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株式会社 日立コンサルティング

秋田県のKPIと特長的な取組み

須藤一磨
株式会社 日立コンサルティング コンサルタント

共同研究

小川克彦
慶応義塾大学環境情報学部 教授

2017年3月31日

第5回に引き続き、インタビューを実施させていただいた都道府県を紹介していきます。第6回は、秋田県のKPIと特長的な取組みの紹介です。

(1) 秋田県の地方版総合戦略の構造について

秋田県は『「高質な田舎」を思い描きながら、「日本に貢献する秋田、自立する秋田」を目指す』という将来の姿を実現するため、4つの基本的視点に沿って4つの基本目標を設定しています。

図表1
(あきた未来総合戦略を基に作成)
図表1:秋田県 地方版総合戦略の概要

秋田県の基本目標(政策分野)は、国の総合戦略にて設定された4つの政策分野と同じ内容であり、4つの基本目標ごとに具体的なKPIが設定されています。その中には、第1回で定義した主要KPI(図表2の橙色網掛け部分)も一部含まれており、秋田県が設定した全てのKPIのうち、目標値が高いKPIを達成するための特長的な取組みについて調査を実施しました。

図表2
(あきた未来総合戦略を基に作成)
図表2:秋田県のKPIの構成

(2) 秋田県のKPIと特長的な取組みについて

秋田県の設定するKPIは約100個で、そのうち5都道府県以上で比較可能なKPIは40個あります。その中でほかの都道府県と比較して高い目標をあげているKPIのうち「UIJターン就職者数1」と「県の支援による移住者数2」に着目し、これらのKPIと目標達成に向けた取組みについて、秋田県へのインタビュー内容も踏まえて分析・紹介します。

1
あきた未来総合戦略では「Aターン就職者数」と表記
2
あきた未来総合戦略では「本県への移住者数」と表記

① UIJターン就職者数

目標としているUIJターン就職者数(人口10万人当たり)で比較しても、直近比で比較しても、秋田県は上位に位置していることが分かります。特に直近比では、150%以下の都道府県が多い中で、160%という高い割合を示していることからも、秋田県の目標が高いことがうかがえます。

図表3
図表3:UIJターン就職者数(年間)

UIJターン就職者数の目標を達成するための特長的な取組みの一つとして、Aターンと呼ばれるUIJターン就職支援があげられます。
秋田県では、「秋田県出身者も県外出身者も全て(All)の人が秋田(Akita)で暮らそう」との願いを込めて、UIJターン就職することを「Aターン」と呼び、就職相談窓口や支援制度により応援しています。この取組みは秋田県外に住む社会人を対象としており、秋田県ふるさと定住機構にAターン登録を行うと、県内のハローワークやAターンプラザ秋田に寄せられた求人情報の提供や、就職活動関連イベントの案内、面接交通費の助成などのサポートを受けることができます。特に、Aターンプラザ秋田の求人情報には、Aターン専用の情報もあり、登録のメリットの一つと考えられます。
また、県内企業もAターン登録者の情報を得て、面接リクエストを出すことができるので効率的にマッチングを行える仕組みとなっており、登録者と企業の双方にメリットのある取組みとなっています。

図表4
(“秋田暮らし”はじめの一歩2016より転載)
図表4:Aターン登録の仕組み

この取組みの特長は、学生ではなく社会人に特化した就職支援であるという点です。
公益財団法人秋田県ふるさと定住機構のAターン就職統計情報によると、2015年のAターン就職者のうち、約半分を30代が占めている状況です。経済的に安定してきて転職や起業を視野に入れる人が多くなる年齢の社会人にとって、移住はより身近なものになっていると考えられ、学生向けの取組み以外にも、このような社会人をターゲットにした就職支援の取組みにも注力することで幅広い層に秋田県への移住をアピールできると考えられます。
しかしながら、Aターン登録数とAターン就職者数の推移を分析すると、2013年度からの3年間でAターン登録数は3年間平均の前年対比が約30%と順調に増加している一方で、Aターン就職者数の3年間平均の前年対比は約−0.9%と低い割合になっており、登録者の増加の割には就職者が増加していないことが分かります。このことから、Aターン登録は行うものの、「就職先が見つからない」や「実際の就職活動を行っていない」等の状況があることが推察されます。今後は、登録者の就職率を上げるために就職を阻害している要因を調査・分析して対策を講じる必要があると考えられます。

② 県の支援による移住者数

目標としている県の支援による移住者数(人口10万人当たり)を比較すると、秋田県は上位には位置していませんが、直近比を比較すると突出していることが分かります。

図表5
図表:5 県の支援による移住者数(年間))

県の支援による移住者数の目標を達成するための特長的な取組みの一つとして、地域に根ざした起業家を支援するプログラムである「ドチャベン・アクセラレーター」があげられます。
「ドチャベン」とは土着ベンチャーの略称で、地域に根ざしたベンチャー・起業家を指します。この取組みでは、年に1回ビジネスプランコンテストを行い1位のチームに対し100万円の支援金を進呈する等の支援を実施しており、秋田県の委託により民間企業が運営しています。具体的には、「セミナー・現地プログラム」、「ビジネスプランコンテスト」、選抜された団体が参加する「起業家育成プログラム」の3部で構成され、説明会やビジネススクール等の「セミナー・現地プログラム」でビジネスプラン構築の前段階の支援を行います。「ビジネスプランコンテスト」を通過した創業をめざす団体は、「起業家育成プログラム」に移行し、具体的な創業支援を受けることができます3
実際に、2016年には、秋田県産フルーツの定期販売事業や県産材を使用した家具の販売業など、コンテストを通過した4団体が起業しており、それに参加するために移住する人も増加し、好循環が生まれている状況です。

3
2016年度は鹿角市と湯沢市で創業をめざす団体を対象に実施

図表6

この取組みの特長は、コンテストを通過した創業をめざす団体にのみ具体的な創業支援を実施する点です。
全ての団体に広く浅い支援を行うのではなく、コンテストを通じて創業プランが優秀な団体を抽出し、対象を絞り込むことで、より高度な支援を行うことができると考えられます。例えば、コンテスト通過団体には、県内外の起業家・起業支援組織・金融機関等と連携し、各分野に精通したメンターを各団体につき3〜5名マッチングして創業を支援しています。コンテストへの参加条件には、応募時に「秋田県外在住者であること(応募時点で秋田県内に居住して36か月未満であること)」という内容が含まれるため、創業者は近くに相談できる人材やコミュニティが乏しい状況が想定されます。このようなメンター制度は県外からの創業者を効果的に支援することに加え、取組みの初期段階では、すべての団体にコンテスト参加準備のための説明会やビジネススクールも開催しているので、創業を考え始めた希望者への対応も行っています。
なお、NPO法人ふるさと回帰支援センターの移住希望地ランキング2015年版で、秋田県は東北地方の中で1位(全体8位)という高い順位に位置しています。移住地としての人気が高い理由の一つとして、ドチャベン・アクセラレーターのような「起業しやすい環境」があると推察され、秋田県は創業希望者への支援を移住人気を高める施策として注力していると考えられます。

(3) その他

秋田県へのインタビューを通じて、前述のとおり、移住希望地ランキングが上昇している件についてお聞きしたので紹介します。

秋田県のランキングが上昇している理由として、ドチャベン・アクセラレーターのような「起業しやすい環境があるため」やAターンのような「就職支援体制が整っているため」のほかにも、「子育てをしやすい環境があるため」といった理由があげられます。
秋田県は教育環境に恵まれていて、児童の学力が高いという特長があり、2015年の全国学力・学習状況調査では全国1位となっています。その理由としては、「①全国で学力調査を実施する前から県独自の学力調査を行い、結果を各学校にフィードバックして改善を行っていること」、「②知識の詰め込みだけでなく、児童自ら課題を設定しディスカッションを通じて解決策を探る探究型の学習スタイルをとっていること」、「③少人数のクラスで授業を行っていること」などがあげられます。このような恵まれた教育環境が秋田県の移住希望地ランキングを押し上げる要因の一つになっていると推察できます。
しかし、児童教育の環境は整っているものの高校生の大学進学率が低いという課題もあり、理由としては、県内に大学が少なく、経済的に他県の大学への進学も困難であること等があげられます。そのため、県内大学の増設や既存大学の学部増設、また学生のいる家庭向けの支援策(補助金を用いた経済的補助等)の拡充も移住希望地ランキングを押し上げる施策として、今後、必要になると考えられます。

(4) まとめ

秋田県では、目標値の高いKPI を達成するために、図表7のような特長的な取組みを推進していることが分かりました。
UIJターン就職者数に関しては、移住志向の高まる社会人に特化した就職支援制度により、効果的に秋田県に人を呼び戻す取組みを行っていました。
県の支援による移住者数に関しては、コンテストを通過した創業プランが優秀な団体に対してのみ具体的な支援を行うことで、手厚い創業支援を実現する取組みを行っていました。

図表7
図表7:秋田県 目標値の高いKPIと特長的な取組み

以上

共同研究

小川克彦
慶応義塾大学環境情報学部 教授

写真:小川克彦

1978年に慶應義塾大学工学部修士課程を修了し、同年NTTに入社。 画像通信システムの実用化、インタフェースデザインやウェアラブルシステムの研究、ブロードバンドサービスや端末の開発、R&D 戦略の策定に従事。NTTサイバーソリューション研究所所長を経て、2007年より現職。工学博士。
専門は、コミュニケーションサービス、ヒューマンセンタードデザイン、ネット社会論。主な著書に「つながり進化論」(中央公論新社)、「デジタルな生活」(NTT出版)がある。

コラム執筆コンサルタント

須藤一磨
株式会社 日立コンサルティング コンサルタント

まち・ひと・しごと創生法に基づき、全国の地方公共団体は概ね2015年度中に人口ビジョン・総合戦略(以下、地方版総合戦略という)の策定を完了し、実行段階に移行しています。
地方版総合戦略の中では、PDCA (Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)メカニズム の下、具体的な数値目標(重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicators))を設定し、効果検証と改善を実施することとされています。
このKPIは地域ごとの特性や課題を踏まえて設定されており、ほかの団体に比べて高い目標を掲げている団体では特長的な取組みが行われていると考えられます。
本コラムは、地方版総合戦略の中で掲げられているKPIとその達成に向けた取組みについて、上記のような仮説に基づき分析・検証を行った結果を紹介するものです。
なお、この分析・検証は、慶應義塾大学環境情報学部小川克彦教授と株式会社日立コンサルティングの共同研究として実施したものです。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。