2021年2月24日
国立大学法人京都大学
株式会社日立コンサルティング
今般の新型コロナウイルス感染拡大がもたらした社会変化を通じ、日本社会は“ポストコロナ社会”という新時代を迎えようとしています。こうした背景から、国立大学法人京都大学(総長:湊 長博/以下、京都大学) こころの未来研究センター 広井良典教授と、株式会社日立コンサルティング(代表取締役 取締役社長:八尋 俊英/以下、日立コンサルティング)は、株式会社日立製作所(執行役社長兼CEO:東原 敏昭/以下、日立製作所)で開発したAIの技術を活用し、2050年までを視野に入れた“ポストコロナ社会”の展望と望ましい未来に向けた政策研究を行いました。
本研究では、京都大学と日立製作所が2017年に発表した「AIの活用により、持続可能な日本の未来に向けた政策を提言」のシミュレーション手法に沿って検討を進め、ポストコロナ社会のありうる未来像を網羅的に列挙するとともに、望ましい未来シナリオを特定し、そこに到達するために重要となる政策を提言として取りまとめました。
具体的には、ポストコロナ社会における望ましい未来と考えられる「都市・地方共存型シナリオ」を実現していくには、女性の活躍を含む、働き方・生き方の「分散型」社会と呼べる社会の実現と、それを可能とする政策を実施していく必要があることを提言しました。今後は、本研究の成果を活用して、様々な分野の未来シナリオ導出・政策提言に役立てていく予定です。
図 ポストコロナ社会における未来シナリオの分岐
世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス(COVID-19)が、日本にもたらされてから早1年が経過しました。未だに感染の終息が見えない一方で、新型コロナウイルスがもたらした社会変化を通じ、日本社会は大きな変革期を経て、新たな“ポストコロナ社会”を迎えようとしています。
こうした背景から、京都大学こころの未来研究センター(広井良典教授)、日立コンサルティング(スマート社会基盤コンサルティング第2本部)は、日立製作所で開発した「AIを活用した未来予測と政策提言手法」により、2050年までを視野に入れた“ポストコロナ社会”の未来シナリオを導出し、望ましい未来に向けた政策研究を行いました。
本研究では、京都大学と日立製作所が2017年に発表した「AIの活用により、持続可能な日本の未来に向けた政策を提言」のシミュレーション手法に沿って検討を進めました。
まず、「高齢人口」や「有効求人倍率」といった社会を構成する一般的な社会指標をベースに、「サテライトオフィス導入企業数」のようなコロナ禍によって社会に影響を与えると想定される指標を加え、計347個の社会指標から構成される「ポストコロナ社会の因果連関モデル」を構築しました。
その後、2020年から2050年までの30年間を対象とするポストコロナ社会の未来について、AIを用いてシミュレーションを行い、約2万通りの未来シナリオを導出するとともに、それらを大きく6つのシナリオグループに分類しました。その結果、ポストコロナの日本社会は、「一極集中が加速し人口減少が進むグループ」と「地方分散が進み人口減少が改善するグループ」にまず分岐し、さらに後者のグループは「地方分散が徹底していくグループ」と「東京と地方がともに共存するグループ」に分かれることが示されました。そして、シナリオグループが分岐するタイミング毎に、その分岐要因(所定の分岐方向に進むために大きな影響を及ぼす指標)を解析しました。
これらの解析結果を基に、ポストコロナ社会の望ましい未来シナリオグループを特定するとともに、そのシナリオグループへ到達するために、いつ・どのような政策に取り組むことが重要になるのかにつき、提言として取りまとめました。
今回導出した未来シナリオと、それに基づく政策提言は以下の通りです。
2024年頃に、集中加速・人口減少グループと集中緩和・人口改善グループとの分岐が発生し、以降は両グループが再び交わることはない。持続可能性の観点から望ましいと考えられる後者への分岐を実現するには、共働き世帯の増加やサテライトオフィスの充実、女性の給与改善等が重要であることが分析結果として示されたことから、女性の活躍や「多様な働き方」を推し進める政策が有効である。
2028年に、集中緩和・人口改善グループのうち、地方分散徹底グループと都市・地方共存グループとの分岐が発生し、以降は両グループが再び交わることはない。東京と地方がともに繁栄し、「集中と分散のバランス」の観点からより望ましいと考えられる都市・地方共存グループへの分岐を実現するには、農業を含む地方における次世代の担い手の維持・育成支援に関する政策や、元気な高齢者を増やして東京圏の活気と自立性を維持する(高齢者が活躍する街づくり)政策が有効である。
都市・地方共存グループは、地方分散徹底グループに比べると相対的に優れているが、Ⅱで述べた分岐の後に、望ましくないシナリオグループに進む可能性がある。こうした分岐は2040年頃までに発生し、望ましい都市・地方共存グループへの分岐を実現するには、女性の給与改善や共働き世帯の増加、仕事と家庭の両立、男性の育児休業取得率の上昇等が重要であることが分析結果として示されたことから、Ⅰの分岐と同様に、女性の活躍や「多様な働き方」を推し進める政策を継続的に実行する必要がある。
今後は、本研究の成果を活用して、様々な分野の未来シナリオ導出・政策提言に役立てていく予定です。
広井 良典(ひろい よしのり)
京都大学 こころの未来研究センター 教授
TEL:075-753-9672
e-mail:hiroi.yoshinori.5u@kyoto-u.ac.jp
大谷 和也(おおたに かずや)
株式会社日立コンサルティング スマート社会基盤コンサルティング第2本部 シニアマネージャー
青木 健悟(あおき けんご)
株式会社日立コンサルティング スマート社会基盤コンサルティング第2本部 コンサルタント
TEL:03-6779-5500