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第3回 フェムテックで変わる未来

坂井 七海 株式会社 日立コンサルティング コンサルタント

佐藤 仁奈 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

2021年9月30日

まだ黎明期のフェムテック市場が拡大することにより、今後どのような未来が実現していくのか見てみましょう。

1.2025年の経済効果は年間2兆円と推計

月経、更年期に伴う健康の悩みや不妊治療などにより、仕事と生活のバランスが取れず、離職、昇進辞退、勤務形態の変更を余儀なくされている女性は少なくありません。フェムテック製品やサービスを活用することにより、仕事との両立を果たすことで得られる給与相当額を推計すると、どれほどの経済効果になるのでしょうか。経済産業省の調査内で当社が行った試算によると、その額は、2025年時点で、年間約2兆円に上ることが見込まれます。この結果からも、女性の健康の悩みは、安易に見過ごすことができない、社会全体として解決していくべき課題であることが分かります。

図表1:2025年におけるフェムテックにおける経済効果の試算

図表1:2025年におけるフェムテックにおける経済効果の試算
※本数値は概算値であり、試算仮説・前提条件により変動する可能性がある。またフェムテック製品やサービスの売上高は含めていない。

(出典:経済産業省「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査 報告書)

2.フェムテックの今後の動向

フェムテックは企業や自治体の福利厚生や住民向けサービスなど、さまざまな場面で活用され始めています。フェムテックによる新たな医学的知見やビジネスの創出につながることも期待されます。フェムテックが今後、どのような歩みをたどるのか、その未来について、3つの側面から考えてみましょう。

図表2:フェムテックの今後

図表2:フェムテックの今後

(1)フェムテックの広がり 〜福利厚生や自治体サービスへ適用〜

これまで女性の健康の悩みは周囲に話しづらく、タブー視されがちでした。しかし、女性の就業率が上がるにつれ、働く女性の健康の悩みをプライベートなことだと無視をせず、健康経営の一環として取り組む企業も増えています。月経、更年期症状のつらさには個人差があり、悩みを抱える女性ですら一律に理解しているとは限りません。不妊に関しても、男性要因、女性要因があり、治療にあたっては、パートナーと取り組む必要があります。多様な働き方に対応した職場の風土づくりを進めていくためには、男女問わず、職場全体で理解を深めていくことが大切です。
例えば、不妊治療を始めたいなどの悩みがあっても、仕事との兼ね合いや周囲の理解不足を気にして病院に行くのをためらってしまう従業員やそのパートナーに対して、いつでも気軽に産婦人科医に相談できるよう、SNSなどの仕組みを取り入れる企業があります。またそのようなサービスを地域住民向けに展開する自治体も現れています。米国では、大手IT企業が卵子凍結メニューを福利厚生に取り入れたという事例もあります。従業員や地域住民のQoL向上に向けて、今後フェムテックを健康経営や自治体サービスの一環として検討していく動きが加速することでしょう。

(2)フェムテックの多様化 〜新ビジネスの創出〜

フェムテック分野は黎明期であるものの、すでに多くのスタートアップ企業が現れています。最近では大手企業も参入するなど、急速な広がりを見せています。国でもフェムテックのサービスなどに関する補助金を投じるといった積極的な支援を行っています※1。これまで女性の健康に関するサービスというと、月経に関するものが多い印象でしたが、先行する欧米では、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)、更年期、婦人科系の疾患など、さまざまな分野が注目されています。またフェムテックは、女性のライフステージにまつわる分野であるため、育児やシニア向けビジネスなどの既存ビジネスと連携しやすいと言えます。さらに健康には、食事、栄養、運動が欠かせないことから、日常生活に関わるビジネスとも相性がよく、今後幅広い分野のビジネスと融合していく可能性を秘めています。

(3)フェムテック普及の効果 〜新たな医学的知見の創出〜

2020年、スマートフォンのアプリケーションから入力された、前例のない規模の月経に関するビッグデータを解析することで、月経周期や基礎体温が年齢により変動するといった新たな医学的知見が明らかになりました※2。研究にはデータが不可欠ですが、タブー視されがちな分野に関しては、必要なデータを収集することすらも容易ではありません。しかし現在、スマートフォンやウェアラブル端末を利用した、女性の健康に関するトラッキングアプリケーションなど、日々の生活に密着したさまざまなサービスが増え、データも急速に増加しています。このようにして生まれたビッグデータを活用していくことで、研究が進まなかった領域に関しても、新たな医学的知見が生まれる可能性が示唆されています。

※1:
経済産業省「令和3年度「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」の間接補助事業」
※2:
Tatsumi T、 et al (2020) “Age-Dependent and Seasonal Changes in Menstrual Cycle Length and Body Temperature Based on Big Data” Obstet Gynecol、 136(4)、 666-674

3.さらなる発展に向けて -ジェンダードイノベーションズ-

ここまでフェムテックについて多角的に分析してまいりましたが、女性に限らずより多くの人のウェルビーイング実現を図る取り組みとして、欧米を中心に広がっている「ジェンダードイノベーションズ(Gendered Innovations)」について紹介します。
ジェンダードイノベーションズとは、Stanford大学のLonda Schiebinger (ロンダ・シービンガー)教授が提唱した、「研究開発やビジネスにおいて、生物学的性別、社会学的性別、またそれらを踏まえた交差分析を行うことで、イノベーション創出をする概念」を指します。これまでの研究開発では“性差”が考慮されていない事例が多くあり、女性に限らず多くのステークホルダーが見落とされてきました。中には、“性差”を考慮せず開発した製品が、命を落とす原因になってしまった事例もあります。例えば、シートベルトは男性の体格を前提に開発されているため、妊婦が事故にあった場合に胎児が死亡するケースが多いことが分かっています。そのためジェンダードイノベーションズでは、さまざまな体型の人に合ったシートベルトの設計を推奨しています。
このように、ジェンダードイノベーションズを取り入れることによって、多くの人のウェルビーイング実現が推進できると想定しています。今後、日本でも、“性差”を意識してデータを蓄積、分析していくことで、個人にあった新しいソリューションが生まれることが期待されます。

図表3:ジェンダードイノベーションズの概念

図表3:ジェンダードイノベーションズの概念

4.おわりに

本連載コラムでは、「フェムテック」を全3回にわたり紹介してきました。
2021年3月に世界経済フォーラム(WEF:World Economic Forum)が発表した世界各国の男女平等の度合いを示すランキング「ジェンダー・ギャップ指数」では、日本は156か国中120位と、先進国の中で最低水準です※3。女性特有の健康課題は、女性がキャリアを積み重ね、企業などの組織のリーダーとして活躍するための大きな障壁の一つになっています。

フェムテックはこの障壁を打破するための有力な解決策です。これまで「女性の健康の悩み」は周囲に話しづらく、社会人としてのキャリアを築くうえで大きな障壁となっていましたが、「フェムテック」はこうした女性の健康の悩みを解決する大きな助けとなり、働く女性のウェルビーイング実現、QoL向上に大きく資するものとして期待され、普及すれば日本全体に大きな経済効果をもたらすと予測されています。一方で、フェムテック製品・サービスの安全性・信頼性担保の課題も残っている状況です。時間がかかるものの、国や社会全体で、施策を検討していければと考えています。

日立コンサルティングでは、2020年度に実施された経済産業省フェムテック調査※4をはじめとして、フェムテック分野の発展と、そのゴールである日本社会での女性活躍実現に向けて各種調査・研究を進めております。そしてその成果を社会に還元するため、@フェムテック分野での新たな事業企画・支援、A各企業における女性活躍施策導入支援、Bフェムテック普及推進のための各種調査・研究など、さまざまな切り口からのアプローチを検討しております。同じ思いを持つ皆さまがいらっしゃれば、ぜひ一緒に活動を進めていきたいと考えておりますので、お気軽に声をおかけください。

※3:
出典:“Global Gender Gap Report 2021” World Economic Forum
※4:
「令和2年度産業経済研究委託事業 働き方、暮らし方のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査(フェムテック産業実態調査)」 報告書(概要版) 報告書(詳細版)

本コラム執筆コンサルタント

坂井 七海 株式会社 日立コンサルティング コンサルタント

佐藤 仁奈 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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