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株式会社 日立コンサルティング

共想する未来
〜ザルツブルグ・グローバルセミナーに参加して〜

河野 麻衣子 (こうの まいこ)
株式会社 日立コンサルティング マネージャー

2014年7月15日

2013年11月、会社から一週間の休暇をもらった私は京都と東京で開催されたザルツブルグ・グローバルセミナー(SGS)に参加してきました。

テーマは「2030年の世界」。シナリオ・プランニングという手法を用い、現在世界が抱える「高齢化社会における公平な成長」「エネルギー/資源安全保障」「地域連携」といった課題について各国からの参加者が議論し、望ましい将来を目指すために必要なアクションを検討するセミナーでした。世界各国から集まった若手リーダーと目される人々と京都の町屋に缶詰めになって議論する経験はとても刺激的で、自分の立ち位置を再確認する良いきかっけになりました。

ザルツブルグ・グローバルセミナー(SGS)とは

SGSは第2次大戦後の1947年、欧米の次世代リーダーのネットワークを再構築し、共通の課題について議論する場を提供する目的でハーバード大学の学生中心に設立されました。現在は欧米に限らずよりグローバルな交流を目的に、ザルツブルグの古城に各界の若手が集まりより良い世界のために議論するセッションが頻繁に開かれています。今回はそのSGSの日本初の開催で、私は日本からのフェロー(参加者)の一人として合宿形式の議論に参加しました。

世界14ヶ国から集まった約30名のフェローは、私のような民間ビジネスに携わる人、政府関係者、国際機関職員、NGO職員、大学や研究所の研究者など様々なバックグラウンドを持った人々でした。講師陣も各日のテーマの著名な専門家が集まり、彼らの講義の後、フェローがチームに分かれて2030年の世界についての複数のシナリオとベストシナリオを導くためのアクションを検討し、最終日に東京でその成果を発表するという構成でした。

議論したテーマ

セミナーで議論したテーマは以下の通りです。

  1. Innovation and Equity in Aging Societies
    (高齢化社会におけるイノベーションと公平性)
  2. Energy Security and Resource Scarcity
    (エネルギー安全保障と資源不足)
  3. Regional Corporation
    (地域連携)

これらのテーマについて、フェローは事前に配布された大量の参考資料を読み、当日の講師からの講義を聞いて現状や歴史を把握します。3つのテーマとも、今日の多くの社会が直面している課題です。

特に、(1)の高齢化社会については、日本は課題先進国と言っても良く、世界中が日本の対応に注目しています。普段から情報としては頭で分かっているつもりでも、その解決策について深く考えた事はありませんでした。いざ出生率の低下や高齢化のスピードをデータで見ると、何か手を打たなければ現在の社会保障も全く成り立たなくなる事は一目瞭然で、それが日本だけではなく他の大国も同じような状況にある事にフェローから驚きの声があがりました。特に、中国やアジアのようにまだ経済成長の途上にある国々では、国民全体が裕福になる前に、高齢化が進んでしまうという課題を抱えています。

(2)のEnergy Security and Resource Scarcityでは、ドイツ及びASEAN共同体のエネルギー・環境政策についての講義を受けた後、いかに限られた資源を有効に活用するかという視点でフェロー達の議論が進みました。
海に囲まれた日本に住む私たちは、エネルギー政策というと国内政策として考える事が多いのではないでしょうか。そのせいか日本人だけでエネルギー問題を議論すると、とかく原発推進か脱原発かという二元論に終始してしまいがちです。
ところがASEAN地域では多くの多国間パイプラインが設置されており、どのように資源やエネルギーを各国間で融通し合うかが重要なテーマとなります。東南アジアからの参加者も多かったSGSでは議論が自然にそういった内容に流れて行った事は驚きでした。様々な国の人と議論することでこれまでとは違った発想を得ることができるというSGSならではの経験をすることができました。

(3)のRegional Corporation では、各国間の連携や協力だけではなく、PublicとPrivateやCitizen同士の連携についても検討しました。地域連携というと政府同士の政治的結びつきを想像しますが、ビジネスの分野ではもはや国境は関係なく、良い製品は世界中で消費されていますし、一つの製品が出来上がるまでに複数の国が関与している事は当たり前です。敢えて“Regional Corporation”と銘打たなくとも共通目的のために連携が取られているビジネス視点は、公的組織に努める人々にとっては新たな気づきであったようです。このように様々なバックグラウンドから知恵を出し合いつつ、2030年までにどのような連携が進むべきか、シナリオを描きました。

SGSに参加して感じたこと

3つのテーマに共通して言えることは、全て一国に閉じた問題としては議論できないという事です。高齢化にせよエネルギー問題にせよ、人や自然資源という限られたリソースをどうすれば最適な方法で活用し、地球全体のサステナビリティを確保できるのか、という問題に帰結します。そしてそれを考える際には、国や自分が所属する組織の利益優先の政治交渉、競争の論理では決してベストな解は見つからないでしょう。なぜなら今までそうして自国の国益、組織の論理、個人の保身優先でやってきた結果が、破たん寸前の社会保障、枯渇しそうな自然資源や地域紛争という今日の課題を生んでいる原因ともなっているからです。
SGSの素晴らしい点は、それぞれの参加者が国や組織の代表者としてではなく、より良い世界を目指したいという真剣な想いを持った個人が集まる場である事です。かつ、バックグラウンドが異なる人々が集まる事により、アクションの提案にも多様性が出ます。

参加して感じたのは皆良い世界にしたいという想いは同じであり、国籍や育った環境、活動フィールドは異なりつつも、目指すべき理想像について総論では合意できるという事。但し、今回はシナリオを描いて簡単なアクションを検討するまでがゴールである短期間のワークショップであったから良いものの、議論が白熱してくるにつれお互い一歩も譲らず合意できなかったチームもある事を考えると、いざお互いがアクションを起こすことなった時には、総論賛成各論反対に陥り、物事が進まない事が多いだろうという事は、容易に予想がつきます。実際の政策や事業を検討する際には、それぞれの思惑が絡み合い、本来の課題解決という目的を達成する事が難しい事は、日々のビジネスでも感じている事です。しかしそれでも諦めず、一定の解決案を導かなければ何事も前に進める事はできません。

議論の枠組み

SGSのテーマである高齢化社会、公平性、エネルギー問題、安全保障、地域連携・・・どれ一つをとってもこれからの世界が抱える大きな問題であり、一朝一夕に答えが出るものではありません。それどころか、どのようにアプローチしたら良いのか切り口すらわからない問題ばかりです。
また参加者は各国から集まった様々な背景や価値観、文化、立場を持った人たちです。例え英語が流暢に話せたとしてもコミュニケーションを取るのは容易なことではありません。こうしたグローバルレベルで複雑に絡み合う問題を、短期間に建設的に整理して、議論していくために今回活用されたのが、「シナリオ・プランニング」と呼ばれる手法です。

次回は、ザルツブルグ・グローバルセミナーで2030年の世界を考える際に用いたシナリオ・プランニングの手法についてご紹介したいと思います。

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河野 麻衣子 (こうの まいこ)
株式会社 日立コンサルティング マネージャー

物体としての「売り物」を持たないコンサルタントという職種は自分たちの頭で考えたアイデアや情報を整理して見せ、ステークホルダーに納得して動いてもらうことが仕事になるため、ともすれば一日中パソコンと睨めっこして説得のための資料作成に膨大な時間を費やすことも多くなります。しかし毎日同じように、オフィスでうんうんと一人頭を悩ませていてもなかなか良いアイデアは浮かびません。自分の枠から飛び出して物事を考え出すためには社内外の様々な考えを持った人との交流や議論の場を積極的に持ち、常に自分の頭を柔軟にしておくことが大切だと思います。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。