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【第6回】各自が自律的に考え行動

新井 英史 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

2021年9月3日

システムやサービスを短期間で作り上げるアジャイル(俊敏)開発。その中の代表的な手法「スクラム」について説明しよう。

スクラムはラグビーのように少人数でチームを組み、短期間の開発周期で開発を進める手法のことだ。一般的に人数は8人前後で、「スプリント」と呼ぶ開発サイクルは2週間前後が多く、1週間や4週間のこともある。

トップダウンで動くことも多い一般の組織との大きな違いが、適切な解決策を自分たちで考え、開発する点にある。ここで大切になってくるのが、チーム内での役割だ。「プロダクトオーナー」「スクラムマスター」「開発チーム」という3つの役割で構成される。各役割は兼任できないことになっており、各自が自律的に行動し、1つのスクラムチームとして自己管理型組織をめざす必要がある。

まず、プロダクトオーナーは、開発チームの作業と開発するソフトウエアの価値の最大化と、要望リストの管理に責任を持つ。

従来の開発手法では、必要な機能をまとめる要件定義の段階からシステム開発会社に「丸投げ」されがちだが、これでは顧客の真の要望に沿ったシステムを作るのは困難である。プロダクトオーナーは顧客企業が担い、ソフトウエアを継続的に公開できるようにじっくり取り組む必要がある。

したがって、プロダクトオーナーのあるべき人材像として、作りたいソフトウエアやシステムについて明確なイメージを持ち、顧客からの要求を的確に表現し、開発チームに伝達できる資質が必要である。

次に、スクラムマスターはスクラムの理解と成立に責任を持つ。チームにスクラムの理論・実践事項・ルールを守ってもらうようにする。プロジェクトマネジャーのような管理作業はせず、開発チームが自己管理型組織として自発的に行動できるように支援する。

もし、開発チームに対しての悪影響や妨害事項が発生しそうな場合は、スクラムマスターが盾となる。開発サイクル途中での新規要望の追加や、やる気を下げる言動など、プロダクトオーナーやステークホルダー(利害関係者)からのむちゃな要求から開発チームを守り、開発作業に集中できるようにする。

したがって、企業における肩書や上司・部下の上下関係をそのまま適用すると、上司からの指示に振り回されやすくなり、開発チームが疲弊しかねない。スクラムマスターのあるべき人材像として、スクラムチームが一丸となるためのコーチング・支援を行いつつ、誰かの言いなりにはならない人物が適任である。

開発チームは各開発サイクルの終わりに、公開してもよいぐらいの「完成」した動作するソフトウエアを届ける。短期間の開発のため、開発チームはメンバー同士が尊重し合える対等な関係性が理想的である。新規技術へのアンテナが高く、得意分野だけでなく苦手分野にも取り組める人材がよい。

まずは8人程度の小規模で、あるべき人材像に近いメンバーでスクラムチームを組み、恐れずに始めてみることが肝要である。

スクラムに必要な役割
スクラムチーム(8人程度)
  • プロダクトオーナー(1人)
  • スクラムマスター(1人)
  • 開発チーム(数人)
    開発担当やテスト担当、ユーザーサポート担当などのメンバーで構成
本稿は2021年7月30日に日経産業新聞に掲載された「戦略フォーサイト:アジャイル開発への道(6)各自が自律的に考え行動」を転載しております。

本コラム執筆コンサルタント

新井 英史 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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