Transformation for Innovation企業を成長させるITの在り方
とある大手企業のCIOのお話を伺う機会があった。このコラムに関する話を人づてに聞き、興味を持ったとの事。内容を2~3分でご説明すると、「そうか、これは戦略投資の話だね。今回のテーマは、BCMの方がよいかな・・・」とつぶやくと腕組みを始めた。どうやら、彼はCEO向けのプレゼンテーマを探していたようだ。
CIOは「経営に貢献するIT」への期待と、「運用・保守費削減」の圧力との間で板ばさみになっていることは初回にお話しした。今回は、そのCIOの現状について考えてみたい。過去に日立製作所の情報・通信グループの経営企画部門を統括し、現在も多くのCIOとのパイプを持つ、中村誠シニアディレクターに、CIOが置かれている現状について話を伺った。
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情報システム部門での開発・運用の実務経験、会社横断のデータベース、ネットワーク、電子メールなどの導入、会社全体の情報システム基盤設計経験を通じたITに関するコンサルティングが得意分野。
CIOは、経営層(もしくは経営企画部門)、業務部門、IT部門で構成される三角形を結びつける連結ピンのような存在だ。3者のベクトルの向きを揃え、企業の成長に向けてパワーを集中させることが、連結ピンとしてのCIOの役割になる。ところが、多くのCIOは、十分なパフォーマンスを発揮できているとは言い難い。
これは、能力面の問題というより、3つの環境面での問題が大きい。
第1の問題「CIOの仕事が定義されていない。」
多くのCIOは、CIOとしての業務をこなせているか自信がなく、試行錯誤で行っている。これは、CIOの仕事が定義されていないことに起因する。日本では、CIOは様々な部署の業務を経て(もしくは兼任で)抜擢されることが多く、CIOの業務を専任で一貫して続けるケースは少ない。そのため、CIOとしての経験を積む機会は殆どなく、出身母体で培った経験・人脈に基づき行動する。結果、CIOの行動は出身母体によって偏りが出る。
IT部門出身者は、IT部門系の業務に特化し、業務部門との連携が苦手。一方で業務部門出身者は、業務部門のニーズは吸い上げられるがIT部門へうまく伝達できないといった弊害が出やすい。(図1参照)

第2の問題「情報システムの見える化が進んでいない」
CIOは、企業全体を見渡し、IT環境の現状を理解する必要がある。特にITコストの把握は重要だが、大概把握できるのは、莫大な費用がかかっていることだけで、その内訳や解決すべき問題に気づいているCIOは少ない。そのような状況で、ITコスト削減を謳ったところで、効果はおぼつかない。現状を把握していなければ具体的なアクションに落とし込むことが出来ない。
第3の問題「CIOには高度な能力が必要であることに誰も気づいていない」
CIOの業務は、これまでに無かった“ニュータイプ業務”である。経営者に代わって、グループ全体を横断的に見て、具体策を現場に落とし込んでいく。単にITへの理解があるだけでは務まらない。この業務をこなすには、幅広い人脈、抵抗を抑える能力、会議体などの仕組みを作る能力、その仕組みの可視化を行う能力など、多様な能力が必要だ。これはある意味、SCM構築に費やした苦労・労力と同じものを求められる。
ところが、そのような仕事であることにCIO自身が気づいていないケースもある。
これらの問題がまったく解決不可能かというとそういう訳ではない。
第1の問題については、ある企業では、「CIOハンドブック」または「IT基本方針」なるものを作ろうという話が出ている。CIOとして行うべきビジョンと業務が明確に定義されれば、大きな抜け漏れがなくなり、多少なりとも偏り改善に貢献できるはずだ。
第2の問題については、IT周りの業務の標準化が最も有効と考えている。IT運用をシステム毎に個々に進めるやり方が、情報システムの見える化を妨げ、本来のコストが見えない状況を作り出したからだ。企業に分散するITの運用・保守業務を標準化し、パーツとして整理すれば、個々の業務毎にどの程度のコストがかかっているかも明らかになり、状況に応じて一部の業務を外部に切り出すなどの対応も容易に行えるようになる。
ここまではいいとして、第3の問題は、少し厄介だ。なぜなら組織・体制に関する話になるからだ。私が、日本のCIOの置かれた状況で最も厳しいと感じているのが、この点である。CIOの周りに、CIOを支えるブレーン・スタッフが殆どいない。すなわち、“ひとりぼっちのCIO”が多すぎるのだ。
第3の問題で、CIOには高度な能力が必要と述べたが、同時に仕事の量も尋常ではないだろう。つまり、これを1人でこなすこと自体、無理があるというのが私の見解だ。
ある戦略システムの要件をまとめるだけでも、企業(経営)戦略をITと業務のプランに落とし込み、更にもう一段階詳細化して、やっとRFP(Request For Proposal)レベルだ。ここから、業務部門とすり合わせて、より具体的な要求を取り込み、全体のフレームが固まって、やっと要件定義に入ることが出来る。経営に寄与するITを構築するためには、ここまでのプロセスをきちんと工数をかけて行う必要がある。
ところが、“ひとりぼっちのCIO”はここが埋められず、いつも苦労している。
そもそも、経営視点でシステムを見て、正しく把握するという業務自体が多くの企業では存在していない。つまり、ファクトファインディングが出来ていない。CIO本来の役割は、CEOになりかわり、業務改革の旗振りとか、ガバナンスの仕組みを作るといったものだ。これは、IT部門のマネージャには代替できない。CIOが具体的なアクションを起こすためには、事前に質、量ともに相当なネタを仕込んでおく必要がある。そのためには有能なスタッフが相当数必要となる。しかし、多くのCIOがそのような組織を持っていることは稀だ。うまく行っている企業には、CIOを裏で支えるチームが必ず存在する。最低限ファクトファインディングを行うための組織化は出来ている。
以前、欧州の巨大企業グループでは、CIOを支えるチームは飛行場の中に拠点を持っていた。理由は単純でチームメンバーが常に方々に分散したグループ企業との間を行き来し、各企業の業務、IT環境の現状把握、問題対処を迅速に行うためだ。連結ピンとしての役割を果たすためにここまでやるのかと当時は驚いたが、今では、従来とは全く異なるCIOとしての組織としての定義がきちんと出来ていたのだと納得できる。
逆に連結ピンとしての役割をCIOが放棄するとどうなるか。これも欧州の企業だが、その企業のCIOは、企業の業績悪化の責任をIT部門に求め、きちんとした原因調査を行わないまま、企業本体から切り離した。(外部の技術サービスに切替えた。) ところが、結局うまくいかず、再度、社内にIT部門を立ち上げようとしたが、一度離れた人材は決して戻ることなく、より厳しい状況に陥ったという話をCIO自身から聞いた。
CIOが連結ピンの役割を果たすことは必須であり、その役割を果たすためには有能なスタッフで構成されるチームを持つことが何よりも大事だというのが私の考えだ。
CIOには、まず自分の足下をきちんと整備することから始めることを提案したい。
その第一歩が、CIOの役割・業務を定義することであり、CIOがアクションを行える組織・体制を確立することになる。
これが整えば、次に情報システムの見える化に着手する。そして、現行のITコストの削減策を立案・実行し、削減した原資を元に、業務部門と共同で新たな戦略提案を経営陣に対し提示する。という流れだ。足下を整備しないままの手探りのコスト削減策は、現行のIT運用の品質低下を招くことが多く、結局は遠回りになると思う。(図2参照)

中村氏は、CIOの置かれている現状を“ひとりぼっち”と評し、とにかくCIOの仕事を行うためのチームが存在しない状況を改善することが必要だと語ってくれた。そして、社内で人材が不足する場合は、私のような外部のコンサルタントを相談相手として用いるのも1つの方法だと述べた。確かに、経営陣に聞かせるべき豊富なネタを持ち、自社以外の企業の状況などにも詳しい外部コンサルタントを用いるのは1つの方法かもしれない。
またお話を伺う中で、CIOのチームと現状のIT部門とが別物との印象を受けたのだが、必ずしもそうではないとの回答だった。
これからのIT部門は、ITに詳しいだけでは務まらない。経営視点、業務視点を持ち、積極的に外部と接触を持つ高いコミュニケーションスキルが要求される。そのような人材がCIOを支えるチームには必要、と中村氏は述べた。
冒頭でお話したお客様だが、最終的には弊社のベテランコンサルタントが入り、戦略投資会議の運営をお手伝いさせていただくことになった。このことが、孤軍奮闘するCIOのパフォーマンス発揮の良いきっかけになればと願っている。

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1992年 日立製作所ビジネスソリューション事業部にて、業務アプリケーションの設計技法の確立と普及に精力的に従事。クライアントサーバーシステム(CSS)、オブジェクト指向、既存資産活用型開発、といった時流の先端テーマをリードしてきた。
2002年 日本企業の武器は「企業知」にあると着目、日立グループの知的経営基盤とその在り方について造詣を深め、日立コンサルティング入社後も継続活動中。
週末の顔は競馬アナリスト。持ち味の「目利き」はここでも発揮されている。
第一回:
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第三回:
ひとりぼっちのCIO
第四回:
