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「Innovate America: Thriving in a World of Challenges and Change」という名前を聞いたことがあるだろうか。通称パルミサーノ・レポートと呼ばれている報告書である。これは米国の産業、学会、政府を代表するリーダー達によって構成された競争力協議会(Council on Competitiveness)が2004年12月に発表した報告書である。このレポートでは、コスト・質といった要素だけではなく、イノベーションが競争力の源泉になると結論つけているが、今回はWeb2.0などの新しいインターネットの応用とオープン・イノベーションについて考察してみよう。
ある民間のシンクタンクが毎年経営者層に自社の経営課題のアンケート調査を行っている。その調査で、ここ数年上位を占めている課題に、収益性向上、売上げシェア拡大、新製品・新サービス・新事業の立案といった項目があがっている。これらの課題をもう少し掘り下げてみると、人件費の圧縮や合理化・省力化投資、物流拠点の統廃合といったコスト抑制策が進む中、売上げを伸ばすための新しい商品の開発や、ブランド力の強化といった取り組みが見えてくる。
ところが、新商品やサービスを生み出すための、組織横断的な活動や事業化、それを推進していくリーダーの育成、ニーズを先取りして高い付加価値を商品(サービス)に付加していく活動に障壁を感じている経営者が多い。これら表面に現れている課題をよく見つめてみると、そのジレンマの根幹には、いかにしてイノベーションを起こし画期的な商品やサービスを実現するか、という点に集約されると想定できる。
イノベーションを「社会的意義のある新しい価値を創造するプロセス」と定義するのであれば、ほとんどの企業は、このプロセスを強化することに課題を感じていると言えるだろう。
イノベーションというキーワードが一般的でなかった古い時代では、企業における商品開発は「研究・開発」「製造」「販売」といったリニアな連鎖活動として行われてきた。すなわち、自社のもつシーズ(技術力)を主として商品開発を行えばことが足りた時代である。これを仮にイノベーションの第1世代と考えれば、そこには本格的なマーケティングの概念はなく、消費者からの技術要求も明確であった時代である。70年代あたりの白モノ家電などが該当するであろうか。80年代中頃から消費者からの要求は複雑となり、次の第2世代では、商品開発は本格的なマーケティング手法を活用した時代に突入する。すなわち顧客のトレンドや潜在ニーズを分析すれば商品に求められるスペックがある程度読めると考えた時代だ。このような背景からコンパクト洗剤や、ミニバン(SUV)といった新しいジャンルの製品が次々と世の中に出てきた。
ところが、90年代後半からは、複雑なマーケティング手法を使っても商品がヒットしない時代になってきた(第3世代)。もちろんマーケティングに基づいた商品開発を否定するわけではないが、困ったことに一部の商品では顧客や市場を分析してもニーズがはっきりとつかめなくなってきている。ペットボトルの清涼飲料などは、年間に数千のプロトタイプを開発し、秋と春に数百の新製品が市場に投入される。ところが、翌年に生き残っているブランドは数%といった状況である。市場を解析するために、企業は心理的ベネフィットに基づくセグメント分析など高度なマーケティング手法を駆使する一方で、市場実験で初めて本当のニーズが判明すると割り切って開発を行う企業も出てきた。
すなわち、いち早くマーケットに出して反応を見る。その上で適宜修正していく商品開発である。携帯電話などはその代表であろう。もはや商品開発におけるイノベーションは市場実験による仮説検証モデルといった様相を示している。
さて、冒頭に紹介したパルミサーノ・レポートの中で、注目した点が3つある。一つ目はイノベーションの生態系について記述されている部分である。すなわち、イノベーションが起こるメカニズムは、上流から下流といった線形的な活動ではなく、さまざまな社会構成要素が相互に働いて起きるという点である。企業における活動は基礎研究、応用研究、開発、事業化、市場投入という線形的な活動で表すことができるが、実はイノベーションが起きる過程には数多くのフィードバック回路が存在し、かつ知的活動の連鎖がある事から、線形ではなく生態系のような活動であるという事である。二つ目は、イノベーションを活性化するためには知的財産は保護だけではなく、それと同時に外部に公開される事が重要であり、国家戦略として推進していくべきだという点。三つ目に、イノベーションの新しい形態として8つのケースを紹介しているが、その中の一つである、ユーザーと生産者側の両方に基盤をおいたイノベーションの実現という点である。これは企業といった提供側だけの活動ではなく、提供側とユーザーを含めた協業によるイノベーション活動を指す。
さて、上記の3つの視点をまとめると、企業側およびユーザー双方に分散されている知的財産を、あたかも生態系のネットワークのように扱い、これらをつなぎ合せてイノベーションを実現していくメカニズムが見えてくる。ゆえに、仮説検証型モデルである第3世代イノベーションの発展系として「コラボレーティブ・イノベーション」または「オープン・イノベーション」といった第4世代のモデルが想定できる。このモデルは、さまざまなネットワーク・インフラを利用して、社外からのアイデアをベースとしたイノベーション要素を融合し、商品化していくことが特徴である。これは従来の社内を起点としたR&D的な活動とは大きく異なるアプローチと言える。イノベーションの出発点として市場の考察と発見をベースとし、蓄積された多数の社内外の知識を活用することと同時に、これらアイデアを膨らませ更新していくことがイノベーティブな開発のポイントとなる。よって研究は既存の知識では解決できない点に絞ることが可能となる。
このような次世代のイノベーションモデルでは、ユーザーと企業側がインタラクティブに協業して新商品を開発していく。ユーザーはニーズを積極的に提示し、ユーザー自身が製品化のプロセスに参画する、加えてその体験そのものにユーザーが付加価値を見出すといったメカニズムが想定できる。実際に映像コンテンツなどの領域で、このような試みが既に始まっている。先に公開された「どろろ」という日本映画では、試写会を通じて『登場する妖怪の姿に手を加えたほうがリアリティが増す』、といったユーザー側の意見を取り込んだ上で作品を修正していくといった映画作りが行われた。
なぜそのようなコラボレーティブ・イノベーションが可能かという疑問に対する答えは、Web2.0という新しいインターネットの利用方法が活発になってきたことで説明できる。Web2.0というのは、特定のソフトウェアを指すのではなく、新しいインターネットのありかたそのものを指す総称である。Webが登場したネットバブルを1.0とするならば、ブログといったサービスに代表される使い方は第2世代という意味で2.0なわけである。
1.0時代は個人でホームページを立ち上げるには、HTMLといったプログラム言語をマスターし、ページのデザインなど、多少の専門知識が要求された。ブログはこのような専門知識がなくても、日記風に個人でサイトを開設することが容易になったわけだ。これによって、不特定多数のユーザーとインタラクティブに会話ができ、情報交換を行うといった新しいコミュニケーションの形が爆発的に広がった。
このWeb2.0の台頭により、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、CGM(コンシューマー・ジェネレーティッド・メディア)、コミュニティ型Webサイト、ビジネスブログといったさまざまなインターネット上のユーザーコミュニティが広がっているが、このコミュニティを商品開発に取り込む企業が出てきた。
例えば、シカゴに本社を置く、あるT-シャツのメーカーは、自社のWeb上でユーザーによるT−シャツのデザイン登録を受け付ける仕組みを設けており、それを見たユーザー同士が、自分が気に入ったデザインに投票を行う。人気の高い商品は実際に商品化される、という顧客参画型のマーケティング・ビジネスを展開している。これは、市場の受動的な分析だけではなく、能動的な市場の創造、顧客とのコミュニティの生成にまで至っており、Webの新技術を活用した一つの成功例である。他に国内では「@コスメ」がネット上のコミュニティを通じて化粧品に対するユーザーからの情報収集を商品企画に役立てるなど、いくつかの試みが既にスタートしている。ただし、ネット上の仮想空間では課題の設定があいまいになりがちであり、ユーザーの能力も玉石混合であるため、コミュニティに課題解決を委ねることはできない。よってこのような商品企画は、ユーザーからの情報収集手段として使われることが現状である。
より商品化へ向けた例としては、P&G(プロクター・アンド・ギャンブル社)のConnect & Development戦略があげられる(R&DからC&D)。P&Gは課題解決の手段としてユーザーではなく、社外の研究者にビジネス・アイデアを広く集めるオープン施策をとっており、インターネットを通じたネットワークの利点をフルに活用している。商品の開発に関わる社外のアイデアを50%程度まで引き上げることを目標に活動をしており、実際にプリングルスというポテトチップに一枚ごとに絵柄が異なるキャラクターを載せ、爆発的ヒット商品を生み出すことに成功した。
シュンペーターは、イノベーションとは企業家の行う生産手段の新結合により、常に新しい物を創造する変異の過程であると解説した。私は、発明=イノベーションではないと考える。むしろ企業家(イノベーター)+発明がイノベーションであると思う。経営者は発明家ではなく、イノベーターである。その役割は、目指すべきビジョンやコンセプトを立案し、発明が起きる仕組みを組織にプロセスとして構築することにある。そのプロセスに、今回紹介したコラボレーティブ・イノベーションを組み込んでみたらどうだろうか。経営課題のジレンマが一つ解決するかもしれない。

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1965年静岡生まれ。
大学卒業後、イーストマン・コダック社に入社。
その後、米国にて大学院に進みMBAを取得。
1992年、KPMG Peat Marwick監査法人ニューヨーク事務所に入社。
監査・税務業務・経営コンサルティングに従事。
1997年、同社日本事務所開設にあたり帰国。
大手ハンバーガーチェーン経営戦略本部を経て、現在日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。
趣味は外洋ヨットレース。プライベートな時間は駿河湾にて外洋ヨットのクルーを楽しむ。
第三回:
第二回:
第一回:
コラボレーティブイノベーションのすすめ