IFRSコラム集
※本コラムは『IFRSフォーラム』
に寄稿連載しているものです
IFRS時代の内部統制システムを確立するに当たって、具体的な業務プロセスレベルでの統制活動の方向性について検討を行う。さらに、IFRSとグループガバナンスとの関係についても論じたい。
本稿では、IFRS時代に内部統制システムを確立するに当たって、特に具体的に業務プロセスレベルでIFRSの各基準に対応するための統制活動の方向性について検討を行う。さらに、IFRSとグループガバナンスとの関係について論じてみたい。
IFRSでは、物品の販売からの収益認識に対して、以下のようなこれまでのわが国の会計基準では明示されていない厳しい要件を求めている。
| 要件 | 物品の販売 | 役務の提供 | 企業資産の 第三者による利用 |
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|---|---|---|---|---|
| 1 | 物品の所有に伴う重要なリスクと経済価値が移転していること | ○ | ||
| 2 | 重要な継続的関与がないこと | ○ | ||
| 3 | 収益の額を信頼性を持って測定できること | ○ | ○ | ○ |
| 4 | 経済的便益の流入の可能性が高いこと | ○ | ○ | ○ |
| 5 | 原価の額を信頼性を持って測定できること | ○ | ○ | |
| 6 | 決算日現在の進捗度を信頼性を持って測定できること | ○ | ||
| 日本公認会計士協会「我が国の収益認識に関する研究報告」(中間報告) | ||||
本基準によれば、物品販売においては、所有に伴うリスクと経済価値の買い手への移転をもって初めて収益の認識が認められることになる。そのため、実質的な権利の移転が終了していない段階での売上計上、出荷基準による販売、買い戻し条件付販売などにおいては、売上金額の調整が必要となることが想定される。
さらに、据付工事等とセットで1つの販売契約となっている物品販売のケースにおいては、取引の単位を個別に識別可能な構成要素へ分解して、おのおの収益認識を行う必要があり、経理上の分割処理が必要となる。
これら、収益の認識と測定に係る経理処理の基礎となる取引事実は、契約内容の管理を含めて、経理課ではなく販売管理部門によって個別に判断が行われていることが多い。そのため、本基準は実ビジネスを推進する現業部門に大きな影響を与えるといわれている。
前稿で論じたとおり、企業の内部統制は会社の経理処理等のルールと併せた整備・運用が求められる。収益の認識と測定に係る誤りや不正を防止するための内部統制として求められる機能は、売上計上の正確性(実在性、網羅性、権利・義務、期間帰属)を担保する仕組みの確立である。より具体的なIFRS要件としては、未検収案件の事前チェックもしくは事後確認の仕組みの確立や、複合取引に係る契約内容と経理処理との整合性を確認する手続きの確立が求められる。
| IAS18号 収益認識の要件 | 必要となる内部統制 |
|---|---|
| リスクと経済価値の移転に基づく収益認識の実施(出荷基準の廃止と納入・検収基準への移行など) |
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IAS18号の役務の提供、ならびにIAS11号の工事契約に関する基準は、収益、原価、進捗(しんちょく)度についての「信頼性を持った測定」を収益認識の要件としている。わが国の会計基準においても、いわゆるソフトウェア取引の会計基準、ならびに工事契約の会計基準において導入されている考え方である。IFRSでは、この考え方を広く一般の役務提供についても適用が求められているのが特徴的である。
これらを担保する内部統制としては、サービス提供の現場における、工事管理やプロジェクト管理における進捗確認の手続きの確立と事前・事後チェックの仕組みなどが想定される。プロジェクトの損益管理、原価の把握に関する内部管理の確立が不十分な企業においては、工事進行基準による売上計上は認められず、原価回収基準(収益を回収可能な原価まで測定する方式)の適用を求められるため、内部統制の強弱が収支計算に直結する領域であるともいえる。
また、収益は役務提供の進捗度に応じて認識されるため、作業内容が複数からなる複合契約を締結している場合には、各サービス単位で公正な価格を設定しておく必要があり、内部統制上は、作業進捗の客観性と合理性を担保する仕組みの確立が求められる。
| IAS18号 収益認識の要件 | 必要となる内部統制 |
|---|---|
| 収益を報告期末の取り引きの進捗度に応じて認識する(いわゆる工事進行基準) |
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IFRSの棚卸資産の測定では、原価(コスト)と正味実現可能価額(NRV:Net Realizable Value:予想売価から販売にかかる費用を控除した金額)のいずれか低い額によって開示を求める、いわゆる「低価法」を強制している。また、低価法による評価減について市場価値が回復した場合には、戻入れ(評価益の計上)が強制される。さらに、わが国の小売業等の原価の測定で幅広く用いられている簡便法(標準原価法や売価還元法など)については、適用結果が実際原価と近似する場合のみ適用を認める、などといった点で異なっている。
つまり、棚卸資産の原価管理が脆弱な会社もしくは事業所は、コスト管理に係る内部統制を強化する必要があり、期中において棚卸資産の公正価値の変動を、適切にモニタリングする仕組みの構築が求められる。具体的には、標準原価を採用している場合、毎四半期での実際原価との乖離(かいり)状況のチェックに加え、企業が保有する在庫の陳腐化状況について、低価法による評価損の発生する兆候をチェックする手続きの確立が必要となる。また、グループ内で運用に偏りが生じないよう、方法や判定基準などをマニュアル化し、グループ内で共通ルールの定着を図るという視点も、内部統制上必要となる。
| IAS2号 棚卸資産の要件 | 必要となる内部統制 |
|---|---|
| 原価と正味実現可能価額(NPV)の比較を使った低価法による評価減のチェック 標準原価用や売価還元法の適用の条件(実際原価との近似)の確認 |
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有形固定資産の認識と測定における、IFRSと日本基準との大きな差異は、IFRSの資産・負債アプローチによる価値の測定と、日本基準の損益アプローチによる(可処分)所得の測定の違いにある。資産の取得原価の構成要素や減価償却や減損処理に関しても、その考え方の違いが明確に反映されており、IFRS では有形固定資産の帳簿価額の測定を可能な限り経済的な実質(公正な市場価格)に適合させるためのルール化が図られている。
具体的には、取得原価の構成に関しては、将来の資産除去債務の固定資産への計上や購入に係る借入れコストの資産計上、減価償却に関しては、経済的耐用年数による償却の強制、減損に関しては、戻し入れ処理による公正価値への近似化などが定められている。
日本基準の固定資産管理は、税法との関係から償却費の計算、税務上の損金算入額などが緻密に計算されており、損益計算という目的で緻密に管理はされている。一方で、資産価値の変動の認識という視点では、相当大雑把な測定がなされている(帳簿価額で据え置かれている)というケースが散見される。減価償却費の計算も、経済的な便益の消費パターンを反映した償却によらない状況が一般的であり、IFRSでは差異が著しいものについて、連結決算において調整処理が求められる可能性が高い。
| IAS16号 有形固定資産の要件 |
対応の方向性 | |
|---|---|---|
| 1 | 資産の原価情報の構成管理 |
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| 2 | 減損処理 |
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| 3 | 資産除去債務の資産計上 |
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| 4 | 固定資産減価の償却 |
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固定資産の管理に係る内部統制の柱は、「認識」においては固定資産の構成管理と取得原価情報との対応の明確化、「測定」においては公正価値の評価プロセスの妥当性のチェックにあるだろう。固定資産の保有数が膨大な設備装置産業においては、資産の購入、建設・工事管理から、固定資産管理まで一連のプロセスの中で、原価の構成状況を適切に把握する仕組みの構築と運用監視に関する内部統制が求められる。また、減価償却費の計算においては、国内(税務)基準、 IFRSと目的に応じた残高・履歴管理の仕組みが求められる。また、固定資産の財産価値の変動(陳腐化)が激しい業界においては、経済的耐用年数の見積もりは、原則として毎期見直しを行う必要があり、また減損評価のプロセスを確立するとともに、手続きはマニュアル化してグループにて共有することが、内部統制の要件として挙げられる。
| IAS16号 固定資産の要件 | 必要となる内部統制 |
|---|---|
| 固定資産の構成管理と取得原価情報の対応の明確化 国内(税務)基準、IFRSと目的に応じた残高・履歴管理の仕組み |
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IFRSでは、営業債権の評価はIAS39号(金融商品の認識と測定)に従い、償却原価法による認識が行われる。さらに、債権の評価に関して、わが国の基準では、企業の保有する営業(売上)債権を一般債権、貸倒懸念債権、破産更生債権等の3区分に分類し、債権の貸倒見積高を算定して貸倒引当金を計上するのが一般的である。しかし、IFRSでは「将来発生する期待損失」についてはIAS37号における引当金としては認識されないため、一律に見積もり、将来キャッシュフローの割引現在価値に基づく減損の対象として、IAS39号の金融商品会計に準じた取扱いとなる。従って、よほど妥当な理由がない限り、通常わが国において一般債権に対して税務上認められている、過去の貸倒れ実績率に基づく貸倒引当金の計上は認められなくなる可能性が高いといわれる。
営業債権の減損に関する内部統制としては、債権管理部門において取引先ごとに適切に将来割引キャッシュフローを見積るプロセス(DCF法)を確立することが要件となる。特に、貸倒れ懸念債権に関しては、債務者の支払能力を総合的に判断するため、担保及び保証による債権のカバー状況を加味したうえで、可能な限り客観的な資料を入手して、評価時点における回収可能額の最善の見積もりを行うための合理的な基礎(より客観的な証拠、エビデンス)を入手することが必要となる。決算報告の前提としての営業債権の減損の内部統制は、与信管理という意味においても企業のリスクマネジメントに直結する領域となる。
| IAS39号 営業債権の要件 | 必要となる内部統制 |
|---|---|
| 営業債権の評価(減損)プロセスの確立(過去の貸倒れ実績率による貸倒れ引当額計上の廃止) |
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IFRSでは、より一層のグループ管理の一体性が求められる。連結開示の手続き的には、個別財務諸表の合算、投資と資本の消去、内部取引の消去、債権債務の消去、未実現利益の消去、子会社損益の按分等、これまでと同じであるものの、消去する金額や少数株主持分の取り扱い等において、IFRS特有の処理が必要となる。さらにIFRSでは、グループ内の会社で適用されている会計方針は統一されていることが原則となる。IFRSでは強制されてはいないものの、連結決算調整処理を最小化するうえで、子会社の決算日の統一は望まれる。
子会社の財政状態の変動を適確にモニタリングするために、これまで以上にグループ各社の事業の業績や財産の状況について、確認手続きを強化する必要がある。一方、その推進においては、相当のコスト増大が想定される。コストメリットを訴求した結果、業務の集約化、すなわちグループ決算処理のシェアード化、経理組織の集約などが検討テーマの候補として挙げられる。
さらに、グループ内に海外子企業を多く抱える企業においては、現地でのオペレーションと財産の状況の早期把握に関連して、各国での企業文化や法律の違いなどがグループガバナンスの制約条件となることが多い。形式的なルールに縛られた内部統制の評価に終始せず、より現実的な人材の補強や親会社の関与の強化などの施策を実行することが、リスク低減の観点から重要となる。
また、前稿では、投資資産の価値の変動は、グループ全体としてのセグメントごとの事業の評価と連動させる必要があると述べた。先に論じた個別の財産の認識と測定に加えて、連結グループとしての資産評価の視点も必要になる(全社資産の減損テストやのれんの減損テストとも関連する)。このことは、IFRS時代のリスク管理の観点からも重要であり、グループ全体としての純資産の変動をモニタリングし、リスクへ対応することで、全社的なリスクの低減を図ることを可能にする。
| IAS27号 連結財務諸表要件 | 必要となる内部統制 |
|---|---|
| 連結グループ内の会計処理基準・ルールの統一 子会社決算情報の品質向上 マネジメントアプローチによるセグメント開示への対応 |
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「IFRSは財務報告基準であるがゆえ、開示内容が適切であれば決算プロセスのあり方は問わないはずだ。従って、連結経営管理と連結決算作業は、全く別物として切り離して考えるのが正しい」という意見も存在する。しかし、前述したリスク管理の観点からIFRSを捉えた場合、このような考え方が適切でないことは言うまでもない。
国際的な開示ルールであるIFRSは、決して企業の経営情報収集に関する内部オペレーションの方式を規定しているのではない。企業全体のリスクを統合的に管理しつつ、グループの戦略的な目標を達成し、企業価値の最大化を求めるという取り組みを、会社資産や負債、ビジネスの評価に関する経営者の考え方を通じて、財務諸表の中で適切に開示することを求めているのだ。注記(Foot Note)による説明のボリュームの増大は、その表れであり、企業の考え方によって大きな差が生じることだろう。
前述の通り、IFRSによる情報開示は、会社資産や負債、ビジネスの評価プロセスに係る、適切な内部統制システムによって支えられる。さらにIFRSによる情報開示を適切に行うためには、統制環境としてIFRSベースでの経営管理(中期経営計画や予算管理)の確立や、情報システムを含む「グループガバナンス」の強化が必須となる。
これまでIFRSの各基準への対応の中で述べてきた(1)連結ベースでの規程・マニュアルの整備、(2)決算業務のシェアード化、組織の集約などは、認識・測定プロセスの品質向上という意味で有効だろう。経営管理の側面からは(3)連結ベースでの事業計画・予算実績管理が望まれる。また、システム的な側面からは(4)勘定科目体系の整理や業務コードの統一、(5)ERPを活用した共通システムのグループ展開、(6)ITインフラのグループ共通化・一元化などが、経営情報の精度の向上とリスク管理の高度化に寄与するであろう。

一方で、これらのグループガバナンスの確立には、相当の年月と投資が必要となることが予想される。中長期的な視点からマイルストーンを整備し、IFRSの制度導入と整合を取りながら統制環境を確立する。この取り組みが、同時にグループ・リスクマネジメントを実現するための基盤確立へとつながるだろう。
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日立製作所ビジネスソリューション事業部を経て、2007年に日立コンサルティングに入社。これまで大手メーカー、金融機関、公共機関などの、経営マネジメントシステムの構築、連結決算対応、内部統制対応などのグループ経営支援に関するプロジェクトを担当し、現在IFRS導入サービスを手掛ける。共著書に「グループ企業のための連結納税システムの構築と運用(中央経済社)」「ITコンサルタントのための会計知識(SRC出版)」などがある。
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会計事務所で税務を担当後、外資系企業の韓国法人と日本法人でCFO(最高財務責任者)を10年間務める。VCF(Value Create Finanace)をコンセプトに決算早期化、シェアードサービス設立、経営情報充実化、会計システム導入などを担当し、現在に至る。