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株式会社 日立コンサルティング

消費税還付制度の優位性(執筆:吉識)

吉識 宗佳(よしき もとよし)

2014年12月5日

1. 消費税還付制度とは

現在、当初2015年10月に予定されていた消費税10%への増税は、2017年4月へ先送りすることが議論されている。同時に、与党を中心に、消費税増税時に軽減税率(複数税率)を導入することが検討されている。しかし、軽減税率は真に導入すべき施策と言えるであろうか。

消費税増税時には、高所得者よりも低所得者のほうが、収入に占める消費税の負担割合が増加する。食料品への軽減税率適用は、このような低所得者の負担増(逆進性)への対策が本来果たすべき目的である。(第1回コラム参照)。しかし、軽減税率は、消費税増税に伴う低所得者対策として唯一のものではなく、消費税還付制度(給付付き税額控除)も有力な候補である。2012年8月に成立した消費税法の改正法第7条には、軽減税率に加えて、給付付き税額控除についても番号制度の定着を前提に検討する旨が記載されている。

消費税還付制度は、低所得者に対して給付または税・社会保険料納付と給付分との相殺をおこない、低所得者の税負担を軽減する仕組みである。また、消費税還付制度の目的は消費税増税に伴う低所得者対策だけではなく、子育て支援や就労支援を目的とする例もある。アメリカ、イギリス、カナダ、韓国など、海外の多くの国で消費税還付制度が導入されている*1

そこで本稿では、中央大学大学院法務研究科の森信茂樹教授にご指導をいただき検討を進めている消費税還付制度の効果と実現策についてご紹介する。

*1
「給付付き税額控除 具体案の提言」(東京財団、2010)

2. 軽減税率と消費税還付制度の比較

ここでは、消費税増税に伴う低所得者対策の効果という観点から、軽減税率と消費税還付制度を比較する。

軽減税率については、本コラム第1回でも内容や検討状況を紹介した。食料品等の対象品目に通常の税率よりも低い税率を摘要する制度である。

例えば生鮮食料品を対象として税率7%(通常税率10%)の軽減税率を導入すると、消費税の負担軽減額は、低所得者層(世帯年収200万円未満)で年間約6,000円、高所得者層(世帯年収1,000〜1,250万円)で年間約8,500円となる*2。つまり、低所得者ではなく高所得者により多くの負担軽減の恩恵がある。

これに対し、消費税還付制度では、給付対象を所得が低い世帯に限定する。対策が低所得者に限定されているおかげで、軽減税率と同程度の財源であっても、低所得者の負担軽減効果を大きくすることが可能である。

例として、消費税率10%時を想定して、世帯年収が300万円未満の世帯に対して一人当たり年間3万円、世帯年収が300万円〜400万円の世帯に対して一人当たり年間1.5万円を給付する案を考える*2。この場合、世帯年収300万円未満の夫婦と子供一人の三人世帯では、給付額(負担削減額)は9万円となる。

軽減税率と消費税還付制度の負担軽減効果を、夫婦と子供一人世帯を例としてとりあげ、全ての年収帯について比較した(図1)*2

*2
平成21年度全国消費実態調査を基に試算。比較のため、軽減税率実施に必要な財源額が消費税還付制度と同程度となるように、軽減税率の税率を7%とした(財務省試算から1%あたり財源1,800億円とすると、財源5,400億円)。一方、消費税還付制度では、世帯年収300万円未満の世帯に家族一人あたり3万円、世帯年収300万円以上400万円未満の世帯に家族一人あたり1.5万円の給付を行う試案を考える(世帯年収400万円以上の世帯へは給付を行わない)。なお、生活保護の給付額は消費税増額に伴って増額される。また、年金給付額も消費税増税の影響が加味される。そこで、年金受給者や生活保護被保護者は給付対象外とする。この場合必要な財源額は5,000億円弱となる。

図1
図1:軽減税率と消費税還付制度の負担軽減効果比較

軽減税率導入時の消費税負担(青線)は、全ての年収帯で、税率10%時の負担(緑線)からわずかにさがっているのみである。一方で、消費税還付制度(赤線)では、低所得者の消費税負担が中所得者と同程度まで効果的に下がっていることがわかる。

このように、消費税還付制度は、給付対象を低所得者に絞り込む事が出来、かつ効果的に負担を軽減するという特徴を持つ。つまり、軽減税率と比較して真に必要とする者の負担軽減に資する制度であると言える。このような特徴は、現在進められている社会保障・税の一体改革において、「真に手を差し伸べるべき者」に対してきめ細やかな対策を行うとした方針とも一致している。

3. 消費税還付制度の実現に向けて

次に、消費税還付制度の実現イメージ(試案)を検討する。

消費税増税時の低所得者対策としては、2014年4月に消費税率が8%となったことをうけて、既に「臨時福祉給付金(簡素な給付措置)」が実施された。これは、住民税の非課税者のうち課税者に扶養されていない者に、一人あたり1万円(高齢者などは1.5万円)の給付を行う制度である。

臨時福祉給付金では、住民税の確定後、各自治体によって対象者への勧奨や審査、給付が実施されている。消費税還付制度も、臨時福祉給付金と似た執行プロセスで実施できると考えられることから、いったん自治体での制度の執行を仮定して消費税還付制度の具体策イメージを図示した(図2)。

消費税還付制度の給付にあたっては、まず、所得税や住民税の確定後(毎年4〜5月頃)に給付対象候補者を抽出し、勧奨を行う。勧奨対象者の抽出の際には、人の所得からマイナンバーを用いて世帯の所得を合算し、所得が低い世帯を選ぶことが考えられる。そして、勧奨対象者からの申請をうけて審査を行い、給付額を確定させる(毎年6月以降)。

図2
図2:消費税還付制度の手続き(案)

ここで、勧奨対象者の抽出の際に所得の世帯合算をするのは、家族の経済力をより適正に評価することができるからである。例えば、夫の年収が200万円で妻の年収が200万円の家庭と、夫の年収が300万円(妻の年収はなし)の家庭を比較するためには、世帯全体で合算した年収を計算する必要がある。マイナンバーを用いることで、このような世帯合算を効率的に行うことが可能となる。マイナンバーが導入されようとしている今、消費税還付制度の導入にとっても好機が到来していると言える。

4. 終わりに

消費税増税に伴う低所得者対策として、現在議論が行われている軽減税率(複数税率)に加え、消費税還付制度が有力な候補となる。上記で説明した通り、消費税還付制度は、軽減税率と同規模の財源であっても、低所得者に対してより効果的に負担軽減を実施することができる。また、既に「簡素な給付措置」が実施されている実績があり、仕組みに類似点がある消費税還付制度も十分実施できると考えられる。このため、今後の低所得者対策の議論を進めるうえで、消費税還付制度も、有力オプションの一つとして俎上に載せるべきである。

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吉識 宗佳(よしき もとよし)

我が国の社会保障給付額は年間100兆円、政府債務残高は1200兆円を超えています。超高齢化社会を迎え、持続可能な社会保障制度の確立、財政健全化を同時達成させるため、今まさに大改革が必要です。
本コラムでは、税制改革を中心に、現場の視点で問題点や解決策をご紹介します。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。