2022年1月31日
本事例は、中小製造業が集積している大田区が舞台になる。大田区では、かつて9,177社が稼働していた。そこには、「仲間まわし」という相互補完型の分業の仕組みが定着しており、1社では量的、技術的に対応しきれない受注に対しても、地元リソースを活用する柔軟な生産体制でお客さまニーズに応えてきた。しかし、工場数は1983年の9,177社をピークに大きく減少し、産業集積が保有する強みの弱体化、売り上げ減少が生じている。プロジェクトでは、これらの課題解決に向けた取り組みを推進してきた。
課題解決策の策定では、大田区の「仲間まわし」、つまり中小製造業同士の連携による製造業の営みを念頭に置き、大田区製造業全体を視野に入れたマクロな視点での改革と、大田区製造業各社を捉えたミクロな視点での改革を連携させ、大きな変革につなげる必要があった。このためわれわれは、初めに産業集積地である大田区製造業をマクロな視点で捉えて分析し、産業集積の構造を把握するとともに、地域に生じている問題を把握し、その解決策を検討した。次に、大田区製造業各社のこれまでの取り組み、および現状をヒアリングし、各社が抱えている問題を把握。その解決策をミクロな視点で検討した。最後に、各社の課題解決を、大田区内に幅広く伝播(ぱ)させ大田区全体の課題解決につなげる仕組みの在り方を検討した。これらは、コンソーシアム構想、プロダクトイノベーション、プロセスイノベーションの3つの大きな施策として推進する形となった(図1-1)。すべてはデジタル化を用いたイノベーションを実現し、より多くの受注を大田区製造業に呼び込み、各社の売り上げ拡大につなげることが目的である。
図1-1 大田区製造業をイノベーションする3本の柱
次章では、産業集積地である大田区が直面していた問題、コンソーシアム構想、プロダクトイノベーション、プロセスイノベーションの内容を詳しく紹介する。
辻村 裕寛 株式会社 日立コンサルティング ディレクター
※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。