小林 雅貴 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー
藤田 麻里央 株式会社 日立コンサルティング コンサルタント
2017年9月4日
2017年7月から、番号制度における情報連携の試行運用が始まり、自治体間等で情報提供ネットワークシステムを介した特定個人情報の授受を行っている。試行運用期間中、自治体では引き続き住民等から証明書等を受領するが、併せて情報照会、情報提供も実施する。実際の住民に対する情報照会、情報提供を行うことで、データの齟齬(そご)や、これまで想定していなかったパターン等の発生による業務運用の見直しのほか、軽微なシステム改修等を必要とする懸案の発生も想定される。こういった懸案事項は、住民等が証明書等の提出を省略できる2017年秋ごろに予定されている本格運用前までに、解消しておく必要がある。そこで、今回のコラムでは、試行運用期間に実施すべき情報連携に係る各種業務運用の確認方法について紹介する。
番号制度では、2017年7月18日から情報連携の試行運用を開始しているが、2017年秋ごろから本格運用を予定している。
試行運用では、住民側は引き続き住民票の写し、課税証明書等、各種申請に必要な書類を提出するため、特に変更はない。一方、自治体職員は、住民から提出された住民票の写し、課税証明書等をこれまでどおり確認するとともに、併せて中間サーバーに対する情報照会で取得した住民票関係情報、地方税関係情報等との比較を行い、内容に齟齬(そご)がないことを確認する。
これは、住民から提出された証明書等の確認という現行業務と、中間サーバーへの照会結果の確認という新規業務を並行運用し、双方の業務運用の違いを意識することで、自治体職員の情報連携に係る業務運用の習熟度を上げることを目的としている。さらに、各種証明書等と照会結果に内容の齟齬(そご)がある場合、データ不備等の修正やその要因となった業務運用の見直し、当初想定していなかったケースが発生した場合の業務運用の確立等、懸案事項の解消を図ることも目的となる。
なお、内閣官房が作成した「情報連携の運用開始等について※」によると、試行運用期間中の運用では、齟齬(そご)が発生した場合には、まずは情報照会側で調査、続いて情報提供側で調査、そして調査結果に基づき適宜修正のうえ、提出された証明書と照会結果等の齟齬(そご)の解消を図ることとなっている。
図1 試行運用時の業務運用
試行運用開始前のテスト工程においても、各自治体は十分なテストを実施し、各種運用を検証しているが、このときは連携先機関間で、いつ、どのテスト用住民(テスト用の個人番号を設定した架空の住民)に対し、どのような情報を、どういった照会条件で情報照会するかといった詳細なテスト計画を調整したうえでの情報照会、情報提供である。つまり、あらかじめ、双方で結果を把握した状態で情報連携を実施していた。
一方、試行運用以降に行う情報連携では、実際の住民に対し、事前に調整等が行われていない状態で情報照会、情報提供を実施していることから、予期せぬ結果の発生も想定される。例えば、照会結果が返却されなかったり、誤って別人に対する情報照会、情報提供を行ってしまったり、当該住民がDV被害者等取扱要注意者であったり等、さまざまなケースが想定される。こういったケースを試行運用開始前のテスト工程で十分に検証できなかったため、試行運用の中で正しく処理できない場合、業務運用の見直し、システム機能の追加・改修等につながることが見込まれる。試行運用期間中であれば、証明書等に基づく審査等の現行業務との並行運用であるため、情報連携を正しく実行できなくても事務が滞ることはないが、本格運用では住民からの証明書等の提出が省略されるため、正しく情報連携ができなければ事務が滞り、住民へも多大な迷惑をかけることにもなる。
このことから、試行運用期間中に十分な検証を行い、懸案事項を出し切り、解消を図っておくことで、万全な状態で本格運用を迎えることが求められる。
試行運用期間中は、懸案が発生するつど解消を図るだけでなく、本格運用開始に向けて、改めて各種業務運用の網羅的な確認を実施する。そのために、これまで各自治体で整理していた情報連携にあたって必要となる業務運用の更新、利用システムの実装機能範囲の整理結果の更新、課題の抽出、対策案検討を行ったうえで、試行運用の中で検証を行うことが望ましい。
図2 試行運用期間中の業務運用等の確認手順
まずは、試行運用で発生した懸案事項に基づき、情報連携に係る業務運用の更新が必要である。業務運用の更新にあたっては、試行運用等で発生した懸案事項に基づき、中間サーバーの設計資料等を確認のうえ、符号取得、副本登録、情報照会、情報提供等で必要となる業務シナリオを再定義し、その後、中間サーバーとの連携部分を中心に国が想定する業務フローをベースに更新することが望ましい。
例えば、DV被害者等に対する情報照会において、当該住民がDV被害者等であることを確認のうえ、不開示設定をしてから情報照会を行うといった業務運用が定義されていないことが試行運用期間中に判明した場合に、改めて定義するといったことが想定される(詳細な業務フローは前回コラム参照)。
図3 業務運用の更新手順
次に上記で更新した各業務フローの対応可否を確認するために、各事務で利用する業務システムの機能(特に中間サーバーとの連携機能)の実装範囲を、試行運用期間に発生した懸案事項に基づき更新しておく必要がある。なお、実装範囲の更新にあたっては、例えば、以下の事項を調査しておけば、後述の業務運用の円滑な実施の可否確認の際に利用することができる。なお、確認する範囲は、全庁的な業務運用を改めて確認するために、試行運用期間に懸案が発生した業務システムだけでなく全システムを対象とする。
図4 利用システムの実装機能範囲の整理結果の更新手順
例:税務システムにて処理する事務における調査結果
試行運用期間、税務システムで情報照会時にDV被害者等を確認できない、不開示設定できないという懸案事項が発生した場合、上記の通り、確認項目に追加の上、DV被害者等であることを確認する機能、情報照会時に不開示設定する機能のいずれも有していないことを明示する。
上記で整理した業務フロー、事務ごとに利用するシステムの実装範囲に基づき、試行運用期間で発生した懸案事項に係る部分を中心に、改めて情報連携に係る業務運用の円滑な実施の可否を確認し、円滑な実施ができない場合は課題として抽出する。円滑な実施ができない可能性としては、例えば、以下が想定される。
図5 課題の抽出手順
例:税務システムで実施するDV被害者等に対する情報照会における課題の抽出
「DV被害者等に対する情報照会」に係る業務フロー、事務ごとに利用するシステムの実装範囲の二つの成果物を突合し、税務システムで実施不可となる処理を確認のうえ、課題として抽出する。ここでの例であれば、情報照会の際にDV被害者等であることを把握するための対策を立てるということと、DV被害者等に対する情報照会記録を不開示にするための対策を立てるという二つの課題を抽出する。
抽出した課題に対し、本格運用に向けて対策案を立て、試行運用期間中に検証しておく必要がある。
なお、対策案の立案にあたって有効な手段は、中間サーバー接続端末の利用である。ただし、中間サーバー接続端末は、設置スペースが限られること、ネットワーク構成への影響が大きいこと等を考慮すると、増設を容易に実施することができないことが想定されるため、限られた設置台数の中で、中間サーバー接続端末の効果的な利用方法の検討が必要になる。
例:税務システムで処理する事務において、情報照会の際にDV被害者等であることを把握するための対策案、DV被害者等に対する情報照会記録を不開示にするための対策案の検討
例えば、以下のような対策案が想定される。
<情報照会の際にDV被害者等であることを把握するための対策案>
<DV被害者等に対する情報照会記録を不開示にするための対策案>
弊社では、クライアントである自治体での番号制度対応に係るノウハウに基づき、これまで示した手順でのサービス提供を行っている。特に、国が想定する各種シナリオに基づく業務フローについては整備を完了しており、これを用いて迅速な調査の実施が可能である。
試行運用期間中に改めて業務運用の精査等を予定している場合には、ぜひお問い合わせいただきたい。
以上
小林 雅貴 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー
藤田 麻里央 株式会社 日立コンサルティング コンサルタント
全国民にマイナンバーを付番し、一意に特定する「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下、「マイナンバー法」とする。)及び関連法が平成25年5月24日に成立しました。
平成27年10月の国民へのマイナンバーの通知、平成28年1月のマイナンバーの利用開始、平成29年7月の自治体を含めた情報連携の開始といった3つのマイルストーンを見据えて、マイナンバー制度の導入に向けて各関係機関が始動しています。
このコラムでは、マイナンバーの通知から幅広い行政手続きでマイナンバーを利用し、かつ国など複数の機関との情報連携の役割を担う自治体(特に住民サービスの最寄り窓口となる基礎自治体)を対象に、マイナンバー制度導入によりどんな影響があるのか、これから取り組んでいくべき課題は何か、などにつき発信していきます。
※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。