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【第4回】向いている3つのビジネス

高橋 規生 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

2021年9月3日

世界中で活用が進むアジャイル(俊敏)開発だが、あらゆることに適用できるわけではない。まず、ビジネス・業務面からどんなものに向いているか考察してみる。大きく分けて3つある。

1つ目は「技術やユーザニーズが急速に進歩・変化するビジネスや業務」である。

スマートフォンやタブレット端末など消費者が利用する通信デバイスは急激に進歩する。思いもつかない使い方がされるなど、利用方法も大きく変わっていく。こうした変化が起こるたびにシステムを再開発することは不可能なので、必要な部分のみを開発・追加可能であることが必要である。

また、人工知能(AI)を利用するシステムも新たなアルゴリズムが次々と生み出されており、追随することが開発に求められる。これらの場合にアジャイル開発は威力を発揮する。

消費者の趣味嗜好に合わせたビジネスもSNS(交流サイト)などで拡散され、変化が激しい分野だ。中でも週替わりで人気商品・サービスが変わるような遊びやエンターテインメント分野を中心に、最先端の流行を追いかけるような場合は、迅速性が高いアジャイル開発は有効である。

2つ目は「ニーズや正解が隠れており、把握が困難なビジネスや業務」である。

デジタルトランスフォーメーション(DX)に代表される新たなビジネスモデルを創出する場合は、あらかじめニーズが明解ではないことがが多い。その場合は仮説を立てて商品・サービスを実験的に作成・提供し、利用者のフィードバックを受けて改善する。このサイクルを短周期で繰り返し可能な開発方法が必要である。

試行錯誤が必要という意味では、データ分析もこれに当てはまるだろう。例えば、マーケティング分析を行う場合には、分析対象データの組み合わせを変えたり、分析アルゴリズムを改良したりすることで最適な解を探索する。このようなシステムを開発する方法としてアジャイルが利用される。

3つ目が「常に変化を追い続けるビジネスや業務」である。

変化に追随し、常に軌道を修正するビジネスを遂行するには、俊敏に修正を反映する必要がある。1つ目とも少し重なるが、例として、消費者向けビジネスを手掛ける企業がブランドを守りながら新規性を打ち出していくことがが挙げられる。定期的にバージョンアップやマイナーチェンジなどをしていかないと、消費者が飽きてしまい、離れてしまうからだ。

また、システム面では、多くの企業が利用を開始しているクラウドは、アジャイル開発との相性が良い技術の一つといえる。クラウドでは既設のハードウエア、ソフトウエアをすぐ利用できる上に、使った分だけ利用料を支払えば良いので、アジャイル開発で発生する機器の構成変更やソフトウエア変更で発生する手間や無駄を極力減らすことが可能である。

では、向かないものとは何であろうか。その一つが基幹システムである。経理・会計・企業間の受発注など要件の変化が少ない基幹システムは、ウオーターフォール型開発で集中的に開発を行った方が効率的であるからである。

また、生命や健康、お金に関わるものなど、絶対にミスできないサービスもアジャイル開発には向かない。少しの失敗が許されないという意味では、上に挙げた基幹システムも同じだ。

アジャイル開発に何が向く?
向くもの
  • 技術やユーザーニーズが急速に進歩・変化するビジネスや業務
  • ニーズや正解が潜在化し、把握が困難なビジネスや業務
  • 常に変化を追い続けるビジネスや業務
向かないもの
  • 経理や受発注などの基幹システム
  • 少しのミスも許されないサービス
本稿は2021年7月28日に日経産業新聞に掲載された「戦略フォーサイト:アジャイル開発への道(4)向いている3つのビジネス」を転載しております。

本コラム執筆コンサルタント

高橋 規生 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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