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AIと予測するポストコロナの未来
〜ポストコロナにおける新たな分散型社会とは〜

青木 健悟株式会社 日立コンサルティング コンサルタント

2021年6月14日

はじめに

世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が、日本にもたらされて1年が経過した。いまだに感染の終息が見えない一方で、新型コロナウイルスの感染拡大を機に起こった社会変化は、日本にも大きな影響を与え、withコロナという変革を経て、新たに“ポストコロナ社会”を迎えようとしている。
こうした背景から、国立大学法人京都大学(以降、京都大学)こころの未来研究センター(広井良典教授)および株式会社日立コンサルティング(スマート社会基盤コンサルティング第2本部)は、株式会社日立製作所が開発した「AIを活用した未来予測と政策提言手法」により、2050年までを視野に入れた“ポストコロナ社会”の未来シナリオを導出し、望ましい未来に向けた政策研究を行い、その成果をプレスリリース※1で発表した。その中で、「都市・地方共存型シナリオ(シナリオ6)」こそがポストコロナ社会における望ましい未来であると考えられ、そのシナリオの実現には、女性の活躍を含む、働き方・生き方の「分散型」社会と呼べる社会の実現と、それを可能とする政策を実施していく必要があることを提言した。
このコラムでは、本研究における検討プロセスの詳細説明に加え、働き方・生き方の「分散型」社会について、従来の分散化との違いなどを明らかにしつつ、具体化を試みる。

※1:
2021年2月24日、京都大学とプレスリリースを発表

1. 人間とAIが導き出したポストコロナ社会の未来

(1) 本研究手法について

まず、2021年2月24日に発表したプレスリリースの内容について簡単に振り返る。
本研究では、京都大学と日立製作所が2017年に発表した「AIの活用により、持続可能な日本の未来に向けた政策を提言※2」のシミュレーション手法に沿って検討を進め、ポストコロナ社会のありえる未来像を網羅的に列挙するとともに、望ましい未来シナリオを特定し、そこに到達するために重要となる政策を提言として取りまとめた。
具体的には、以下(図表1)のように、3ステージを経て、ポストコロナ社会における政策の検討を進めた。以降、各ステージの詳細を順に説明する。

※2:
2017年9月5日、京都大学と日立製作所がプレスリリースを発表

図表1:本研究 実施の手順
図表1:本研究 実施の手順

(2) 本研究における政策の検討プロセス

① 情報収集ステージ

【概説】
情報収集ステージは、前述したシミュレーションを行うための準備段階に位置づけられる。具体的には、シミュレーションのインプットデータとなる「モデル」を構築する段階である。このモデルは、言いかえると「コロナ禍を経験した日本社会の縮図」のようなものである。

【検討の流れ】
モデルを構築するにあたり、まずは、日本社会を構成する要素(本研究では、「指標」と呼称している)を調査・収集し、それらの指標を計14分野(人口、財政、地域、自然環境、雇用、子育て、教育、産業、交通、社会インフラ、医療福祉、観光、格差、幸福)にカテゴライズした。なお、本研究における具体的な指標は、過去の取り組みで用いた指標をはじめ、「官公庁資料・統計データ(1999〜2018年の計20年間分のデータ)」や「民間企業(シンクタンクなど)レポート」などから収集した。

次は、モデルの構築、具体的には指標同士の結び付け(因果関係の定義)である。本研究における指標間の因果関係を定義する手法には、「主に回帰分析による機械的手法」と「本研究参画メンバーおよび有識者による人的手法」の2つがある。この2つの手法で、指標間の因果関係を定義し、指標どうしを結び付けることにより、くもの巣のようなモデル(本研究では、「因果連関モデル」と呼称している)を構築した(図表2)。

図表2:「ポストコロナ社会」因果連関モデル 構築の手順

*当該モデルにおける指標間の因果関係は、あくまで本研究内における定義である。

図表2:「ポストコロナ社会」因果連関モデル 構築の手順

② 選択肢検討ステージ

【概説】
選択肢検討ステージは、「因果連関モデル」をインプットとするAIによるシミュレーションの実施・シミュレーション結果の整理段階に位置づけられる。
具体的には、日立製作所が開発したAIに「因果連関モデル」を取り込み、約2万通りの未来シナリオをシミュレーションすることで、「ポストコロナ社会における日本の未来像」における選択肢を導き出し、その中から望ましい未来像の候補を選定した。

【検討の流れ】
まずは「シナリオ分岐木」を作成した。これは、AIが導出した約2万通りのシナリオを、シミュレーション期間の最終点である2050年1月において、各指標の変化が類似しているシナリオグループごとに本研究メンバーで分類することから始める。そのうえで、各シナリオグループの分岐点(=分岐したシナリオグループが、二度と交わらなくなるタイミング)を特定することで作成できる。
本研究では、2024年ごろに最初の分岐が生じ、その後、さらに数回の分岐を経て、ポストコロナ社会の未来像候補を、最終的に6つのシナリオグループに分類することができた(図表3)。

図表3:シナリオ分岐木イメージ
図表3:シナリオ分岐木イメージ

続いて、6つのシナリオグループのシミュレーション結果を読み解き、詳細な評価を実施した。
それぞれのシナリオがどのような社会を表しているのか、モデルを構成する指標の分野(計14分野)別に、指標の増減を分析し、2020年(シミュレーション開始時点)よりも良くなるか、悪くなるかという評価結果を記号(◎、○、△、×)で整理した。
各分野の評価結果は、以下(図表4)のとおりである。

図表4:各分野のシナリオ評価結果
図表4:各分野のシナリオ評価結果

評価結果から、すべての分野の指標が向上するシナリオグループはなく、いずれも一長一短な特徴を有することが分かる。その中でも、「グループ3」および「グループ6」のシナリオグループは、2020年時点よりも全体的に良くなる指標が多いことが確認できた。
さらに、各グループの指標の変化を詳しく分析し、2050年時点で、各グループの特徴を整理した結果を以下(図表5)に示す。

図表5:各シナリオグループの特徴
図表5:各シナリオグループの特徴

ここでは特に、先の評価結果において全体的に良くなる指標が多かった2つのシナリオグループに注目する。
まず、「グループ3」の特徴を解説する。こちらでは、人口減少の一途をたどる日本において、地方圏の出生率が向上するといったポジティブな特徴を有している。加えて、女性・高齢者・障がい者を含む「就業者数(地方圏)」など、地方圏の項目が軒並み向上し、幸福度も高く、東京一極集中型の社会とは異なり、ずいぶんと地方圏が繁栄する特徴も有している。一方で、地方圏の第一次産業の衰退が見受けられることも、このシナリオグループにおける重要な特徴の一つである。こうした、地方分散が徹底的に進行する特徴を踏まえ、当該グループを“地方分散徹底型シナリオ”と呼ぶ。
次に、「グループ6」の特徴を解説する。こちらのグループで注目すべき特徴の一つは、グループ3との類似点が多いことである。そのため、グループ6においても、向上する指標群(出生率や就業者数に関わる指標など)が似通っており、なおかつシナリオ全体の幸福度が高いといった特徴も有している。一方で、グループ6のみが有する特徴もあり、その中でも、東京圏と地方圏の項目のバランスが取れている(指標が向上している)、つまり、東京圏と地方圏が共存していることが、非常に重要かつ注目すべき特徴である。そのため、グループ3ではネガティブな特徴として挙げていた地方圏の第一次産業についても、グループ6では向上する結果となっている。ただし、起業家数・消費支出などが、グループ3よりも軒並み少ないことから、やや慎重な志向が読み取れる。こうした、東京圏と地方圏がともに発展していくような特徴を踏まえ、当該グループを“都市・地方共存型シナリオ”と呼ぶ。
以上の特徴からも、これら2つのシナリオグループが、全体的にパフォーマンスが高い、望ましいと考えることができる。

③ 戦略選択ステージ

【概説】
戦略選択ステージは、AIによるシミュレーション結果「分岐要因分析結果」を基に、「ポストコロナ社会の望ましい未来像候補」に行き着くためにいつごろ、どのような政策が必要となるのか、提言内容を取りまとめる段階に位置づけられる。
具体的には、シナリオの分岐タイミングを表現した分岐木と、ポストコロナ社会の望ましい未来像候補(グループ3、6)それぞれのシナリオグループに行き着くためには、分岐ごとにどのような政策を実施するべきなのか、AIによるシミュレーションのアウトプットデータ「分岐要因分析データ」から読み解いた。その結果を踏まえ、めざすべきポストコロナ社会の未来像を決定し、そこから考えられる政策を提言内容として取りまとめた。

【検討の流れ】
ポストコロナ社会の望ましい未来シナリオグループ(グループ3、6)に到達するための分岐点に着目し、その時点でどのような政策に取り組むことが重要になるのか、分析・考察した内容について解説する。
まずは、グループ3の各分岐点における要因分析について解説する(図表6)。

図表6:グループ3の分岐要因解析結果
図表6:グループ3の分岐要因解析結果

<分岐点1>
この分岐点は、「集中加速・人口減少グループ」か「集中緩和・人口改善グループ」の分かれ道となっている。
上記の図において、分岐点1にひも付いた「影響を及ぼす指標トップ10」を見ると、「共働き世帯数」「女性の所定内給与額」「サテライトオフィス導入企業数」が挙げられている点が注目すべきポイントとなる。これらはいずれも“働き方”に関わる指標であることから、分岐点1で望ましい方向へ進むためには「多様な働き方」「女性の活躍」の推進に係る取り組みが重要になることが確認できる。
<分岐点2>
この分岐点は、望ましいシナリオグループである「グループ3」と「グループ6」が分かれる重要な分岐点である。まずは、グループ3の方向に進むために大きな影響を及ぼす要因と必要な取り組みについて解説する。
上記の図において、分岐点2にひも付いた「影響を及ぼす指標トップ10」を見ると、分岐点1でも挙げた「共働き世帯数」「サテライトオフィス導入企業数」に加え、「就業者に占める非正規の職員・従業員数」が挙げられていることから、分岐点2でグループ3の方向へ進むためには、さらなる「多様な働き方」の推進が重要になると読み取れる。
なお、「入院・外来の患者数」や「1人あたりの平均年間総実労働時間数」が指標トップ10として挙げられていることから、誰もがフレキシブルに働ける一方で、労働時間の増加とそれに伴う疾病や医療の利用が増えるという負の側面を持つことも読み取れる。

続いて、グループ6の各分岐点における要因分析について解説する(図表7)。

図表7:グループ6の分岐要因解析結果
図表7:グループ6の分岐要因解析結果

<分岐点1>
*当該分岐における要因分析結果は、グループ3と同様である。
<分岐点2>
まず、先のグループ3でも言及した分岐点2について、今回は、グループ4〜6の方向に進むために大きな影響を及ぼす要因と必要な取り組みについて解説する。
上記の図において、分岐点2にひも付いた「影響を及ぼす指標トップ10」を見ると、「東京圏」に係る指標と、「地方圏」に係る指標がそれぞれ含まれている点が特徴的である。
具体的には、地方圏に係る指標として、「小規模集落数」や「地方圏の生産人口」が挙げられていることから、農業を含む次世代の担い手の維持・育成支援を推進することが重要と考えられる。
また、東京圏に係る指標として、「東京圏における人口集中地区面積、健康寿命、高齢人口」が挙げられていることから、東京圏において、元気な高齢者を増やして活気と自立性の維持をめざすことも重要と考えられる。
したがって、分岐点2でグループ4〜6の方向へ進むためには「集中と分散のバランス」が非常に重要であり、東京圏と地方圏の共存に向けた取り組みが求められると解釈できる。
<分岐点4>
この分岐では、グループ6に進むために大きな影響を及ぼす要因と必要な取り組みについて解説する。
図表7において、分岐点2にひも付いた「影響を及ぼす指標トップ10」を見ると、分岐点1に引き続き、「共働き世帯数」「女性の所定内給与額」が挙げられていることや、「就業者に占める非正規職員、従業員数」が挙げられていることから、「多様な働き方」「女性の活躍」の継続的な推進が必要になると読み取れる。
加えて、この分岐では、「仕事と家庭の両立具合」「3次活動(いわゆる『余暇時間』)」「男性の育児休業取得率」など、就業者の「ワークライフバランスの維持・向上」に係る指標が挙げられていることから、「仕事と家庭の両立」を意識した雇用支援が重要になると解釈できる。

最後に、これまでに導き出した各シナリオ評価結果や分岐ごとの要因分析結果を踏まえ、「グループ3の“地方分散徹底型シナリオ”」と「グループ6の“都市・地方共存型シナリオ”」を比較し、ポストコロナ社会において、より望ましいシナリオグループを決定した。

図表8:グループ3とグループ6の比較
図表8:グループ3とグループ6の比較

図表8において、どちらのシナリオグループも甲乙つけがたいが、「集中と分散のバランス」や、「仕事と家庭のバランス」が確保されている点に注目し、「グループ6の“都市・地方共存型シナリオ”」を、本研究において、ポストコロナ社会における望ましいシナリオと位置づけることとした。
この結果を踏まえて、前述したプレスリリースで提言したのが、「グループ6の“都市・地方共存型シナリオ”」に向かうための3つの政策である(図表9)。

図表9:「グループ6の“都市・地方共存型シナリオ”」に向かうための提言
図表9:「グループ6の“都市・地方共存型シナリオ”」に向かうための提言

前述のとおり、本研究では、グループ6「都市・地方共存型シナリオ」がポストコロナ社会のめざすべき姿であり、そのシナリオの実現には、女性の活躍を含む、働き方・生き方の「分散型」社会と呼べる社会の実現と、それを可能とする政策を実施するよう提言した。
次章からは、「働き方・生き方の分散型社会」とはどのような社会なのか、考察を深めていく。

2. ポストコロナ社会で生じる新たな「分散化」

(1) 分散化の歴史と今後の展望

ここからは、プレスリリースで触れた「働き方・生き方の分散型社会」について考察する。
すでにご存じの方も多いと思うが、一極集中から地方分散へ移行すべきという議論自体は、コロナ禍以前から存在していた。
具体的には、戦後の日本は「農業中心から工業中心へ」という産業構造の変革を急速に進めてきた。その結果、昭和時代に地方圏から東京圏への人口流出が進み、一極集中社会を形成した。そして、この地方圏からの人口流出の影響は、徐々に地方圏をむしばみ、地方都市の空洞化・シャッター化という課題を生み出した。日本政府としても、課題解決に向けて「国会・中央省庁等の首都機能移転」など、地方分散に向けた取り組みを構想したが、それらが実現しなかったことは、今日の一極集中社会の継続が物語っている。
しかし、こうした社会の姿は、決して国政の失敗が原因ではなく、むしろ工業中心の社会を是とする国政が成功したために生じたと考えられる。昭和時代に味わった「成功体験」は、確かに、日本社会に経済的な豊かさをもたらし、一時は米国を抜くGDP世界第一位の「経済大国」という称号を勝ち取る等、まさに奇跡的な戦後復興をもたらした。だからこそ、こうした成功体験に逆行する「地方分散」の動きは受け入れ難く、長きにわたって首都機能移転などといった政策が実らず、それほど浸透しなかった。
そして、新型コロナウイルスの感染拡大により、一極集中のぜい弱性が露呈すると、昭和時代の「成功体験」に縛られていた多くの国民も、それを認知・実感することとなった。
一極集中のぜい弱性のうち、コロナ禍で特に注目を集めたのが“3密(密閉、密集、密接)”の常態化である。“3密”は、厚生労働省が掲げた標語であり、3密回避こそが、新型コロナウイルスの感染拡大を抑止するための生活様式の一つとされている。しかし、東京圏のような一極集中社会では、“3密”が常態化しているため、地方圏と比べると群を抜いて人口に占める感染者数の割合が高くなっている。具体的には、100万人当たりの感染者数を見ると、地方圏は“約3,200人”である一方で、東京都を含む一都三県では“約6,700人”と倍以上の数値※3である。同じ一極集中型社会の米国が、2021年4月時点で全世界感染者数の約2割強(約3,100万人)を占めており、国内人口に占める感染者の割合が非常に高いことからも、3密の常態化が原因の一つであることは想像に難くない。
そして、大都市のもろさを目の当たりにしたコロナ禍の今、“3密”などのリスクを回避するために、東京圏在住の人々を中心に地方移住や本社機能移転などの流れが活発化するなど、地方分散は再び注目を集めつつある。
それでは、地方分散が進んだ社会が、ポストコロナ社会でめざすべき“働き方・生き方の分散化社会”なのか。
結論から言うと、否である。地方分散は“空間的な分散化”を表している一方で、“働き方・生き方の分散化”は空間的な分散が深化した先にある、異なる性質のものと考えている。
以下、社会の分散化の流れを3つのフェーズに切り分けて順に説明したうえで、新たな分散化社会、“働き方・生き方の分散化社会”とは、いったいどのような社会であり、どのような要素から構成されるのかを解説する。

※3:
【厚生労働省】「データからわかる−新型コロナウイルス感染症情報−」に掲載されている都道府県別の感染者総数(2021年4月時点)のデータを基に算出

(2) 分散化のフェーズ

分散化のフェーズ

【第1フェーズ:一極集中】
一極集中とは、画一的なルールに沿って運用され、同質性の高い社会である。
戦後から受け継がれる産業構造とそれが生み出す地方圏の人口流出が相まって、東京圏へヒト・モノ・カネが集中し、「同質性の高いものが集中している状態」を形成した。

【第2フェーズ:空間的な分散化】
空間的な分散化とは、東京圏から地方圏へ人・企業などの移動が進み、ヒト・モノ・カネの東京圏への一極集中が解消されている状態である。
ただし、社会として「同質性が高い」ことは第1フェーズと本質的に同じであり、コロナ終息後は一極集中社会へ逆行する可能性をはらんでいる。

【第3フェーズ:包括的な分散化(価値観の分散化)】
包括的な分散化とは、皆の働き方や生き方が「違う」ことを前提とする、一人一人の多様な価値観を受容し合える状態である。

(3) 日本における分散化の進展状況

① 空間の分散化

では、コロナ禍を1年経験した日本は、現在どこのフェーズに位置しているのか。まず、“空間の分散化”の進展状況について示す。
“空間の分散化”については、本章「(1) 分散化の歴史と今後の展望」でも触れたとおり、新型コロナウイルス感染拡大によって露呈した一極集中社会のもろさを痛感した人々、特に東京圏在住者を中心に、テレワークや地方移住などの動きが活発化しつつある。
内閣府の調査※4によると、コロナ禍を契機に全国でも約20%の企業がテレワークを実施しているとの結果が公表されている。その中でも、東京都23区の企業における2020年12月のテレワーク実施率が40%を超えており、コロナ禍以前の同地区におけるテレワーク実施率(2019年12月:17.8%)の倍以上であることからも、場所にとらわれない働き方が着実に浸透していることがうかがえる。
特に注目を集めた例として、人材派遣会社パソナグループが本社機能を淡路島に移し、2024年5月までに従業員約1200人を異動させる計画を発表したニュースが挙げられる。こうした地方移住の流れは、東京圏に本社機能を置く企業だけでなく、東京圏在住者にも当てはまる。2020年12月時点の調査によると、東京圏在住者の31.5%が地方移住に関心を寄せている。これは、2019年12月時点の割合(25.1%)よりも増加しており、今まで「東京圏」に向けられていた視線が、徐々に「地方圏」にも向けられはじめている。
このように、今回のコロナ禍を契機に、期せずして“空間の分散化”の進展が加速化している。
一方で、第1回の緊急事態宣言解除後にテレワークを中止した企業が一定数ある。地方移住においても、関心を持っている者のうち約72%が、「仕事や収入」や「人間関係や地域コミュニティ」などの懸念を理由に、具体的な行動に移せていない状況にある。

※4:
【内閣府】 第2回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査

② 価値観の分散化

次に、“価値観の分散化”の進展状況について示す。
空間的な分散化は前述のとおり進行しているが、国民の価値観はそれに追いついているとは言い難い。
①と同じ内閣府の調査によると、第1回緊急事態宣言下の2020年5月におけるテレワーク実施状況と、宣言が解除されて約半年が経過した2020年12月のテレワーク実施状況を比較した際、半数以上の割合(54.7%)でテレワーク実施頻度が減少または中止していることが明らかとなっている。その理由の半数以上が、“職場のテレワーク実施方針が変化した(44.8%)”と“職場の雰囲気が変化した(14.6%)”であることから、多くの新常態を生み出してきたコロナ禍を経験してもなお、価値観を変えることの難しさが読み取れる。

③ まとめ

以上を踏まえると、現在の日本社会は<第2フェーズ:空間的な分散化>、つまり、新たな分散化社会(“空間の分散化”+“価値観の分散化”がなされた社会)への過渡期にあるといえる。

3.これからの日本がめざすべき姿とは

(1) 今後の日本に必要な政策とは

「空間的な分散化社会」に位置している現在の日本社会が、“価値観の分散化”を実践し、「包括的な分散化社会」にステップアップするためには、どのような政策が必要となるのか。以下、AIが導き出した「シナリオ分岐点」(2024年、2028年、2039年)および「分岐要因分析結果」を踏まえ、「直近で求められる政策:2028年まで」および「次世代まで継続的に求められる政策:2039年まで」の2種類に大別し、それぞれ「働き方」「生き方」の分散化という観点で再整理した結果を示す。

① 「直近で求められる政策:2028年まで」について

直近で求められる政策としては、“価値の分散化”に滞りなく移行するため、“空間の分散化”を今以上に後押しする政策が求められる。
まず、働き方の観点では、 AIが導き出した分岐要因の一つに「サテライトオフィス導入企業数」が挙げられていることから、日本各地のサテライトオフィスの拡充に資する政策などが有効になると期待できる。加えて、コロナ禍を経て、特定の職種(いわゆる「ホワイトカラー」に該当するものなど)では「通勤」が就業の必須条件ではないことが確認できている。こうした変化の兆しを捉え、在宅・サテライト勤務をメインとした就業形態を導入している、いわば「働き方DX(デジタル・トランスフォーメーション)」が進行している企業が一定数ある。一方で、社内体制・制度面の課題や、PC・ネットワークといった設備面の課題などによって、就業形態の改革をちゅうちょしている企業もある。こうした企業の実情を踏まえた政策の企画立案・実行が、政府の掲げるデジタル社会のビジョン「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」の実現に必要であり、今後より一層求められるものである。
また、生き方の観点では、「小規模集落数」や「生産人口(地方圏)」などの地方圏に関連する要因が挙げられていることから、従来と同様に地方移住促進政策は欠かせない。加えて、前述の「生産人口(地方圏)」に着目し、農業を含む地方圏における次世代の担い手の維持・育成支援に関する政策が効果的と考えられる。

そして、“価値観の分散化”についても、前述と同様、「働き方」と「生き方」の2つの観点から、求められる政策について解説する。
まず、働き方の観点では、AIが導き出した分岐要因の一つに「共働き世帯数」が挙げられていることから、昭和的な働き方である男性中心型労働慣行(いわゆる「男性は会社員として会社で働き、女性は専業主婦として家事に専念する」)から脱却し、真の男女平等な労働環境の礎を築く政策が有効と思われる。具体的には、「第5次男女共同参画基本計画〜すべての女性が輝く令和の社会へ〜(2020年12月25日)」にも示されているように、働く意欲を阻害しない制度などの検討(就業調整の要因になりえる税制・社会保障制度の見直しなど)や、多様なニーズに即した育児を支援する基盤(複数企業間での共同設置を含む事業所内保育サービス、マザーズハローワークなどによる就職支援など)の整備推進などが取り組みの一例として考えられる。
上記のような基盤整備に加えて、企業が女性活躍に関わる取り組みを積極的に推進するよう、企業にもメリットがあることを周知することが重要と思われる。企業にとって理解しやすいメリットの一つとして考えられるものは「資本増加」であるが、「企業の資本増加」と「女性活躍」は、一見すると関連性が薄いように思われる。しかし、女性活躍を含むESG(環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)) の観点で取り組んでいる企業は、「ESG投資※5」の広がりとともに有望な投資先となっており、「女性活躍」と「企業の資本増加」は親和性が高いといえる。そこで、企業における女性活躍をさらに推進する政策として、「女性の職業生活における活躍の推進に関する基本方針(2019年12月20日)」でも言及されている、女性の職業生活における活躍の推進に積極的に取り組む企業に対するインセンティブの付与などを講じるべきである。具体的には、まずは企業上層部における構造・意識改革の意も込めて、「東証一部上場企業役員に占める女性の割合」などの女性の活躍状況が分かる定量的指標を活用し、規定水準を達成した企業に対してインセンティブを付与するなど、前述の法制度などの環境整備と相乗効果が期待できる政策を国が打ち立てることも一案として考えられる。
次に、生き方の観点では、「人口集中地区面積(東京圏)」や「健康寿命(東京圏)」などの要因が挙げられていることから、元気な高齢者を増やして東京圏の活気と自立性を維持する取り組み、つまり高齢者が活躍する都心づくりが重要になることが読み取れ、そちらに向けた政策が効果的と考えられる。

※5:
従来の財務情報だけでなく、ESG要素も考慮した投資

② 「次世代まで継続的に求められる政策:2039年まで」について

そして約20年先の2039年、すなわち中長期的な将来までには、“空間の分散化”に資する政策は継続的に打ち出すことが求められるが、これまで以上に“価値観の分散化”に重点を置いた政策の展開が必要となると予想される。
まず、働き方の観点では、「共働き世帯数」の増加に資する政策を引き続き積極的に取り組むべきである。具体的には、2039年までに、女性活躍における主眼の一つでもある「就業者に占める女性割合の向上」に資する政策に取り組むべきである。その中でも、結婚・出産といった人生の節目を迎えて退職した女性の再就職支援は、「第5次男女共同参画基本計画〜すべての女性が輝く令和の社会へ〜(2020年12月25日)」で、「第一子出産前後の女性の継続就業率」を成果目標として取り扱っていることからも、その重要性がうかがえる。同計画では、国による再就職支援策として職業訓練やリカレント教育などが挙げられているが、コロナ禍を経験した今、こうした訓練・教育を自宅からオンラインで受けられるようにすることも有効と考えられる。こうした働く意欲のある女性の積極的かつ継続的な雇用を実現することは、従来は男性に集中していた労働を分散化させ、男性への労働集中状態の解消(長時間労働の是正)にも寄与すると考えられる。
また、生き方の観点では、AIが導き出した分岐要因の一つである「男性の育児休業取得率」を向上させる政策が有効である。子どもの出産という人生の一大イベントは、男性が家庭へ参画する機会の一つであるが、「育児休業制度自体はあるが、気軽に取得できるような環境ではない」といった課題がある。そこで、「第5次男女共同参画基本計画〜すべての女性が輝く令和の社会へ〜(2020年12月25日)」にもあるように、企業における男性従業員の育児休業など取得促進のための事業主へのインセンティブ付与や、取得状況の情報開示(見える化)を推進するいった取り組みを国として実行することが、有効な政策の一つと考えられる。
このように、従来からはびこったあらゆる固定観念を根本的に変革することは、一朝一夕に実現できるものではなく、「女性活躍」という風潮を社会に浸透させたときと同様に、地道な法制度改革とアピールにより、徐々に社会へ浸透させていく取り組みを数多く打ち出していくべきであると考える。

おわりに

コロナ禍を経て、これまで無意識のうちに常識として疑わなかった考え方・ルール(いわゆる「アンコンシャス・バイアス※6」)が顕在化した今は、めざすべきポストコロナ社会としてわれわれが提言した“価値観の分散化”の実現に向けて一気にかじを切る絶好のタイミングである。
したがって、昨今注目を浴びる地方分散を代表とする“空間の分散化”と、画一的ではなく皆の個性を認め合い・尊重し合える“価値観の分散化”の要素を併せ持つ、新たな分散化社会の実現のために、今回の共同研究で提言した政策を実行し、女性活躍を含めた働き方・生き方の分散化を推し進めていくべきである。このような取り組みは、「東京一極集中」一辺倒が良しとされてきた社会からの卒業、多様な選択肢の許容、国民一人ひとりに合った幸福(well-being)を追求できる社会の実現を意味しており、日本再生の鍵になると考えている。前時代から受け継がれてきたレールの上を走り・走らせるのではなく、「自分らしさ」を尊重し、おのおのが創意工夫した人生を織りなすことができる社会こそ、われわれがめざすべきポストコロナ社会の未来である。
最後に、本研究の成果が、コロナ禍で混沌とした状態から抜け出す「羅針盤」となり、新たな分散化社会を実現するための一助になることを期待する。そして、めざすべき望ましいポストコロナ社会の実現、ひいては、国民一人ひとりの幸福向上の実現に向けて、われわれも引き続き検討・考察を深めていく所存である。

※6:
自分自身が気づいていないものの見方や捉え方のゆがみ・偏り(例:固定的な性別役割分担意識や無意識の思い込み)

本コラム執筆コンサルタント

青木 健悟 株式会社 日立コンサルティング コンサルタント

これから迎えるポストコロナ時代に向けて、2021年2月に京都大学こころの未来研究センター、日立コンサルティングは2050年までを視野に入れた“ポストコロナ社会”の未来シナリオを導出し、望ましい未来に向けた政策研究の成果をプレスリリースで発表しました。本稿は、その研究における検討プロセスの詳細説明に加え、働き方・生き方の「分散型」社会について、従来の分散化との違いなどを明らかにしつつ、これからの日本がめざすべき姿を提示します。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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