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株式会社 日立コンサルティング

諸外国における医療等分野の番号制度の動向

執筆:有澤 卓

2016年1月13日

我が国においては、2016年1月にマイナンバー制度が施行され番号利用が開始されたところであるが、マイナンバーの利用範囲は社会保障・税・災害対策の分野に限定されている。医療情報に関しては、その機微性の高さからマイナンバーの対象外とし、いわゆる「医療等ID」*1を導入する方針が決定している。医療等IDは、2018年以降の段階的な導入に向けて、厚生労働省の研究会を中心として具体的に検討が進められている。(前回コラム「国内における医療等分野の番号制度の動向」を参照)
一方、諸外国においては、医療分野における番号制度を導入し医療情報の連携や研究分野への利活用等に向けた取組が進められている国もある。本稿では、我が国における制度の検討において参考になると考え、諸外国の医療分野における番号制度を紹介することとする。まずは複数の国の制度を概観したうえで、特に我が国と人口規模、社会保障制度が比較的類似している2か国の制度に焦点を当て、その概要とともにID*2の利活用に向けた取組の最新動向を紹介する。

*1
本コラムでは、医療等分野で個人を一意に識別する番号や符号を「医療等ID」と表記する。
*2
本コラムでは、番号や符号に言及する際には総称して「ID」と表記する(固有名詞はその限りではない)。

1.諸外国における医療分野の番号制度

医療等IDに関しては、厚生労働省の「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」(以下、研究会)において諸外国の状況を踏まえて検討が進められており、弊社では、「諸外国における医療分野におけるID活用状況について」と題して2014年に調査報告を行った経緯がある。本コラムでは、同調査報告の内容を踏まえ諸外国の制度を概観するとともに、中でも我が国と人口規模、社会保障制度が比較的類似しているドイツとフランスについては、制度の概要に加え、IDの利活用に向けた取組を最新動向も踏まえながら紹介する。

国によって異なる医療分野の番号制度

弊社が研究会で報告を行った調査の結果に基づき、先ず英国、韓国、スウェーデン、デンマーク、ドイツ、フランスにおける医療分野の番号制度について紹介する。何れも医療分野において個人を識別するためにIDが利用されているが、各国の歴史、文化等の事情を反映し、IDの特徴(悉皆性(全員に付番されていること)、唯一無二性(1人1IDで重複のないように付番されていること)等)や利用対象分野等は異なっている。

  1. 英国
    英国の番号制度は、行政分野ごとにIDを導入するセパレートモデル*3である。医療分野では国民保健サービス(National Health Service(以下、NHS))が管理するNHS番号(1996年導入)があるが、税や年金の分野においては国民保険番号(National Insurance Number)が用いられている。
    NHS番号は、NHSのサービス対象者全員に付番されており、出生時(2002年以降)もしくは一般開業医への登録時*4に付番される。2002年以前に出生した国民で医療機関の受診経験が無い場合には付番されていないケースがあり、また医療機関での付番に関する運用が厳格でないことから、複数のNHS番号を持つ国民がいたり、同じNHS番号に複数の人が登録されているケースもあるため、悉皆性、唯一無二性は担保されていない。
    NHS番号は基本的にはNHS内に閉じた範囲で利用されているが、個人情報と見なされていないため単独での利用に制限は無く、処方箋やNHSからの手紙、予約票といった様々なものに記載されている。医療機関においては患者情報の識別に利用されているが、受診時のNHS番号の提示は必須とはなっていない。
  2. 韓国
    韓国では1968年に導入された住民登録番号が国民IDとして利用されている。住民登録番号は全国民に対して付与されており、悉皆性、唯一無二性が担保されている。
    住民登録番号はフラットモデル*5のIDであり、行政分野、医療・金融・教育等の分野で幅広く活用され、ほとんどの公的証明書にも明示されている。医療分野においては、被保険者番号は付与されているものの、医療機関における資格確認については住民登録番号を用いるのが一般的となっている。また、国税庁は年末調整に必要な各種所得控除の証憑資料を各機関からバックオフィス連携により収集し、国税庁のポータルサイトで提供を行っているが、その際にも住民登録番号が用いられている。
  3. スウェーデン
    スウェーデンでは1974年に導入されたPersonnummer(以下、PIN)が国民IDとして利用されており、医療の分野においても用いられている。PINは行政分野全般だけでなく民間でも利用されており、IDの利用モデルとしてはフラットモデルに位置付けられる。
    PINは、全国民とスウェーデンに12か月以上居住する人を対象に国税庁により発行されており、悉皆性、唯一無二性が担保されている。
    PINは身分証明書や銀行のカード、運転免許証、社員・職員証等のカードに記載されており、医療サービスを受ける際には何れかのカードを持参すれば良いこととなっている。医療専用のカードは設けられていない。
  4. デンマーク
    デンマークでは、1968年に導入されたCentral Person Registration(以下、CPR)番号がすべての国内在住者を対象としたIDとして利用されている。IDの利用モデルはフラットモデルであり、税、社会保障等の公的分野だけではなく、民間での活用も認められている。
    CPR番号は、国民に対しては出生と同時に、外国人に対しては3か月以上在住する場合に申請によって付与される。CPR番号は住民登録局により発行・管理が行われており、悉皆性、唯一無二性が担保されている。
    CPR番号は医療分野でも利用されている。国民に対してはCPR番号が記載された医療保障カードが配布されており、患者は受診時に医療機関に対して同カードを提示することで医療サービスを受けることができる。また、患者はCPR番号を用いて診察予約、検査結果の確認、薬局への電子処方箋の提出、ポータルサイトから自身の診療履歴や処方履歴の参照等が可能となっている。
  5. ドイツ(詳細は後述)
    ドイツは番号制度としてセパレートモデルを採用している。税識別番号、身分証明書番号、年金保険番号、介護保険番号等、各分野において異なるIDが利用されており、医療分野において用いられる医療被保険者番号もその一つである。
    医療被保険者番号は、公的医療保険において横断的に用いられるIDとして2003年に導入され、保険者の出資により設立されたInformationstechnische Servicestelle der Gesetzlichen Krankenversicherung(以下、ITSG)という組織により発行されている。公的医療保険の被保険者が対象であり、民間保険は対象となっていないため、全国民に対しては必ずしも悉皆性は有していない*6
    医療被保険者番号は、健康保険証として用いられているelektronische Gesundheitskarte(eGK)という電子健康カードの券面に記載されており、受診時に医療機関に対して提示される。医療機関においては、公的医療保険加入者の保険資格の確認や保険支払い請求において医療費保険者番号が用いられている。
  6. フランス(詳細は後述)
    フランスでは番号制度としてセパレートモデルを採用しており、1946年に導入された国民登録番号(Numéro d'Inscription au Répertoire(以下、NIR))が住民登録と社会保障分野において用いられている。NIRの利用範囲は社会保障の中でも限定的であり、医療保険や年金の分野で利用されているが、医療情報に対しては用いられていない。医療情報に関しては別途Identifiant National de Santé(以下、INS)及びNuméro du Dossier Pharmaceutique(以下、NDP)というIDが用いられている。
    NIRはフランス国立統計経済研究所(Institut national de la statistique et des études économiques(以下、INSEE))または全国被用者老齢保険金庫(Caisse Nationale d'Assurance Vieillesse(以下、CNAV))が付番、管理を行っており、社会保障の対象となる全員に対して悉皆性、唯一無二性が担保されている。一方、INS、NDPは、基本的に医療情報等の連携に係るサービスの利用時に用いられるIDであり、医療機関等のソフトウェアによって健康保険証であるVitaleカードに格納された情報を基に生成される。患者を一意に特定する目的から、唯一無二性は担保されているが、医療機関を受診していない人、サービスを利用していない人等には付番されておらず、悉皆性は必ずしも担保されていない。
    NIRはVitaleカードの券面に記載され、受診時に医療機関に対して提示される。医療機関においては、NIRは保険資格の確認及び保険支払い請求の際に利用されている。INS、NDPは被保険者に対しては見えないIDであり、基本的にシステム上での情報管理、連携において用いられている。
*3
分野ごとに個別のIDを用いる方式
*4
英国ではかかりつけ医制度を採用しており、国民は一般開業医をかかりつけ医として登録する必要がある
*5
全ての分野において共通のIDを用いる方式
*6
ドイツでは公的医療保険と民間医療保険のどちらかに加入が義務付けられている。例えば、サラリーマンは公的医療保険への加入が義務となっているが、自営業者や公務員は民間医療保険を選択することもできる。

上記で紹介した各国の制度の概要を表1にまとめる。医療分野で用いられるIDは、本人を一意に特定する必要があることから、基本的に唯一無二性が担保されているものと推察される。ただし、英国のNHS番号については、運用が厳密ではないため複数のNHS番号を持つ人がいたり、同じNHS番号に複数の人が登録されているケースもあり、唯一無二性は担保されていない。また、基本的には医療制度の対象者全員に付番することを意図していると推察されるが、全国民に対する悉皆性という意味では、運用や制度的な違い、IDの利用目的の違いによって担保されていない国もある。英国においては制度導入以前に出生していた人の中には付番できていない人も存在しており、ドイツでは民間医療保険の被保険者は付番の対象となっていない。フランスのINS、NDPは、医療情報等の管理や連携に限定されているため、利用の必要性がない国民には付番されていない。

表1:医療等分野の番号制度の比較

表1:医療等分野の番号制度の比較
  英国 韓国 スウェーデン デンマーク ドイツ フランス
番号制度のモデル セパレートモデル フラットモデル フラットモデル フラットモデル セパレートモデル セパレートモデル
医療等分野のID NHS番号 住民登録番号 PIN CPR 医療被保険者番号 NIR INS NDP
医療分野以外の用途
  • 医療・金融・教育等の社会全分野
  • パスポート、運転免許証等の各種公的証明書
  • 民間利用は原則として禁止
  • 住民登録、納税、社会保障、教育等、ほぼすべての行政分野
  • 銀行、民間保険、携帯電話等の民間分野
  • 納税、教育、各種行政手続き等
  • 銀行、携帯電話の契約等の民間分野
  • 住民登録、年金、等
IDの特徴 悉皆性、唯一無二性は担保されていない。 悉皆性、唯一無二性あり 悉皆性、唯一無二性あり 悉皆性、唯一無二性あり 悉皆性は担保されていない、唯一無二性あり 悉皆性、唯一無二性あり 悉皆性は担保されていない、唯一無二性あり 悉皆性は担保されていない、唯一無二性あり

発展途上のドイツ、転換期のフランス

次に、前項で紹介した事例のうち、我が国と人口規模、社会保障制度が比較的類似しており、また我が国の方針と同様に社会保障分野と医療分野において異なるIDを運用している事例(セパレートモデル)としてドイツ、フランスに焦点を当て、医療分野の番号制度をより詳細に説明したうえで、医療情報等の連携や研究における当該IDの利活用状況について紹介する。

  1. ドイツ
    1. 番号制度の概要
      ドイツでは、行政事務の効率化を図るため、1970年代に連邦住民登録法案において個人識別番号の導入が提議されたが、国民の反発も高く、連邦憲法裁判所が統一的な個人識別番号は違憲との判決を下したため、同法案は廃案となった。同判決も一因となり、ドイツでは番号制度としてセパレートモデルが採用されている。社会保障の中でも分野ごとにIDが設けられており、医療分野においては医療被保険者番号が用いられている。
      医療被保険者番号は、2003年に公的医療保険において横断的に用いられるIDとして導入された。基本的に公的医療保険の被保険者に対しては悉皆性、唯一無二性をもって付番されるが、民間保険の被保険者は対象となっていないため、必ずしも全国民に対する悉皆性が担保されている訳ではない。医療被保険者番号は、保険者の出資により設立されたITSGという組織によって発行されており、保険者を表す変更可能な9桁と被保険者の同一性を確認するための変更不可能な10桁及びチェック番号1桁により構成される。
      医療被保険者番号の利用範囲については、法律に規定されており、保険者がその機能を果たすために必要な範囲においてのみ使用が認められている。医療被保険者番号の不正利用に対しては、個人情報保護に関する法律である連邦データ保護法に加え、医療被保険者番号を規定している社会法典という法律上でも罰則が規定されており、前者においては最大30万ユーロ、後者においては最大5万ユーロの罰金が設定されている。
      医療被保険者番号は、健康保険証として用いられているeGKという電子健康カードの券面及びICチップに記録されている。eGKには他にも保険者の名称や被保険者の氏名、顔写真、生年月日等の情報が格納されており、医療機関のカードリーダでeGKを読み込むことで患者の基本情報が情報システムに取り込まれるようになっている。ドイツではそれまでも健康保険証のICカード化が進められていたが、eGKでは医療データの取り扱いが可能となった点が大きく異なっており、未だ実用化はされていないが、ICチップには電子処方箋や患者情報を記録できることが規定されている。

      eGKのイメージ図
      出典:gematikウェブサイト
      図1:eGKのイメージ

    2. 医療分野におけるIDの活用
      医療被保険者番号は、医療機関においては、公的医療保険加入者の資格確認、保険者に対する保険支払い請求において使用されている。患者の管理に使われているかは不明だが、民間医療保険の被保険者に付番されていないことに鑑みると、必ずしも院内の患者管理には使われていない可能性もある。
      医療情報の連携については、テレマティクス基盤というドイツ全体で医療情報を連携させるためのインフラの整備が進められているところであり、2016年に実証実験が開始されることとなっている。テレマティクス基盤上での医療情報の連携や個人の情報の名寄せにおいては、医療被保険者番号もしくは何らかのIDが用いられるものと推察されるが、その点については把握できていない。テレマティクス基盤の構築は公的医療保険の保険者の団体をはじめ、保険医、歯科医師、薬剤師の団体等により行うこととされており、これらの団体の共同出資により設立された特定目的の民間会社であるgematikがその役割を引き受けている。
      医療情報の二次利用における医療被保険者番号の利用については把握できていない。なお、研究目的での公的医療保険に係る情報の利用に関して法律に規定が定められており、疫学研究への利用が認められているが、監督官庁の承認に加え、個人に関する情報の匿名化が必要とされている。
  2. フランス
    1. 番号制度の概要
      フランスでは戦後、社会保障に関する情報を管理するため、NIRが使われるようになった。1970年代に政府においてSAFARI計画(NIRを起点として個人の情報を集約、管理する計画)が検討され、当初は個人情報の識別にNIRを利用することが予定されていたが、国に情報管理されることに対する国民の不安がかきたてられ大問題となった。このような背景もあり、フランスではセパレートモデルが採用されている。NIRは社会保障分野に用いられるIDであるが、その利用は厳しく制限されており、医療情報の管理等においては、NIRを利用しないよう、フランスのプライバシーコミッショナーである情報処理及び自由に関する全国委員会(Commission nationale de l'informatique et des libertés(以下、CNIL))から勧告が出された経緯がある。このため現在フランスでは、医療情報等の連携においては、INS、NDPというIDが別途に設けられている。
      NIRは全国民を対象として付番、管理されており、悉皆性、唯一無二性が担保されている。フランスでは原則として、公的医療保険に全国民が加入することとなっており、ドイツのように、加入する制度によって付番がされないという状況にはなっていない。NIRは性別や生年・月等から成る規則性を有する15桁のIDであり、ID自体が意味を持っており、規則性がある点で、ドイツの医療被保険者番号と異なっている。
      NIRは健康保険証であるVitaleカードの券面に記載され受診時に医療機関に対して提示される。Vitaleカードは16歳以上の被保険者に対して発行されるICカードであり、ICチップにはNIRや氏名等の被保険者に関する情報が格納されている。ドイツのeGK同様に、医療機関においてカードリーダで読み込むことで患者の情報を取り込めるようになっている。

      Vitaleカードのイメージ図
      出典:Clinique Clement-Drevonウエブサイト
      図2:Vitaleカードのイメージ

      先述のとおり、医療情報の管理においてNIRを利用しないようにCNILから勧告が出されたことを受け、フランスでは医療情報の連携において、INSとNDPというIDが設けられている。INSは、フランスにおける医療情報を共有する仕組みであるDMP(後述)において、NDPは薬剤の処方データを共有する仕組みであるDP(後述)においてそれぞれ使用されている。両IDは、医療機関、薬局のカードリーダでVitaleカードを読み込んだ際に、カードに格納された情報を基に生成される。何れも患者を一意に特定することが可能なIDとなっており唯一無二性が担保されているが、医療機関を受診していない人や情報共有の仕組みを利用しない人に対しては付番されていないため、悉皆性は必ずしも担保されていない。また、両IDは基本的にシステム上での情報連携に用いられるものであり、NIRとは異なり、被保険者からは見えないIDとなっている。
      現在は医療情報に対してNIRと異なるIDが利用されているが、いままさに制度が変わろうとしている。CNILの勧告後、保健相からNIRを医療の分野に利用することの可能性に関して諮問があり、これを受けて2013年からフランスで議論されてきた医療法案の中では、医療分野におけるNIRの利用を認める内容が記述されている。法案は2015年4月以降の議会での審議を経て、12月に可決されたところである。施行までのスケジュールは不明だが、これにより、医療機関での医療情報の取り扱い等においてNIRが利用されることとなる。
    2. 医療分野におけるIDの活用
      医療機関においては、Vitaleカードから読み取ったNIRが医療保険の資格確認及び保険支払い請求の際に利用されている。院内の患者管理におけるNIRの利用については不明だが、CNILの勧告を考慮すると、INSや独自のIDが用いられている可能性もある。
      医療情報の連携については、国レベルの医療情報連携基盤としてDossier Médical Personnel(以下、DMP)とDossier Pharmaceutique(以下、DP)という仕組みが存在しており、前述のとおり、DMPではINSが、DPではNDPがそれぞれ用いられている。
      DMPは診療情報の患者自身による管理と医療従事者間での共有を目的としたシステムである。ASIP Santé(保健省所管の特殊法人で、eHealthの推進組織)により設計、構築、整備が進められてきており、2011年からサービスが稼働している。DMPを利用することにより、患者は自分自身の医療情報の参照や自身が医師と共有したい情報の登録等が可能となり、医療従事者は他の医療従事者と患者に関する診療情報を共有することが可能となる。DMPは2016年1月現在、690の病院で利用されており、約57万のアカウントが作成されている。フランス全国の病院が約3,000、全人口が約6,400万人であることに鑑みると、利用はあまり進んでいないとみられる。DMPの利用が進んでいないとの問題意識から、先述した医療法案においては、フランス最大の保険者である全国被用者疾病保険金庫(以下、CNAMTS)へDMPの運営を移管することが盛り込まれている。法案可決を受け、今後、CNAMTSによる利用促進に向けた取組が進められると想定される。
      DPは2011年にサービスが開始された、フランスの薬局における処方データを共有するシステムであり、フランス薬剤師会によって検討、開発、整備が進められている。DPには過去4か月の処方データが蓄積され、薬剤師間での共有が可能となっており、これによって重複処方等の確認ができるとともに、薬の飲み合わせ等によるリスクを回避できるようになっている。2015年12月現在、DPには22,275の薬局(全薬局の99.8%)が接続し、約3,300万のアカウントが作成されており、DMPに比べて多くの国民に利用されている。
      医療情報の二次利用においてはNIRの利用は禁止されているが、暗号化した形で用いられている事例があり、代表的な例として、Système national d’information inter-régimes de l’assurance maladie(以下、SNIIRAM)の事例を紹介する。SNIIRAMは、CNAMTSが運営するレセプトを集積したデータベースであり、2002年からデータの蓄積が進められてきた。CNAMTSの他にも自営業者社会制度(RSI)、農業社会共済(MSA)の3つの疾病保険に係るレセプトが蓄積されており、フランス在住者の96%をカバーするデータベースとなっている。また、2007年からはDRG(診断群分類) に基づく入院患者に関する診療データ等を蓄積したデータベースであるProgramme de médicalisation des systèmes d'information(以下、PMSI)のデータも取り込むようになり、外来、入院に係るデータが総合的に活用されるようになった。レセプト情報は各保険者からSNIIRAMへ送信する際に匿名化処理が行われ、氏名と住所は削除される。NIRは特定のアルゴリズムを使って暗号化されており、送信側(保険者)と受信側(SNIIRAM)で異なるキーを使って2回暗号化が実施されるが、キー自体が共通であるため、名寄せは可能となっている。なお、SNIIRAMに送られるPMSIのデータについても基本的に同様の暗号化処理がされるため名寄せが可能である。SNIIRAMから提供されるデータの利用の大半は研究機関によるものであり、様々な医学的な研究に活用されている。

2.まとめ

我が国においては、医療等IDの導入に向けて、厚生労働省の研究会を中心として具体的な制度設計の検討が進められている。同研究会では、2015年12月にこれまでの検討内容が報告書として取りまとめられたところであり、2018年度の運用開始に向け、今後さらに詳細な議論が行われるものと想定される。諸外国では既に医療分野における番号制度が整備、運用され、これまでも試行錯誤が繰り返されてきており、我が国において詳細な検討を図る際にも参考できる部分が多々あると考えられる。
日立コンサルティングでは、引き続き海外の最新動向を注視しながら、我が国のより良い制度の構築に向け参考となるよう情報を随時発信していく予定である。

以上

本コラム執筆コンサルタント本コラムへの感想などはこちらから

有澤 卓

平成27年10月5日にマイナンバー法が施行され、マイナンバーの通知が開始されました。平成28年1月からは、いよいよマイナンバー制度の運用が始まります。
その一方で、医療等分野に関しては、マイナンバーとは別に「医療等分野の番号制度」を導入する方針が示されており、これから具体的な制度設計等が進められる予定です。
本コラムでは、医療等分野の番号制度とはどのようなものか、平成27年10月時点で明らかになっている情報に基づいて、その概要を説明します。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。