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【第12回】AI向けなど発展系も登場

高橋 規生 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

2021年9月3日

アジャイル(俊敏)開発は環境変化などに合わせて情報システムの機能を短い期間で更新していく手法だが、開発したシステムを実際に使っていくにはそれだけでは済まない。新しい機能を出しても運用面を考えていないと、運用現場がかえって混乱することもあるからだ。そうした運用面を含めて変化に迅速に対応したシステム開発の手法「DevOps(デブオプス)」が注目されている。

DevOpsは開発(デベロップメント)と運用(オペレーション)を組み合わせた造語で、開発チームと運用チームが協力して取り組む意味が込められている。

一般的にシステムの頻繁な更新は運用側から見ると、ソフトウエア配布の手間やトラブルのもとにもなるので必ずしもうれしい話ではない。一方、アジャイル開発が対象とするのは主にシステムの「開発」であり、運用面はあまり考慮されていなかった。DevOpsは運用面での様々な問題を、開発段階から開発側と運用側が協力することで克服していこうという取り組みだ。

DevOpsはシステム開発にはアジャイル型手法を使うので、アジャイル型開発の拡張・発展系ともいえる。DevOpsではアジャイル開発での会議に運用側が参加し、開発の進捗状況を共有するほか、インストールなど自動配布・運用ツールも整っており、運用面を含めてアジャイル開発を効率的に進めることができる。

運用面だけでなく、セキュリティー対策を盛り込んだ「DevSecOps(デブセックオプス)」という手法も提唱されている。高度化するサイバー攻撃へのセキュリティー対処法を開発段階から組み込んでいく。

このようなアジャイル的な思想を持つ開発手法はIT(情報技術)の様々な分野に広がっている。人工知能(AI)の一種、機械学習システムの開発を効率化する「MLOps(エムエルオプス)」もその一つである。機械学習のシステム開発は学習データやパラメーターを変更して繰り返し実行・検証する必要があり、アジャイル的な開発活動が適しているからだ。

ネットビジネスなどを短期間で立ち上げる手法「リーン・スタートアップ」もアジャイル的な思想を持つ開発手法として知られる。

リーン・スタートアップの特長は、コンセプトを検証する最小限の実用機能を備えた製品「MVP(ミニマム・ビアブル・プロダクト)」を迅速に開発し、消費者に提供、評価を受けて改善・機能追加するPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを最短の周期で実施することである。それにより、事業の立ち上げや起業にかかる時間を短縮し、事業の持続・拡大を可能としている。

リーン・スタートアップの成功例としてSNS(交流サイト)のインスタグラムが有名である。インスタグラムはもともと位置情報アプリとして出したが、写真共有機能が好評という利用者の評価を開発にフィードバックし、写真共有を主体としたSNSへ方向転換したところ、爆発的な人気を得るアプリへと成長したのである。

このようにアジャイル開発はソフトウエアにとどまらず、デジタルビジネスを試行錯誤するのに向いた手法となっている。デジタル社会の到来を前提にビジネスモデルを一から見直すデジタルトランスフォーメーション(DX)にも適した取り組みといえる。

アジャイル開発の拡張・発展系
DevOps(デブオプス)
  • 開発チーム(デブ)が運用チーム(オプス)と会議や連携ツールで密に情報共有しながら、運用に配慮した開発を進める手法
DevSecOps(デブセックオプス)
  • DevOpsにセキュリティー(セック)を加えた手法。開発段階から対策を組み込む
MLOps(エムエルオプス)
  • MLは機械学習(マシンラーニング)の意味。DevOpsの機械学習版
本稿は2021年8月12日に日経産業新聞に掲載された「戦略フォーサイト:アジャイル開発への道(12)AI向けなど発展系も登場」を転載しております。

本コラム執筆コンサルタント

高橋 規生 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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