ページの本文へ

【第9回】外部企業に丸投げは不可能

高橋 規生 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

2021年9月3日

激しい変化に迅速かつ柔軟に対応するため、企業はアジャイル(俊敏)開発に積極的に取り組む必要がある。今回は一般企業がアジャイル開発にどのように取り組んでいけばよいか見ていこう。

アジャイル開発はその特性上、外部のシステム開発会社に丸投げできない。「プロダクトオーナー」と呼ぶ実施責任者は開発実行企業の社員でなければならない。開発する機能の範囲を決め、ステークホルダー(利害関係者)に進捗を説明し、プロジェクトの全責任を負うからである。進行役の「スクラムマスター」もまた、社員である必要がある。個々の開発周期で開発する機能の数量・品質の責任を負い、そのための進捗・要員管理を行うからである。

「開発担当者」は通常、システム会社やソフト会社の社員が務めることが多い。要件の変更が多いアジャイル開発では、ある程度経験を積んだプログラミングの専門家が必要だからである。

アジャイル開発プロジェクトの規模が大きくなってくると、システム全体の機能を明確化してから分割して複数の開発チームへ割り当てる「デザイナー」や、データベースなどなどソフトウエアの利用方法を共通化して統制する「アーキテクト」という職種が必要となってくる。これらのメンバーは高度なスキルを必要とするため、コンサルタントや開発会社に頼ることになると考えられる。

では、外部の開発会社の社員が担う「開発担当者」や「アーキテクト」とはどんな契約をすればいいのであろうか。その場合、開発会社への「準委任」契約となる。開発すべき機能が未確定では、完成責任を負う「請負」契約は締結できないからだ。また「派遣」契約ではメンバー管理が発注者の責任となるため、開発の品質が低下してしまう。開発者のノウハウを活用し、柔軟な開発を実施できるのが「準委任」契約なのである。

ただ、「準委任」契約は作業者の管理責任は開発会社側にあるので、発注企業側が直接作業指示をすることができない。「スクラムマスター」が発注企業社員で、「開発担当者」が開発会社の社員である場合は、必ず開発会社の管理責任者が開発チームに参加し、作業指示を行う必要がある。

最初に詳細な計画を立てる従来のウオーターフォール型開発では初期にシステム規模に応じた多額の予算を計上し、開発終了後はその10%程度の保守・運用費用のみを計上する。アジャイル開発では初期投資は低額だが、開発チームを長期間維持する予算を計上する必要がある。費用計算がシステムの規模ではなく、チームの規模と開発期間で決まることになる。

企業の業務を担う情報システムとなれば、品質も重要になる。アジャイル開発では軽微な不具合が発生しても1〜2回の開発周期を待てば解消され、大きな問題にはならない。しかしあまりにも信頼性が低いと利用されなくなるため、品質基準を決め、開発周期ごとにテストする必要がある。

こうした運用の参考になるのが、デジタル技術者が備えるべき能力をまとめた情報処理推進機構(IPA)の「ITSS+(ITスキル標準プラス)」である。その中の「アジャイル領域」に、「プロダクトオーナー」「スクラムマスター」「開発チーム」の職種を遂行するのに必要なスキルが規定されており、企業内で要員の人材を定義し、育成する際に利用できるようになっている。

アジャイル開発での社員の役割

本稿は2021年8月4日に日経産業新聞に掲載された「戦略フォーサイト:アジャイル開発への道(9)外部企業に丸投げは不可能」を転載しております。

本コラム執筆コンサルタント

高橋 規生 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

Search日立コンサルティングのサイト内検索