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第2回 ラストワンマイル領域におけるドローンを活用した配送業務

早島 圭太 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

2023年2月9日

1. 物流業界における状況

■ 国内物流市場の現状

物流市場では、少子高齢化による人手不足やドライバーの労働環境悪化などにより、トラックドライバー数が急減しており、将来的に輸送需要に対する供給不足が拡大することが予想されている。近年では、EC市場の拡大に伴い、宅配便取り扱い個数の増大が継続しており、輸送の供給不足に拍車をかけている。

■ ドローン活用の背景

そういった問題への解決手段の一つとして、飛行ドローンによる荷物配送が注目を浴びてきた。近年では、新型コロナウイルスの感染拡大が飛行ドローンによる荷物配送の社会実装を後押ししている。例えば、人同士の接触を避けるために遠隔診療や遠隔服薬指導を臨時で認め、その制度の恒久化を進めている中で、飛行ドローンによる医薬品輸送が注目を浴びたのは記憶に新しい。

こうした背景の中、政府は「ドローン宅配」の実装に向け、地方自治体と連携した具体的用途を念頭に置いた実証実験への支援を継続しており、地方が抱える課題を解決するために「ドローン宅配」の実証実験が各地で行われてきた。また、大手EC事業者や物流事業者でも、飲食店・スーパーの商品デリバリーや、既存物流システムとドローンを組み合わせたスマートサプライチェーンの開発など、新たな配送サービスの提供に向けた実証・試行運用を続けている。

しかし、こうした官民での取り組みとは裏腹に、飛行ドローンでの荷物配送は、一部地域においてサービス提供が行われているものの、そのほとんどが実証実験の段階なのが現状である。有人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル4)の実現を目標とした取り組みは続いているものの、商用化・実用化のフェーズにはまだ突入できていないというのが筆者の認識である。

なぜ、商用化・実用化フェーズに突入できていないのか。その理由を筆者が経験した実証実験から見いだすことが、本コラムの目的となる。

2. ドローンを活用した荷物配送の実証

■ 実証の目的

まずはドローン荷物配送における実証実験について、検討内容とアプローチを紹介したい。

実証実験は、飛行ドローンでの荷物配送業務で必要となる運用・機能要件、実用化に向けた課題を整理し、実際にドローンを飛行させ、その実現性と効果を検証することを目的として計画された。実運用を想定し、飛行ドローンによる荷物配達業務の内容をあらかじめ定義したうえで実証が行われた。

■ 検証内容とアプローチ

実証実験を行うにあたって、事前に外部環境への影響や必要な運用体制などの検討論点を導出し、それぞれの論点への対応策をあらかじめ定義することで、検証をより具体的に評価できるよう試みている。
(図1)

図1. 検討内容と対応アプローチ
図1. 検討内容と対応アプローチ

先端技術を活用した実証実験では、技術検証をメインに行っている事例も多く見られるが、業務オペレーションへの変革を求めるものであれば、業務手順や運用体制をあらかじめ定義することは、効果を検証するうえでは重要なアプローチだと考えている。
以降は、検討内容において特に実用化を見据えるうえで重要だと考える項目をピックアップし、詳細に述べる。

■ ドローンの活用領域の検討

現在の荷物配送は、荷物量・走行距離などに応じて、適した輸送モード(バイク・トラックなど)を使い分けることで効率的な運用を実現している。ドローンも輸送モードの一形態だと考えれば、飛行距離や重量限度などの機体スペックを考慮し、適した活用領域での利用が実用化を考えるうえでは現実的である。
本検討では、ドローンでの荷物配送としての活用余地が見込まれる領域を定義することを目的に、ドローンの現在の技術レベル(飛行距離・輸送物量)を踏まえ、適用が有効な領域を評価・選定した。

まずは、既存事業において荷物配送が行われる領域を洗い出した。この時点では、ドローン配送としての実現可能性は考慮せず、物の移動が発生する領域を網羅的に洗い出すことを優先した。
その理由は2点ある。1点目はドローンの技術レベルが発展する可能性を考慮したことだ。ドローン技術のうち、荷物配送に最も影響のあるのは航行時間である。以前はマルチコプターの航行時間は15分〜20分ほどであったが、搭載電池の改良や複数搭載により、現状では100分以上飛行が可能な機体も現れており、航行時間が伸びるにつれて、短期的には実現が難しい領域でも、将来的にはドローン配送により業務の効率化が見込める。
2点目は機体形態の違いにより利用用途・範囲が拡大すると考えられるためだ。一般的にドローンと言えば複数の回転翼を持つマルチコプターを指すことが多く、本実証でも利用しているが、それ以外にも回転翼が単一であるシングルロータ型や大きな翼を装備した固定翼型ドローンといった種類が存在する。シングルロータ型は大型ロータにより生み出されるパワーがマルチコプターと比較して強く、風への抵抗力も高い。そのため、より重い荷物を風速に左右されずに継続的に配送できる潜在力を持つ。固定翼型は飛行スピードが速くかつエネルギー効率が高いため、回転翼を持つ機体に比べて長距離・長時間での飛行が可能となる。そのため、より長距離でのスピーディーな荷物配送が可能となり、高単価な医薬品のスピード配送などの特定ニーズへの対応に向いていると考えられる。その後、既存業務における荷物配送が行われるすべての領域に対して、配送時の距離・輸送物量を基準に、ドローン性能との適合性評価を行い、“入荷拠点への配達・集荷”と“配送拠点からの配達”領域をドローン活用領域として定義した(図2)。

図2. ドローンの活用領域の検討
図2. ドローンの活用領域の検討

■ ドローン飛行時(直前/直後)の業務運用方法の検討

活用領域の検討結果から優先検討することとした“入荷拠点への配達・集荷”と“配送拠点からの配達”の2領域は、業務関係者と討議して、ドローン荷物配送時のオペレーションで想定される業務ルールや作業項目を具体化することで、実用化を見据えた検証対象として整備している。これにより業務課題の導出を狙い、早期の試行運用・実用化をめざすことが可能となる。
本検討では、ドローン導入による業務変更点を明確化するため、現行・ドローン導入後の業務フローを作成したうえで、現行業務に大きな影響を与える箇所を、削減・変更・追加の観点で整理した(図3)。

図3 現行・ドローン導入後の業務フロー
図3 現行・ドローン導入後の業務フロー

ドローン導入による業務変更点を明確化することは、導入後の業務効率化や、業務関係者へのトレーニングとしても有効な対応だと考えている。

■ 気象条件(風・雨量)および地形を考慮した飛行計画の立案方法の検討

ドローンによる荷物配送では、配送地域の気象条件(風・雨量など)や地形などが飛行ルートや飛行日時の設定に影響を与える。将来的に複数の地域でのドローン配送を担うことを考えると、人の判断だけでこれを設定することは困難なことが想定される。そのため、飛行空間を定量的に把握・予測できる機能を用いることで、安定かつ安全な飛行を支援する仕組みを構築できることになる。
本検討では、気象条件や飛行地域の地形など、飛行ルート/計画立案時に考慮すべき要件を定義したうえで、必要な機能が何かを検討している。例えば、強風時は飛行中のルートからの離脱や、離着陸時の事故などが起きうるため、これを考慮すると、飛行地域の風向風速を把握できる仕組みが必要となる、といった具合だ。

3. 実証結果と解決策

実証前の検討結果を踏まえて、実運用を想定した実証シナリオにより、実際にドローンを飛行させることで実証実験は行われた。
飛行場所と実証日程の関係から、実証シナリオ一連の飛行検証は実施できなかったため、実証の実施日と実施内容を分散させて推進した(図4)。

図4 実証実験で検証した機能・運用内容
図4 実証実験で検証した機能・運用内容

主な実証内容と結果、および課題への解決策(方向性)は以下のとおりとなる。

■ 飛行計画の立案方法の検証

本検証では、気象条件や飛行地域の地形など飛行ルート/計画立案時に考慮すべき点として、飛行空間を定量的に把握・予測できる仕組みについて検証した。具体的には、あらかじめ選定した地上局ソフトウェアを使用し、飛行予定場所の気象予測情報や地形(標高)を可視化し、飛行ルート・計画の策定時に利用できるかを確認している。
結果としては、飛行前に対象区域の風速や降雨量などを確認することで、予定していた飛行ルートの修正は十分に行えることが実証できた。今後、飛行可否の判断を定量的に下すための指標の策定は、運用を属人化させないために必要だと判断している。

■ 搭載重量と飛行距離の検証

本検証では、ドローンの飛行距離と搭載可能重量を把握し、適切な装備品と積載物の重量を検証した。具体的には、飛行前の運用検討時に機体への要求スペックを定め、それに該当する機体を選定し、搭載重量を複数パターン(1.0kg、2.0kg、3.0kg)変更のうえ、周回ルートを自律飛行させ、飛行距離を計測し、搭載重量と飛行距離の相関関係を確認した。
結果としては、ドローンの搭載重量と飛行距離は飛行方法・環境・状況などにより大幅な誤差が発生したため、配送先への飛行距離を算出し、搭載重量上限を設定する暫定対応が必要との結論となった。今後は飛行条件を変更し(直線的な飛行、受け渡し方法の変更など)、データの収集・検証を継続する必要がある。

■ 配送時の落下リスクおよび対応方法の検証

本実証では、配送時の「機体」と「荷物」の落下リスクから、落下防止、回避・軽減策と落下後の対応方法を検討した。具体的には、「機体」と「荷物」の落下要因となる事象を整理し、要因ごとに防止策、回避・軽減策を策定したうえで、実際に防止策としてのバッテリー残量不足に起因したセーフティー機能の検証を行っている。実証実験自体は機体の機能検証がメインとなったが、事故発生時の対応(関係各所への連絡フローなど)も含めて検討したことで、実運用に近い対応方法を定義できたと考えている。

■ 業務運用方法の検証

本実証では、あらかじめ定義したドローンによる荷物配送業務のフローに従い、実運用に向けた実現可能性を確認した。実証により導出された主な課題と実現可能性への検討結果はおおむね以下のとおりとなる。

  • 専門知識が必要となる作業への対応
    飛行前の飛行可否判断やドローン自体の操縦は外部への作業委託によって行われたため、事業者自身で推進するためには自動化やマニュアル整備が必要
  • 複数機のドローンの統制・監視
    高い安全性を確保するうえでは、飛行状況の把握・監視の自動化に加え、複数機体を集中管理できるシステム・体制の構築が必要
  • 顧客への配達手法
    顧客の荷物受け取りまでを考えた場合、到着までの事前通知や配達結果としてのエビデンスをどのように取得するかなど、配達手法をより実運用に即した形で具体化することが必要

4. 今後の展望

ドローンによる荷物配送業務を事前に定義し、実運用を想定した本実証で、ドローン導入後の業務・運用手順を明確化できたことは大きな成果だと考えている。しかし、実証実験で明らかになったもののほか、複数機体制御のための運航管理や通信の確保、墜落リスクへの配慮といった技術的・制度的課題や、社会受容性の醸成など、まだまだ解決すべき課題が多いのが現状だ。さらに、経済性の観点で言えば、1機体による配送物の重量当たりのコストと配送料では収支のバランスが取れないことは明確であるため、さらに配送数量・範囲を拡大することを検討・議論していく必要があると考える。

以降、ドローンによる荷物配送業務の実現は、どのような発展段階をもって社会実装されていくかを述べたうえで、経済・運用面での実現のために対応が必要な、利用事業者としての検討課題を提言し、本コラムの最後としたい。

■ ドローンによる荷物配送の発展

無人航空機の新制度施行により、有人地帯での補助者なし目視外飛行(レベル4)による都市部での飛行が可能となった今、ドローンによる荷物配送はますます発展していくことが想定される。しかし、首都圏といった都市部での本格実装はまだ先ではないだろうか。

ラストワンマイル配送でのドローンの活用では、配送拠点から配達先の飛行ルートの設定が必要となるが、飛行ルートの設定は、飛行環境や障害物、落下リスク軽減など、さまざまな要素を踏まえる必要がある。しかし、現在トラックや台車などでの配送がメインである都市部のラストワンマイル領域では、安全かつ継続的なルート設定が難しい。そのため、飛行による配送へのコストメリットが高い範囲(離島・山頂など)での実用化が進んだあと、徐々に配送領域を拡大していく形で発展するものと考えている。

■ ドローン独自の配送サービスの開発

飛行ドローンによる配送は、物流事業者で顕在化する労働力不足への解消を文脈として論じられることも多いが、現時点での顧客ニーズとコストメリットを踏まえると、現在のトラック運転手の代替としてのドローン利用は難しいものだと考えている。
顧客ニーズの視点では、これまでとサービスレベルが同等であれば、運び方は問題にならない。そのため、現在行われている物流業務・サービスの延長線上ではなく、配送領域の地域・顧客ニーズに適した新たな配送サービスの検討が必要だ。
例えば、買い物難民が多く存在する過疎地域内での荷物配送や、無人ハブを用いた完全非接触での業務オペレーションなど、特定地域・顧客ニーズへの対応を軸として、スケール拡大をめざしていく視点が重要である。スケール拡大においては、協業も重要な手段であり、ドローン配送地域内での共同配送といった企業間での連携など、独自の配送ラインにこだわらないスキーム構築も必要となる。

■ ドローン配送に必要な体制・スキーム

ドローンによる配送では、荷物を配送する際の飛行地域(無人・有人)と飛行方法(操縦・自律)、飛行範囲(目視内・目視外)により規定される「小型無人機の飛行レベル」に準じた体制を構築する必要がある。これまでは飛行を認められていなかったレベル4(有人地帯での補助者なし目視外飛行)も、2022年12月には飛行に必要な制度が整備された。レベル4での飛行の解禁が、飛行ドローンによる配送の本格的な契機になるとも言われており、将来的な実用化を見据えるとすれば、レベル4で必要な運用体制の検討・構築が必要である。

運用体制の要素としては機体・データ・UTM(UAS Traffic Management)1・アプリの4つとなる。有人地帯での目視外飛行には、衝突回避機能の実装や認証を受けた機体が必要となる。それらに加えて、飛行ルートを遠隔で追跡する運航管理機能が必要となるが、それはUTMシステムが担うことになる。UTMによる運航管理では、配送領域における地図データや配送日の天候データにより、当日の飛行計画・ルートの策定や飛行判断などを実施するため、各データの提供事象者とデータの提供事業者との連携も必要だ。また、独自の配送業務の要件を標準機能で満たせない場合は、他のITベンダが提供するアプリとの連携により、それを実現するケースも想定される。

すべてを一つの事業者だけでそろえることは経済面からみても困難であるため、レベル4での飛行をめざす場合、パートナー連携が必須であり、実証段階からパートナー連携を前提とした検討をすることが必要だと考えている(図5)。

図5 レベル4を見据えた運用体制
図5 レベル4を見据えた運用体制

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UASは「Unmanned Aircraft System 」の略称。

本コラム執筆コンサルタント

早島 圭太 株式会社 日立コンサルティング シニアマネージャー

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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