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第五回:
BI(Business Intelligence)
BIを用いた成功する業績管理の導入ポイントを詳らかにする。

サブプライム問題をきっかけに米国経済の失速が懸念されている。前回のこのコーナーでは米国企業の「攻めのIT投資」について触れたが、景気という経営パラメータが減速を示唆する環境において、依然として米国企業が関心を寄せている戦略的なIT投資のひとつにBI(Business Intelligence)がある。日本でもこのBIの重要性が認知され始めたが、日本企業がBIを本格的に導入するには、大きな課題がある。今回BIというキーワードを使って経営指標を用いた業績管理を考察してみよう。

Business Intelligenceとは

人工知能(AI=Artificial Intelligence)は聞いたことがあるだろうが、BI(Business Intelligence)は初めて聞くキーワードの方も多いかもしれない。Intelligenceというと「知能」以外に「諜報」という意味合いがあるが、BIは軍事用語ではない。筆者は、「顧客や市場の動向、業務効率など業績に影響を及ぼす経営指標を定義し、これら経営指標を使って戦略目標の管理を行うマネジメントスタイルの総称」を指すと考える。今までITベンダー等が「経営の見える化」といった表現と共に、このような経営管理のスタイルをEPM (Enterprise Project Management)(※1)やCPM(Corporate Performance Management)(※2)と呼称したり、経営情報を可視化するツールのことを紹介している。Intelligenceというワードが使われているのは諜報活動ではないものの、競争に勝ち残ることを目的とした情報収集活動という点では、的を射た表現であると思う。冒頭に米国企業がBIに対する投資を積極的に行っていると紹介したが、各社に共通するBI導入の目的は、膨大な企業情報データを戦略的経営ツールとして活用し、結果として競争力を高める点にねらいを定めている。

※1 EPM/企業内のプロジェクトの集合体をマネジメントし、全社レベルで最適化を図る手法
※2 CPM/企業内のデータを統合し、リアルタイムに監視して企業全体の業績向上を図る手法

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KPI経営の例

経営指標には財務数値と非財務諸表があるが、非財務諸表はKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)と呼ばれる。財務諸表は月次単位で集計されるが、経営者や管理職が日々直面する課題に対して、社内・社外の情報を収集および分析し、かつ最も的確な判断をくだすためには、月次単位の財務数値は使いにくい場合がある。例えば、ある一つの製造ラインにおける一日の目標製造数の達成度など、業務のオペレーション活動を表す数値は、そのままでは損益計算書の値にならない。このようなオペレーション活動を表す指標、すなわちKPIは「先行指標」と呼ばれ、財務諸表の数値は「遅行指標」と呼ばれる。さて、これら「先行指標」と「遅行指標」の間には一定の相関関係が存在する。小売店における、「客数」×「客単価」(先行指標)=「売上」(遅行指標)、といった方程式のような相関関係をもつ指標と、ブランド好感度(先行指標)と売上(遅行指標)など、近似式でしか表現できないような相関関係もある。実は、自社のビジネスの先行指標と遅行指標の関係を正しく定義することと、オペレーション活動の評価を最も正しく表現するKPIを定義することが、BIを使いこなす上で最初に考慮しなければならないポイントである。

非常に簡素化したモデルであるが、居酒屋(小売業)をケースにとって考えてみると、前述のように、売上は「来店客数」と「伝票単価(客単価)」に分解できる。来店客数は、さらに「席の稼働率」に、「席の稼働率」は「予約率」と「回転率」に分類できる。一方で「伝票単価」は「同伴者数」と「メニュー単価」といった指標に分解できる。売上は客数と伝票単価の掛け算だから、売上増を客数の増加に的を絞った戦略として展開する場合、仮に事業の特性から客数は予約率との因果関係が最も強いことがわかっていれば、予約率のKPIを重点的に管理することにより、月次のP/Lに頼らずにタイムリーな業績把握が可能となる。

筆者が属しているようなコンサルティング会社では、利益の源泉であり、また商品そのものは「人」、すなわちコンサルタントである。したがって業績の管理ポイントは人的リソースが主な対象となる。しかし個人単位の損益計算書を作るとしたら膨大なプロセスが必要となり非効率である。よって非財務のKPIを使った管理がコンサルティング会社では一般に使われる。通常コンサルタントは時間当たりの報酬額テーブルがある。これは直接人件費に原価倍率といわれる係数をかけて決定される。例えば年俸800万円のコンサルタントの時間当たりの人件費は、年間稼働時間を2000時間とすれば4000円(800万÷2000時間)となり、原価倍率を5とすれば、時間当たりの定価は2万円(4000円×5)となる。しかし、実際にクライアントとの契約が成立する際には、定価ではなく値引きが伴う。この掛け率をコンサルティング業界では実現化率(Realization)と呼ばれ、最も主要なKPIの一つである。定価の決定に原価倍率を使うのは、間接費やコンサルタントが顧客との仕事に従事していない時間(非稼働時間)を考慮するためであるが、コンサルタントが顧客との仕事に従事し報酬の算定根拠になっている時間を稼働率(Utilization)と呼ばれ、もう一つの重要なKPIとなっている。例えば、一週間40時間の稼働可能時間のうち、クライアントの仕事に従事した時間が32時間であれば稼働率は80%となる。ここまで述べれば、読者はお気づきだと思うが、実現化率と稼働率(共に先行指標)の乗算が売上(遅行指標)となるため、コンサルティング会社では、この2つの主要KPIを個人単位、週単位など非常に細かいメッシュで KPI管理を行っている。

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体系化と予測モデル

ここまでコンサルティング会社を例にとって提示したが、当然ながら業種によって固有のKPIがあり、また各企業ごとにユニークなKPIが存在する。またデータ分析に積極的な企業は、いろんなITを駆使し、多くのデータを手に入れることに成功した。しかし多くのケースでは、企業内に膨大なデータが氾濫することになる。顧客を知るために得たはずのデータなのに、まったく顧客動向がつかめないといった声をよく聞く。なぜこのような事態になったのか、それは各データの属性と業績への因果関係をモデル化しなかったことに起因する。BIに取り組むにあたって、これら一連のKPIの相関関係を体系化することは必須である。通常この体系化を行うテクニックとしてバランススコアカードが用いられる。遅行指標である「財務の視点」を頂点として、遅行指標である「顧客価値の視点」「業務プロセスの視点」「学習の視点」の順番にKPIがツリー構造をもつように体系化するのが理想である。バランススコアカードの書籍は多々あるが、この体系化の仕方や具体例を記載した書籍はほとんどない。それはこの体系化の部分が各企業のノウハウであり、門外不出の企業秘密であるからだ。

一方で、「製品の好感度」と「売上」といったKPIは方程式のように体系化できない。このような指標どうしの関連付けは近似式を設けて因果関係の強さを見る手法が用いられる。近似する手法としてはベイジアンネットワーク(※3)などが有効である。さて、バランススコアカードはある時点を観察するスナップショットのスコアであるが、アクションプランにまで落とし込むには時間軸を考慮する必要がある。筆者はこれを「時系列バランススコアカード」と呼んでいるが、過去のデータの分析だけではなく、指標の動きと業績の因果関係を予測するモデルを作るための手法である。KPIを用いた業績管理をマネジメントプロセスとして業務に組み込むには、指標が想定外の動きをした場合のマネジメントプランをあらかじめ決めておくことが必要となる。このように指標をベースにした業務管理が自律的に作用するよう、組織全体のリテラシーを高めることがBIの導入によって成果を勝ち取るための秘訣である。

※3 ベイジアンネットワーク/複数の事象の確率的な因果関係をモデル化する手法

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BIリテラシー

米国の企業がBIを実現するITツールの導入に積極的な背景は、もともとKPIを使ったマネジメントスタイルに慣れているからである。そもそも数万件といったすべてのデータを経営者が直接見てハンドリングするのは非現実的である。全社員が必要な情報を見ることができ、そこから日常の業務に必要な答えを見つけ、オペレーションに結びつけるスタイルは、米国企業のホワイトカラーには馴染みやすい。日本企業では、現場が自由にBIツールを活用して、必要な情報を効率よく入手し、業務に活用する、情報リテラシーを高めないままBIの運用を開始しても成果を得るのは難しいだろう。

筆者はBusiness Intelligenceを導入することは、人体にたとえると副交感神経を導入することだと考えている。人は火傷をしそうな時に反射的に手を引っ込めたり、暑くなれば汗をかいたり、全てを大脳からの指令ではなく動く神経系統がある。企業も同じで、交感神経のように大脳、すなわち経営者からの指令だけで動くことは不可能である。外部からの刺激、すなわち市場の変化を敏感に感じ、管理者や現場があたかも副交感神経のように動的に業務オペレーションを反応できるようになれば、経営のスピードは劇的に向上する。BIの導入は、まずKPIの体系化とマネジメントモデルを定義することから始めるべきである。同時に KPIの変化に効果的に対応できるマネジメントスキルを組織内に構築することがBIを成功させる最大のポイントである。これをBIリテラシーと呼ぶのであれば、BI導入の秘訣はまさにそこにある。

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株式会社 日立コンサルティング 代表取締役 取締役社長
芦邉 洋司

1965年静岡生まれ。
大学卒業後、イーストマン・コダック社に入社。
その後、米国にて大学院に進みMBAを取得。
1992年、KPMG Peat Marwick監査法人ニューヨーク事務所に入社。
監査・税務業務・経営コンサルティングに従事。
1997年、同社日本事務所開設にあたり帰国。
大手ハンバーガーチェーン経営戦略本部を経て、現在日立コンサルティング代表取締役 取締役社長。
趣味は外洋ヨットレース。プライベートな時間は駿河湾にて外洋ヨットのクルーを楽しむ。

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