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ドイツおよび英国における
IoTに関する政策および法制度動向

美馬 正司株式会社 日立コンサルティング ディレクター

地田 圭太日立コンサルティング コンサルタント

2. 英国のIoT政策およびIoTに関連する法制度動向

研究開発の強化や社会実装の推進を中心としたIoT推進政策

英国では、IoT推進に特化した計画はないものの、政府主席科学顧問※9や科学局※10によってIoTに関するレポートがいくつか公表されている。いずれのレポートでもIoTが経済や社会に与えるインパクトやそのメリットについて述べており、英国政府によるIoT推進の重要性が示されている。このように米国やドイツと同様に英国においてもIoTは既存産業の活性化、国際競争力の強化や社会課題の解決という点で重要な要素として位置付けている。
2017年3月に文化・メディア・スポーツ省※11が発表したUK Digital Strategy 2017においてもIoT推進に関する政策がいくつか示されている。同戦略では、研究開発の推進とIoTの社会への実装に重点を置いた政策を述べており、その具体的な取り組みとしてIoTUKという国家プロジェクトを立ち上げている。ほかにもスマートインフラに関する研究開発を推進するためにUK Collaboratorium for Research in Infrastructure and Cities(以降、UKCRIC)によるスマートインフラに関する研究開発コミュニティの創設が具体的な施策として示されている。また、UKCRICに対して工学・物理科学研究評議会※12が1億3,800万ポンドの投資を行っている。

※9
Government Chief Scientific Adviser (GCSA)
※10
Government Office for Science (GO-Science)
※11
Department for Culture, Media and Sport (DCMS)
※12
Engineering and Physical Sciences Research Council (EPSRC)

IoTUKによる事業者・研究機関の取り組み支援

IoTUKは、産業分野および公共分野におけるIoT技術やサービスの活用を推進し、IoTに関する取り組みのインパクトを最大化するためのプログラムである。同プログラムには、3年間で3,200万ポンドの予算が充てられており、事業者間(企業、大学や研究機関など)の連携推進の支援のほか、英国において展開されているIoT関連の取り組みの宣伝・情報発信、政府機関・団体などが行っている公募情報の提供が行われている。

図2.IoTUKの体系
図2.IoTUKの体系

Innovate UKによる研究開発プロジェクトや中小企業におけるIoT活用支援

IoTUK以外にも、ビジネス・イノベーション・技能省※13の下部組織であるInnovate UKがIoTに関する研究開発プロジェクトや中小企業・ベンチャー支援を行っている。
2015年の予算では、IoTに関する研究開発などに4,000万ポンドが計上されており、Innovate UKからIoTに関する研究開発プロジェクトとして、スマートシティおよびセキュリティをテーマとした公募が行われている。
スマートシティに関する研究開発プロジェクト※14は、文化・メディア・スポーツ省が主管となっている。都市地域におけるIoTの可能性を実証することを目的とし、自治体および地元企業の参画が必須となっており、2年間を予定している。
セキュリティに関する研究開発プロジェクト※15は、複数のデバイスが接続するにあたってセキュリティをどのように担保するかという課題をテーマとしている。また、MI5、MI6などの情報機関に代わって防衛企業センター※16が主管となっている。
また、IoTに関連した取り組みとして、コネクテッドカー・自動走行車に関する研究開発プロジェクトの公募も行っている。
これら研究開発への資金提供以外にも、Innovate UKは中小企業を対象にIoTの活用に対する補助を行っている。以下は、Innovate UKによって採択された中小企業によるIoT活用の事例である。

※13
Depertment for Business,Innovation and Skills (BIS)
※14
Internet of Things cities demonstrator
※15
Security for the Internet of Things
※16
Centre for Defence Enterprise (CDE) 国防省傘下に位置する国防科学技術研究所の一部で、英国軍や国家安全保障の費用対効果の向上に資する研究(中小企業によるものも含む)への投資を行う機関
プロジェクト概要
1248 Ltd and Thingful Ltd2都市を結ぶサイクリングにセンサーを活用するプロジェクト
Digital Shadowsビル管理や重要インフラによるリスク軽減
Internet of Things AcademyベビーカーにGPS付きの大気センサーを装着して解析
KisanHub and Nwave農業や食料品の企業におけるセンサー活用
OpenTRV Ltdバスの停留所や建物に設置したセンサーによる環境モニタリング
Product Healthバッテリーをモニタリングして、その劣化を予測
ThinkInnovateIoTスキャナセキュリティシステムの開発

表2.Innovate UKにおける採択プロジェクト
出典:Innovate UK

公道でのテスト走行の推進や自動運転車に関する行為規範の策定

UK Digital Strategy 2017において、コネクテッドカー・自動運転車に関する施策が示されており、1億ポンドが研究開発や実証実験に充てられている。
研究開発や実証実験以外の施策として、英国政府はコネクテッドカーや自動運転車の公道でのテスト走行を推進しており、国内だけでなく、国外からも事業者を誘致している。
また、自動運転車の開発促進に関するレポート(The Pathway to Driverless Cars: A detailed review of regulations for automated vehicle technologies)が2015年2月に交通省※17より発表されている。同レポートによると、自動運転車の開発に関してはスピードを重視するため、法律で対応するのではなく、行為規範として対応するという方向性が示された。同年7月に自動運転車に関する要求事項をまとめた行為規範として、The Pathway to Driverless Cars: A Code of Practice for testingが公表された。行為規範では、自動運転車の一般要求事項として安全要件、保証やインフラなどについて規定している。そのほかにテストドライバー、オペレーター、アシスタントに関する要求事項(資格の取得、訓練に関する考え方、テスト時間の設定など)や自動車に関する要求事項(技術の熟成度、データ記録・保護やセキュリティなど)が規定されている。

※17
Department for Transport (DFT)

英国規格協会、都市規格協会やHypercatにおける標準化の取り組み

IoTの標準化に関する取り組みは、英国規格協会※18において推進されている。同協会では、Standards Policy and Strategy Committee(以降、SPSC)の示唆により、IoTの委員会が立ち上げられている。同委員会の中で、以下の三つのサブ委員会が設置されており、それぞれで標準化に向けた検討が進められている。

  • IOT/1/-/3 Automatic identification & data capture techniques
  • IOT/1/-/1 Internet of Things - Foundational Standards
  • IOT/1/-/2 Sensor networks

また、スマートシティに関する標準化の取り組みもビジネス・イノベーション・技能省において推進されている。同省は、スマートシティに関する標準の戦略策定を英国規格協会に委託しており、同協会は、都市イノベーション会社である未来都市カタパルト※19と共同で都市規格協会※20を立ち上げた。都市規格協会では、スマートシティに関して以下の三つの仕様書が作成されている。

  • PAS 180 Smart Cities Vocabulary
  • PAS 181 Smart City Framework
  • PAS 182 Smart city concept model

英国規格協会では、IoT全般に関しては、異なる機器間においてIoTデータの連携ができるようにするための仕様として、後述のHypercatと共同で開発した以下が公開されている。

  • PAS212 Automatic resource discovery for the Internet of Things

そのほかの標準化に関する取り組みとして、Hypercatの活動が挙げられる。Hypercatは、2014年6月に政府機関や40の企業により設立された、IoT標準規格の策定などを行うコンソーシアムである。政府はHypercatの活動を支援しており、2014年6月、8月の二度にわたり、計800万ポンドの資金提供を行った。また、2016年には、オーストラリアのスマートシティ政策において、Hypercatの策定した標準が採用されることとなり、推進団体であるHypercat Ausutraliaが設立されるなど、Hypercatの活動が他国にも広がりつつある。

※18
British Standards Institution (BSI)
※19
Future Cities Catapult
※20
The Cities Standard Institute

まとめ

ドイツは製造分野へのIoTの活用に注力しているのに対し、英国はスマートシティの開発・標準化に注力している。注力している分野は違うにせよ、ドイツも英国もIoTを重要政策の一つとして位置付けており、国際社会においてリーダーシップを発揮すべく、研究開発や標準化に関して積極的に取り組んでいる。ドイツにおいては、Industrie 4.0に関して日本や中国と連携するなど、自国に留めず他国を巻き込んだ取り組みを展開している。
また、自動運転車・コネクテッドカーについても、両国とも研究開発や法制度などの環境整備を進めている。ドイツでは、2017年に道路交通法の改正案がドイツ連邦議会の下院で可決している。英国では、法制度の整備までには至っていないが、自動運転車に関する要求事項をまとめた行動規範を策定している。このように技術面だけでなく制度面に関しても検討・整備を進めている。
次回は、シンガポールおよび韓国におけるIoTに関する政策および法制度動向について紹介する。

本コラム執筆コンサルタント

美馬 正司株式会社 日立コンサルティング ディレクター

地田 圭太日立コンサルティング コンサルタント

各国政府でIoTに関する政策が積極的に進められている中、弊社では、2015年度に経済産業省の調査事業を受け、諸外国におけるIoTに関する政策および法制度の動向を調査した。この調査の成果なども踏まえつつ、米国、EU、ドイツ、英国、韓国、シンガポールにおけるIoT政策および法制度の動向を3回に分けて紹介する。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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