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株式会社 日立コンサルティング

BCP機能せず、そのとき企業に何が起きたのか

株式会社 日立コンサルティング ディレクター

2011年4月27日

企業にとって多くの想定外が発生した東日本大震災。事前に策定していたBCP(事業継続計画)の実行にも混乱が見られた。そこから学ぶことができるBCPの課題と今後の対策とは。

事業継続不可に至ったパターン

2011年3月11日に発生した東日本大震災では日本国内のみならず、米国などにある海外企業でも業務が停止した。災害規模が巨大であったことにもよるが、その業務停止に至るパターンは大きく分けて3通りある。

  1. 直接被災
    地震、津波の被害によって、オフィスや工場の生産設備が被災し使用できなくなり、従業員にも被害が出るなどしたため、業務が継続できなくなった。
  2. 社会インフラ機能の途絶(特に停電)
    オフィスや工場、従業員などには直接的な被害がなかったが、停電や上下水道の不通、交通遮断などにより操業が中断した。被災地域での社会インフラ途絶による休業は想定範囲内のものである。しかし、首都圏においてはオフィスや設備、従業員が無傷で、かつ、近隣の社会インフラ設備も健在であったのにもかかわらず、いわゆる「計画停電」により休業を余儀なくされた企業があったことが特徴的である。

    さらに、従来は社会インフラとは見なされてはいなかった、ガソリン供給・販売、ビルメンテナンス、情報システムの運用・保守といった「準社会インフラ企業」の業務停止も実質的に社会インフラ機能の途絶と同じ影響があったことが特筆される。

  3. サプライチェーン上の問題
    同じくオフィス、工場、設備などの経営リソースには被害がなく、かつ近隣地の社会インフラが健在であった場合でも、部品調達先が被災し、部品供給能力の喪失や、輸送手段が確保できなくなったことで部品不足に陥り、生産が継続できなくなった製造業が目立った。特に、首都圏以西にある自動車などの製造業各社の工場などがこれに当たる。

なぜBCPが機能しなかったか?

多くの企業がBCP(事業継続計画)を作っていたが、実際に機能したのだろうか? 被災したある県のBCP推進担当者は「県下の企業向けにBCP策定支援策を実施していたが、とてもそのBCPを発動できるような状況ではなかった」と話していた。

マスコミ報道では、少数の「BCPの成功例」を見つけることができるが、実際は「従業員の安全を第一に考えて緊急時行動計画を策定して訓練をしていたので、地震後、全従業員が即時・一斉に高台に避難して無事だった。津波が引いた後に残った一部の生産設備で事業が継続できた」というケースが多いようである。

企業は震災前、苦労してBCPを策定してきた。事業への影響度分析や、優先して継続する業務の順番、緊急時の行動計画、バックアップオフィスの立ち上げ・利用手順、情報システムのバックアップ切り替え・利用手順などだ。しかし、実際はBCP策定時のもくろみ通りにはいかなかった企業が多かったようである。

各企業における今回の大震災での被災後の実態とBCPの成果については、今後の調査結果を待ちたい。現在、入手可能な情報から推測される「BCPが機能しなかった理由」は次のようなものである。

BCPの想定リスクの範囲の超越

想定を越える震災規模
場所に依存することであるが、例えば首都圏では数十年に一度程度発生するといわれている直下型の地震を想定リスクとしてきた企業が多い。一方、実際の東日本大震災は1000年に一度といわれるように、はるかに想定を超えた地震規模、津波の高さ、被害の大きさだった。
社会インフラの途絶
再び首都圏を例に取るが、直下型地震が発生した際の一般的な社会インフラの被害想定は、電力1週間、上下水道とガスが3週間程度であった。多くのBCPでは、これに従って復旧計画を立てていたわけである。仙台市などの一部を除く被災地域での社会インフラ断絶期間は、これよりはるかに長期にわたる見込みであり、事前のBCPにおける復旧計画は既に破綻しているといえるだろう。
また、首都圏での計画停電および夏に予想される節電で、断続的に業務を停止する可能性があることは、企業にとって全くの想定外だ。さらに停電が電力会社の営業範囲全体という広範囲で、その範囲内にあれば「同時被災」してしまう点も脅威である。
部品会社の分布
東北地方には、多くの電子部品などの工場がある。製造業企業は調達先を二重化していたが、そのどちらもが被災したケースがあった。また、ある調達先では、複数の製造拠点を持っているので安全と判断していたが、その複数拠点とも被災したケースもある。

応用力不足のBCP

生かせなかった訓練・外れた被害シナリオ
わが国においてBCPはいまだ普及期であり、策定の歴史は浅い。普及・促進のためにこれまでの発行されてきたガイドライン類では、対象リスクを特定規模の地震などに限定して策定する場合が多かった。また、そのリスクに限定した被災シナリオを例示した上で、対策の検討をしていたBCPが多い。この結果、被災シナリオから外れた場合にBCPの適用が難しくなる場合があった。被災シナリオの設定はBCPの第一歩としては意義がある。しかし、その実効性を高めるためには想定外の災害が訪れようとも、何らかの対応が可能な応用力の高いBCPを作り上げる必要がある。

企業・組織の中での推進方法での問題

メンテナンスや訓練の不足
BCP策定のきっかけは国・自治体や業界団体からの勧めや、経営者からの一過性の指示などがある。結果的に、作ったはいいがその後の訓練による企業文化への定着や改善の取り組みが行われていなかったケースが散見された。前述の「BCPの成功例」の場合には、とにかく訓練が行われて定着していた。より大きな組織では、さらに複雑な役割分担があるのが普通で、訓練や改善の取り組みがないと、効果を発揮するのが難しい。
経営戦略における事業継続の位置付け
今回の震災で見受けられるのは、BCPが経営戦略上、正しく位置付けられていなかった企業が多いことだ。図1は、エンタープライズアーキテクチャ(EA)の枠組みで、経営戦略におけるBCPの位置付けを説明した図である。EAとは、企業の仕掛けを、業務、データ、アプリケーション、利用技術に分解して可視化するフレームワークのことである。この可視化で、経営者以下が組織の現状を知り、将来に向けた整合性の取れた改善を行うことが容易になる。現行のAsIsのアーキテクチャに改善を加えて将来のあるべき姿(ToBe)に変革する際に、業務や情報システムを見直すための「見直しの指針」や、ベストプラクティスとされる「参照アーキテクチャ」を用いる。

図解
図1. これまでのBCPの企業アーキテクチャ改善における位置付け

これまでのEAの活用は効率化、省力化、集約化というような観点がほとんどで、事業継続は脇に追いやられていた。また、BCPの策定も情報システムなどの二重化を中心とした即物的対策に終始する場合が多かった。対象とする組織の業務、情報システムが同一であるにも関らず、最適化とBCPを別々の部署が行う場合も多く、そもそも整合性が取れていなかったという場合すらあったようである。

EAを活用した今後の対策

対象リスクの範囲の拡張
わが国のBCPも、この大震災を契機にそれぞれの組織が業務内容や立地条件を考慮し、対象リスクを考え直すべきである。審議中のBCPに関するISOの規格書の原案では、リスクとして、災害などの自然現象の他、テロなどの人の活動に起因するものや経済変動なども含まれている。
応用の利く被害想定
これまでのBCPにおける復旧期では、分かりやすいシナリオに基づいた被害想定が中心であった。複数のリスクに対して被害想定をすると、地震や津波、火災、テロといった原因と、事業の中断の間にも階層があることが分かる。それは、(a)オフィスが使用不可能になる、(b)情報システムが使用不可能になる、(c)電力などの社会インフラが使用不可能になるといった、リスクの結果に相当する事象である。それらを組み合わせることにより、直面しているリスクへ臨機応変に対応をすることが可能になる。
平時と緊急時の事業継続性
BCPでは、緊急時には平時と違った方法で業務を遂行する計画を立てる場合が多い。これは訓練を積み重ねることで有効に動作する。しかし、人事異動などで役割が変更されるたびに、平時と緊急時の業務手順を覚えるのは大変なことである。これに対して、平時と被災時での業務形体を最初からできるだけ同一にしておくという観点が注目される。これを実現する業務や情報システムの基盤の整備が今後期待される。
事業継続性を中核に据えた企業アーキテクチャの確立
上記のように、BCPが組織内で正しく位置付けられていなかった企業が見受けられる。BCPは経営戦略の一部であるので、経営の一環として行われるべきだ。図2でEAの枠組みで説明すると、事業継続は見直しの指針の中核的観点にすべきであり、前述の「平時と緊急時の業務の継続性」など、事業継続性の高い業務形態や、情報システムアーキテクチャを参照することにより、災害に強い、事業継続性の高い企業アーキテクチャを構築できる。このような「事業継続指向企業アーキテクチャ」を構築することが、事業継続性の高い組織を作ることになるのである。

図解
図2. あるべきBCPの位置付け

出典:アイティメディア株式会社 TechTargetジャパン (新規ウィンドウを表示)

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