2021年9月3日
今後、デジタル社会が進展するとどうなるのか。会社から行政、生活まであらゆる業務やサービスがデジタル上で提供されるようになる。全部が全部ではないものの、情報システムやアプリケーションを開発しないと物事は始まらないし、進まなくなるのである。
一方、世の中はめまぐるしく変化し、災害や感染症など不測の事態も頻発している。従来のように時間をかけてソフトウエアやシステムを開発していたのでは間に合わないし、様々な業務が滞ってしまう。そうしたことを世界の人々が感じたのが、新型コロナウイルス禍だ。台湾など迅速にアプリを開発し、新型コロナ禍に柔軟に対応した地域や国が話題になった。
どうすればよいのだろうか。ソフトウエアの開発の仕方を大きく変えることである。その答えの一つが「アジャイル開発」だ。アジャイルは俊敏性を意味する言葉で、時間をかけて完璧にする「巧遅」を目指すより、「拙速」でいいので早く出すことを優先し、使いながら改良を重ねて完成度を高めていく開発手法のことである。
日本でも新型コロナ禍でのアジャイル開発の成功例がある。東京都が2020年3月に開設した「新型コロナウイルス感染症対策サイト」である。分かりやすく使いやすいうえに、約1週間という「爆速」でサイトを構築したことも注目を集めた。報道などによると、サイト開設後も約1カ月で1000回以上修正するなど絶えず改良しており、アジャイル開発の典型例といえる。
システム会社や大きな企業・組織だけの話ではない。組織や企業の大小を問わず、デジタル化はいや応なしにやってくる。現代の企業にとって、変化に対応していち早く社会へ商品・サービスを提供し、組織を維持・管理するには、アジャイル開発は欠かせない状況になりつつある。すでに多くの企業が取り組みを始めている。
国もアジャイル開発を後押しし始めている。経済産業省が日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進のために20年12月に発表した「DXレポート2(中間とりまとめ)」で、アジャイル開発体制を構築すべきだと指摘している。
社会に浸透し始めたアジャイル開発であるが、導入に二の足を踏む企業・組織も多いのも事実である。これまで実施してきた、全体設計してから計画通りに開発を進めていく「ウオーターフォール型」のシステム開発から脱却して、簡単にアジャイル開発を実践できるものなのであろうか。
上記の答えはイエスでありノーである。イエスである理由は、システム設計やプログラミング、テストなど具体的は作業が変わらないからである。
では、なぜノーなのか。長い間に習慣づけられてきた価値基準を180度変えなければいけないからである。アジャイル開発の価値基準はこれまで重視されていた「プロセス」や「ドキュメント」「契約関係」「計画順守」とは大きく異なる。どうすればノーをイエスに変えられるのか。連載でそのヒントを解説していきたい。
アジャイル開発をすぐ実践できる? |
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イエス |
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ノー |
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高橋 規生 株式会社 日立コンサルティング マネージャー
※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。