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ジェンダード・イノベーション〜性差観点の抜け漏れは人命にも影響〜

坂井 七海 株式会社 日立コンサルティング コンサルタント

佐藤 仁奈 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

2022年1月31日

1.ジェンダード・イノベーションとは

ジェンダード・イノベーション(Gendered Innovations)とは、「研究開発やビジネスにおいて、生物学的性別、社会学的性別、それらと他の要因(年齢や宗教等)の交差分析を行うことで、イノベーションを創出する概念」を指します。これまでの研究開発では、生物学的性別や社会学的性別等の性差が考慮されていない事例があり、多くのステークホルダーが見落とされてきました。中には、性差を考慮せず開発した製品が、命を落とす原因になってしまったケースもあります。例えば、シートベルトは男性の体型を前提に開発されているため、妊婦が事故に遭った場合に胎児が死亡するケースが多いことが分かっています。そのためジェンダード・イノベーションでは、さまざまな体型の人に合ったシートベルトの設計を推奨しています。
このように、研究やビジネスにジェンダード・イノベーションを取り入れることによって、多くの人のウェルビーイング実現が推進できるとわれわれは想定しています。今後、日本でも性差を考慮してデータを蓄積、分析していくことで、個人に合った新しいサービスが生まれることが期待されます。

ジェンダード・イノベーション(Gendered Innovations)

過去に性差が見落とされてきた例

2.適用事例

2-1. 概要

ジェンダード・イノベーションの事例は身の周りにあります。2章では医学、農業、まちづくり、教育/スポーツ分野の事例と、新型コロナウイルス感染症の事例を見てみたいと思います。

2-2. 医学分野の事例

病気の解明や治療法の開発が期待される基礎研究では実験や分析に動物が用いられますが、多くの場合、オスの個体が用いられます。メスはホルモンバランスの変化が大きく、安定したデータが得られないことが一因です。しかし、臨床試験においては、生物学的性別によって異なる反応を示す場合があります。九州大学の溝上顕子准教授は、骨の細胞が作る「オステオカルシン」というホルモン物質が、オスとメスで異なる働きをすることを発見しました。全く同じホルモン物質をマウスに経口投与した場合でも、メスはエネルギー代謝が改善し、逆にオスは脂肪細胞が肥大化するという、性別によって異なる反応を示す事実が判明したのです※2-1
これまでの医薬品等に係る開発では、臨床試験等が男性中心に行われることが多く、女性が服用した際に致命的な副作用が生じる場合がありました。米国では1997年から2000年の間に10種類の薬が使用不可となり、そのうち8種類が女性に悪影響を及ぼすものだったのです※2-2
反対に、女性をターゲットに研究されている場合においては、男性への影響が考慮されていないことがあります。例えば骨粗しょう症は、女性がかかることが多い病気とされてきました。しかし、欧州と米国の骨粗しょう症に関連する股関節骨折を患った人の約3分の1は男性であることが判明し、骨粗しょう症は女性だけではなく男性もかかる病気として見直されつつあります※2-3
身体の構造や反応は性別によって異なりますが、果たしてどこまで同じで、どこから異なるのでしょうか。世の中には、まだ解明されていないことがたくさんあります。今後、性差を意識した研究が増えていくことで、思わぬ健康被害を防げるだけでなく、多くの新しい医学的知見が生まれることでしょう。

医学分野の事例

※2-1
Yasutake Y., Mizokami A. et al. (2016)「Long-term oral administration of osteocalcin induces insulin resistance in male mice fed a high-fat, high-sucrose diet」, (Am J Physiol Endocrinol Metab. 2016 310(8): E662-E675)
※2-2
United States General Accounting Office(2001)「Drug Safety:Most Drugs Withdrawn in Recent Years Had Greater Health Risks for Women」
※2-3
Amin S(2010)「Epidemiology of Fractures」(Orwoll E, Bilezikian J, Vanderschueren D編集「Osteoporosis in Men: The Effects of Gender on Skeletal Health」p.351-360)

2-3. 農業分野の事例

ジェンダード・イノベーションは研究室内でのみ実践される概念ではありません。続いて農業分野における事例を見てみましょう。
農業従事者の約4割が女性であるにもかかわらず※2-4、従来の農業機械は女性にとって扱いにくいものだったようです。女性農業者からは、農業機械の使い方が分からない、操縦ペダルに足が届きにくく操作しづらいといった悩みの声が寄せられていました。そこで井関農機株式会社は、農林水産省の「農業女子プロジェクト」の一環として、女性農業者の声を聴きながら、女性が使いやすい農業機械を開発しました※2-5。例えば、耕うん機では、女性の腕の長さを考慮してハンドルレバーを延長し、操作しやすいように変更しました。また機械に不慣れな人でも操作しやすいように、エンジン始動手順のラベルを付けました。トラクタでは、長時間の作業でも疲れにくいシートにしたり、安全に乗り降りできるグリップを付けたり、また日焼け対策となるサンバイザを標準装備したりしています。女性が簡単に操作できる農業機械をめざして開発したものは、実は、女性のみならず誰もが使いやすいと感じるものだったようで、担当者いわく、「従来からユニバーサルデザインを意識して開発していたが、女性の声を聴くことでさらに便利になり、目からうろこが落ちたようだった。ハンドルレバーの延長をはじめ、ほかの農業機械の標準装備になった機能もあり、女性だけでなく、男性やシニア世代にも幅広く人気がある」とのことです。

農業女子との対話により誕生した農業機械

※2-4
農林水産省「農業労働力に関する統計」 基幹的農業従事者(個人経営体) 令和3年統計
※2-5
井関農機株式会社「夢ある“農業女子”応援Project」

2-4.まちづくり分野の事例

ジェンダード・イノベーションの概念は、まちづくり分野においても活用されています。
東京都豊島区では、女性・男性・高齢者等さまざまな人の視点に立って、まちづくりを見直す取り組みを進めています。具体的には、豊島区内の商業施設とパートナーシップ協定を結び、育児をする女性のための施設の設置やイベントを開催したり、育児をする男性向けの講座や家庭内性教育の講座等を開設したりと、男女問わず育児を応援する取り組みを推進しています※2-6
内閣府男女共同参画局は、地方公共団体向けに「災害対応力を強化する女性の視点〜男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン〜(以下、防災・復興ガイドライン)」を公表しています※2-7。防災・復興ガイドラインには、防災の基本方針や取り組むべき事項、地方公共団体の取り組みの好事例が整理されています。例えば、神奈川県川崎市男女共同参画センターすくらむ21では、女性の視点を生かした防災の取り組みを行っています。具体的には、女性のための防災グッズリスト、災害発生時のための避難所運営ガイド等を発行、公開しています※2-8。女性のための防災グッズリストには、生理用品や化粧品、髪留め等、一般的な防災グッズリストには含まれないものが記載されています。避難所運営ガイドには、「避難所には男女両方の責任者を配置すること」や「性別や年齢等によって役割を固定化しないこと(炊事や掃除等、女性に役割が集中してしまう傾向があるため)」「特別なニーズを持つ人(DV被害者・妊産婦・介護が必要な人・外国語を母国語とする人等)がいることを理解すること」といった内容が記載されています。
韓国ソウル特別市は2006年から2010年に「Women Friendly City Project」を実施しました。女性に優しい都市を実現するための課題を洗い出し、それらを解決する基準項目を設けました。市内の企業や施設は基準項目をクリアしていれば、市から認証を受けることができるという仕組みです。基準項目には、ヒールを履いた女性がストレスなく(ヒールが歩道のタイル等の凹凸に引っ掛かることなく)歩行するための「歩道の隙間の溝などの凹凸は幅2mm以下」や、夜間の安全を確保するための「街灯は30ルクス以上」、男女の身長差を考慮した「バスや地下鉄車内のつり革の位置を下げる」等があります※2-9。このソウル特別市の取り組みは、ジェンダー平等を促進するためのプロセスである「ジェンダー主流化(Gender Mainstreaming)」の好事例として、国際連合の一機関であるUN-HABITATの「GENDER MAINSTREAMING IN LOCAL AUTHORITIES: BEST PRACTICES」にて紹介されています※2-10

※2-6
豊島区[「わたしらしく、暮らせるまち。」を目指して〜「女性にやさしいまちづくり」その先へ〜]
※2-7
内閣府男女共同参画局「災害対応力を強化する女性の視点〜男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン〜」
※2-8
川崎市男女共同参画センターすくらむ21「女性の視点を活かした防災への取り組み」
※2-9
槇村久子「ソウル市・女幸プロジェクトの安全まちづくりと都市戦略〜安全な空間への権利を保障する〜」(京都女子大学現代社会学部「現代社会研究13」)
※2-10
UN-HABITAT「GENDER MAINSTREAMING IN LOCAL AUTHORITIES: BEST PRACTICES」

2-5.教育/スポーツ分野の事例

2020年11月に9年ぶりに改訂された『新明解国語辞典 第八版』も、ジェンダード・イノベーションの概念を反映しているといえます。例えば、第七版では「アイライン」は、「(女性が)目を大きく見せるために、目のまわりをふちどった線」と説明されていましたが、女性でなくとも化粧をすることから「女性が〜」という記載は削除されました。また「手離れ」は「いちいち母親がついていなくてもいい程度に幼児が育つこと」と説明されていましたが、子育ては母親だけが行うことではないという理由で、「母親」という記載は「親」に変更されています※2-11
スポーツ分野にもジェンダード・イノベーションの波が来ています。これまでコンディショニング法やトレーニングプログラムは成人男性を対象として得られたデータを基に構築されてきました。しかし、運動時の生理反応には男女差があることや、月経周期に伴う体調の変化は個人差が大きいことを踏まえて、これまで構築されてきた方法は、必ずしも女性の特徴を考慮していないのではないかと問題視され始めています。日本体育大学の須永美歌子教授は、「女性が健康を維持しながら効率的にトレーニング効果を得るためには、月経周期等、女性の身体的特性を考慮したコンディショニングサポートが非常に重要である※2-12」と提唱しています。

※2-11
三省堂『新明解国語辞典 第八版』
※2-12
須永美歌子(2017)「月経周期を考慮したコンディショニングサポート」(「女性心身医学22(2)」p.145-148)

2-6.新型コロナウイルス感染症関連の事例

2020年以降、新型コロナウイルス感染症が各報道番組で多く取り上げられましたが、「女性よりも男性の方が重症化しやすい」と耳にしたことはないでしょうか。実際に、世界的に見ると国によってばらつきがあるものの、男性の方が入院および死亡する可能性が高いことが報告されています※2-13。このように、新型コロナウイルス感染症関連のデータは男女別に収集されていることが多く、感染者数以外にも、雇用率や医療現場の状況について、性差を考慮した分析の結果が報告されています。
国際労働機関の報告によると、世界各国の雇用率は男女共に減少していますが、とりわけ若い女性(15-24歳)への影響が顕著であることが判明しました。同年代の男性と比較しても、雇用率が約2倍減少していることが報告されています(2020年末のデータ、前年比)※2-14
医療現場の状況については、世界の医療従事者の約70%、中でも患者との距離が近い看護師の約80%が女性であることから、女性の医療従事者の感染が男性の医療従事者に比べて多いことが報告されています。スペインでは、2020年4月末時点で、男性に比べて約3倍の女性の医療従事者の感染が報告されました※2-15

新型コロナウイルス感染症関連の事例

※2-13
Global Health 50/50「Men, sex, gender and COVID-19」
※2-14
国際労働機関(International Labour Organization)「An uneven and gender-unequal COVID-19 recovery: Update on gender and employment trends 2021」
※2-15
UN Women「COVID-19: Emerging gender data and why it matters」

3.各国の取り組み状況

3-1. 海外の取り組み

ジェンダード・イノベーションは、2005年にスタンフォード大学のロンダ・シービンガー教授によって提唱されました。その後、2009年からスタンフォード大学にてGendered Innovationsプロジェクトが始動し、2011年からは欧州連合、2012年からは米国国立科学財団もプロジェクトに参画しました。このプロジェクトを皮切りに、欧米諸国やアジアにジェンダード・イノベーションの概念が広まり、各国がジェンダード・イノベーション推進に向けた取り組みを開始しました。

ジェンダード・イノベーションの広がり

各国の取り組みには、大きく3つの特徴があります。
1点目は、ジェンダード・イノベーションの適用事例の紹介です。ジェンダード・イノベーションは、事例を知ることで理解を深めることができる概念です。そのため、すでにジェンダード・イノベーションが適用されている事例を紹介することは有効な取り組みといえます。前述のGendered Innovationsプロジェクトでは、スタンフォード大学のウェブサイトにて、ジェンダード・イノベーションの適用事例を整理し、公開しています※3-1。欧州では、欧州ジェンダー平等研究所が適用事例や、政策や研究等へジェンダード・イノベーションを適用する手法を紹介しています※3-2。適用手法の紹介ページでは、ジェンダード・イノベーションの観点でどのように評価すればよいかといった、評価プロセス等が整理されています。
2点目は、性差を考慮した分析を実施するための統計データの整備です。男女別のデータを有していなければ、性差を考慮した分析を実施できません。性差を考慮してデータを収集し、提供することは、ジェンダード・イノベーション推進に大きく貢献するといえます。欧州では、前述の欧州ジェンダー平等研究所がデータベースを整備しています。統計データの提供に加えて、同研究所のウェブサイトでは、誰でも簡単にジェンダード・イノベーションを適用した分析(Sex/Gender分析※3-3)が行えるように、数クリックで簡単に分析できるツールが整備されています。韓国では、科学技術研究におけるジェンダード・イノベーションを推進している機関であるGISTeR※3-4が、ジェンダード・イノベーションの紹介やSex/Gender分析のためのデータを提供しています。
3点目はジェンダード・イノベーションを適用した分析「Sex/Gender分析」を、政策や研究資金の応募要項等に組み込むことです。政策や研究資金の応募要項等に組み込むことで、半強制的に性差を考慮した研究を推進することができるため、ジェンダード・イノベーションを推進するうえで、有効な取り組みと言えます。カナダでは、2009年に性差やジェンダーを考慮した分析に係る政令が発効され※3-5、それに応じて、2010年にカナダ衛生研究所では、助成金申請者にSex/Gender分析を考慮することを求めることを定めました※3-6。欧州では、欧州連合が2012年にHorizon 2020(2014年から2020年までの研究・イノベーションに係る資金支援プログラム)にてSex/Gender分析を求めることを開始しました※3-7。その後のHorizon Europe(2021年から2027年までの研究・イノベーションに係る資金支援プログラム)では、さらに強制力を持たせるために、提案書へのSex/Gender分析に係る内容の記載を必須要件としました※3-8。そして米国では、米国国立衛生研究所が、2016年以降、公的資金による研究に生物学的変数としての性の影響の可能性を説明することを求めています※3-9

ジェンダード・イノベーション推進に向けた各国の取り組み

※3-1
スタンフォード大学「Gendered Innovations」
※3-2
欧州ジェンダー平等研究所(European Institute for Gender Equality)
※3-3
生物学的性と社会学的性を考慮した分析
※3-4
Center for Gendered Innovations in Science and Technology Researchの略
※3-5
カナダ保健省(Health Canada)「Health Portfolio Sex and Gender-Based Analysis Policy」
※3-6
カナダ衛生研究所(Canadian Institutes of Health Research)「How to integrate sex and gender into research」
※3-7
EU「establishing Horizon 2020 - the Framework Programme for Research and Innovation (2014-2020) and repealing Decision No 1982/2006/EC」
※3-8
EU「Horizon Europe, gender equality」
※3-9
米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)「NIH Policy on Sex as a Biological Variable」

3-2. 日本の取り組み

日本では、2020年12月に閣議決定した第5次男女共同参画基本計画において、「第4分野 科学技術・学術における男女共同参画の推進」で「(前略)男性の視点で行われてきた研究や開発プロセスを経た研究成果は、女性には必ずしも当てはまらず、社会に悪影響を及ぼす場合もある。体格や身体の構造と機能の違い、加齢に伴う変化など、性差等を考慮した研究・技術開発が求められる。(後略)」と、ジェンダード・イノベーションが言及され始めました※3-10
また、2021年3月に閣議決定した第6期科学技術・イノベーション基本計画では、「(前略)研究のダイバーシティの確保やジェンダード・イノベーション創出に向け、指導的立場も含め女性研究者の更なる活躍を進めるとともに、自然科学系の博士後期課程への女性の進学率が低い状況を打破することで、我が国における潜在的な知の担い手を増やしていく。(後略)」という記載があり、女性研究者を増やすことでジェンダード・イノベーションを推進していくことが提唱されています※3-11。このように日本でもジェンダード・イノベーションの推進が始動しています。日本の取り組みはまだまだ始まったばかりであり、現時点では諸外国に後れを取っています。今後、日本の研究成果の価値を高めるためには、その差を縮めていくことが重要であるといえます。

性差を考慮した研究推進に係る日本の取り組み

※3-10
内閣府男女共同参画局「第5次男女共同参画基本計画」
※3-11
内閣府「第6期科学技術・イノベーション基本計画」

4.普及に向けた課題と対策

ジェンダード・イノベーションを意識して研究開発を行うことは、SDGsが叫ばれている中、製品やソリューションのグローバルな競争力を高めることにもつながります。しかし日本では、これまで紹介したように、性差を考慮した製品やサービスの事例は出てきていますが、世間における認知度が高いとはいえません。普及に向けては2点の課題を克服していく必要があります。
1点目の課題は、性差を考慮した研究開発には、従来の倍の時間と費用がかかることです。例えば、動物実験を考えた場合、これまでオスのみで実験していたものを、メスも含めて実験するとなると、飼育の手間やスペースが倍になるうえ、データ収集、分析にも時間と費用がかかります。確実に性差による違いが出ると分からない基礎研究において、従来行ってきた実験方針を変えるのは容易ではありません。しかし海外ではすでに国全体で、Sex/Gender分析が検討されており、新たな知見も生まれています。このままでは日本のグローバルな競争力の低下が懸念されます。遅れている日本において、ジェンダード・イノベーションの促進を図るには、国全体としての支援体制が重要です。性差を考慮した研究開発への資金援助もその1つです。また産官学が連携し、Sex/Gender分析を必要とする分野の再検討や、研究基準や調達基準の見直しを行うことも必要でしょう。
2点目の課題は、一人ひとりの意識改革です。これから新しい製品やソリューションを社会に生み出していく研究開発者には、性差の観点を無視してはいけないことを意識してもらう必要があります。そのためには、さまざまな分野における事例紹介や実証実験を通して、その有用性を世間に幅広く認識してもらうことが大切です。

ジェンダード・イノベーションの推進に必要なこと

5.今後の展望

現在、各国でSDGsが叫ばれており、ジェンダー平等に向けた取り組みが行われています。今後、日本でも、グローバルな競争力の維持に向けて、ジェンダード・イノベーションは必ず取り組むべきでしょう。
性差による不公平をなくすためには、一見逆説に捉えられるかもしれませんが、性差を考慮した分析を行う必要があります。分析で性差による差異が判明した場合は、それを踏まえて、研究や商品開発を行っていく必要があります。今回ご紹介したように、実は身近なところにも性差の観点が見落とされていた事例はあります。近年、女性の健康課題をテクノロジーで解決するフェムテックが話題になっていますが、これもその1つです。これまでタブー視されがちで、周囲にも話しづらかった女性の健康の悩みに焦点を当てた結果、実は多くの女性が悩みを抱えていることが判明し、今や研究促進や新しいサービスが喫緊に求められるほど、ビジネス面でも注目されている分野となっています。
このように改めて性差を考慮し、ニーズやこれまで培った知識を再検討することで、たくさんの新しい知見やよりよいサービスが生まれていくと考えられます。ひいては一人ひとりのQoLの向上や科学技術の発展にもつながることでしょう。しかしそのためには、性差を考慮したデータ収集の促進や、Sex/Gender分析をルール化することも重要です。現在、日本は諸外国と比べてかなりその取り組みが遅れています。今後、国際社会での競争力を維持するためにも、早急に国や企業の仕組みを変革していく必要もあります。日立コンサルティングでは、SDGs達成および多様性のある社会をめざして、これからもジェンダード・イノベーションの普及に向けた活動を推進していきたいと考えています。

本コラム執筆コンサルタント

坂井 七海 株式会社 日立コンサルティング コンサルタント

佐藤 仁奈 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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