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株式会社 日立コンサルティング

軽減税率導入の是非を問う

佐藤 千鶴子(さとう ちづこ)
株式会社 日立コンサルティング シニアコンサルタント

2014年7月3日

消費増税に伴い、低所得者ほど収入に対する生活必需品の購入費割合が高いため、高所得者と比して税負担率が大きくなる「逆進性」問題が取りざたされている。その問題に対し、生活必需品等の消費税率を軽減する、「軽減税率」制度導入に向けた議論が今まさに行われている。しかしながら、この議論は適切な国民の理解を得た上で進められているのだろうか。国内外を含めた多くの有識者が反対意見を示しているにもかかわらず、制度導入に向けた具体的議論がされているのはなぜだろうか。軽減税率は、国民の生活必需品を含めた消費活動に影響を与える制度である。そこで、今回は軽減税率制度導入に向けた議論の背景、制度導入の目的、制度の有益性等をふまえ、軽減税率導入の是非を考えたい。

軽減税率議論の背景

軽減税率議論が行われている所以は2012年8月に成立した消費増税法*1である。同法第7条では、低所得者に配慮する観点から、「複数税率*2」や「給付付き税額控除*3」の導入について検討する、と定められている。それを受け「平成26年度与党税制改正大綱」には「消費税10%時に軽減税率導入」が掲げられ、現在実現に向けた活発な議論が行われている。今回のコラムではその軽減税率について考えたい。尚、「逆進性」のもう一つの対策方法として挙げられた上記「給付付き税額控除」の検討については、現時点では公の場での議論はされていないと認識している、本論については第3回コラムで取り上げることとする。

*1
正式名は「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」
*2
軽減税率の別名
*3
「給付付き税額控除」とは、低所得者層を対象に、資産や所得状況を鑑み、税額控除を行う仕組みであり、欧米等の諸外国で多く導入されている制度である。

与党税制協議会では何が議論されているのか

与党税制協議会は「税率10%時」の導入に向けて、軽減税率対象品目の線引き、財政への影響、区分経理*4の在り方等を検討している。2014年6月5日に行われた与党税制協議会の報告書*5では、軽減税率対象品目の線引きの方法として8つのパターンが示された。軽減税率対象を飲食料品分野に限定し、全飲食料品からいくつかの商品分類を対象から除外していく形で示される。
一番のポイントは商品分類の線引き、定義付けの複雑性である。例えば、同一製品で食用と非食用があるような製品の場合(観賞用と食用がある菊、栽培用と食用があるジャガイモ等)、標準あるいは軽減のどちらの税率を適用すべきか判断が困難となる。これらは事業者の業務負荷増大につながると筆者は考える。
また、パターンごとの財源へのインパクトも重要なポイントである。全ての飲食料品を軽減税率対象とした場合、1%の軽減税率適用で6,600億円の税収減となる。

*4
「区分経理」とは、標準税率、軽減税率を品目ごとに区分して経理処理する方式を指す。
*5
与党税制協議会のまとめ資料「消費税の軽減税率に関する検討について」(平成26年6月5日)

図解
表1: 軽減税率対象品目の線引きパターン

国内外からの忠告 軽減税率は「逆進性」対策のためにならず 日本の税制が後退する!?
政府税制調査会での議論

政府税制調査会では、軽減税率の導入是非等について議論が行われている。2014年6月11日に行われた第9回政府税制調査会では、総勢18名の有識者が意見交わし、内16名が強い反対意見*6を示した。以下に主な意見を紹介したい。

まず、制度導入の目的である「逆進性」対策にならない、との意見が主論である。より多くの消費活動を行う高所得者層にも同様の恩恵が与えられることから、「逆進性」対策として非効率である、と言う意見である。更に、「逆進性」対策ならば、給付付き税額控除の方が効果的だ、との意見も多く見受けられる。
また、そもそも消費増税は社会保障費の財源確保のために実行されたにもかかわらず税収減の措置を施すメリットが無い、との意見も出されている。
更には、制度導入で期待される効果が期待できないだけではなく、「事業者への業務負荷の増加」、「徴税コストの増加」、「制度が複雑化する程不公平、不正の温床になり得る」等、軽減税率導入によって新たに引き起こされる問題についても言及された。

*6
第9回 税制調査会終了後の記者会見議事録」より

図解
表2: 軽減税率導入に対する主な反対意見

海外の有識者からの忠告

では、軽減税率が古くから導入されているEU等の先進国では、馴染みの深い軽減税率をどう評価しているのか。
OECDが2014年4月に開催した「消費税グローバルフォーラム」において、サンタマンOECD租税センター局長は、「軽減税率はむしろ高所得者がメリットを受け、逆進性を更に増幅させてしまう」、と強調している。
また、マーリーズ・レビュー*7では、軽減税率適用対象を一度認めると類似製品や類似理由による対象範囲拡大を引き起こし、税体系の調整が損なわれやすいことが指摘されている。更に、最近VAT(日本でいう消費税)を導入した国*8のほとんどがEUの教訓を取り入れ軽減税率未導入であること、一度軽減税率が導入されると単一税率に容易に戻ることはできないこと等、軽減税率を否定する意見が記されている。
上記の通り、国内外の有識者の多くが軽減税率に反対の姿勢を示す中、今日本が軽減税率を導入する必要はあるのだろうか。

*7
「マーリーズ・レビュー」とは、ノーベル経済学者ジェームズ・マーリーズ卿を座長とする民間シンクタンク Institute for Fiscal Studiesの研究グループによって行われたイギリスの税制改革の提言レポート「Value Added Tax Excises」(Ian Crawford, Michael Keen, and Stephen Smith)より
*8
オーストラリア、ニュージーランド、新興国等

まとめに代えて:日本の将来的な消費税制適正化のために

国内外有識者の意見をふまえ、軽減税率の是非について再度議論し直すべきであることを強く訴えたい。まず、軽減税率は消費増税によって引き起こされる「逆進性」対策として非効率である。それだけでなく、税収減、事業者への業務負荷、徴税コストの増加、運用の複雑化など、制度導入によって今までに無かった新たな問題を引き起こす可能性が高い。よって、消費増税法(7条)の記載に則り、代替施策である給付付き税額控除についても軽減税率と同等レベルの議論が進められるべきである。
そして最後になるが、消費増税に伴い対策を要するのは「逆進性」だけであろうか。筆者は増税によって拡大する「益税」の問題を看過してはならないと考える。次回第2回のコラムでその問題と解決策について触れることとし、第1回コラムの結びとする。

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佐藤 千鶴子(さとう ちづこ
株式会社 日立コンサルティング シニアコンサルタント

我が国の社会保障給付額は年間100兆円、政府債務残高は1200兆円を超えています。超高齢化社会を迎え、持続可能な社会保障制度の確立、財政健全化を同時達成させるため、今まさに大改革が必要です。
本コラムでは、税制改革を中心に、現場の視点で問題点や解決策をご紹介します。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。