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株式会社 日立コンサルティング

欧州の電子政府に関する取組の最新動向
第1回 欧州委員会の取組と欧州の電子政府の現状

木 弘康 (たかぎ ひろやす)

2016年4月8日

本コラムでは、第1回で、欧州全体での電子政府の取組状況を概観するために、その主導的立場にある欧州委員会(European Commission)の取組を、第2回で、欧州各国の具体的な取組事例として、英国歳入関税庁とスペイン財務・行政省の取組を紹介します。

1.電子政府を巡る欧州委員会の動向

今回の調査では、欧州委員会が取組む電子政府ベンチマーク(eGovenrment Benchmark)(後述)のプロジェクトマネージャーであるNiels van der Linden氏(Capgemini Consulting)に話を伺った。

1.1.欧州委員会が重視する電子政府の取組テーマ

欧州委員会は、EU加盟国の電子政府の推進に大きく関与している。その仕組みは、大別すると「政策(Policy)」、「財政支援(Funding)」、「規制(Regulation)」の3つからなる。
電子政府に関する「政策」としては、EU(Europe Union)全体の2020年までの経済成長戦略をまとめた「欧州2020(Europe 2020)」の中で、「欧州のデジタルアジェンダ(A Digital Agenda for Europe)」を掲げ、高速インターネット等のITインフラ投資の促進等により、欧州のデジタルによる単一市場(Digital Single Market)の創出をめざしている。
欧州委員会は、このような政策を実現するために加盟国がとるべき行動計画を示した「電子政府行動計画2011〜2015(eGovernment Action Plan 2011-2015)」を策定している。
また、欧州委員会は、EU加盟国が行動計画に基づき実際に行動を起こすことの重要性に鑑み、Connecting Europe Facility(CEF)が中心となり、「財政支援」も進めている。CEFは、EUにおけるエネルギー、交通、通信ネットワークの3つの分野のインフラプロジェクトの支援のため2011年に創設された。支援先はEUの加盟国に留まらず、科学者や民間企業も含まれており、多様なイノベーションの創出を奨励している。
さらに、EU加盟国が進める行動計画を後押しする仕組みとなるのが「規制」である。様々な法規に従って欧州委員会が発する指令や規則をもとに、当該サービスの義務化を加盟国や利害関係者に対して課している。例えば、公共部門の情報の再利用に関する指令(2015年改正)や電子認証に関する規則(eIDAS、2015年成立)などがある。
このような枠組みの中で、現在、欧州委員会が進める電子政府の取組において重視している取組テーマに「デジタルサービス」、「クロスボーダーサービス」、「オープンサービス」の3つがある。
「デジタルサービス」は、行政サービスのデジタル化の更なる推進をめざす領域である。この領域では、以前からデンマーク等の北欧諸国やエストニア等のバルト三国等において熱心な取組がみられるほか、近年では、英国において「Digital by Default Service Standard」と呼ばれる行政サービスのデジタル化を標準とする政策が推進され、その取組が注目されている。
デジタルサービス化の主要な課題は、いかにコストを抑えて行政サービスを提供できるかにある。その一方で、デジタルサービスの提供のためには、インターネットなどの通信インフラ環境が整備されていることが前提となるため、このような通信インフラ環境が不十分な地域への対策など、より普遍的なサービスの提供を目指して整備を進めていくことが重要となっている。
「クロスボーダーサービス」は、国境を越えても同様の行政サービスの利用を可能にしようとする取組である。現在、EU加盟国の間では、行政サービスの違いはもとより、言語の違いによる障壁が存在する。本件については、欧州委員会が主導的な立場に立って取組を進めている。
「オープンサービス」は、公共部門において収集ないし蓄積されたデータを活用することにより、いかに新たな公的価値を創出することができるかという、行政サービスのより一層の向上が期待される領域である。
例えば、行政がデータ分析の手法を用いることにより、より安価でかつサービスの質の高いヘルスケア事業者の情報を提供したり、災害発生時に、より安全な場所はどこかといった情報を提供したりすることも考えられる。
また、欧州委員会は、「オープンサービス」に関するプロジェクトの一環として、ポータルサイト(「European Union Open Data Portal」(https://open-data.europa.eu/))を立ち上げている。
このように、欧州における電子政府の取組は、コスト削減だけでなく、広域的な観点で複雑な官僚手続の簡素化に取組むとともに、オープンデータによる新たな公的価値の創出をも視野に入れて進められている。

1.2.電子政府ベンチマークの取組

では、実際に欧州の公共部門では、どの程度デジタル化が進展しているのだろうか。
欧州委員会は、欧州各国の電子政府に関する取組状況に関して、様々な調査を行っているが、その中の1つとして、2012年に公表した「eGovernment Benchmark Framework 2012-2015」がある。これは、欧州委員会が独自に電子政府に関するベンチマークを開発し、各国の評価を行うものである。
Linden氏によれば、10年程前はWeb上に情報が掲載されていれば良しとされた時代であったが、現在は情報が掲載されていることが大前提であり、その情報を市民がどのように使っているか、また、何人が活用しているかといった点を数値化し、効率性を評価するというように、評価の手法や内容自体も変化してきているという。
このような背景を踏まえて、電子政府のベンチマークは開発された。具体的には、図1に示す7つの大きなライフイベントを対象とし、各ライフイベントについて、それぞれ10〜30の詳細なサービスについて調査を行っている(図2)。

  1. 起業と早期操業(Business Start-ups and Early Trading Operations)
  2. 失業と就業(Losing and Finding a Job)
  3. 学業(Studying)
  4. 通常のビジネス実務(Regular Business Operation)
  5. 引越し(Moving)
  6. 自動車の所有と運転(Owning and Driving a Car)
  7. 苦情処理手続(Small Claims Procedure)

図1 電子政府のベンチマークとしている7つのライフイベント

図1 電子政府のベンチマークとしている7つのライフイベント

図2 ライフイベント「1.起業と早期操業」のプロセスモデルとサービス定義の例
出典:「eGovernment Benchmark Framework 2012-2015」欧州委員会,2012
図2 ライフイベント「1.起業と早期操業」のプロセスモデルとサービス定義の例

また、これらのベンチマークの評価にあたっては、「ユーザ中心指向(User Centricity)」、「透明性(Transparency)」、「国境を越えた移動性(Cross Border Mobility)」、「実現の鍵(Key-Enablers)」の4つの観点から評価を行っている。
実際の調査においては、EU加盟国を中心に調査に参加している34カ国を対象に、覆面調査員(Mystery Shoppers)約70名が現場に赴き、7つのライフイベントについて、関係する全ての公的機関を通じて円滑に手続を終えることができるかに着目して調査を行っている。

1.3.欧州電子政府の進捗状況と更なる利用拡大に向けて

欧州委員会は、上述した調査の結果等から様々な分析を行い、各国の電子政府の取組状況を評価している。また、評価結果等は欧州委員会のホームページ(http://ec.europa.eu/)等を通じて公表している(図3)。

図3 フランスの電子政府ベンチマーク評価結果の例
図3 欧州諸国の電子政府ベンチマーク評価結果の例
出典:「Future-proofing eGovernment for a Digital Single Market」欧州委員会,2015
図3 上段:フランスの電子政府ベンチマーク評価結果の例、下段:欧州諸国の電子政府ベンチマーク評価結果の例

EU全体の評価としては、総じて電子政府の成熟化はゆっくり進んでいるものの、依然として使い易さや利用スピードの面で改善の余地があると見ている。
電子政府サービスを利用した欧州市民は全体の47%(2014年)である。また、インターネットを利用して行政手続を行ったことのある欧州市民は、EU28カ国平均で26%(2014年)にとどまっている(図4)。

図4 インターネットを利用して行政手続を行った市民の比率
出典: 「Digital Agenda Scoreboard 2015-eGovernment」欧州委員会,2015
図4 インターネットを利用して行政手続を行った市民の比率

では、市民があえてオンラインサービスを利用しようとするきっかけをどのように創出すればよいのだろうか。しかも、オンライン化するだけでは十分ではなく、いかにオンラインサービスを使ってもらい、コスト抑制につなげるかが重要である。
市民が電子政府サービスを利用する上で、最も重要と考える便益は何かを尋ねたところ、次の結果が得られている。

  • 時間がかからないこと(80%)
  • 柔軟な対応ができること(76%)
  • お金がかからないこと(62%)
  • 使い勝手がよいこと(61%)

オンラインによる公的サービスの設計にあたっては、人々が求めている「時間がかからないこと」や「お金がかからないこと」等に対応した、「ユーザ中心指向のデザイン(User-centric Design)」に変えていくことが重要であるとLinden氏は指摘する。
「ユーザ中心指向のデザイン」に変えていくための具体的な取組として、次の5つがある。

  1. モバイルフレンドリーなWebサイト(Mobile-friendly Websites)
    EU加盟国の公的なWebサイト約6,000のURLを対象に調査をした結果、「モバイルフレンドリー」なWebサイトを公開しているのは27%にとどまった。
    また、この中で最も進んでいるのが英国である。英国では、「Mobile by Default」と呼ぶ独自政策により、オンラインの行政サービスにモバイル端末による提供も義務づけることとした。この結果、英国の公的サービス全体の69%が「モバイルフレンドリー」なサイトによる提供が行われているという結果となった。また、この政策の実施により、モバイル端末による行政サービスの利用率が2倍に増加することとなった。
    このように、モバイルを入り口に電子政府サービスの利用拡大を図るということは、非常に有効な方策の1つとみられる。
  2. 分かりやすく、使いやすいサービス提供プロセス(Transparent and Easy to Use Service Processes)
    より分かりやすいサービス提供プロセスを設けている国ほど、より簡単でスピーディな利用が市民によってなされる傾向にあることが調査結果から判明している。このような分かりやすいサービス提供プロセスは、人々の利用を促すとともに、行政とのやりとりにオンラインを利用し続けることにつながっている。
  3. パーソナルデータ管理(Personal Data Management)
    行政におけるパーソナルデータの管理の透明性が市民との信頼関係を構築している。すなわち、利用者が必要に応じてパーソナルデータを入手でき、行政によってパーソナルデータが変更されたり、何らかのエラーが発生した場合は、オンラインで利用者に通知され、かつ、苦情がある際の手続が明示されていることが重要となっている。
  4. ワンスオンリー登録(Once-only: Pre-fill and Automate)
    上述した覆面調査員による調査結果では、本人確認のための情報登録にあたり、eIDを用いず、都度オンラインフォームから入力する必要があるケースが約50%存在した。このような結果は、データを公的組織内でデータ共有していないとともに、サービス提供の簡素化やコスト抑制の機会を失わせている顕著な例といえる。
  5. 省庁連携による協働(Cross-agency Collaboration)
    「ユーザ中心指向のデザイン」による電子政府サービスの利用が拡大するにつれて、必然的にパーソナルデータ等の登録窓口となる地方公共団体と中央省庁、また、国家間、さらに、公共と民間といった垣根を越えた連携が求められることとなる。
    そして、その実現のためには、まず個々の手続がデジタル化され、さらにデータ統合が進んだ上で、これらのデータの相互配信を可能とする省庁連携が重要な役割を果たすと考えられる。

このような取組を進めることによって、従来の電子政府サービスにフレキシビリティをもたらすとともに、時間短縮や簡素化、さらにコスト抑制といった大きな効果を創出すると期待されている。
現在、欧州委員会では、以上のような調査、分析結果などを踏まえて、電子政府行動計画(2011〜2015)の更新作業を進めている。既に2015年末から年始にかけて「電子政府行動計画(2016〜2020)(eGovernment Action Plan 2016-2020)」のパブリックコメントが実施されており、2016年初旬には正式版が公表される見込みである。

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木 弘康 (たかぎ ひろやす)

政府は、2015年6月に『世界最先端IT 国家創造宣言』を改訂し、「目指すべき社会・姿」の1つに「IT を利活用した公共サービスがワンストップで受けられる社会」を掲げました。具体的には、「(1)安全・安心を前提としたマイナンバー制度の活用」、「(2)利便性の高い電子行政サービスの提供」、「(3)国・地方を通じた行政情報システムの改革」、「(4)政府におけるIT ガバナンスの強化」の4つを取組の柱としています。2000年12月の「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)」の成立から15年以上を経て、今日まで積極的に推進されてきた電子政府の取組をさらに前進させるべく、その方向性が示されたところです。
また、国連の経済社会局(UNDESA)が2014年6月に発表した電子政府の世界ランキングによれば、我が国は6位に順位を上げるなど、諸外国との比較においてもその成果の一端が伺われます。一方で、近年のIT技術の進展や社会経済情勢の急激な変化に伴い、諸外国の電子政府の取組にも様々な変化が生じているものと推察されます。
この度、筆者は一般社団法人行政情報システム研究所が2015年10月に実施した欧州における電子政府の取組状況に関する海外調査に同行する機会を得ました。今回は、本調査から得られた欧州の電子政府に関する最新動向を紹介します。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。