な期間・コストは、業界特性や自社の現状、取り組みに対する考え方などにより、各社で異なってくる。
例えば、既存の仕組みでの対応が困難で基幹システムの大幅な改修が必要となった場合や、グループガバナンスの強化や業務標準化など、IFRS導入を契機として業務品質の向上やコストの削減を狙う場合には、それなりの期間や投資コストが必要とされるだろう。一方、IFRS対応による影響が限定的で、かつ、すでに充分な体制・仕組み・規定等を備えているような企業では、さほど大きな期間・コストを必要としない可能性もあり得る。
従って、IFRS導入は、決められた基準に則ってどの企業も横並びで同じような対応を行えばよいというものではなく、自社の意思に基づいて取り組みを明確化し、推進していくことが重要である。その判断を見誤り、準備に着手してしまうと、コストの増大やメリットの喪失につながりかねない。よって、具体的検討着手の前段階として、自社の実情に即して、IFRS導入の全体感を把握することがポイントとなる。これを実現するのが「IFRSロードマップ」であり、ロードマップ策定を行う意義は以下の通りとなる。
IFRS対応事項の抜け漏れ防止
IFRS導入に係る重複作業や手戻りの発生防止
恒久対応策と暫定対応策の早期見極め→IT投資計画の策定
現在進めている他の取り組みへのインパクトの早期見極め→各取り組みの継続や進め方・スケジュールの判断
早期の全体コスト見通し→取り組み予算の確保
早期の取り組み内容・全体ボリューム見通し→取り組みリソースの確保
取り組みに必要な社外リソースの早期見極め、確保
全体感の共有・可視化による、社内のベクトル合わせ(方向性の一致)
なお、ロードマップ策定は、できる限り早いタイミング、可能であれば2009年度中に取り組んでおくことをお薦めする。前述の通り、準備完了に至るまでにどのくらいの期間・工数・コストを要するのか、早い段階で見極めることが重要であり、そうすることで、時間をかけることでより高いメリットを生み出す選択肢の採用や、経済状況等に応じた柔軟な投資予算・リソース配分、トレーニング・試行・検証等に対する十分な期間の確保、といったことが可能になる。
上記の意義を果たす具体的なアウトプットが「IFRSロードマップ」である。その書式等は各社各様になることが想定されるが、少なくとも以下の要件を事前に備えておくと、その後の作業を円滑かつ確実に進めることができると考えられる。
IFRS制度状況(コンバージェンスやアダプションなどの動き)と整合していること
IFRS導入の自社への影響度を、経営レベル・実務レベル、組織・業務・ITといった様々な観点で把握できていること
自社の方針・意思を踏まえた取り組みテーマの洗い出しができていること
複数の取り組みの関係性が整理されており、前後関係等の整合性が取れていること
自社の方針・意思や現状、制約条件等を踏まえて各取り組みテーマの優先度が明確になっていること
取り組みテーマごとに、必要な対応方法(業務・IT・組織・人材育成……)が明確になっていること
導入前のコストと導入後の運用に係るコストの双方を踏まえた検討がなされていること
個別対応の積み上げでなく、全体感をつかめる内容になっていること
導入後のスムーズな導入・定着化を実現するために必要な準備事項(トレーニング等)や期間も織り込まれていること
リソースや時間の制約等を踏まえた、合理的なタイムラインになっていること
次に、ロードマップ策定の標準的な作業内容・手順は以下の通りとなる。
- (1)会社実態把握(アセスメント)
子会社含めた自社の会計処理や業務プロセス等、必要な項目についての調査を行い、実態を把握する。ここで、時間をかけて細部まで調査することは可能だが、時間をかけた割に必要な情報が少ない、情報が細かくなりすぎて全体感が見えづらくなる、といったことが起こりがちなので、ロードマップ策定のゴールを達成できるレベルでポイントを押さえた調査を行うことが重要。 - (2)差異項目の把握と取組課題の明確化(勘定科目レベル、業務処理レベル)
会社の実態を把握できたら、IFRS対応項目とも照らし合わせながら、会計上のギャップ(差異項目)を把握し、それぞれの差異項目について、どこにギャップ要因があるのかを分析を行う。分析作業の結果認識できたことを、課題としてリスト化する。 - (3)差異項目ごとの対応施策の検討(収益認識、固定資産、連結など)
上記取組課題の明確化を行いながら、把握したそれぞれの差異項目について対応施策を検討する。ここでは、まず一旦考えられる施策を洗い出し、議論の土俵に乗せることが重要。(実現可能性等を考慮し、優先度をつけるのは後のステップ) - (4)対応方針の設定(組織・業務・システム)
対応施策を、組織・業務・システム等の軸で整理し、それぞれの切り口にて対応方針を設定する。ここで1つの方針に決まるものもあれば、複数の対応方法が考えられるもののあり、後者については、無理に1つに決めるのではなく、選択肢として残しておく。また、それぞれの切り口での方針設定において不足する情報があれば、適宜追加調査を行う。 - (5)対応施策の評価実施
上記(4)までで洗い出された各施策に対し、重要度・緊急度・難易度等、自社に適した評価軸を設定し、評価を行う。また、評価にあたって、施策実行の投資対効果算定、リスク要因の洗い出しを実施する。 - (6)対応施策の優先順位付け
評価結果に基づき、各施策の優先順位付けを行い、施策間の関係性整理、作業ステップへの落としこみ、時間軸の設定といった作業を経て、ロードマップとして取りまとめる。
以上のステップで着実に検討を進め、とりまとめを行うことで、各社の実態に即した、実効性のあるロードマップの策定が可能になる。
日立コンサルティングが提供サービスの中で定義している作業ステップ
IFRS導入の取り組みは各社各様であり、自社にとって最適なやり方を選択し、推進していくことが重要になる。そのためには、まず、IFRSで対応すべきことを、自社の状況に当てはめ、いつ、どのような対応を行うかを見極めることがポイントである。早い段階で手順を示すことで、IFRSという黒船来航への不安を払拭し、IFRS導入を計画的・効率的に進めることが可能となる。「IFRS対応ロードマップ」は、この航海図の役割を果たし、IFRS導入の第一歩として重要な意味合いを持つといえる。
![]()
大手コンサルティングファーム、通信系ベンチャー会社などを経て、2006年に日立コンサルティングに入社。製造業、建設業、不動産業の大手に対して、業務改革、会計システム再構築、事業再生などを手がける。
![]()
会計事務所で税務を担当後、外資系企業の韓国法人と日本法人でCFO(最高財務責任者)を10年間務める。VCF(Value Create Finanace)をコンセプトに決算早期化、シェアードサービス設立、経営情報充実化、会計システム導入などを担当し、現在に至る。
