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株式会社 日立コンサルティング

先進企業の実践事例から見る成功要因

落合 規幸
株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

2018年4月25日

後編では先進的企業の取り組み事例を中心に、健康経営の成功要因を明らかにしていきます。

健康経営を評価するための五つのフレームワーク

前編でご紹介したとおり、健康経営の評価には五つのフレームワークがあります。各フレームワークの詳細は以下のようになっています。

図解

資料:経済産業省 「企業の健康経営ガイドブック」を元に日立コンサルティングが作成

疲れた顔でお客さまに感動を与えることはできない

1. 経営理念・方針

健康経営銘柄2018の26社のうち花王、テルモ、TOTO、大和証券グループ本社、東京急行電鉄、SCSKの6社は4年連続で選定されています。この中の1社、SCSKは、就業規則の中で「社員一人ひとりの健康は、個々人やその家族の幸せと事業の発展の礎である。社員が心身の健康を保ち、仕事にやりがいを持ち、最高のパフォーマンスを発揮してこそ、お客様の喜びと感動に繋がる最高のサービスが提供できる」と明記しています。つまり、お客さまに喜びや感動を与えるためには授業員が疲れた顔をしていてはいけない、ということです。システムインテグレーターであるSCSKは労働集約型産業です。以前は同業他社と同様に、SEが毎日泊まり込むような労働環境でした。この状況を、異業種から就任した副社長が見かね、イニシアチブを取り、就業規則を書き換えることから始めて、専任部署を設置し、次々に健康増進施策を打ち出した結果、4年連続して健康経営銘柄に選定されるまでに変わったそうです。

同じく4年連続で健康経営銘柄に選定された花王は、花王グループ健康宣言の中で、会社や健康保険組合が従業員の健康づくりを積極的に支援することを宣言しています。特筆すべきは、同僚や家族も巻き込んで健康づくりを実践してほしいという社長のメッセージを添えていること。家族の健康状態にまで言及し、健康支援の実践にも成功しているのです。

これらの事例からも分かるように、経営者が健康経営の意義や重要性をしっかりと認識し、その考えを社内外に明確に発信することが非常に重要となるのですが、メッセージを文章に起こすだけでは伝わりません。従業員とのコミュニケーションを活性化できるような、例えばタウンホールミーティングを開くなど、トップの考えを直接伝えることができる機会を用意することが必要です。

図解

資料:各社公表情報を元に日立コンサルティングが作成

2. 組織体制

大和証券グループでは、グループをまたがるCHO(Chief Human Officer)という役割を置き、総合健康開発センターや健康保険組合と協力しながら活動を推進しています。日本航空では、健康保険組合との連携に加えて、外部の専門事業者を活用してストレスチェックサービスを展開しています。この場合、責任者は社内にいなければなりませんが、外部の協力を仰ぐことは問題になりません。何から何まで自分たちでやらなくてもよいのです。健康経営を推進する責任者に関しては、どの健康経営銘柄でも、CXO、役員、執行役員クラスの方がその責務を担っています。これまでのように人事部門や総務部門任せでは福利厚生と同じになってしまうため、経営陣の参画は不可欠なのです。そしてさらに重要な成功と失敗のターニングポイントは、現場を動かしている事業ラインの従業員をいかに巻き込んでいけるか、です。

図解

資料:各社公表情報を元に日立コンサルティングが作成

自社の従業員に何が起きているのかを把握することが大切

3. 制度・施策実行

制度・施策実行で注意すべきは、「他社の真似をしない」ことです。それぞれの業種、業態で陥りやすい健康課題があります。まずは自社の従業員に何が起きているのかをしっかり把握することが必要です。例えばコンビニエンスストアのスーパーバイザーは、店舗の売上に貢献しようとコンビニ弁当や菓子パンを毎日食べるので、食事が偏りメタボになりがちだそうです。IT業界やコンサルティング業界では、メンタルの方が圧倒的に多い。はたまた金融業界では、世界中の市場動向を見守るために日夜逆転した生活を送っているため、睡眠不足に陥る人が多いそうです。

従業員が自発的に健康増進活動を行える仕掛けづくり

制度・施策実行の事例を見てみましょう。花王ではメタボや血圧が上昇した従業員がどのくらい増えているのか、事業所別に棒グラフにして見える化しています。そして事業所間で競走させています。花王には負けず嫌いな社風があるそうで、「隣の事業所(工場)に負けているから運動会をしよう」といった自発的な活動も生まれているそうです。また検診データと医療費のレセプトデータを分析しており、将来的な疾病リスクと医療費を予測しながら打ち手を検討しています。伊藤忠商事は、従業員が世界中を飛び回る商社ですから、花王のように一箇所に集まって運動会を行うことは困難です。そこで、全従業員にスマートフォンと、健康状態を把握できる腕時計型のウェアラブルデバイスを配布。従業員が自身の健診データを基に「体重を70キロまで減らしたい」といった目標を立て、効果を確認しながら自主的に健康プログラムに取り組んでいます。

こうした健康プログラムは、身体の変化を感じている40代以降は積極的で、20代から30代の若手は消極的な傾向にあるというのは、どこの企業でも抱えている課題です。ある製薬会社では、ボトムアップで推進できるよう、ワークショップを開いて自分たちでプログラムを考えています。ワークショップで「おいしくてヘルシーな食事を取りたい」という声が上がったことから、社員食堂を有名なレストランを経営する企業に切り替えました。また別の企業では、ゲーム感覚で気軽に参加できるようなプログラムを考えて楽しく取り組めるようにしています。このように従業員が自発的に健康増進活動を行える仕掛けづくりが重要なのです。

図解

資料:各社公表情報を元に日立コンサルティングが作成

車の両輪のように「健康」と「経営」のPDCAが回る仕組み

4. 評価・改善

施策を実行したら終わりではなく、現状の取り組みの評価を次の取り組みに生かせるよう、PDCAをしっかり機能させる必要があります。リンナイは疾病による休業日数のほか、健康経営の取り組みに対する従業員満足度も調査しています。花王は現在、一人ひとりの医療費の推移や高額医療費の状況を見て、メタボが医療費にどう影響しているかを分析することで、PDCAをしっかり回そうしています。健康経営への取り組み開始から日が浅く、花王のように体重の増減と医療費の関係が見えている企業は多くありません。また今後は医療費だけでなく、業績との関係も見ていく必要もあります。

図解

資料:健康経営銘柄2017 選定企業紹介レポート(経済産業省)を元に日立コンサルティングが作成

20年前は半年に1回でしたが、今は四半期ごとが一般的になった決算報告のように、社内のPDCAサイクルの頻度はもっと上がっていくでしょう。年一回の健診データをベースにしているだけでは、健康経営のPDCAは一年サイクルなってしまうので、健康状態をレコーディングできるデジタル機器を用いるなどで、より短いサイクルでPDCAを回す必要があります。私たちは、こうしたデジタル機器から収集できる「健康」の情報と、従来から蓄積している「経営」の情報を統合し、「健康」と「経営」の関係性を解き明かし、車の両輪のようにPDCAが回る経営管理の仕組み構築を支援していきます。

その一例が、光トポグラフィ技術を用いた当社のヒューマンセンシング活用コンサルティングです。頭部に計測装置を装着することで、今まで見ることができなかった従業員の活力をデータとして可視化し、業務データと関連付けて「健康」と「業績」の関係を分析していきます。
最近では、集中力を測ることができるメガネ型ウェアラブルデバイスなどもあります。このようなデジタル機器は日進月歩で進化し、今後はもっと高度な健康状態の把握が可能になるでしょう。

健康経営が成功している企業と、停滞している企業の違いは、「企業は人なり」という当たり前のことを理解し、実践できているかどうかだと思います。繰り返しになりますが、健康課題は企業によって異なります。それを理解し、他社の真似をするのではなく、自社の従業員と向き合うことができた企業だけが成功するのです。さらに、健康課題と業績との結びつきまで把握できたと実感できる企業は、より真剣に取り組んでいるといえるでしょう。これも大きな成功要因です。皆さまの取り組みを見える化していくことこそが、私たちコンサルタントの役割なのです。

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落合 規幸
株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

外資系コンサルティング会社にてコンサルティング業務に従事。2007年日立コンサルティングに参画。構造改革、組織設計、業務改革〜システム導入に従事。近年は働き方改革プロジェクトの推進を担当。加えて健康経営に関する調査研究等の活動をHRテクノロジー・コンソーシアム会員として推進中。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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