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【第2回】従来手法の3つの弊害

高橋 規生 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

2021年9月3日

日本でも導入が急速に進むアジャイル(俊敏)開発だが、起源は2001年に遡る。当時の情報システム開発の在り方に疑問を抱いた米国のソフトウエア技術者の有志が出した「アジャイルソフトウエア開発宣言」が始まりとされる。システムが巨大になりすぎた弊害で、利用者が置き去りにされている開発状況を何とかしようと、立ち上がったのである。

その弊害とは「完成主義」「ドキュメント主義」「工程順守主義」の3つだ。

「完成主義」は、最初に合意した仕様に基づき完成まで一気に開発することを言う。また、途中段階ではシステムを動かせないので、完成まで顧客に見せず、途中の変更も手間やコストが大きく膨らむので極力受けない。

「ドキュメント主義」は、完成まで一気に開発するために、事前に文書ベースで細かな仕様など綿密な計画を立てることを指す。言った言わないの問題を防ぐ狙いもあり、やり取りは全て文書で行い、多い時は1万ページ以上になることもある。「工程順守主義」は、時に1000人以上も関わるこうした開発プロジェクトを計画通りに進めることを最優先することをいう。

これら3主義は巨大システムを作るには仕方のない面もあるが、当初の計画に縛られすぎて柔軟性に欠ける問題などが出ていた。

そうした問題の打破を目指したのがアジャイル開発宣言で、その内容を「4つの価値」という形でまとめている。「工程やツールよりも個人と対話を」「包括的なドキュメントよりも動くソフトウエアを」「契約交渉よりも顧客との協調を」「計画に従うことよりも変化への対応を」である。

これら4つの価値などを基にアジャイル開発は発展。当初は宣言の思想に合う種々の手法(プラクティス)の集合体にすぎなかったが、徐々に洗練されていった。現在のアジャイル開発で尊重すべき価値は「関係者間のコミュニケーション」「実際に動くソフトウエア」「ステークホルダー(利害関係者)との協創」「変化への対応」としてまとめられている。

「関係者間のコミュニケーション」は、従来の文書ベースの情報共有ではなく、対面やリモートで直接会話することを指す。ソフトウエア画面の動きなどはいくら精密に文書で記述しても完全には相手に伝えられず、手間がかかる割に効果が低いからである。

「実際に動くソフトウエア」は、ソフトが初期段階から動くようにし、動作を確かめながら改善することをいう。従来手法では完成するまで動かせず、その時に初めて当初の狙いとの違いなどに気付くことも多かった。

「ステークホルダーとの協創」は、問題発生時などに反目し合わず、解決に向けて協力するウィンウィンの関係を築こうということ。従来は責任の所在などを非難し合うことも珍しくなかった。

「変化への対応」は、市場やニーズの変化を計画を狂わす問題とするのではなく、逆に積極対応することで、これまで以上に価値あるソフトウエアにできるという意味である。従来の開発手法では、途中の変更を嫌っていた。

今からみると当たり前と思えることもあるが、米国では20年も前からこうしたことに取り組んでいたわけだ。だからこそデジタル大国の地位を築けたと言える。

アジャイル開発が尊重する価値
関係者間のコミュニケーション
  • 従来の文書ベースの情報共有ではなく、対面やリモートでの直接の会話を重視する
実際に動くソフトウエア
  • 従来手法と違い、初期からソフトウエアが動くようにし、確かめながら改善する
ステークホルダー(利害関係者)との協創
  • 問題発生時などに反目し合わず、協力して解決するウィンウィンの関係になる
変化への対応
  • 当初の計画にこだわりすぎず、市場やニーズの変化は前向きに捉え、柔軟に対応する
本稿は2021年7月26日に日経産業新聞に掲載された「戦略フォーサイト:アジャイル開発への道(2)従来手法の3つの弊害」を転載しております。

本コラム執筆コンサルタント

高橋 規生 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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