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【第10回】実施責任者に決定権限を

村上 裕和 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

2021年9月3日

環境変化に迅速に対応できるアジャイル(俊敏)開発だが、実際の現場では経営層や意思決定者の理解が得られず、そのメリットを享受できないケースがまま見られる。一般企業がアジャイル開発を導入する場合、そうならないための留意点を述べたい。

1つ目の留意点として、意思決定の権限を持つ者または権限を委譲された者を、アジャイル開発の実施責任者「プロダクトオーナー」に任命する必要がある。

一般企業のアジャイル開発では社員がプロダクトオーナーを担うが、彼が社内での意思決定の権限を持っていない場合、情報システムで実現すべき機能や優先度を決定する際、関連部署や関係者の意見をまとめられず調整に時間がかかることがある。この場合、スピード感を持ってソフトウエアを公開できなくなる。

また、プロダクトオーナーに任命された社員は、開発の初期段階から利用者のニーズを明らかにするのは難しいということを認識しておく必要がある。必要な機能を仮説として設定し、短い開発サイクルでシステム機能の更新・公開を繰り返しながら真のニーズに近づけていくという考え方を意識する必要がある。

プロダクトオーナーにはチームの一員として振る舞い、システムの価値を最大化する熱意を持って要求の的確な理解と優先度の判断、開発計画立案、経営層への報告などができる社員を任命する。企業内の役職にかかわらずに任命し、意思決定の権限を持たせるのがよいだろう。

2つ目の留意点として、利用者と開発者がコミュニケーションを十分とれるようにプロジェクト体制を構築する必要がある。

従来の情報システム開発で多く用いられるウオーターフォール型開発では、初めに決めた要求事項や機能が変わらないことを前提に運営する。一方、アジャイル開発では開発する機能の優先度をその都度見直しながらソフトウエアを更新・公開していく。このため、ソフトウエア利用者と開発者が密接にコミュニケーションして、開発側が利用者からの要求を正しく理解しながら進める必要がある。

開発者と利用者の間のコミュニケーションが不十分な場合、利用者の要求を正しく把握できず、結果的に利用者の要求と異なる機能ができ上がる場合がある。

3つ目の留意点として、必要最小限の機能での段階的なソフトウエアの公開を認める必要がある。

最初の公開から多彩な機能を一式そろえて公開しようとすると、それまでの期間が長期化したり、十分なテスト期間がとられず品質面に影響が発生したりすることがある。まず目的の達成に必要な最小限の機能を公開し、利用者の反応を見極めることが重要である。そして利用者にとって必要な機能の仮説検証を繰り返しながら機能を追加していく。利用者の要望を満たすソフトウエアを結果的に短い時間で開発できる。

経営層や意思決定の権限を持つ方々は、これらのポイントを理解したうえでアジャイル開発を導入し、メリットを最大限に生かしていただきたい。

経営層はこの3つに留意
①開発の実施責任者「プロダクトオーナー」の責任の明確化と権限の委譲
②開発者が利用者との間で十分なコミュニケーションがとれる体制の構築
③必要最小限な機能で段階的にソフトウエアを公開することへの承認
本稿は2021年8月5日に日経産業新聞に掲載された「戦略フォーサイト:アジャイル開発への道(10)実施責任者に決定権限を」を転載しております。

本コラム執筆コンサルタント

村上 裕和 株式会社 日立コンサルティング マネージャー

※記載内容(所属部署・役職を含む)は制作当時のものです。

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