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【第7回】反復周期は無理なく設定

新井 英史 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

2021年9月3日

アジャイル(俊敏)開発は週間単位の短い周期でソフトウエアの新しいバージョンを次々と出して(リリースして)いく。その一手法であるチームが一丸となり開発する「スクラム」では、この周期をプロジェクトごとに固定して開発を進める。今回はこうした反復開発の手順を詳しく見ていこう。

スクラムではこの固定周期を「スプリント」と呼ぶ。2週間前後が多いが、もう少し柔軟に設定できる。米国のスクラム考案者がまとめた公式ガイド「スクラムガイド」では、1週間〜1カ月程度にすることを推奨している。1カ月以上だと開発が間延びしリリースが遅くなり、1週間よりも短いと開発がリリースに追い付かなくなり、完成したソフトウエアを届けられなくなるからだ。

無理なく少しずつソフトウエアを完成させられる1回の期間を、開発プロジェクトごとに決めることが重要である。

その上で、各スプリントの中では次に説明する取り組みを実施しながら開発を進めていく。

仮にスプリント期間を2週間、実働平日10日間として説明する。1日目にまず「スプリント計画会議」を開き、スプリントの計画を立て、その期間中にどこまでできそうか見積もり、そのスプリントでの達成目標を決める。そして「かんばん」と呼ぶ進捗管理ツールに必要な作業を登録し、「新規」「進行中」「終了」の3つの状態にわけて各作業がどこまで進んでいるかを一目でわかるようにする。

2日目以降は、毎朝15分間程度、チーム全員が集まって日々の進捗状況の確認や困り事の相談などの話をする。その後、その日は各メンバーが自己管理し、自律的に作業を進め、かんばん上に登録した作業を実施・終了していく。

最終日前日の9日目には、次のスプリント以降の目標となるソフトウエア開発に必要な要望リストをプロダクトオーナーが更新し、新たな要望の追加や優先順位の変更を行い、最新状態に保つ。

最終日の10日目は「スプリントレビュー」と「振り返り」を実施する。この2つは似た意味だが、対象が異なる。レビューはソフトウエアそのものに焦点を当て、振り返りは開発の進め方に焦点を当てる。いずれもチーム全員が参加して自由に意見を言い合う。

具体的には、レビューでは今のスプリントの成果確認・リリース判断、今後実施すべき事項を検討する。また、設定した目標が達成できたかを○か×で判断する。

振り返りでは、今のスプリントの作業の問題点を列挙し、次のスプリントで工夫したい事項を話し合う。この結果を踏まえ、次回以降のスプリントをより効率的に進められるように改善を繰り返す。

慣れないと、開始直後から数回のスプリントでは、失敗が連続したり、成果が全く出なかったりすることもあるかもしれない。しかし、スプリントを繰り返しながら日々改善に努めることで、メンバー、チーム、プロジェクトが成長していく。根気良く取り組むのがアジャイル開発の神髄と言える。

また注意点として、大規模プロジェクトになると完成まで長期間になり、漫然とスプリントを反復しがちになることが挙げられる。スプリントごとに成果をきちんと出す意識を持つ工夫として、スプリントをカレンダー上に表現するとよい。

「かんばん」のイメージ

本稿は2021年8月2日に日経産業新聞に掲載された「戦略フォーサイト:アジャイル開発への道(7)反復周期は無理なく設定」を転載しております。

本コラム執筆コンサルタント

新井 英史 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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