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COVID-19が引き起こす、日本製造業のデジタル化

福永 竜太株式会社 日立コンサルティング シニアディレクター

2021年1月26日

1. COVID-19が引き起こす不可逆的な変化

(1)2020年の始まりは

2020年は一連の国際的なスポーツイベントの閉幕後の経済動向が懸念されつつも、過熱気味の経済状況で始まりました。私自身も2020年の始まりの1月に、将来のビジネス動向を探るべく、同僚とともに米国ラスベガスで開催されたコンベンション「CES2020」を訪れていました。中国で新型のウイルス感染症が広まっているというニュースがすでに流れていたものの、世界中から集まった人々で会場は活況を呈しており、中国を筆頭にアジアからも多くの企業が参加していました。この時点では世界はリアルにつながり、さまざまな新製品・技術の情報が国や地域を越えて自由に交流していました。しかしそれから数か月のうちに国と国の間では人の往来が途絶え、私たちのライフスタイルやワークスタイルは大きく変わってしまいました。

(2)COVID-19の感染拡大

2019年12月に初めて新型コロナウイルス感染症発生のニュースが流れた後、2020年1月23日には武漢市が都市封鎖されるまでになりました。日本でも1月末から2月にかけて感染者が増え始め、クルーズ船での集団感染やマスクの品不足などによって、深刻さが実感されるようになり、その後、感染拡大に伴い、4月に緊急事態宣言が発令されています。世界に目を向けると、3月9日にイタリアで、続いてそのほかの欧州諸国や米国、イランなどでも3月中にロックダウンが実施されるに至り、世界規模のパンデミックが起こりました。

(3)ビジネスの不可逆的な変化

製造業の状況を見てみると、市場の喪失や製造ラインの停止によって、さまざまな業界の企業で売り上げが大きく落ち込み、バランスシートを傷めています。一方で、この環境下でも粘り強く利益を維持し、さらには成長につなげている企業も存在しています。
感染防止のための非接触や都市のロックダウンといった緊急措置から始まったCOVID-19対策の取り組みは一時的なものではなく、人々の意識を変え、またデジタル技術を活用した新たなビジネススタイルへのシフトを加速させ、不可逆的な変化を起こしています。コロナ禍(か)にもかかわらず業績を確保できている企業は、この変化に対応できているといえるでしょう。
そこで本稿では、私が担当する製造業の領域で、COVID-19の発生・感染拡大からどのような出来事が起きたかを振り返り、不可逆的な変化を起こした変革ドライバーとは何かを洗い出し、これに基づいて製造業の変革シナリオの仮説を検討していきます。

2. COVID-19がもたらしたビジネスへの影響

一つの都市から始まったCOVID-19の感染拡大は、図表1に示すように、さまざまな事象を連鎖的に引き起こし、人々の生活やビジネスの形態に大きな変化をもたらしました。

図表1 COVID-19によるビジネスへの影響
図表1 COVID-19によるビジネスへの影響

このような変化の中で、今後も長らくビジネスへ影響を与えるであろう事象として、代表的なものを以下にまとめます。

(1)世界経済の減速に対する各国・地域の対策

欧米各地でロックダウンが実施されると、世界経済に深刻な影響が出てきました。グローバル化したサプライチェーンが分断されたことで工場の稼働停止が広範に起き、また外出制限でさまざまな製品の市場が失われていったことで、多くの企業が一気に事業継続のリスクを抱えるようになりました。
この事態に、各国政府は生活維持・事業継続のための財政出動を図り、その後は経済復興のための資金供給を進めています。

(2)国際貿易の分断と国家間の対立の恐れ

不足する医療資源を確保するための競争や、国境封鎖による国際貿易の分断は、国・地域ブロック間の対立の懸念を引き起こしました。特に米中の対立は、すでに関税率引き上げなどの経済面での緊張が起きている中で、さらに深刻さを増しています。
国際物流網の寸断は、グローバルでの最適地調達・生産をめざしていた企業に対し、グローバル生産分業体制と物流網の見直しを余儀なくさせています。

(3)感染防止対策を通したデジタル技術の実用化

非接触が求められる中で、中国、韓国、東南アジア、台湾などでは、デジタル技術を活用した対策が迅速に実施されました。例えば、オンライン学習やオンライン診療のためのネットサービスが短期間で整備され、広く利用されたことは印象的でした。また、国や地方政府などが持つデジタル化されたデータを、感染リスク情報やマスクの在庫情報の提供に活用する事例もありました。
日本でも、長らく掛け声ばかりで進まなかった企業のテレワークが強制的に推し進められたことで、その実用性が確認されました。

3.不可逆的な変化を起こす変革ドライバー

図表1に示したCOVID-19が引き起こした変化の中で、今後も製造業のビジネスにとって不可逆的に続くであろう変化を、変革ドライバーとして捉えています。それらを、すでに起きている事象と今後起きるであろう事象として、PEST(Politics:政治的、Economy:経済的、Society:社会的、Technology:技術的)の観点で図表2にまとめています。

変革ドライバー 製造業に影響を与える具体的な事象(例)
社会的要因 非接触(ソーシャルディスタンス)を求める生活様式の変化
  • 在宅勤務、サテライトオフィスなどテレワーク環境での仕事が一般化
  • 労働集約型の製造・物流現場などで休業多発(自動化ニーズの高まり)
  • 店舗、イベント会場、病院・介護施設など、人が集まる場所へのリスク、忌避感の高まり
  • 訪問型セールスや対面での打ち合わせへのリスク、忌避感の高まり
  • 大都市への人口集中によるリスク認知
テレワークの有用性の認知拡大と課題の明確化
  • テレワークでかなりの仕事が実現可能であることの実証 (向かない業務の明確化)
  • オンライン会議ツール、コラボレーションツールなどの利用経験の蓄積、普及への課題の明確化
  • 押印や紙ベースの業務など、社内決裁・商取引のデジタル化の遅れ
  • 大容量データ、大量アクセスなど、企業のネットワーク環境の課題の明確化
  • テレワークでの機密情報の扱いなど、セキュリティ面での課題の明確化
  • リモート監視・管理のための運用環境・セキュリティ対策へのニーズ拡大
  • メンバーシップ型からジョブ型へ、副業やフリーランス活用など、雇用形態の見直し
新薬開発、医療体制(AI技術活用、オンライン診療)への投資
  • 治療薬、ワクチン開発の加速(投資拡大、AI技術などの活用)
  • 規制緩和、技術開発に後押しされたオンライン診療の利用拡大
技術的要因 揺籃期の技術の実用化
(ブロックチェーン、ドローン、AIなど)
  • オンラインミーティング、オンライン商取引の仕組みの整備と普及
  • 遠隔画像解析といった5GやAI技術などの実用化の加速
  • ブロックチェーン技術の活用(債権データ共有によるファイナンスなど)
  • ドローンを活用した非接触型のモニタリング
  • モバイル決済・シェアビジネス型デリバリーサービスなどの普及加速
デジタル社会の有用性と国内での遅れの認知
(プライバシーと安心・安全とのバランスへの理解)
  • 中国で利用されている「健康コード」などのアプリケーションや都市の監視カメラデータを活用した行動記録管理技術による感染拡大阻止への貢献
  • オンライン教育の短期間での立ち上げなど、ネットサービス環境の必要性・有用性への認知
  • 個人情報(信用情報)のデジタル化による支援活動の迅速化
  • 都市情報(オープンデータ)を活用した住民支援の仕組みの早期立ち上げ
経済的要因 ロックダウン、活動自粛による事業継続リスクの発生
  • 工場閉鎖、物流網の寸断による事業の停止
  • 小売・飲食・観光など、サービス業の自粛による売り上げ激減
  • 自動車産業など、経済活動の停滞によるマーケット需要の激減
物流停止、移動制限などの新たなリスクを盛り込んだ産業構造への変化
  • 国・地域をまたぐ人やモノの移動の制限が今後も発生する懸念
  • ネットビジネスの拡大傾向の加速
  • ビジネス(顧客・市場、製品、生産地域)の集中によるリスクの認知
政治的要因 日本のデジタル化推進に向けた規制緩和
  • オンライン診療、オンライン教育などにおける立ち上げの遅さの認知
  • ドローン、自動運転などの活用を阻害する規制面の課題の認知
  • 電子契約やペーパーレス化を阻害する規制など課題の露呈
  • 政府・自治体、公共機関の間でのデータ連携の仕組みの整備の必要性認知
  • マイナンバー制度について、海外と比較した普及の遅れや課題の露呈
米中対立の激化、ブロック経済化
  • 医療製品の戦略物資化と国・地域での囲い込みの発生
  • グローバルでの物流・輸入の停滞による、自国生産への誘因の発生
  • 米中対立の激化による、デカップリングの現実味の高まり
経済再生に向けた投資資金の流入
  • 先進国を中心とした、政府による減税や中央銀行の量的緩和による資金提供
  • 主に欧州で、環境ビジネスなどにターゲットを絞った補助金の拡大

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図表2 COVID-19が引き起こす変革ドライバー

(1)社会的要因

社会的要因に起因する変革ドライバーは、社会からの要請や社会的な認識の変化によって発生します。
「非接触(ソーシャルディスタンス)を求める生活様式の変化」は、COVID-19に対する治療法の模索やワクチンの開発が進んではいるものの、企業が年単位で対策を検討すべき課題といえるでしょう。代表的なものはオフィスワークですが、それ以外にも、製造・物流などの現場作業をどのように変えていくか、顧客・取引先とのコミュニケーションをいかに図っていくかといったことへの配慮が必要です。
「テレワークの有用性の認知拡大と課題の明確化」も進み、多様な業種・業務でテレワークが実現可能であることが検証されました。日本で求められてきた働き方改革の推進に貢献するうえ、テナント料をはじめとするオフィス費用や交通費などの経費削減でコスト改善にもつながっていることから、今後も継続されていくことが予想されます。一方で課題も明らかになってきており、ネットワークへの負荷、機密情報の取り扱いなどへの対策を講じながら、テレワークの範囲を適切に決めていくことが企業に求められていくことでしょう。
「新薬開発・医療体制(AI技術活用、オンライン診療)への投資」については拡大される見通しであると同時に、規制緩和も検討されていることから、業界は限定されますが、新たなビジネス機会が広がると期待されています。

AI:Artificial Intelligence

(2)技術的要因

技術的要因に起因する変革ドライバーは、新たな技術が実用化され、社会もその技術を受容していくであろうと予想して過程で起きてきます。
中でも変革を加速させているのは「揺籃(ようらん)期の技術の実用化」です。ビジネスのオンライン化に必要なツールや、そのベースとなる5GやAIといった要素技術が具体的な成果を上げています。ブロックチェーンやドローンなどの技術も一部で実用的に活用され始めています。日本ではまだ試験的な活用が中心ですが、実務で効果を出す取り組みも始まっています。
「デジタル社会の有用性と国内での遅れの認知」も日本企業の行動に大きな影響を与えています。デジタル化がさまざまな制約により阻まれている日本を尻目に、中国やアジア諸国などでは軽々と壁を乗り越え、デジタル技術を感染防止だけでなく、新たなビジネス機会の創出に生かしています。デジタル化に関しては、日本が海外の国・地域より遅れていることが広く認識されたのではないでしょうか。デジタル化の有用性が確認される一方で、個人情報の扱いが国によって異なることも明らかになりました。プライバシーと安心・安全とのバランスをどう取るかなど、デジタル化の加速に向けた日本が克服すべき多くの課題にも気づかされました。

5G:5th Generation

(3)経済的要因

経済的要因に起因する変革ドライバーは、企業のビジネスリスクや事業構造の変化によるものです。
「ロックダウン・活動自粛による事業継続リスクの発生」により打撃を受けた多くの企業では、傷んだ財務基盤の立て直しが急務になっています。グローバルレベルで最適化されたリーンなビジネスモデルが、大規模な危機には弱いことに改めて気づかされ、変化に柔軟に対応できる企業体質と財務管理の仕組みをつくり上げることが求められています。
「物流停止・移動制限などの新たなリスクを盛り込んだ産業構造への変化」は、改めて気づかされたグローバルビジネスモデルのぜい弱性を乗り越え、より変化に柔軟な企業体質を実現する手段として必要とされます。そのため、工場閉鎖や物流網の寸断などは起こりうるものであり、それに対応するために過度な集中によるリスクを認識することが必要です。また、ビジネスのオンライン化が進むことに対応したビジネス形態にも対応することが求められます。

(4)政治的要因

政治的要因に起因する変革ドライバーは、COVID-19の感染防止や傷ついた経済の立て直しに向けた、世界の国や地域の政策にあたります。
「日本のデジタル化推進に向けた規制緩和」が国内の重要な政治課題となり、政策的にデジタル化を推進していく方向です。多くの規制緩和が加速されることで、企業にとって新たな機会と脅威が生まれることになります。
世界の多くの国では「経済再生に向けた投資資金の流入」が起きています。欧州では環境領域での戦略的なビジネスへ投資を増やしており、その動向は企業の活動にも影響を与えることになるでしょう。
「米中対立の激化・ブロック経済化」も、企業に重大な影響を与えます。米中のデカップリングがどこまで広がるかによって、企業はグローバルサプライチェーンの見直しが必要になります。米中以外でも、国・地域間の経済活動は分断された状況であり、それがいつ解消されるのか、また、固定化する恐れがないのかについても予断を許さない状況が続きます。

4.製造業のデジタル化 ―15の変革シナリオ

社会的要因と経済的要因は、企業にとって変革が必要になる直接的な原因となります。技術的要因と政治的要因は、変革を実現するための技術と制度面での裏付けとなり、変革を後押しする役割を果たします。
変革ドライバーから想定できる製造業のデジタル化の方向性について、仮説として15の変革シナリオを選定しました(図表3)。

図表3 COVID-19による製造業の革新シナリオ
図表3 COVID-19による製造業の革新シナリオ

上記の15の変革シナリオ を整理すると5つのタイプに分類することができます。

(1)タイプ1:ワークスタイル・ライフスタイルの変革

非接触への対応がきっかけではありますが、一般的なオフィス業務に加え、製造・物流拠点での現場業務、顧客・取引先とのコミュニケーションなど、多岐にわたるワークスタイルが変わり、企業にとっても個人にとってもメリットを生み出すと考えられます。
また都市のデジタル化は、非接触への対応だけでなく、都市環境問題への対策強化や生活者のライフスタイルの多様化をもたらし、ワークスタイルの変革と併せて価値を生み出していくことが期待できます。
このタイプの変革シナリオとしては、以下の4点を予想しています。

  • ① オフィスワーカー働き方の見直し
  • ② 工場・物流拠点の自動化の促進
  • ③ マーケティング・販売プロセスのオンライン化
  • ④ 都市のデジタル化の推進

非接触への対応が生み出すワークスタイル・ライフスタイルの変革

No. 変革シナリオ コロナ禍による影響 対応策・事例
オフィスワーカーの働き方の見直し 従業員が安全に業務を継続できる環境・働き方に変革が求められる
  • 在宅ワークへの切り替え、Web会議やオンラインコミュニケーションなどを利用した新たな働き方への移行
工場・物流拠点の自動化の促進 現場の努力、デジタル技術を活用したリモートワークなど生産を維持しているが、現場の人々の負担が大きい
  • 自動化に向けて期待されるのがロボットであり、ロボットシステムインテグレーターによる、工場や物流倉庫内の自動化を実現
マーケティング・販売プロセスのオンライン化 オンラインでの購入や店舗のレジレス化やキャッシュレス化、商品在庫を事前確認できるアプリケーションへのニーズが加速
  • DXを通して顧客の体験価値を最大化するため、データを分析し、その結果を活用してマーケティング施策を実現
都市のデジタル化の促進 感染防止のため、都市封鎖、交通遮断により、これまで以上に「安心・安全」のための都市機能が求められる
  • 感染ルート特定のための、人の移動や車の移動情報の活用(プライバシーとの兼ね合いはあり)や物流、医療状況の把握のための都市全体のデジタル化、スマートシティー化への取り組み強化

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(2)タイプ2:自社および顧客・取引先を含めたビジネス構造の変革

調達、製造、販売、物流といった業務領域において、デジタル技術でリソースの活用を柔軟に変更し、最適化する仕組みづくりへの取り組みが進められています。このとき、今後懸念される経済のブロック化への対応を考慮した活動プランの策定と実行も重要になります。また、より強固な収益構造の構築と顧客との関係強化を目的に、モノ売りからコト売りへのシフトをめざす製造業のサービタイゼーションへの取り組みも進むことでしょう。
このタイプの変革シナリオとしては、以下の4点を予想しています。

  • ⑤ 複数拠点(工場などの)一元管理とリソースシェアの促進
  • ⑥ グローバルサプライチェーンの強じん化・柔軟化
  • ⑦ グローバル経済のブロック化への対応
  • ⑧ サービタイゼーション(サービス化)による強じんな収益モデルの構築

自社および顧客・取引先を含めたビジネス構造の変革

No. 変革シナリオ コロナ禍による影響 対応策・事例
複数拠点(工場など)の一元管理とリソースシェアの促進 グローバル拠点への渡航が困難となり、製造拠点のリモートコントロールが必要となる
  • モバイルデバイスや、5GやAR・VRなどの新しいテクノロジーで、国内外の工場をリモートで把握・コントロールできるようにする仕組みの構築
  • AIやAR・VRなどの技術を活用し、熟練技術者が持つ知見・ノウハウや技術情報をデジタル空間で迅速に、理解しやすい形態で提供する仕組みを構築
グローバルサプライチェーンの強じん化・柔軟化 刻々と状況が変化するサプライチェーンへの迅速な対応が必要となる
  • 各工場の生産状況をタイムリーに把握。不足部品を融通し合ったり、サプライヤーを変更したりする
  • 柔軟にサプライチェーンを見直すことができるようにプロセスマイニングやAIを取り入れたサプライチェーンの見直しを実施
グローバル経済のブロック化への対応 米中対立の激化に加え、サプライチェーンの断絶により、新たなグローバルサプライチェーンの構築が必要となる
  • 米中対立やパンデミックを考慮し、地産地消による近隣地域でのブロック経済圏に対応したサプライチェーンを再構築
  • 一部のサプライヤーに依存しないよう、適宜サプライヤーの見直しを実施
サービタイゼーション(サービス化)による強じんな収益モデルの構築 製造業のビジネスモデルの変革とともに、リスクマネジメントとしての収益確保への対策が必要となる
  • モノ売りからコト売りへ、製造業のサービス事業化による収益確保に向けたビジネスモデルへの変革が加速
  • サービス事業での競争力強化のため、自社内業務のデジタル化やデータ活用のプラットフォーム構築などの取り組みに挑戦

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AR:Augmented Reality  VR:Virtual Reality

(3)タイプ3:企業間連携を支える新たなプラットフォームビジネスの立ち上げ

デジタル化によるビジネスモデルの変革において、企業間での産業データ連携に大きな期待が寄せられていますが、企業間の利益相反や法制度の整備不足などに起因する多くの課題があります。このような中で企業は、自社のビジネスモデルを変革するためのビジネスインフラとして、さまざまなプラットフォームビジネスが立ち上がってくることを期待しています。また、プラットフォームの重要な構成要素として、サイバーセキュリティサービスの普及が進むことも急務です。
このタイプの変革シナリオとしては以下の2点を予想しています。

  • ⑨ 産業データをベースとするプラットフォームの成長と競争の激化
  • ⑩ サイバーセキュリティを支援するサービスの整備・拡大

企業間連携を支える新たなプラットフォームビジネスの立ち上げ

No. 変革シナリオ コロナ禍による影響 対応策・事例
産業データをベースとするプラットフォームの成長と競争の激化 製造・物流現場のデジタル化のベースとして産業データを一元管理し活用するプラットフォームが求められる (工場データの共通化など、従来の施策をベースに想定)
サイバーセキュリティを支援するサービスの整備・拡大 緊急対応による急速なリモートワークの増加とオンライン化により、サイバーリスク対応やコンプライアンス順守のためのセキュリティ、ガバナンス強化の必要性が増加する
  • リモートワーク時のセキュリティ対策や、機密情報の取り扱いに関するガバナンスルールを強化
  • グローバルを含めた拠点間のリモートコントロール・監視において、各国・地域のコンプライアンス順守のためのセキュリティ、ガバナンスの見直しやサイバーリスク対応のためのセキュリティ強化も必要

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(4)タイプ4:企業の財務基盤強化に向けた取り組み

コロナ禍で財務基盤が弱体化した企業が多く存在します。中でも経営基盤のぜい弱な中小・中堅企業への資金援助は喫緊の課題であり、海外ではデジタル情報を活用した融資の仕組みなどへの取り組みも始まっています。
また、大企業においても、十分なキャッシュの確保に向けた財務基盤の立て直しと環境変化に合わせた財務管理機能の強化が課題となっています。
このタイプの変革シナリオとしては、以下の2点を予想しています。

  • ⑪ デジタル情報を活用した資金提供の仕組み整備
  • ⑫ 経済危機に強い経営管理・財務体質の確立

企業の財務基盤強化に向けた取り組み

No. 変革シナリオ コロナ禍による影響 対応策・事例
デジタル情報を活用した資金提供の仕組み整備 中小企業の悩みは、売掛金を回収しづらいこと、早期に資金が底をつくリスクに直面すること
  • 早急な緊急経済対策が必要で、保険会社の支払いノウハウを生かし、規律を保った資金支援を実施
  • 中国ではブロックチェーン技術を生かしたセキュアで早急な対策を実施
経済危機に強い経営管理・財務体質の確立 急激な需要減少や企業活動の停止で、キャッシュを確保する財務活動強化が必要となる (コロナ禍での財務基盤強化の取り組みが見られる)

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(5)タイプ5:新しい産業分野での新規ビジネスの立ち上げを加速

規制緩和や経済復興に向けた政策投資により、新たな産業で新規ビジネスを立ち上げる機会が生まれてくることが期待されています。例えば、COVID-19で直接影響を受けた公共交通機関や医療分野など、非接触が求められる領域への投資により、自動運転技術とか、医療のデジタル化やロボット開発などが進むことでしょう。また、グリーンテック領域では、国家間の競争戦略に基づく投資が増加し、事業化が加速することが予想されます。
このタイプの変革シナリオとしては、以下の3点を予想しています。

  • ⑬ 自動運転技術の実用化の加速
  • ⑭ 医療のデジタル化・ロボット化(オンライン診療、ケアロボット)
  • ⑮ グリ-ンテックへの資金供給による事業化の加速

新しい産業分野での新規ビジネスの立ち上げを加速

No. 変革シナリオ コロナ禍による影響 対応策・事例
自動運転技術の実用化の加速 感染予防のための非接触や公共交通機関の利用自粛のほか、物流網の確保の対策が必要となる
  • 自動運転の実証実験が加速、規制緩和が進めば、複数事業者により自動運転による物流網の構築・実用化へ
  • 中国では小型自動配送車による医薬品配送などを実施
医療のデジタル化・ロボット化
(オンライン診療、ケアロボット)
急増する感染者への処置をする医療従事者の安全性確保のため、医療現場での遠隔作業・自動化が求められる
  • 海外では進んでいるオンライン診療が、国内でも暫定的に認可されている(現在、恒久化が議論されている)
  • 中国などでは、診察・検査でロボットを病院内へ導入
グリ-ンテックへの資金供給による事業化の加速 経済活性化のための金融緩和が進んでも、企業の投資が停滞したままでは効果が出ないので、政策とパッケージングされた大規模な新規ビジネスへの資金供給が予測される
  • 次世代エネルギーや環境保護ビジネスなどへの大規模な投資により、関連する装置の製造・販売、サービス事業などの新事業を創出

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5.変革シナリオの紹介「オフィスワーカーの働き方の見直し」

ここでは「① オフィスワーカーの働き方の見直し」を例に、変革シナリオを詳細に展開してみましょう。

(1)シナリオ展開のステップ

展開にあたっては、以下の3つのステップを想定しています。

Step1
(パンデミック)
感染拡大防止が最優先であり、経済活動が停滞している
Step2
(Withコロナ)
感染は制御され、経済再生が進められながらも感染再拡大の懸念が残り、経済活動が制約されている
Step3
(Afterコロナ)
ワクチンが完成し、感染拡大の懸念が後退した後に、新しいワークスタイルやビジネス構造が定着化する

(2)シナリオ展開

変革シナリオ「① オフィスワーカーの働き方の見直し」を上記の3ステップに展開した検討例を図表4に示しています。
Step1(パンデミック)で暫定的に整備されたテレワーク環境が、Step2 (Withコロナ)で恒久的な仕組みとなります。ペーパーレスや電子決裁が日常業務に定着化します。デジタル化の範囲はR&Dや設計・開発などのコラボレーションが重要な業務へ拡大・発展していくことになります。
Step3(Afterコロナ)の時期には、ジョブ型の人事制度やフリーランスの活用など、仕事のやり方や制度にまで改革を広げていくことも必要になってきます。また、デジタル化により外部企業との業務がシームレスに連携するようになることで、社外のパートナーと自由にコラボレーションする仕事のスタイルの実現が期待できます。

R&D:Research and Development

図表4 革新シナリオの想定される展開
図表4 革新シナリオの想定される展開

6.まとめ

本稿で紹介した変革シナリオは、あくまでも仮説に基づくものであり、確証があるものではありません。当然、ほかにもさまざまな仮説があり、それぞれに異なる変革シナリオを検討されていることでしょう。
COVID-19の感染拡大は、従来の前提条件の多くを根底から覆しており、変化の方向性を予測することは困難です。このような環境でビジネスを成長させるうえで、変革シナリオを仮説として持っておくことは、大きな変化の流れに乗るための羅針盤となるものであり、困難な意思決定の際の一助になると考えています。

本コラム執筆コンサルタント

福永 竜太 株式会社 日立コンサルティング シニアディレクター

私たちの暮らし方からビジネスの在り方まで、社会に大きな変化をもたらしたCOVID-19の感染拡大。さまざまな業界で接触を回避する働き方が求められる中、デジタルの活用が改めて重要視されています。本稿では、日本の製造業に着目。業界に不可逆的な変化を起こした変革ドライバーとは何かを洗い出し、変革シナリオの仮説を立てて、デジタル化の方向性を検討していきます。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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