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第1回 女性活躍とフェムテック

間杉 奈々子 株式会社 日立コンサルティング シニアコンサルタント

2021年9月30日

1. フェムテックとは

フェムテック(Femtech)とは、「Female(女性)」と「Technology(テクノロジー)」を掛け合わせた造語です。確立された定義は存在していませんが、一般的に「月経、妊娠、不妊、更年期、婦人科系疾患など女性が抱える健康の課題を、テクノロジーで解決する製品やサービス」を示します。

図表1:フェムテックの概念図

図表1:フェムテックの概念図
資料:日立コンサルティングが作成

この言葉の起源は、2013年ごろ、月経管理アプリケーション「Clue(クルー)」の共同創始者であるデンマーク出身の女性起業家Ida Tin(イダ・ティン)が、投資家たちから資金調達を行うため、フィンテックのように「〇〇テック」という言葉で注目を集めようと考え、使い始めたことにあると言われています。

日本でも、2000年ごろから月経管理サービスが存在していましたが、フェムテックという言葉が浸透し始めたのはつい最近のことです。日本でのフェムテックは前述の定義よりもやや広義に使用されており、テクノロジーの要素が少ないもの、例えば月経カップや月経ショーツなども含まれています。

Frost & Sullivan社の2020年の調査※1では、世界のフェムテック市場は年平均12.9%で成長し、医薬品やがん治療も含めると2025年までに500億ドルの市場規模になるとされています。日本国内でも、多くのスタートアップ企業が誕生しており、さらに2021年には大手衣料メーカーが参入するなど、注目度の高まりから、今後ますます市場が拡大していくと考えられます。

※1:
Frost & Sullivan 「Frost & Sullivan Defines Top Femtech Global Opportunities by 2024」

2. 働く女性の健康課題

近年、女性の就業率が上がっており、2020年度の労働力調査によると、日本国内の女性の就業者は約3,000万人にのぼります※2。政府も女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)の施行や、「2020年代の可能な限り早期に、指導的地位に占める女性の割合が30%程度となるように取り組む」という目標を掲げるなど、女性のより一層の活躍を推進しています。しかし女性には、ライフステージに沿って、「月経」「妊娠、不妊」「産後ケア」「更年期」「婦人科系疾患」「セクシャルウェルネス」といった健康課題が存在します(図表2参照)。
そこで、本章では女性の健康課題の中から、「月経」「不妊治療」「更年期」を取り上げ、どのような実態があるのかを解説します。

図表2:女性のライフステージと健康課題

図表2:女性のライフステージと健康課題
出典:経済産業省「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査 報告書 (概要版)

※2:
総務省統計局「労働力調査(基本集計) 2020年(令和2年)平均結果

2-1. 月経による仕事への影響

個人差はあるものの、月経前や月経期間中にはさまざまな不調が訪れます。いくつかの症状を見てみましょう(図表 3参照)。

図表3:月経に関連した症状
月経困難症 月経期間中に月経に伴って起こる精神的あるいは身体的症状で、月経の終了前あるいは終了とともに消失するもの。
症状として下腹痛、腹痛などのとう痛、悪心、嘔吐、下痢、頭痛など。
月経前症候群
(PMS※3
月経前、3〜10日間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するもの。
精神神経症状として情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害、自律神経症状としてのぼせ、食欲不振・過食、めまい、倦怠感、身体的症状として腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張りなど。

資料:以下文献を基に日立コンサルティングが作成
公益社団法人日本産科婦人科学会「月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS)
厚生労働省研究班監修「女性の健康推進室 ヘルスケアラボ

これらの症状のため、勤務自体が困難になり欠勤してしまう、勤務することができても仕事のパフォーマンスが落ちてしまうなどの影響があります。
しかし、こういった症状に対処ができていない女性が多いのも事実です。症状がつらい時には生理休暇を取得するという手段もありますが、2020年の全国労働組合総連合の調査によると取得率は15.2%と低水準にとどまっています※4。また、低用量ピルの服用も症状を緩和する方法の一つですが、日本でのピルの内服率は0.9%と極めて低いのが現状です※5
この影響を経済的な数字に置き換えると、日本全体で1年間に約4,911億円もの損失額になるという試算があります(図表4参照)。

図表4:月経に関連した症状による労働損失

図表4:月経に関連した症状による労働損失
資料:以下文献を基に日立コンサルティングが作成
Tanaka E, et al. (2013) “Burden of menstrual symptoms in Japanese women: results from a survey-based study” Journal of Medical Economics, 16(11), 1255-66

※3:
PreMenstrual Syndromeの略
※4:
「女性労働者の労働実態及び男女平等・健康調査報告2020年」(全国労働組合総連合)
※5:
国際連合経済社会局人口部(2020年)「WORLD CONTRACEPTIVE USE 2020」

2-2. 不妊治療と仕事の両立

近年の晩婚化に伴い、不妊治療を受ける夫婦、生殖補助医療(体外受精、顕微授精、凍結胚を用いた治療)で生まれる子どもも珍しくはなくなっています。妻が50歳未満の夫婦を対象とした2015年の調査では、不妊治療を受けたことがある夫婦は全体で18.2%、つまり5.5組に1組の夫婦が不妊治療を受けたことがあるとされています※6。また、2018年には生殖補助医療で約5.7万人、つまり約16人に1人がこの医療で誕生しています※7

一方で、これら治療には、大きく@金銭的、A時間的、B精神的、C身体的な負担があります。
この中で働く女性にとって特に大きな問題となるのはA時間的な負担です。中でも、不妊治療における女性の通院負荷は、男性の通院負荷と比較し、非常に高くなっています。生殖補助医療での治療の場合、女性は月経周期ごとに1〜2時間の通院が4〜10日程度、半日から1日の通院が2日程度必要になります(図表5参照)。さらに通院が突発的に必要になることもあり、不妊治療と仕事の両立は難しいと言われています。実際に、不妊治療を経験した女性のうち、23%が離職し、10%が雇用形態を変えています。両立ができず、不妊治療を断念した女性も10%います※8

図表5:不妊治療に要する月経周期ごとの通院日数の目安
女性の通院負担 男性の通院負担
人工授精 診察時間1回30分の通院×4日〜7日

診察時間1回2時間の通院×1日以上
0日〜半日
※手術時は1日
生殖補助医療 診察時間1回1〜2時間の通院×4日〜10日

診察時間1回半日〜1日の通院×2日
0日〜1日
※手術時は1日

資料:以下文献を基に日立コンサルティングが作成
厚生労働省(2018年)「平成29年度不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての 総合的調査研究事業 調査結果報告書」

※6:
国立社会保障・人口問題研究所(2015年)「第15回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」
※7:
公益社団法人日本産科婦人科学会(2018年)「2018年ARTデータブック」
※8:
厚生労働省(2018年)「平成29年度不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業 調査結果報告書」

2-3. 更年期症状による仕事・キャリアへの影響

女性の「更年期」は、閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた10年間を指します。この時期は女性ホルモンの分泌量が大きく減少することにより、以下のような「更年期症状」が現れます。

図表6:更年期による症状
血管の拡張と放熱に関係する症状 ほてり、のぼせ、ホットフラッシュ、発汗など
そのほかの身体症状 めまい、動悸、胸が締め付けられるような感じ、頭痛、肩こり、腰や背中の痛み、関節の痛み、冷え、しびれ、疲れやすさなど
精神症状 気分の落ち込み、意欲の低下、イライラ、情緒不安定、不眠など

資料:以下文献を基に日立コンサルティングが作成
公益社団法人日本産科婦人科学会「更年期障害

症状には個人差がありますが、出勤することが困難になったり、仕事をすることがつらくなったりすることにつながります。この症状に苦しむゆえに昇進を辞退したり、退職を選んだりする女性も多く存在します(図表7参照)。

図表7:更年期症状による昇進、退職への影響

図表7:更年期症状による昇進、退職への影響
資料:以下文献を基に日立コンサルティングが作成
ホルモンケア推進プロジェクト(2015年)「女性の体調と仕事に関する調査」

更年期症状に対する代表的な治療方法としては、ホルモン補充療法(HRT※9)、漢方薬や向精神薬の服用があります※10。しかし、月経症状と同様、多くの女性がこういった症状に対処ができていないのが現状です。

※9:
Hormone Replacement Therapyの略
※10:
公益社団法人日本産科婦人科学会「更年期障害

3. フェムテック活用による女性の健康サポート

働く女性の増加、女性活躍の推進に伴い、2章で取り上げた健康課題が、企業や社会、そして女性自身にとっても解決すべき喫緊の課題となっています。これを解決する方法の一つとしてフェムテックが注目され、さまざまな製品、サービスが誕生しているのです。本章では、現在普及しているフェムテックにどのような製品・サービスがあるのかを解説します(図表 8参照)。

図表8:フェムテックの製品・サービス分類

図表8:フェムテックの製品・サービス分類
出典:経済産業省「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査 報告書 (概要版)

(1)専門家相談/サポート

チャット、ビデオ通話などを通じて医師、看護師、臨床心理士、カウンセラーへ相談ができるサービスが普及しています。このサービスのメリットとしては、病院の受診と比較して気軽に相談できること、外出する必要がないことなどが挙げられます。不妊治療や更年期症状では精神的なサポートが必要になることも多いため、「専門家相談/サポート」の需要も高く、またコロナ禍にある現在、外出せずにサービスを受けられるため、感染症のリスクがないことから今後も利用者数が拡大していくと考えられます。

(2)健康管理/トラッキング

排卵日、基礎体温、不妊治療の記録など、自分の健康に関するデータを登録、管理できるサービスがあります。日本ではこのようなサービスは20年以上前から存在していましたが、最近では記録したデータを医療機関と共有できるようなサービスも誕生しています。これまでは自分が記録していたデータを医療機関指定の用紙に書き写す作業が発生していましたが、それが不要になることから、受診者の負担がかなり軽減されるようになりました。

(3)簡易検査キット

卵巣年齢チェックが自宅でできる検査キットが登場しています。自分の身体の状態を手軽に知ることができるというメリットがあります。加齢とともに妊娠が難しくなることが知られていますが、不妊ではないかと悩んでいる人が簡易検査キットで卵巣年齢を知ることで、医療機関への早期の受診につながり、不妊治療の成功率の上昇が期待できます。また、2019年11月22日、「いい夫婦の日」に合わせ、渋谷区役所へ婚姻届を提出した夫婦に簡易検査キットを配布するイベントが開催されました。早期に自分の身体の状態を知ることは、ライフプランニングにとって重要なことです。

(4)医療支援

通院の負担や検査の痛みを軽減するような製品、サービスが増えつつあります。例えば、月経前症候群(PMS)の緩和に効果がある低用量ピルをオンラインで処方され、自宅まで処方薬を配達してもらえるというサービスがあります。通常、低用量ピルを処方してもらうためには定期的に通院する必要がありますが、仕事や業務の都合上、日中に病院に行く時間が確保できない場合、オンラインで処方してもらえることは非常にメリットがあります。

(5)その他

(1)〜(4)以外にも、さまざまな製品、サービスが誕生しています。例えば、将来子どもが欲しいと考える人のための卵子凍結サービスがあります。また海外では更年期症状によるホットフラッシュを緩和するウェアラブルデバイスも販売されています。

4. フェムテックに関する企業、政府の動向

月経に関連した症状、不妊治療、更年期症状が働く女性に及ぼす影響は大きく、仕事のパフォーマンスの低下や離職、雇用形態の変更、昇進辞退などにつながります。また、これらの影響を受ける女性の割合も高く、企業への影響も小さくありません。制度や福利厚生などで積極的に従業員を支援し、これらの影響を軽減することが必要になってきており、実際に、フェムテック製品・サービスを従業員向け福利厚生として導入する企業も増えつつあります。
また、国でもフェムテック普及を後押しする動きがあります。2020年10月、「フェムテック振興議員連盟」が発足し、2021年3月には「フェムテック関連製品の普及に向けた政策の推進に関する提言」が関係省庁へ提出されました。
今後、女性活躍の推進や「2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合が30%程度となるように取り組む」という政府目標の達成に向けて、企業、政府がフェムテックなどを活用し、働く女性の健康課題を解決することが望まれます。

本コラム執筆コンサルタント

間杉 奈々子 株式会社 日立コンサルティング シニアコンサルタント

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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