2023年4月27日
ここまで「デジタル時代」を踏まえ、次に来るであろう「エマージングテクノロジー」の動向について見てきましたが、エマージングテクノロジーがどういった技術を指すのかについても概観しておきたいと思います。エマージングテクノロジーとして取り上げられる技術は、レポートなどによってさまざまで、現時点で標準的な定義があるわけではないのですが、代表的なものを取り上げます。
✔量子力学的な現象(量子重ね合わせなど)を用いて並列計算を行うことにより、既存の計算機では計算時間の観点で解くのが難しい問題に対応するハードウェア/アルゴリズムなどの技術群のこと。
✔最適化問題用のアニーリング型と汎用のゲート型が存在する。
✔自家移植(臓器、皮膚など)、人工材料(ペースメーカーなど)の代わりに、多能性幹細胞を培養した組織を移植することによる治療のこと。
✔人工の多能性幹細胞としてES細胞、iPS細胞が知られており、自家移植であれば、ドナー探索、拒絶反応などのリスクがない。
✔オープンソースなどを教師データに大規模な機械学習モデルを構築し、画像/動画/音声/文章などのアウトプットを生み出すAIのこと。
✔画像を生成する“Stable Diffusion”“Midjourney”やテキストを生成する“ChatGPT”などが有名。
✔非代替性トークン(Non-Fungible Token)と呼ばれるブロックチェーン上に記録される一意で代替不可能なデータのこと。
✔画像・動画・音声など、容易に複製可能なデジタルファイルを一意なアイテム(デジタル資産)として関連付けることができる。
✔バイオメトリクスとも呼ばれ、人間の身体または行動的特徴を用いて、個人認証を行う仕組みのこと。
✔実用化に至っているものとしては、指紋、網膜、虹彩、静脈、音声、DNA、血流などがある。
✔小型モジュール炉(Small Modular Reactors)と呼ばれる、工場製造・コンテナ輸送可能な、30万キロワット以下の原子炉のこと。
✔核分裂ではなく、核融合反応を用いた発電方式のこと。磁場閉じ込め式、慣性閉じ込め式(レーザー点火式)がある。
✔操縦者が遠隔に存在するロボット・端末を介して、あたかもその場の環境にいるような感覚を持ち、精密な作業やコミュニケーションを可能にする技術のこと。
✔物体の姿・形・触り心地・大きさなどを動的に制御し、インタラクションへと適用するフィジカルインターフェースが開発されている。
✔ワイヤレスで遠隔にあるバッテリー・電気機器に給電する技術のこと。
✔給電方式としては、必要な出力や電送距離に応じて、電磁誘導方式、電波受信(マイクロ波)方式、電界共鳴方式に大別される。
✔ブロックチェーンなどの分散型ネットワークを基礎とした非中央集権型のインターネットのこと。
✔ビジョンに対して賛同するコミュニティがWeb3.0上の独自のトークンで運営される自律分散型組織のこと。
✔組織/細胞/遺伝子といった生物の構成要素を部品と見なし、それらを組み合わせて生命機能を人工的に設計・構築する分野のこと。
✔疾患の有無、進行状態の指標となる生理学的指標のことで、血液や尿などの体液に含まれるタンパク質などが探索される。
✔コンピューターネットワークの中に構築された仮想空間にアバターなどの形で参加するサービスのこと。
✔既存のインターネットの拡張案であり、アクセスポイントとしてVR/AR/MR、仮想世界、汎用コンピューター、スマートフォンがある。
✔宇宙への輸送、制御、観測・探査などに求められる技術のこと。
✔人工衛星の利用拡大、有人飛行に必要な技術はもとより、地球の多波長観測、太陽光発送電、資源探査・発掘、次世代航行技術などを指す。
(画像はいずれもGetty Imagesより抜粋、文章は筆者にて作成)
これらエマージングテクノロジーについて、技術的な側面から2つのパターン12に大別できると考えています。
以降、単に「エマージングテクノロジー」や「エマテク」と呼ぶときは、上記定義のいずれかもしくは両方に該当する技術群を指すこととします。また「エマージングテクノロジー」は、上記の技術的な側面に加えて、ビジネス的な展開をもたらす特徴として、以下を備えていると考えています。
エマージングテクノロジーによって、デジタルテクノロジー同様に既存業務の効率化が促進されるという側面もあるのですが、そこに重きを置くのではなく、あくまでビジネス的なイノベーションに重きを置いて、われわれは議論をしていきたいと考えています。