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【第5回】製造業は工場データ分析に

高橋 規生 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

2021年9月3日

アジャイル(俊敏)開発に向くビジネスや業務を大まかに見てきたが、各業界を細かく調べていくと、これまであまり適用されていなかったビジネス・業務にも導入する試みが始まっている。業界ごとにどんな取り組みが進んでいるか見ていこう。

まずは製造業からだ。工場の生産システムはこれまで従来型の手法で開発してきたが、あらゆるモノがネットにつながるIoT機器が生産現場に多数取り入れられたことにより、データを処理するプログラムをアジャイル開発が担うようになってきている。

具体的には次の通りだ。IoT技術の進展で自動化された製造ラインの制御機器から、膨大な制御データを収集し、分析、フィードバックできるようになってきた。制御機器から収集されるデータは機器固有の種類・形式で出力されるため、それらを取捨選択、整形加工し、処理可能な形式にしてから分析する。有意な結果を得るために、アルゴリズムやデータの組み合わせを変えながら反復的に分析していく。そのためにアジャイル開発が必要となるのである。

データ分析の結果や改善活動を生産ラインに反映する場合は、制御機器を制御するためのプログラムを修正する。改善プログラムの開発・実装はPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルとなるので、様々なことを試せるアジャイル開発が適していると言える。

金融機関でも新たな試みが始まっている。その一つがフィンテック用ソフトウエアで、アジャイル開発が導入されている。スマートフォン向けアプリの開発や、アプリと企業内システムを連携するAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の開発などに適用されてきた。

ただ、社内システムの多くが基幹システムであり高い信頼性を要求される特性や、監督官庁による規制があり、アジャイル開発の本格的な適用は最近までは進んでいなかった。ところが、その状況も変わろうとしている。

その一つが、規制緩和によるクラウド技術の利用である。もう一つが、規制への対応をIT(情報技術)で効率化する「レグテック」、規制当局側がITで対応を効率化する「サプテック(スプテック)」などの規制分野の技術活用である。これらの技術領域でアジャイル開発を体系的に導入する金融機関が増え始めている。

通信業界では個人データの取り扱い状況を確認できるダッシュボード(一覧表示)サービスの開発などにアジャイル開発を利用している。

年間予算で動き、アジャイル的な手法が向かなかった政府や自治体などの公共分野でもアジャイル開発の適用機運が高まっている。時代の変化や不測の事態に対応したデジタルを活用した迅速な取り組みが求められているためだ。内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室が2021年3月に「アジャイル開発実践ガイドブック」を各府省向けに公開。この中で、アジャイル開発の必要性を説き、進め方について丁寧に解説している。

既に特許庁では人工知能(AI)技術を活用するための「アクション・プラン」で、アジャイル開発を採用していることを公表している。他の複数の省庁でもアジャイル開発のプロジェクトが実施されている。調達要件にアジャイル開発経験者の参加を求めるシステム開発も増えており、着実に普及している様子が見てとれる。

分野ごとの適用・取り組み状況
製造業
  • 工場の生産ラインの制御データの分析
金融
  • アジャイルを開発方法として体系的に導入
通信
  • 個人向けデータ分析サイトなどの開発
行政
  • 省庁向けの実践ガイドブックを公開し、取り組みを開始
本稿は2021年7月29日に日経産業新聞に掲載された「戦略フォーサイト:アジャイル開発への道(5)製造業は工場データ分析に」を転載しております。

本コラム執筆コンサルタント

高橋 規生 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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