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株式会社 日立コンサルティング

スマートシティに関する動向と今後の課題

神谷 浩史
株式会社 日立コンサルティング マネージャー

高嶋 良太
株式会社 日立コンサルティング シニアコンサルタント

2019年4月26日

1. スマートシティとは

1.1. これまでのスマートシティ

世界的に都市部への人口集中が続いている。都市化率(都市部に住む人口の割合)は、先進国では2010年時点ですでに70~80%に達しており、2050年には90%と大部分が都市に住むことになる。アジア・アフリカ地域は2010年時点では50%以下だが、都市への人口集中の速度は先進国を上回っており、2050年にはアジアは65%、アフリカでも60%近くまで都市化が進むと推計されている。1

近年、社会経済情勢の変化に伴い、少子高齢化などの社会課題が顕在化しているなかで、都市においては、都市交通の最適化、エネルギー需給の最適化、社会インフラ維持管理の効率化など、市民へのサービス水準向上・維持のための対応が急務となっている。このような状況の中、ビッグデータやICTなどを用いて都市課題を解決するスマートシティに期待が寄せられている。スマートシティは、国土交通省によると「都市の抱える諸課題に対して、ICTなどの新技術を活用しつつ、マネジメント(計画、整備、管理・運営など)が行われ、全体最適化が図られる持続可能な都市または地区」2と定義されている。
スマートシティは欧州でその取り組みが始まり、2010年ごろには、世界中で広まった。日本においても、さまざまな地域で実現に向けた取り組みが進められてきた。しかしながら、それらの取り組みは、エネルギーや交通分野といった個別分野での効率化などの課題解決を技術主導で解決しようとされてきた側面が強く、都市全体・住民視点での課題解決には至っていないケースが多い。また、多くのスマートシティ関連プロジェクトが実証実験の域を脱しきれず、国の予算で初期構築はできても、ビジネスモデルが確立できないため断続的運用やサービス拡大につながらず、その結果、スマートシティの取り組みが広まらないという課題も顕在化していた。
スマートシティの質的向上のためには、都市全体・住民視点での課題解決を行う、分野横断的なアプローチへの転換が求められる。また、その取り組みを普及させ、持続的なものとするためには、新たなサービスの創生・育成を含めた循環型経済の実現に向けた活動が求められる。このようなエコシステム構築の活動は、政府を中心としたリーダーシップの下、目指すべきスマートシティのグランドデザインを共有し、地域の産官学のステークホルダー連携により進められる必要がある。
昨今、産業界および政府では、先述のような都市全体・住民視点での課題解決やビジネスモデル確立による取り組みの普及など、スマートシティの実現上の課題を踏まえ、あらゆる分野のデータを利活用し、都市・住民課題を解決する分野横断型のスマートシティを加速するための議論が活発化している。本稿では、これからのスマートシティについて、動向とその実現に向けた課題について解説する。

1.2. Society 5.0 時代のスマートシティ

スマートシティの実現は、Society 5.0の先行的な社会実装の場として位置づけられている。Society 5.0の実現に向けて、SIP3をはじめとするプロジェクトによりさまざまな新技術の研究開発が進められているが、これらの技術をスマートシティとして社会実装し、Society 5.0の実現を加速することが期待されている。例えば、IoTセンサーなどにより交通流・人流・気象など、都市のさまざまなデータを収集、AIによりリアルタイムに交通の需要と供給を把握・予測することで、公共交通の運行制御の最適化を実現するなど、新技術とのデータの活用により市民生活をより良いものにすることが、Society 5.0時代のスマートシティの狙いである。
このようなデータ利活用サービス実現のためには、個別分野にとどまらず、分野を超えたデータ流通の促進が重要となる。内閣府では、SIPにより分野ごとのデータ基盤を連携させるための分野間データ連携基盤4の構築を進めている。
これまでのスマートシティでは、特定分野でのデータを活用したサービス提供が主であり、語彙やデータモデルの不統一など、相互運用性の観点から、複数分野のデータを用いたサービス提供のハードルが高かった。一方で、Society 5.0時代のスマートシティでは、分野間データ連携基盤による複数分野のデータを活用したサービス提供により、住民や事業者の多様なニーズに応えることが可能となる。例えば、これまでバスなどの交通事業者は、自社あるいは交通分野で共有されるデータを運行サービスなどに利活用してきた。Society 5.0時代のスマートシティでは、分野間データ連携基盤を活用することで、自治体や個人など、交通分野外の情報が利用可能となる。それによって、外部の情報を踏まえ交通需要を予測、最適な運行サービス提供などにつなげることが可能となる。

(図表:スマートシティにおける分野横断的なデータ活用のイメージ)5
(図表:スマートシティにおける分野横断的なデータ活用のイメージ)5

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  • 戦略的イノベーション創造プログラム。Cross-ministerial Strategic Innovation Promotion Programの通称。総合科学技術・イノベーション会議が自らの司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野の枠を超えたマネジメントに主導的な役割を果たすことを通じて、科学技術イノベーションを実現するために新たに創設するプログラム。
    出典:内閣府(https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/)
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  • 分野間データ連携基盤は、様々な企業や組織が、データカタログ(メタデータ)等を用いて、産学官が保有するデータがどこにあるかを検索し、API(Application Programming Interface:ネットワーク経由でデータ提供を行うアプリケーションインターフェース)を介して様々な分野のデータをワンストップで入手可能な分散・協調型のBtoBtoC型プラットフォーム。
    出典:内閣府 データ連携基盤サブワーキンググループ 第3回「分野間データ連携基盤の整備に向けた方針案」(https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/datarenkei/3kai/siryo1.pdf)
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  • 日立コンサルティングにて作成

2. スマートシティを取り巻く動向

2.1. 海外動向

(1)欧州

欧州は、エコシティ、サスティナブルシティなど、スマートシティの源流となる動きが始まった地域であり、歴史的にも各都市の自治性が高いことから、先進自治体によりさまざまなスマートシティ像が提案されてきた。代表的な都市としては、以下のような例がある。

都市 特徴
アムステルダム
(オランダ)
アムステルダム市は、EUの中でも他の都市に先行して循環型経済、低炭素化社会の実現に取り組んできた都市である。2009年6月より、企業やスタートアップ、行政機関を含めた官民連携組織「Amsterdam Smart City (ASC)」を設置し、持続可能なモビリティ、公共空間、職場の構築に取り組んできた。
2014年以降は新たに設置されたCTOの指揮の下、都市そのものを活用したLiving Lab.の取り組みを強化。ASCに集められた情報を、ウェブサイトを通じて公開し、街の課題の解決をめざす150以上のプロジェクトに活用している。
一方で積極的に外資企業との提携も進めており、オランダ応用科学研究機構(TNO)は、中国のZTEと提携、クラウドベースの健康医療プラットフォームを共同開発するなどの動きもみられる。
ヘルシンキ
(フィンランド)
ヘルシンキ市は、MaaS (Mobility as a Service)を世界で初めて都市交通に導入した都市である。サービスである「Whim」を立ち上げたのはベンチャー企業であるMaaS Globalだが、その背景として、100以上の団体・組織が参画する産官学コンソーシアム「ITSフィンランド」などがMaaS実現に向けたプロジェクトを始動させ、実証実験やビジネス化に関する検討を進めていたという下地がある。
MaaS以外の取り組みとして、都市経営の効率化、市政の透明性向上、地域経済活性化などを狙いとして、都市情報提供基盤である「Helsinki Region Infoshare (HRI)」を、運営している。この取り組みを通して、すでに交通・観光・教育・ヘルスケア・就労などの分野で200個以上の新たなアプリケーションが開発されており、スタートアップを中心としたエコシステムが構築されつつある。

(図表 欧州のスマートシティ)

これらの各都市の取り組みを支えているのがEUによる積極的なスマートシティ投資である。EUはEurope 2020という中期成長戦略を持っているが、その中でイノベーション、研究開発を支えるプログラムとして2014年より「Horizon 2020」を開始、7年間で約10兆円の投資を行っている。エネルギー、交通、ICTを統合するスマートシティ向けの技術開発プロジェクト(ライトハウスプロジェクト)に対しては、2014~17年の4年間で約4.3億ユーロ、その他、IoT、インテリジェント交通システム(ITS)、スマートヘルスなどのスマートシティの構成要素となる技術開発にも助成が行われている。6

(2)北米

トロント:Google系企業によるまちづくり
カナダ最大の都市トロントでは、ウォーターフロントの再開発事業が計画されていたが、2017年10月にSidewalk Labs (Googleの兄弟会社に相当。Alphabet社の子会社)とパートナーを組み、Sidewalk Torontoという共同事業体を発足させた。都市のセンシングデータ、交通データをプラットフォームに集め、APIでデータを第三者に開放することで、多くのスタートアップや、Google、Facebook、Uberなどの企業とサービス開発で連携したまちづくりを計画している。
現在公表されているソリューションとしては、以下のようなものがある。

  • 公共の「自動運転車」
  • 「ロボット利用のデリバリーシステム」
  • 「低コストのモジュラー式ビルディング」(ブロックやコンテナのようなパーツを組み合わせて作るモジュラー式の建設物。低価格かつ短い工期での建設が可能)
  • 「再生可能エネルギーによる熱を建物同士で融通し合うサーマルグリッド」

本格的な都市開発が本格的に始まるのは2020年の予定で、2018年には住民向けの説明会、ワークショップを開催していたが、地元住民の反対により、計画に遅れが生じている7

(3)中国・ASEAN

中国:特区、官民パートナーシップ(PPP)による、集中的な都市開発
近年の中国の経済成長は目覚ましいものがあるが、その端緒が、1978年から鄧小平氏により推進された改革開放路線である。政策の目玉となったのが都市部での外資の積極利用であり、具体的には1979年の「深圳経済特区」を筆頭とした経済特区である。各種規制緩和と投資を都市に集中させることで、国家全体の経済成長の原動力とし、対象となった都市は爆発的に成長した(深圳の経済規模は1979年の1.79億元から、2016年1.95兆元まで、約1万倍に拡大)。その後も政策目的に応じて、多くの経済特区、新区、開発区、ハイテク(高新)区、自由貿易区等を指定している。
この特区・新区開発の系譜が、そのまま中国のスマートシティ開発に続いている。近年の特区・新区でのインフラ投資は、官民パートナーシップ(以下、PPP)を中心に行われており、2016 年中央政府が受け付けたPPPの投資金額は約2.2 兆元(約33兆円)にも及ぶ。このPPPのパートナーとなった企業(国営・民間)と政府が協力することで、速やかな規制緩和と投資が実現されているとみられる。新区への民間企業の進出は政府により管理されており、2017年に開始された「雄安新区」計画では、アリババ、テンセント、バイドゥなどの48企業に対し新区への第1期進出許可が与えられている。
一方、習近平政権は2017年に「第1期国家次世代AI開放・革新プラットフォーム名簿」を公表した。これは、中国が国を挙げて推進する4つの次世代AIプラットフォームを示したものであり、中心となるべき企業を政府が指名しているのが大きな特徴である。このAIプラットフォーム構築事業が、前述の特区開発と結びついて進められているのが、中国のスマートシティ開発であり、官民一体による巨額な投資により進められている。

AIプラットフォーム 中心企業 対応する都市
スマートシティ アリババ 杭州
自動運転 バイドゥ 雄安
医療映像 テンセント 深圳
音声認識 アイフライテック 合肥

(図表 中国のAIプラットフォームとスマートシティ)8

浙江省杭州市はアリババグループが本社を置く都市であるが、アリババは市政府と提携し、市内の交通渋滞と交通事故の課題を解決するためのスマートシティ・プロジェクト「ET City Brain」に2016年から取り組んでいる。
市中に設置した1,700台の監視カメラの映像や、タクシー、バス等の公共交通機関の運行情報、インターネットの地図サービスやナビサービスのデータをAlibaba Cloudで収集・加工することで、交通渋滞の把握と予測や、交通事故の自動検知、交通違反車両の追跡などを無人で行うことを可能にしている。
このシステムは杭州で導入された後、蘇州、衢州、天津、マカオなど中国7都市、マレーシアのクアラルンプールへも導入される見込みであるが、クアラルンプールでは、救急車、警察車両などの緊急車両が通行する際に、迅速な信号調整を行うことも計画されている。

シンガポール:国家プロジェクトによる国全体のスマートシティ化
シンガポールは、2014年に”Smart Nation Initiative”を公表。シンガポールの課題である交通問題や、限られた国土における住環境改善、高齢化等の課題解決のため、ITを広範かつシステマティックに活用することで、傑出した都市となることを目標に掲げた。この構想に基づき、さまざまなテストベット(実証実験)が行われた結果、2017年の「世界スマートシティランキング」では首位に立っている9
代表的な施策は「バーチャル・シンガポール」である。これは国土全体を3Dモデル化し、国中から集められたリアルタイムデータに基づいた多種多様なシミュレーションを可能にするもので、都市計画における政策決定などに活用される見通しである。

(図 バーチャル・シンガポールを活用した太陽光発電量のシミュレーション例 10)
(図 バーチャル・シンガポールを活用した太陽光発電量のシミュレーション例10)

ここまで世界の先進的なスマートシティ構築事例を概観してきたが、共通点は、いずれのケースに関しても政府が積極的に関与、出資を行っている点である。現在はまだ構築途上の都市もあるが、都市を舞台に培った技術、ソリューションを輸出展開していくことが、国、地域としての成長戦略となっている。

2.2. 国内動向

(1)産業界

Society 5.0の実装形態として位置づけられるスマートシティの構築推進は、結果的にIoTなどのソリューション市場拡大につながる可能性が高い。このような市場活性化を目的とする産業界としても、データを分野横断的に利活用したSociety 5.0時代のスマートシティの実現を推進する政府に同調し、その実現に向けた提言を実施している。
経団連は、Society 5.0の実現のためのアクションプランをまとめ、「Society 5.0-ともに創造する未来-」11として提言した (2018年11月13日)。提言の中で、スマートシティに関して、Society 5.0時代の都市・地方として、エネルギーや交通、人流・物流、廃棄物などに関する、多様なデータを共有しスマートな都市を実現することで、SDGsに掲げられる目標の達成を目指すとしている。
また、産業競争力懇談会(以下、COCN)では、2018年度「デジタルスマートシティの構築」プロジェクトを実施し、最終報告書(2019年2月15日)12を公表した。当該プロジェクトでは、Society 5.0のコンセプトの下、デジタルイノベーションやデータ連携基盤を活用したスマートシティを複数のモデル都市へ展開し、従来のスマートシティの概念から脱皮した「デジタルイノベーション」を実現するべく、スマートシティの実現に向けた具体的な施策提言が行われた。特徴的なのは、スマートシティ構築に係る各取り組みの連携、関係者の認識共有、相互運用性担保のため、内閣府が定義するSociety 5.0のリファレンスモデル13に準拠した、デジタルスマートシティとしてのリファレンスアーキテクチャモデルの活用を提言している点である。

(2)政府

産業界からの提案などを受け、政府は、これまでのスマートシティ政策の反省や海外事例などを踏まえ、分野横断型のスマートシティ政策の推進を加速させている。
これまで、日本のスマートシティにおける政策は、国土交通省、総務省、経済産業省などの関連省庁が所管する分野を中心に施策を進めており、省庁間では必ずしも密な連携がなされていなかった。分野横断的なデータ連携を前提とするスマートシティの構築推進にあたっては、関係省庁間の密な連携が求められる。
内閣府では、スマートシティ政策の推進にあたり、関係本部・省庁と連携を取るため、Society 5.0実現加速(スマートシティ)タスクフォース(以下、タスクフォース)を設置した。当該タスクフォースは、関連事業に横串を刺すような位置づけであり、スマートシティ関連事業の連携を目的に、スマートシティの各事業を連携するために特に重要な共通アーキテクチャ、データ連携標準化などについて議論を行うこととしている。今後は、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」のうち「アーキテクチャ構築等」の事業を活用しつつ、内閣府、総務省、国土交通省などが合同で、分野・企業横断のデータ連携、他都市・地域への展開、国際標準化などに資するアーキテクチャ構築(都市OS、データ連携、API標準、データ構造など含む)の検討会議を設置し、連携を進めるとしている。14
また、タスクフォースによる議論と平行し、内閣府は内閣府特命担当大臣(地方創生)の下、「スーパーシティ」構想の実現に向けた有識者懇談会(以下、懇談会)を開催した。懇談会では、海外の先進事例調査などを踏まえ、日本における、分野横断型のスマートシティの必要性に関する共通認識の下、最先端技術を活用し、第四次産業革命後に、国民が住みたいと思う、より良い未来社会を包括的に先行実現するショーケースとしての「スーパーシティ」を実現するため、最新技術を実践する場をどう作るかという観点から、規制改革等について議論された。懇談会での議論の成果は、「『スーパーシティ』構想の実現に向けて」(2019年2月14日)15として最終報告が公表されている。今後は、懇談会の成果を踏まえ、従来の国家戦略特区制度を基礎としつつ、住民同意を前提により迅速・柔軟に域内独自で規制特例を設定できる法制度の具体化を進めるとされている。

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  • 出典:日本経済新聞電子版 2018.6.20 「車を変える「次の深圳」」 を参考に日立コンサルティングにて作成
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3. スマートシティ実現に向けた課題と解決の方向性

3.1. アーキテクチャ/都市OSの整備・適用

分野横断型のスマートシティの構築では、住民、自治体、民間事業者など多種多様なステークホルダーの共通認識構築が必要である。また、実際のスマートシティ関連のシステム実装に際しては、都市間でのシステム連携などを想定し、各個別システム間の相互運用性を担保する必要がある。これらの課題を解決するためには、スマートシティアーキテクチャの策定が必要である。
COCNでは、前述のとおりリファレンスアーキテクチャモデルを策定し、その活用を政府へ提言している。COCNのリファレンスアーキテクチャモデルは、内閣府で策定するSociety 5.0参照モデルに基づき、デジタルスマートシティの中心となる「都市経営」「地区/街区経営」に係る要素を8層に分けて定義している。
今後、政府はタスクフォースを中心として、リファレンスアーキテクチャの具体化を進めていくこととなる。このようなアーキテクチャ策定においては、コンセプトのレベルにとどまらず、システム実装面での具体化を進めることが重要である。スマートシティの分野は多岐にわたるため、複数システム間の連携の機会が増大する。その際に、標準的なAPIの採用など、システム間での相互運用性を確保するための、システム実装上のルールが必要となる。これらのルール策定にあたっては、スマートシティに係るステークホルダーの、既存の技術やシステムの現状を踏まえたうえで、特定の技術仕様にロックインされることなく、ソリューションベンダーが適正な市場競争ができるよう考慮する必要がある。

(図表 デジタルスマートシティ リファレンスアーキテクチャモデル 16)
(図表 デジタルスマートシティ リファレンスアーキテクチャモデル16)

さらに、日本のスマートシティの海外輸出や連携を想定し、日本発のスマートシティアーキテクチャは、既存の国際標準を踏まえる必要がある。各標準化団体では、スマートシティ構築のためのアーキテクチャの標準化を推進している。現時点では、各国際標準のアーキテクチャ間での整合性を確保の動きは見受けられないが、日本発のスマートシティアーキテクチャとして、各国際標準との整合性を取ることで、いわゆるガラパゴスではないオープンなスマートシティ市場を形成することが可能となる。

標準化団体名 ISO ITU IEC ISO/IEC JTC1
スマートシティ関連標準 概要 サステナブルな都市のマネジメントシステムと、Smart community infrastructuresの要件を定義 Internet of things and smart cities and communitiesとして、IoTの要素をスマートシティの要素と位置づけ、情報通信の観点から国際標準が策定 都市システムの統合、効率性、相互運用性を確保するため、電気工学の分野の標準を定義 スマートシティの体系的な構築を促進するために、スマートシティにおけるICTに焦点をあてたフレームワークや標準評価手法を策定
検討組織 ISO/TC268
ISO/TC268/SC1(インフラ)
ITU-T SG20 IEC/SEG1 SyC17 Smart Cities ISO/IEC/JTC1 WG11
フレームワーク関連の勧告 [ISO 37101]
サステナブルな都市のマネジメントシステム
[ISO/DIS18 37156]
都市におけるデータ流通のフレームワーク(ガイドライン)の位置づけ
[Y.4201]
スマートシティプラットフォーム(SCP)の要件と参照フレームワークを定義
[SyC Smart Cities/42/NP19]
多様なスマートシティを比較するためのアーキテクチャとして”SCRA” (Smart Cities Reference Architecture)というアーキテクチャを定義
[ISO/IEC AWI20 30145-1]
[ISO/IEC AWI 30145-2]
[ISO/IEC CD21 30145-3]

ビジネスプロセス、ナレッジマネジメント、エンジニアリングの3層のフレームワークを定義

(図表 スマートシティにおけるフレームワークに係るアーキテクチャの国際標準等22)

上記のスマートシティアーキテクチャを踏まえ、データ収集や管理など、スマートシティソリューションの実装に係る共通的な機能を有する汎用的なオペレーションシステム(以下、都市OS)が必要である。これまで、スマートシティ関連システムの実装にあたっては、データ収集からサービス提供まで、各アプリケーション起点での垂直統合的な実装がなされてきたが、相互運用性の観点から、データ収集・分析など、分野横断的に必要となる機能については、共通化されていることが望ましく、このような共通機能を提供するシステムが都市OSである。
COCNでは、都市OSの役割をデジタルスマートシティに張り巡らされたセンサーや、個人・企業の情報と、他の都市、国などから必要な情報を収集し、それを利用できるように加工、整理したうえでモビリティや防災など、スマートシティ内のさまざまなアプリケーション・サービスで利用できるようにデータを提供することと位置づけている。具体的には、前述のリファレンスアーキテクチャモデルの8層のうち「利活用機能」「データ」「連携機能」に該当する機能を有するシステムとされおり、関連ステークホルダーは都市OSを活用してビジネス(サービス)提供を行うことが想定されている。
今後の都市OS構築にあたっては、スマートシティアーキテクチャで定義される、標準APIなどのルールの下、住民などへサービス提供を行う個別のスマートシティソリューションシステムなどとデータ・システム間連携が可能な形で整備する必要がある。

(図表 デジタルスマートシティ アーキテクチャモデル 23)
(図表 デジタルスマートシティ アーキテクチャモデル23)

3.2. 協調領域と競争領域の明確化

スマートシティの普及と持続的な運用のためには、当該市場において、協調領域と競争領域の線引きを、関連するステークホルダーの合意の下に行うことが重要である。例えば、各種データ連携を行うための連携基盤などの構築・運用については、費用の最適化の観点から、ステークホルダーが共有化すべきインフラとして、国などの公的機関が担うことが望ましい。一方で、個別の課題解決のためのデジタルソリューションについては、多様なニーズへの対応や技術開発の促進のため、ソリューションベンダーがそれぞれの都市の課題・ニーズを踏まえ、最適なソリューションを提案・提供可能な競争市場として扱うべきである。このように、スマートシティ実現に向け必要な仕組みの整備・運用方法については、スマートシティ市場全体をふかんしたうえでの議論が必要である。先述のタスクフォースなどの枠組みにおいて、スマートシティ市場の協調領域と競争領域の線引きがなされることが期待される。

3.3. パーソナルデータの利活用促進

スマートシティにおいて、より個人の生活に寄り添ったサービスを実現するためには、パーソナルデータを利活用することが必要となる。例えば、勤め先から帰宅するとき、電車に乗ったという情報が分かれば、最寄りの駅まで自動運転車が駅まで迎えに来てくれるような時代が来るかもしれない。その際重要なのは、自分の位置情報というセンシティブな情報が信頼できる情報利用者のみに提供され、決して悪用されないということである。
現状、都市におけるパーソナルデータは、基本的に自治体、病院、民間事業者などが個別に管理し、自身のサービスのための利用するにとどまっており、第三者によるパーソナルデータの利活用は限定的である。パーソナルデータの利活用のためには、パーソナルデータを収集し、本人のコントロールの下、第三の情報利用者へ提供する情報銀行の仕組みが有効と考えられる。情報銀行を都市に適用し、情報銀行の機能をスマートシティへ取り込むことにより、サービス提供者がパーソナルデータを用いた新サービス創出や業務改革などが可能な環境を整備することが重要である。

(図表 情報銀行によるパーソナルデータ活用のイメージ 24)
(図表 情報銀行によるパーソナルデータ活用のイメージ24)

3.4. 制度・規制改革

スマートシティ構築には、自治体、地権者、デベロッパー、住民など、都市のあらゆるステークホルダーの協力が不可欠であるため、その利害調整や手続きなどに多大な労力と時間を要する。また、個人情報の利活用や自動運転等など、革新的技術の導入には、既存の法規制がハードルとなる可能性がある。スマートシティ構築の円滑な推進のためには、Society 5.0時代のスマートシティ構築に対応可能な、柔軟な法制度の改革が求められる。特に、要となるアーキテクチャや都市OSの標準普及のための基準策定や想定されるソリューションの実現に必要な規制緩和については、抜本的な改革が重要である。
前述の懇談会では、国家戦略特区を基に、スマートシティ向けに地域独自の規制特例を設定する枠組みが議論、提言されており、今後規制特例の具体化が進められることとなっているが、その際には、海外の法制度改革などの事例を踏まえることが有益である。
例えば、韓国では、スマートシティ構築に向けた法制度を整備している。韓国はICT政策「U-Korea」のもと、2008年に「ユビキタス都市(U-City)の建設に関する法律」(以下、ユビキタス都市法)を制定した。ソウルや釜山、仁川をはじめとした70以上の都市でスマートシティプロジェクトを計画・推進するも、プロジェクト間、システム間の連携不足のため、目標とされた海外輸出への貢献や企業誘致などの大きな成果を得られなかった。25この反省を踏まえ、2017年にユビキタス都市法を「スマートシティの造成及びその産業の振興に関する法律」へ改正し、同法を根拠に、都市OSの構築、標準化、規制緩和などの施策を推進している。具体的には、都市OSのようなスマートシティ向けプラットフォームの認証制度を制定し、韓国のICT分野の標準化機関であるTTA(Telecommunications Technology Association:韓国情報通信技術協会)が第三者審査・認証サービスを提供しており、これにより、都市OSの相互運用性・信頼性を担保している。さらに、規制緩和として、安全な実証環境を提供して技術革新の加速を促すため、個人情報の活用や自動運転など、次世代のスマートシティに求められるソリューションの実装を想定し、実証実験などを行う場合に既存法制度を適用除外とする特例を整備している。

3.5. スマートシティ構築と住民参加

ここまで見てきたとおり、スマートシティは第四次産業革命、Society 5.0で生まれる、各国技術のショーケースとなっている。日本でも海外から一回り遅れはしたが、ようやく政策投資が始まろうとしている。
都市というものは人々の生活の場である。高度経済成長期のように、新たに都市を切り開いて開発していくようなグリーンフィールドでのまちづくりは、人口減少を迎える日本では一部の臨海部を除いてほぼなく、大半は既存の市街地、本コラムをご覧の皆さまがまさに暮らし、働く街が舞台となって行われることとなる。
スマートシティ構築には、自治体、地権者、デベロッパー、住民など、都市のあらゆるステークホルダーの協力が必要となる。都市計画の世界では、住民参加型まちづくり、いかに住民の声をまちづくりに反映するかが議論、研究されてきた。この10年あまりで、まちづくり協議会や、アーバンデザインセンターなどが成立し、住民、法人市民がまちづくりの主人公として参画する体勢が始まりつつあるが、全国的には、住民が積極的に自分の街の将来について考え、議論をしていくという状況には至っていない。
そのような中、内閣府の「スーパーシティ構想」の最終報告では、スーパーシティの実現において住民参画が重要と位置づけている26。そのうえで「未来社会の加速実現を行ううえでは、言うまでもなく、現行の規制との相克が生じるため」住民合意を前提としつつ「より迅速・柔軟に域内独自で規制特例を設定できる法制度を新たに整備する必要がある」としている。スーパーシティは一部の地域でスマートシティを先取りするものなので、全ての地域で上記のような域内独自の規制特例が制定されるわけではないが、日本でスマートシティの構築を進めていくなかで、住民が主人公となって自らの都市の将来像を決めていく機会は確実に増えていくと考えられる。
これまで、時間と手間がかかるまちづくりに積極的に参画する住民はごく一部であった。しかし、今後スマートシティが構築され、さまざまなサービスが登場するなか、個人の生活に寄り添ったサービスを最大限享受するためには、自分のパーソナルデータを提供するかの判断なども求められる。スマートシティの構築を進めるうえでは、新たな技術、システムの導入だけではなく、より多くの住民が積極的にまちづくりに参画できるような仕組み、仕掛けもあわせて構築し、車の両輪として進めていくことが必要ではないか。

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  • IEC System Committee
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  • Draft International Standard (国際規格原案) :ISOの規格制定段階の1つ。各国最終承認前の段階
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  • New work item Proposal (新業務項目) :IECの規格制定段階の1つ。新作業項目として、原案検討が始められた段階
20
  • Approved new Work Item (承認済新作業項目) :ISOの規格制定段階の1つ。委員会議論前の段階
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  • Committee Draft (委員会原案) :ISOの規格制定段階の1つ。委員会での議論段階
22
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  • 日立コンサルティングにて作成
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  • 出典:首相官邸ホームページ「『スーパーシティ』構想の実現に向けて 最終報告」
    2、(1) ③住民参画 「住民のコミュニティが中心となって、継続的に新しい取り組みがなされ、改善が進められるような新しい住民参加モデルを目指す」
    (https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/saisyu_houkoku.pdf)

以上

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神谷 浩史
株式会社 日立コンサルティング マネージャー

高嶋 良太
株式会社 日立コンサルティング シニアコンサルタント

「Society 5.0(ソサエティ5.0)」という言葉が世に出て2年あまりが経過しました。
ようやく政府も広報活動に力を入れ、新聞広告を出したり、政府広報オンライン上で『ソサエティ5.0「すぐそこの未来」篇』という動画を公開したりするようになりましたが、世間の認知度はまだまだ低いのではないでしょうか。
Society 5.0は、IoT、AI、ロボットを中心とした先端技術によって社会課題を解決していこうという、日本政府が提唱する科学技術政策の基本指針の一つですが、人類史上5番目の新しい社会(Society)と表現されているとおり、私たちの生活の姿、そして社会の在り方までをも変えうるイノベ-ションによって、今後の日本はもちろん、世界を大きく左右する可能性を秘めています。現在安倍総理が進めている「生産性改革」を実現するための重要なファクタ-の一つでもあり、政府も取り組みに力を入れています。本コラムでは複数回にわたって「Society 5.0」とは何か、世の中をどう変えていくものかを解説していきますが、初回は、改めて「Society 5.0」の概要と、政府の取り組みについて解説します。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。