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第七回:
Web Knowledge Convergence(後編)
Webの進化がもたらす企業知活用の姿と進展を明らかにする。

グーグルでは、2万人規模のコラボレーションシステムが用意され、世界中の社員がアイデアを共有し、相互に評価し合えるようになっている。インテルでは、10万人にものぼる同社の社員それぞれが、自身の業務分野に関する知識の最高の持ち主であるという考えに基づき、独自のウィキ「Intelpedia」を構築している――。Web2.0の機能を社内の情報システムに活用した、次世代の知識管理・知識創造に取り組んでいる企業の一例である。このような知識管理・知識創造の新しい形を、筆者は「ウェブ・ナレッジ・コンバージェンス(Web Knowledge Convergence)」と名づけ、前編ではその概念や発展について述べてきた。ウェブ・ナレッジ・コンバージェンスにより「企業知」を最大限に生かすことは、イノベーションや事業アイデアの創出、経営改善、品質向上などにつながるさまざまな機会を生み出し、企業の持続的発展を後押しする。後編では、この新たな取り組みですでに成果をあげている欧米企業の事例を中心に、企業知を最大限に活用する方法について考察してみよう。

ウェブ・ナレッジ・コンバージェンスの先進事例

まず、いくつかの欧米企業の事例を見ていただきたい。彼らはすでに、Web2.0機能によって企業知を管理し、事業の効率化や事業戦略検討、知識の体系化などに役立て始めている。

■企業ケーススタディ1  Google(グーグル)

グーグルには、知識を共有し、イノベーションを推進するために開発された、全社員2万人規模のシステムがある。その一つである「Google Ideas」では、世界中の社員が、新しいプロジェクトに用いるアイデアを相互に共有し、コメントを述べ、評価を下すことができる。ここには厳しい競争原理があり、そこで生き残ったアイデアや技術は、β版のサービスとしてユーザーに提供されることも多い。さらには、メール、スケジューラ、チャット、ブログのみならず、ウィキやイントラネット内をくまなく検索するエンタプライズサーチ、ノウフー機能まで整備されている。

グーグルにはまた、「20%ルール」と呼ばれる社内制度がある。エンジニアは会社でのミッションも考慮しつつ、勤務時間の20%を自分の好きな研究開発にあてることが許されるというものだ。トップページのロゴがトピックスに合わせて表情を変えるというアイデアや、Gメールなどのサービスは、このブログの利用と20%ルール、つまりは社員の「余技」から生まれたものだという。

■企業ケーススタディ2  Nokia(ノキア)

ノキアでは、リサーチセンターの二つの研究グループが、2004年に自社のウィキをスタートさせている。eメールよりもウィキの使用を推奨することによって、その利用量は拡大し、今では社員の20%以上がウィキを利用している。部門間で連携して行われる商品デザインのツールにも採用され、デザイングループ間の連携も大幅に増加した。また、スケジュールやプロジェクトステータスの更新、アイデアの交換、ファイルの編集などにも利用されている。

■企業ケーススタディ3  T. RowePrice(ティー・ロー・プライス)

個人向け投資管理事業会社であり、米国有数の401k(確定拠出年金)運用会社であるティー・ロー・プライスは、世界中で2500億ドル以上もの資産を管理している。多種多様な資産管理を行う同社は、さまざまな税務制度や、商品に関する情報を、企業知の一つとしてタイムリーかつ効率的に共有、活用する必要がある。そのため、ウィキを軸とした独自の知識管理システムを構築している。このシステムの活用により、例えば税務情報の更新においては、従来1日近くかかっていたものが30分程度にまで短縮されたという。

■企業ケーススタディ4  Dresdner Kleinwort(ドレスナー・クラインオート)

ドレスナー銀行の投資銀行部門であるドレスナー・クラインオートは、2005年の年間収入20億ドル、社員27万625人。世界50か国に950のオフィスを抱えている。同社は、部門やオフィスを越えた社員どうしの連携と、知識の共有量を増やすため、企業全体の情報源としてウィキを構築し、また、社員には自分のプロジェクトに関するブログを持つことを奨励した。その結果、ウィキの活用は劇的に増大し、プロジェクト関連のメールトラフィックが75%も減るとともに、2006年10月には、5000人もがウィキを利用し、6000以上にも及ぶページが作られるまでになっている。

■企業ケーススタディ5 Intel(インテル)

インテルも2005年より独自の社内ウィキ「Intelpedia」を構築し、すでに企業文化の一部となっている。「Intelpedia」は、10万人にものぼる同社の社員それぞれが自身の業務分野に関する知識の最高の持ち主である、という考えに基づいて構築された。ルールは二つ、社規を破らないことと、ほかのだれかに役立つ情報であること。開設当初より強い支持を得て、1年あまりで、数万人のユーザー、5000ページ以上のコンテンツと、1億3500万回以上の累積閲覧数を達成した。社内のさまざまな情報を共有し、製品開発や業務改善、企業戦略策定などにも活用されている。

■企業ケーススタディ6  IBM(アイビーエム)

他のウェブ・ナレッジ・コンバージェンスの例とは少し異なるが、知の交流の新たな形としてIBMの例もあげたい。IBMはすでにLinuxコミュニティで、既存の会議スタイルとは異なる、参加型のマネジメントモデルを確立している。2006年には、105か国15万人以上が参加したオンライン・コミュニティ「The Innovation Jam」を開催した。これは、開催時間を72時間としたオンライン会議であり、全社員、67社のお客さま企業を含むビジネスパートナー、お客さま、家族まで加わった壮大なワークプレイスであった。7月と9月の2回のセッションで、次の10年間の産業改革、環境問題、健康問題などのイノベーションについてさまざまな話題が幅広く語られ、4万6000件以上のアイデアが提出された。同年11月には、その中から選ばれた10の新ビジネスを推進するため、今後2年間で1億ドルを投資していくと発表している。

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「イントラペディア」の構築へ

これらのケーススタディからは、知識管理が、共同開発のみならず、業務プロセス管理の改善などにも役立ち、企業全体の生産性向上に対する直接的効果も期待できることが見て取れる。ここにあげた先進的企業以外にも、多くの企業が、スケジュール調整、プロジェクト最新情報の共有、フィードバックの提供などにブログやウィキを利用し始めている。

前編でも述べたように、ウェブコミュニケーションツールが、eメールから、ブログ・SNS、ウィキへと発展してきたことによって、知識の管理や体系化との整合性が増し、知識のより効率的な連携や管理が可能となってきた。知識の表現形態も、基本的に1対1のコミュニケーションで情報を伝えるeメールから、1対nのコミュニケーションで時系列に沿った情報の集約を可能にしたブログ・SNS、さらに、情報や知識が一か所に蓄積・整理され、多くの参加者が共同で編集・更新していくことが可能なウィキへと進展し、知識をとりまく形でさまざまなコミュニケーションが触発されるようになってきた。特に、ウィキを活用した知識の集約では、利用者が自由に執筆できるインターネット上のフリー百科事典「Wikipedia」がよく知られている。コラボレーションワークを「複数の参加者が共同して新しい価値を創生していく作業」と定義するならば、ウィキ型のシステムは、その実現には欠かせないだろう。これを活用して、社内に分散している知恵や知識、ノウハウを集めれば、それは「イントラペディア」とも呼べるような、企業知の宝庫となるかもしれない。企業ケーススタディでも見られるように、イントラペディアによってその企業独自の企業知が共有でき、業務効率化や新事業・新商品企画の立案などを低コストで実現できる可能性が高まるのである。

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企業知を生かすためのポイントとリスク対策

さて、このように大きな可能性を持つウェブ・ナレッジ・コンバージェンスであるが、ただ単にそのためのシステムを用意するだけでは不十分であることは言うまでもない。実際に、ウェブ・ナレッジ・コンバージェンスが提供する企業知の明確化、集約、共有などの機能を効率的に活用するためには、いくつか注意すべきポイントがある。

まず、自社のビジネスプロセスの中に、ウェブ・ナレッジ・コンバージェンスをしっかりと位置づけることである。そのためには、活用プロセスの検討・確立だけでなく、より多くの参加者を得るための施策が必要である。情報活用教育の整備、ユーザーインタフェースの洗練化などとともに、業務としての認定方法の明確化、情報提供者や知識、ノウハウの発信者に対する評価制度の拡充が求められる。企業内は一種の競争社会であり、自分のノウハウを開示することが利他的行為となる危惧はだれしもが持っている。これを乗り越えるためには、例えば、意見やノウハウを発信し、より多くのアクセスやリンクを得た者が評価されるような仕組みを検討すべきだろう。

次に、情報管理である。重要なノウハウの外部流出、企業情報の漏えいや、それにともなうブランド価値の喪失があってはならない。情報保護を重視する金融機関などでは、会社のパソコンからのブログへの書き込みを禁止しているところも多い。米国のComputerWorld誌編集部の調査では、50%以上の大企業がブログやSNSの利用に関するルールを規定しており、76%が利用を全面的に禁止している。しかし、多くの企業は、行動を規制しつつも、ルールを明確にすることでWeb2.0のメリットを享受したいと考えている。コンテンツコントロール、運用ルール、アクセス権、情報セキュリティなどの対応を明確にするだけでなく、リスクとリターンのバランスをどう考えるかが、情報管理においては重要である。

また、リスクという点では、集約する情報の質の問題もある。オープン化された情報集約の常として、そこに集まる情報は玉石混交である。これをいかにふるいにかけ、より有用な知識の集約を実現していくか、さまざまな工夫や、システムの導入も欠かせない。

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持続的発展の鍵となる価値創生機能

ウェブ・ナレッジ・コンバージェンスによる企業知の明確化と集約は、知識と人との関係の集約にもつながる。日本では2007年問題以降、技術や知識、ノウハウの伝承が課題となっているが、多くの企業では社内の人的交流は部分的なものに留まる傾向が強く、知の交流が十分にあるとは言いきれない。企業全体にわたって、だれがどのような知識を持っているかなど、知識と人との関係が集約できれば、知的生産性の向上に大いに役立つと考えられる。

知の交流を実現するためにも、情報を開示し、共有することに対するモチベーションをいかに高めるかが重要である。そのような観点から見ると、ウェブ・ナレッジ・コンバージェンスとは、企業全体の知識体系と、組織を含めたビジネスプロセスと情報システムを再設計することであるとも言え、前項でも述べたように、知識管理・知識創造システムを人事評価制度や労務管理システムなどと連携させていく必要もあるだろう。

グローバル化にともないビジネスモデルの変革や解体が進む中で、企業が競争力を維持・向上していくためには、自社のコアコンピタンスに集中し、事業の強化を図らねばならない。その際、最も重要なのが、自社がユニークに提供する価値であり、その価値を絶えず創り出し、更新していく「価値創生機能」である。価値創生機能は、企画力や生産力、販売力そのものではなく、それらの有機的連携によって提供価値を見出し、開発し、事業化し、提供していくための実践的な方法と、それらを活用した価値のプロデュース力である。その原石は、ウェブ・ナレッジ・コンバージェンスによって具現化される企業知にあるといえるだろう。企業知を縦横に活用し、ユニークな価値の提供に結びつけることができた企業こそが、より確かな競争力をものにできるのである。

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株式会社 日立コンサルティング 取締役
芦辺 洋司

1965年静岡生まれ。
大学卒業後、イーストマン・コダック社に入社。
その後、米国にて大学院に進みMBAを取得。
1992年、KPMG Peat Marwick監査法人ニューヨーク事務所に入社。
監査・税務業務・経営コンサルティングに従事。
1997年、同社日本事務所開設にあたり帰国。
大手ハンバーガーチェーン経営戦略本部を経て、現在日立コンサルティング取締役。
趣味は外洋ヨットレース。プライベートな時間は駿河湾にて外洋ヨットのクルーを楽しむ。

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