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コスト管理の苦労とスキルを可視化しよう!

荒浪 篤史 株式会社 日立コンサルティング ディレクター

2011年5月25日

誰でも納得するリアルな数値、経営層からすれば減れば嬉しい数値は何かということでコストである。コスト管理における成果見える化方法として、コスト効果のアピール方法をご紹介していきたい。但し、PMOがコスト管理を担っていること、すなわち、ベンダーからの見積収集や価格交渉、発注はユーザーがするとしても発注額を把握できていることを本事例の前提とさせて頂きたい。逆に言えば、PMOでなくても、社内で当該業務を担っている方がいらっしゃれば自己評価アピール方法として参考になるのではないかと思う。

まず、コスト管理見える化のプロセスであるが、課題管理やスケジュール管理と同様、KPI設定→モニタリング→評価で構成されることに変わりない。プロセス設計時の留意事項も同じである。

KPI設定- -リアルで説得力のあるKPI

さて、まずKPIだが、「コスト管理は何のためにやるのだろう」と考えて、整理してみよう。例えばコスト管理の目的は、「(1)コストを推計・予算化し、適宜予算実行し、予実状況を把握すること。加えて、(2)予算内でプロジェクトを完了させる、または、QCD達成を前提として、可能な限り予算を低減する!」と定義できないだろうか。

目的(1):コストを推計・予算化し、適宜予算実行し、予実状況を把握する「予算推計の正確性」をアピールする数値として、実際の実行額÷予算額から算出した予算精度が考えられる。100%に近ければ近いほど、予算が正確であった、すなわち、PMOは経験があって頼れるパートナーであったとアピールできるかもしれない。但し、実際はムダがあったのに予算上限ぎりぎりまで使いこんだのではないことを証明できないと説得力に欠けてしまうので注意しよう。

目的(2):予算内でプロジェクトを完了させる、または、QCD達成を前提として、可能な限り予算を低減する予算と実行額の差、すなわちコストダウン額をPMOの成果ですとアピールしてしまうのである。経験した方は理解して頂けるだろうが、コストダウンに向けた値切り交渉は、多くの熱意と、広い経験と知識を必要とする作業である。会社によっては、専門部隊を常設している位に難易度が高い作業である。構築・開発ベンダーや社内開発部門は、1円でも多くの額を確保すべく、自らの見積の正当性を主張する。そして、彼らはそれが使命であるので、そうそう簡単にはお安くしてくれない。そこを、理論的に切り崩し、節度を持った熱意で、減額を迫るのだから、コストダウンを実現した暁にはPMOは相応に評価されてしかるべきなのである。

モニタリング- -交渉ノウハウは共有しよう

KPIが明確になったら、次は実績を如何に収集・記録するかを考えるわけだが、プロジェクトを通じて、どの位の見積数があるのか(調達単位やベンダー数による)、見積タイミング(定常的に発生するものか、プロジェクト個々のスケジュールにより不規則か)によって対応は変えた方がよい。見積数が少なく、発生頻度が不規則であれば、定常的なスキームにする必要もなく、発生の都度記録していくことのルール化のみで良いだろう。一方、見積数が多く、定常的に発生しているならば、効率化及びモレ防止の面から、定常スキーム化したほうがよいだろう。どちらが適切かは、PMOメンバ一人が担う見積数等プロジェクト状況によるので、判断はPMOリーダーにお任せしたい。

具体的に記録する値であるが、PMOの減額交渉によりコストダウンが進む様をアピールするわけなので、初回見積額、第一回交渉後見積額、第N回交渉後見積額を記録しておこう。見積書原本は保管されているだろうから、記録というのは大げさかもしれないが…、一覧化や偏差をアピールするグラフ化はしておこう。これにより、このベンダーは最初に吹っかけてくるとか、あのベンダーはヌケモレが多いとか、傾向把握に役立つかもしれない。

ここでポイントをひとつ。前述の通り、減額交渉は非常にヘビーな作業であり、ノウハウを必要とするものであるので、その「大変さ」「高度さ」を補完するため、減額交渉時の交渉記録をメモしておくことをお勧めする。例えば、「プログラム規模に比べ、テスト期間が長い。テスト期間短縮による減額を要請」等である。メモによって、PMOリーダーや他のPMOメンバは、担当メンバに交渉にあたってのアドバイスをすることができるし、新しい交渉ロジックを知る機会にもなる。つまり、PMOメンバ全員のスキル底上げ、更なる減額促進といった正のスパイラルを実現できるかもしれない。

評価- -熱意と知力の総合力=コスト削減

さて、いよいよ成果の評価である。前回も述べたが、われわれの苦労をあまり知らない人たちによる、あの心外なひと言、「Aさん、プロジェクトは無事終了したわけだけど、Aさん率いるPMOはどのくらい貢献したの?」にズバッと回答するのである。

今回は単刀直入、「我々の見積精査により、**%のコストダウンを達成しました」とアピールしよう。対予算値比コストダウン率・額、対ベンダー初回見積値比コストダウン率・額をそのまま提示すればよい。

対予算値比コストダウン率・額、対ベンダー初回見積値比コストダウン率・額

加えて、各ベンダーの傾向分析などを添えれば、プロジェクトオーナーや幹部からは喜ばれるに違いない。

コスト管理における見える化について解説したが、PMOが見積精査・交渉を実施することを前提とさせて頂いている。第三者であるPMOに見積精査・交渉まで担わせてもらえるプロジェクトは少ないかもしれないが、日常的にベンダーと見積交渉しているような方は、上述のような記録をとって、たまには上司や組織にアピールしてみてはどうだろう。アピールしないにしても、過去の自分の見積に対する指摘とその効果を記録しておくことは、マネジメント力の改善と強化に大いに役立つと思うので、機会があったら実践してみては如何だろうか。

本コラム執筆コンサルタント

荒浪 篤史 株式会社 日立コンサルティング ディレクター

世の中には「プロジェクト」と名の付く取組みがあちこちで実施されていますが、その成功率は20%以下と言われており、特に大規模なプロジェクトでは5%程度という報告も見られます。プロジェクトの進捗やリソース、重要課題を「見える化」し成功に導く羅針盤、PMO(Project Management Office)の活用ポイントをご紹介します。

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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