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【第11回】組織運営や監査へも応用

小池 博 株式会社 日立コンサルティング ディレクター

2021年9月3日

アジャイル(俊敏)開発は反復的に素早く計画・開発・公開・効果測定・見直しを進めることでソフトウエアの完成度を高めていく手法である。近年、このアジャイル開発の考え方をソフトウエア以外の分野へ応用する動きがある。代表的な事例を紹介しよう。

一つ目が組織運営への応用「アジャイル型組織」である。自律的なメンバーで迅速なPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを実施して短期間で定期的に成果を出していく。具体的な取り組み方はアジャイル開発でのソフトウエアをビジネス目標に置き換えたものと考えればよい。メンバーは顧客要望やビジネス環境の変化を常に学習し、メンバー同士で会話しながら自主的に試行錯誤を繰り返し、成果を出していく。

従来型の組織は意思決定が多階層の承認プロセスがあり、提案から決定までが長い。アジャイル型組織はその場で自ら即決するため意思決定までの時間が短くビジネス環境の変化に強い。

次が内部監査手法への応用「アジャイル型内部監査」である。短い期間の監査を繰り返す手法で、対象を限定しタイムリーに結果を出していく。監査法人が既にサービスとして提供を始めている。

監査関係者の会話を重視し、IT(情報技術)を活用したタスク進捗管理やウェブ会議などをステークホルダー(利害関係者)間で実施することで、品質を維持しながらコストを削減し、短納期で内部監査を実現する。

3つ目がマーケティング手法への応用「アジャイルマーケティング」である。顧客企業の目的の実現に向けて、広告運用の計画・実施・効果評価を短周期で繰り返し、広告の効果状況を見ながら手法を見直していく。少人数のメンバーで構成した小さな組織で運用し、各メンバーはお互いに会話しながら目標達成に向けて自律的に活動する。マーケティングの効果はリアルタイムのデータとして分析し、効果の大小を把握する。この短期間の反復的な経験は関係者の知識となり、目標達成のための取り組みを効果的に改善できる。

4つ目が国のガバナンス(統治)への応用「アジャイル・ガバナンス」である。様々な社会課題をデジタル技術によって解決する「ソサエティー5.0」を実現するために、経済産業省が2021年2月から提唱している取り組みだ。常に周囲の環境変化を踏まえて目標やシステムを更新していく。

扱う社会課題は高齢化のように長期的なものもあれば、新型コロナウイルスのように不測の事態もある。国や地方などが目指す目標も常に変化していく。このため事前にルールや手続きを固定したガバナンスではなく、社会状況や技術などの変化に合わせて、複数のステークホルダーで継続的かつ高速に見直していく。

アジャイル開発手法の応用はここで挙げたもの以外にもまだある。人が関わるものであれば応用はしやすい。社内に変化に対応できていない業務があれば、アジャイル的な手法の導入を検討してもいいかもしれない。

アジャイルの新しい適用先
人事・組織運営
  • アジャイル型組織
  • アジャイル型人事マネジメント
企業ガバナンス
  • アジャイルガバナンス
  • アジャイル型監査
マーケティング
  • アジャイル型広告運用
本稿は2021年8月6日に日経産業新聞に掲載された「戦略フォーサイト:アジャイル開発への道(11)組織運営や監査へも応用」を転載しております。

本コラム執筆コンサルタント

小池 博 株式会社 日立コンサルティング ディレクター

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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